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番外編:異世界人と海・前編。

番外編です。今回は前後編。暑くなってきましたので水着回!

時系列はエピローグよりも後になります。

「ウェミダー!!」


「ィヤッフゥーー!!」




 青い空。白い砂浜。青い海。さんさんと照りつける陽射しの下、数人の奇声が辺りに響く。


 浜辺から上着を脱ぎ散らかしながら海に向かって走って行くのは、マサヤ、トモエ、ユートの三人だ。ユートは黒騎士ではなく本人で。うん、あいつらは三バカとひとまとめに呼んでもいいな。


 さて、これはいったいどんな事態なのかと言うと、何てことはない、異界人パーティーで海水浴に来ているのだ。


 事の起こりは一月程前。西方大陸はそろそろ蒸し暑い季節になってきたという時期の事。

 とある国のとある街の宿屋の一室で雑談していたシオンとエリスの前に、突然アユミが現れたのだ。

 アユミの持つシュヘルムヴィアー神の権能の能力、時空間魔術は一瞬にして離れた場所に移動できるという事は知っていたが、何の前触れもなく突然目の前に現れるとは思ってもいなかったので二人とも大いに驚いた。彼女が言うには、一度来た場所だけでなく、一度会った人物の元にも移動できるとかなんとか。心臓に悪い奴だ。

 そして何の用かと尋ねてみると、近いうちにマツリとユートが王国に訪れるとのことで、せっかくなので異界人パーティー全員で集まって遊びにでも行かないかという誘いだった。

 確かに異界人パーティーが全員揃う機会はそうそうないし、現在シオンとエリスが滞在している街から王国に向かってもアユミが言うマツリ達が来る日にちに間に合いそうなので、快く了承した。


 それが過程なのだが、海水浴に行く事になるとは思っていなかった。再会を祝った翌日に突然海に行くと言われ慌てて準備をしたのだ。涼むには良い時期である事はわかるのだが、せめて前もって教えておいてほしかった。準備自体はあらかたアユミ達が既に済ませていたのでそこまで手間取りはしなかったが。




「もー、野郎ども早速はしゃいじゃって。じゃ、ボク達は着替えてくるから。覗かないでよ?」


「そういうのはあいつらに言うんだな」


 シートを敷き荷物を下ろすシオンにアユミが断りを入れてからエリスとマツリとともに岩陰へと向かう。

 ユートにでも頼めば即席の更衣室でも作れそうだが……いや、やっぱり駄目だな。あいつは何か仕掛けて覗こうとしそうだ。事実前科があるし。


 もう一人の異界人、イサミは何をしているのかと目を向けると、料理機材を黙々と組み立てていた。アユミ達はバーベキューセット、と呼んでいたっけか。今日の食事はあの機材で作るらしい。

 いつかのダンジョン探索の時のようにアユミが王都から時空間魔術で運んでくるほうが手間がかからないのでは、と思ったが、異界人達はイサミを始めこの方法で料理を作るのにやたら乗り気だった。まあ、食べられるのなら何でもいいが。


 シオンがシートの横に陽射し除けの大きな傘、ビーチパラソルだっけか。を設置し終えた頃、異界人女子三人が着替え終えたらしく岩陰から姿を見せた。予想はしていたが、三人とも下着と変わらない露出度の水着を着ている。


「お待たせ〜。フフン、どうかなボクの水着姿。悩殺しちゃうゾ☆」


 一番にシオンの元に来たアユミが身体をくねらせセクシーなポーズをとる……のだが、


「…………」


「せめてなんかツッコんでよ!!」


 あまり凹凸のないなだらかな体型である事はアユミ自身も自覚しているらしく、黙っているシオンに恥ずかしくなったのかぎゃんぎゃん怒鳴り出した。悩殺、ねぇ。


「安心するがいいアユミよ! 俺はお前がベスト・オブ・ベストだと断言し


「るっさい。見んな馬鹿」


「理不尽!?」


 そこでいつの間にかシオンの背後に来ていたトモエがアユミを褒めようとしたが、台詞の途中でばっさりと吐き捨てられた。見て欲しいのか見られたくないのかどっちなんだよ。

 それからトモエだけでなくマサヤとユートも海から上がってこちらに向かってきていた。


「悩殺、つったらやっぱこっちの二人だよな〜」


「流石はマツリだ。完璧過ぎる」


 その二人の視線は、アユミではなくエリスとマツリに向けられていた。


「えへへ〜、そんなに見つめないで下さいよ〜」


「…………」


 言葉とは裏腹に悪い気はしないらしいエリスと、そのエリスに隠れるように姿を隠すマツリ。この二人は確かに魅力的な体型をしている。しかしマツリよ、そんなに恥ずかしいのなら無理に水着に着替えなくても良かったのではないか?


「どうですかシオン君? 似合ってますか? 可愛いですか? 欲情しちゃいましたか?」


 エリスはシオンに歩み寄りそんな質問責めをしてきた。予想通りというか何というか。


「あーはいはい。可愛いっすよ」


「淡白過ぎますよ〜ぅ」


 エリスの事だからこうして言い寄ってくるのは目に見えていたので適当にあしらう。そのシオンの態度にエリスは納得が行かないようだが。


「もう、男ってこれだから……アユミ、日焼け止め塗ってくれない?」


 女子達の水着姿に盛り上がる三バカに冷ややかな眼差しを向けながら、マツリは荷物の中から液体の入った瓶を取り出しアユミに頼んだ。


「え、マツリちゃん、私が塗りますよ?」


「お姉様は……絶対何かしでかすので」


「信用ない!?」


 それを聞いたエリスが自分がと名乗り出るが、あっさりと却下された。以前のエリスのマツリに対するあれやこれを鑑みると当然の対応だろうに。


「てか、日焼け止めなんてあるんだな」


「うむ、俺とユート氏の力作ぞ! 白皮症のマツリ嬢の肌も紫外線から完璧に守れる優れものだ!」


「俺達が元いた世界にあった日焼け止めよりも効き目が良いはずだぜ」


 シオンの疑問に答えたのはトモエとユート。錬金術による魔法薬生成といったところか。技術の無駄遣いなのではないかと若干呆れてしまう。


「ふうん、いいわね。普段から使おうかしら。常に気功術で肌を守るよりも効率が良さそうね」


「はいじゃあマツリちゃん横になって〜。水着ほどくね〜」


 パラソルの下で腰を下ろしマツリに指示をするアユミ。言われるままにシートの上に寝そべるマツリの背の水着の紐をほどいたアユミ。おおう、これはまた扇情的な……。


「……見ないでよ」


 あられもない光景に息を呑んでいた男達をひと睨みして注意するマツリ。ううむ、オレとしたことが。


「ね、シオン君、私にも塗って下さい」


「いやいや、そういうのは女子同士でやれよ」


「え〜? シオン君なら手が滑ってイケナイトコロに触っちゃっても許しますよ?」


「女子同士でやれ」


 エリスの馬鹿な頼みを却下してため息を吐くシオン。ホントにこいつって奴は。


「やー、マツリちゃんの肌やっぱり綺麗だね〜……ところでさ?」


 マツリの背中に日焼け止めを塗り広げながら肌を褒めるアユミ。しかし、何やらその表情に不穏なものを感じるのだが……。


「ボクなら変なことしない、なんてコトはないと思うんだけどな〜?」


「え? ……きゃあっ!?」


 アユミが台詞を言い終えると同時に、それまでマツリの背を滑らせていた両手が、マツリの胸に滑り込んだ。


「おっほー! やわっかい! あ、これすっごい! おっぱいってこんなに柔らかいんだ!?」


「やっ、やめっ」


「ぐへへへへへへへ、やばいこれ、イイ。クセになりそう。興奮してきた! ありがとうございます!」


「〜〜〜〜っ」


「え、あ、ちょっ、ゴメン待って、いやホント謝るからお願っ……」


「限定召喚っ! ウンディーネっ!!」


「にゃあああああああっ!?!?」


 ふざけてマツリの胸を揉み続けるアユミに、高速で空中に魔力で描かれた魔法陣が向けられた。慌てて揉むのをやめて謝りだすアユミだが、マツリの怒りは覚めなかったようで短い詠唱が告げられ魔法陣から大量の水流が発射されアユミにぶつけられた。アユミはそのまま海まで押し流され水しぶきを上げた。自業自得だな。


「はあっ、はあっ……見るなっ!」


 唖然となった皆だったが、息を切らすマツリに目を向けると思わず胸元に目が行ってしまった。何せ今のマツリは、水着がはだけて胸を隠せておらず片手で見られないようにどうにか抑えているだけなのだ。そうして釘付けになってしまっている男達の視線に気付き、再度魔法陣を発生させ涙目で怒鳴るマツリ。皆慌てて視線を外したのは言うまでもない。


 エリスは飛ばされたアユミに向かって「大丈夫ですか〜」と駆け出す。アユミは海の上で目を回しながらぷかぷかと浮かんでいるが、幸せそうな笑みを浮かべているので心配しなくても大丈夫だろう。神託の巫女、幼女に猥褻行為をして罰されるの図。本人は満足そうにしているが。


「どうして異界人ってこんなのばっかりなのよ!」


 そして水着をつけ直しながら憤慨した様子で怒鳴るマツリ。言いたい事は凄くわかるが、お前もその異界人だぞ?


 さて、ひと騒動があったものの皆は気を取り直し、意識を取り戻したアユミも含めて戯れるのを再開した。アユミとエリスは交互に日焼け止めを塗って準備を終え、軽そうなボールを抱え女子三人で海へと向かう。


「よし、我々もビーチバレー勝負としようか!」


「五人いるがどう分ける?」


「俺はバーベキューの準備をしてるからお前らは遊んでいいぞ」


 トモエもボールを皆に見せながら何やら勝負を提案したが、イサミはバーベキューセットとやらに木炭を入れながら不参加を宣言した。


「お前も遊ばないか? 準備ばっかりじゃ退屈だろ」


「心配いらん。食に妥協はしない……!」


 シオンからもイサミを誘ってみるが、真剣な眼差しで火を付けた木炭を睨みながらそのように返された。う、うん? こんな奴だっけこいつ? まあ本人が楽しんでいるのならそれで良いが。


「なら二対二か。グーパーでチーム分けすっか」


「んー、ビーチバレーってのはよくわからんけど、体動かす勝負だとマサヤの一人勝ちになるんじゃないか?」


 イサミを除いた四人で何かしらの勝負をする流れになったが、ここでひとつ疑問を口に出したシオン。身体能力が断トツに高いマサヤを相手に運動的な勝負を挑んでも無謀なのではなかろうか。


「まあ確かに? 俺一人でお前ら全員相手にしてもヨユーだけど?」


「フッ、言ったな脳筋め! ならば本当に全員を相手にどこまで抗えるか見せて貰おうではないか!」


「へっ、いいぜいいぜ! 全員まとめてぶっ倒してやんぜ!」


 シオンの疑問を元にチーム分けが決まったらしい。いや、チームというかそのまんまマサヤ対その他全員らしいが。


「シオンく〜ん! こっちで一緒に遊びませんか〜?」


 皆にビーチバレーとやらのルールを聞こうとしたシオンだったが、直前で少し遠くで遊んでいたエリスに呼びかけられた。女子三人は浅瀬でボール遊びをしている様子だが、それにシオンも参加しないかと尋ねてきたのだ。

 自然と男女分かれて遊ぼうとしていたが、エリスはシオンと一緒がいいと思ったのだろう。まあ、いつもの事だ。


 はたとシオンは考える。かたやむさ苦しい野郎どもだけの球技勝負。対するあちら側は、華やかな水着姿の女子達と気楽に戯れる。さて、どちらが楽しそうかと問われれば……。


「……そういうわけだ。オレはあっちで遊んでくるぜ」


 悩むまでもないだろう。唯一誘われたシオンはしたり顔で野郎どもに別れを告げた。


「あっ、ずりーぞこんにゃろう!」


「逃げるか軟弱者め!」


「何とでも言いやがれ」


 三バカの罵声を無視してエリス達の待つ浅瀬に向かうシオン。そっちは二対一で球技してもいいだろう。競技のルールは知らないが。


「んふふ〜、シオン君来てくれた〜」


 合流したシオンを前に上機嫌なエリス。さて、来たのはいいが。


「他二人もオレが参加して良かったのか?」


 一応はアユミとマツリにも確認する。格好が格好なので男が近くに居るのは気になるのではなかろうかと心配したが、


「気にしないよ〜。別に全員で遊んでもいいんだけど、あいつらもうなんか始めちゃってるし」


 アユミの視線の先の砂浜では、いつの間にか作られている結構高めの柵のようなものを挟んで、トモエとユート、逆側にマサヤが陣取りボールを叩きあっていた。「必殺バーニングシュゥゥウッ!」とか「覇王滅殺弾ッ!」とか変な技名のような掛け声を叫んでたりしているが、本当に何だあれ?


「あはは、こっちはこっちで楽しみましょう。では早速。はいシオン君っ!」


「ん? おう」


 エリスの呼びかけに振り向いたシオンの上空に、エリスが叩き浮かせたボールがあった。まあ、せっかくなので付き合う事にしよう。


「よっと、マツリちゃん、行ったよ〜」


「え、えいっ!」


「上手ですよ〜。それっ」


 皆はボールをキャッチせずに叩いて上空に浮かばせ、次の誰かにボールを向かわせる。それだけで何となく遊びのルールはシオンにも伝わった。シオンも同じようにボールを軽く叩いて適当に他の誰かへ送る。




 ……楽しいかどうか? 違うな。問題はそこじゃない。


「そーれっ!」


 たゆんっ。


「んっ……」


 ふるんっ。


「よっ、と!」


 すとーん。




 ボールを打つ度、揺れる少女達のたわわに実った果実。あ、三番目の擬音が誰のものなのかはあえて語るまいが。


 ……うん。眼福です。


「ねえ何か失礼な事考えてない?」


「ハハハいやまさか」


 やたら勘の鋭いスマートボデーな誰かさんのジト目を流しながら、誘ってくれた事に感謝する。いいじゃないか、海水浴。


「んっと……きゃっ」


 目の保養を感じながら戯れていると、ボールを追いかけていたマツリが波に足を取られ転んでしまった。先程から彼女だけ少々危なっかしく応対していたので無理もない。あまり身体を動かすのは慣れていないみたいだしな。


「んー、痛たた……わぷっ!?」


 身体を起こそうとしたマツリだが、タイミング悪く少し大きな波が来て頭から被ってしまいまたしてもバランスを崩してしまった。大丈夫かよ。


「やれやれ、立てるか?」


「え、ええ、ありがとう」


「どういたしま……っ!?」


 仕方なく歩み寄って手を貸しマツリを引っ張り上げたシオンだが……。


「お、おまっ、水着っ!」


「え? ……っ!?!?」


 いつの間にかマツリが身につけていた胸を隠す水着が無くなっていたのだ。恐らく結び方が甘かったのか、ほどけて波に拐われてしまったのだろう。マツリ自身その事に指摘されるまで気付いておらず、背丈に見合わない大きい二つの果実が包み隠される事なくシオンの目に映ってしまっていたのだ。


 水滴に濡れた陶器のように純白で、柔らかそうに揺れ動くマツリの乳房。それぞれの膨らみの中央の、美しい淡い桜色の……。


「〜〜っ! 見ないでっ!!」


 と、ここでマツリが頬を真っ赤に染めて胸を隠しながらしゃがみ込み、海の中に身体を沈めた。あまりの出来事に頭の中が真っ白になってしまっていたシオンもようやく我に帰る。そうだよ見惚れている場合じゃない。


「みっ、水着は何処に行ったかわかるか!?」


「え? なになにどうしたの?」


「マツリちゃん大丈夫ですか!?」


 異変に気付いていなかったエリスとアユミも今になってようやく何か起こっていると察して二人の元に近づく。


「マツリの水着を探してくれ!」


「え!? 脱げちゃったの!?」


「え、ちょっ、ホントですか!? 何その美味しすぎるハプニング!?」


「笑い事じゃねーだろこら」


 マツリの現状を聞いて驚きながらも笑いそうになっている二人。このひとでなしどもめ。


「じゃあシオン君、見ちゃったんですか? ばっちり? 謎の光やモヤに邪魔されず? 無修正で?」


「今のお前が本気で何言ってるのかわかんねぇんだけど」


「そういうラッキースケベは私とするべきではありませんか!?」


「もうお前黙ってろよ!」


 いつにも増して意味不明な発言をするエリス。もしかしてパニックになってるのか?


「一応予備はあるから……はい、マツリちゃん」


「あ、ありがとう……」


 そうこうしている間にアユミが時空間魔術で予備の水着を出してマツリに渡した。なんだ、慌てて探す必要はなかったのか。渡された水着を着け直すマツリを見ながら胸を撫で下ろす。

 元々身につけていた水着は見当たらないが、とりあえず波に流されて少し遠くに行ってしまっていたボールを回収する。再開するか聞こうとしたが、


「私、浜で休んでいるわ。なんだか今日は厄日みたい……」


 明らかに元気がなくなっているマツリが、それだけ呟いてとぼとぼと浜に向かい始めてしまった。確かにさっきから散々な目にあっているし仕方ないか。


「私達も行きましょっか」


「だね。そろそろバーベキューもできてそうだし」


 他の二人もそれ以上遊ぼうとは思わなかったようで、皆でマツリについて行く事にした。

 浜辺に近付くにつれ、美味しそうな匂いとジュウジュウと食材を焼く音が聞こえてきた。これは期待できそうだ。

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