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番外編:第150話「ジャバウォックの正体。」アナザーサイド。

今回の番外編は、タイトルの通り第150話の、ジャバウォックの正体が判明する回の別視点の話です。

当初からこの二人でこんな感じの展開があったという構想はありましたが、話の都合上カットしていました。それを今回書き起こしてみました。


読んで頂ければわかると思いますが、ノリがその時の雰囲気にあまりにもそぐわないものだったし……。

「ジャバウォックの正体は……意志を持ったダンジョンだ」


 ジャバウォックとの決戦の最中、遂に謎多き敵の正体に辿り着いたらしいシオンの口から放たれた言葉は、にわかには信じられない内容だった。

 あの魔物の巣窟である異界、ダンジョンこそがジャバウォックの正体だと? どこからそんな突拍子のない発想に至ったのだ此奴は。


 当然皆からすぐに反論される……かと思ったが、我が君マツリと魔術師トモエがその意見に賛同したのだ。二人が言うには、それでこれまでのジャバウォックの奇怪な能力の数々全てに説明がつくのだそうだ。ぬぅ、まさか本当に正解だというのかシオンの分際で!


 しかし、どんなに辻褄が合うと言えど結局は仮定でしかない。その仮定が真実であると証明できなければ仮定を前提として行動するのは危険だとマツリとトモエが指摘する。


 確かに、もし本当にジャバウォックがダンジョンの入り口だとするならば、その内部にこそジャバウォックの弱点が存在する。この世界のダンジョンには、最深部にコアと呼ばれるダンジョンの心臓が存在しており、それを失うとそのダンジョンは消滅してしまうという話を聞いたことがある。ジャバウォックの内部に突入しそのコアを探し当てられたらそれで決着、というわけだ。

 コアまでの道のりが険しい可能性もあるが、これまでのような一切の手立てがない状態よりは遥かにマシだ。


 しかし、問題はこの仮定が間違えていた場合。

 ジャバウォックの内部がダンジョンだという前提で自らジャバウォックに飛び込み、もしもその仮定が勘違いで単純にジャバウォックに呑み込まれてしまったならば……取り返しのつかない事態になってしまうだろう。


 だが、仮定を証明できる方法は、現状おそらく本当にジャバウォック内部に異界、ダンジョンが広がっているのかを確かめるしかない。

 我が操るゴーレム兵は、ジャバウォックに呑み込まれた時点で操作不能になり、内部の様子も知覚できなくされてしまう。この現象は確かにダンジョンの内と外を隔てた位置を超えた際にも起きる現象なので仮定の裏付けになる要素ではあるが、それでも確定とは言い切れない。そしてそれ故に、ゴーレム兵を使って真偽を確かめる事も不可能なのだ。


 仮定を証明するには、誰かが命がけでジャバウォックの内部に突入するしかない。


 ……その役目を担うと言い出したのも、シオンだった。

 此奴はこの仮定に自信があるらしく、実力面等を鑑みても適任と言えた。我が君からやたらと心配されていたのは少々気に食わないが……とにかく、シオンの一世一代の大勝負というわけだ。


 そして作戦会議が始まった。内部に突入したシオンを即座に引き戻す命綱は、我の変形魔道具六式、鎖鎌形態であれば可能だろう。

 次に、万が一我々の思惑に気付かれシオンの突入を阻止されない為に、ジャバウォックの意表を突く策を話し合う。これは我が君、マツリの出番だ。

 かつて神々との聖戦において、ジャバウォックは我が君がその身に宿す神、美貌と芸術の女神イーヴィティアの素顔に見惚れてしまったのが原因で封印されたのだという。今回もそれを再現してやろうというのだ。


 しかし、ここでひとつ問題がある。


「彼奴は既に我が君の顔を見ているであろう。今更隙を突ける程に奴を膠着させられるのか?」


 我は浮かんだ疑問を投げかけた。既に我が君の存在を知られている以上、この作戦は破綻しているのではないか?


「やりようは幾らでもあるわ。例えば、予期せぬタイミングで私があいつの目の前に現れる、とか」


 この疑問に答えたのは我が君マツリ本人だった。ふむ、今マツリが自身の身体に憑依させているヴァルキリーの起動能力を活かして急接近するか。しかしそれではやはり察知されてしまいそうなものだが……。

 やはりそれでは無理があるのではないかと考察し、その旨を伝えたが。


「察しが悪いわね。良い手段があるじゃない。ほらユート、黒騎士を開けて」


「ぬ? 何故今開ける必要が…………あ」


 突然のマツリの要求に、最初は理解できなかった我だが、すぐにその理由に思い至った。え、ちょっと待って。まさか……


「私くらいの大きさなら、一緒に入れるでしょ?」


 やはりか! マジか!?

 マツリはあろうことか、我と……俺と一緒に黒騎士に入り潜み、ジャバウォックに気付かれないように接近し姿を晒すつもりなのだ。


「い、いや待て、確かに入らなくはないけど……」


「入るなら問題ないじゃない。というか素の口調になってるわよ?」


「そ、その、二人で入るとなるとだな、隙間の余裕なんか全然ないからつまりその……」


「今更密着するのに何の抵抗があるのよ。どうせ黒騎士の感覚共有でさんざん私を抱き上げる感触を愉しんでたくせに」


「ばれてたの!? あ、いや待って、そうじゃなくてえっとあのその……」


「ほら、時間が惜しいわ。手段を選べる段階じゃないことなんて知ってるでしょ? いいから早く私を入れなさい」


 予想外の展開に戸惑う俺だったが、渋々黒騎士を開きマツリを招き入れることになった。周りの連中めっちゃ笑ってやがるし。くっそう覚えてやがれ。


「じゃあお邪魔するわね……やっぱり狭いわね」


 そして黒騎士に乗り込んだマツリは、俺に凭れ掛かり俺の胸に背中を密着させてきた。おおう……。

 黒騎士を閉じても、内部は明るさが保たれている。これはマツリの憑依召喚の影響らしく、マツリの身体が発光しているからだ。一応元々内部を明るくする手段もあったが、その必要もなさそうだ。


 ……よし大丈夫だ。落ち着け俺。冷静に行こう。

 マツリに指摘された通り、普段からマツリのやわっかい感触には慣れているではないか。今更密着したくらいでそんな……あ、いい匂い。女の子特有のやつ。さすがに黒騎士との感覚共有では嗅覚まではできなかったからな……。


 ……うん。やっばい。女の子やっばい。


「私にも外の様子が見えるようにできないかしら?」


 鎧との感覚共有からは味わえない境地に気を取られていると、マツリからそんな要求があった。我に帰り待ってろと短く返して、手を伸ばして正面の黒騎士内部、だいたい胸と腹の間、鳩尾あたりの位置に指を付け呪文を唱える。黒騎士の簡単な改造ならお手の物だ。

 すぐにマツリの目線に合う位置に、外からは気付かれない程度の穴を作った。マツリもその出来に満足した様子だ。


「それじゃあ、作戦開始ね」


 ようやく準備が完了した。向かうはシオンと、密かにマツリを搭乗させた黒騎士。黒騎士に鎖鎌を構えさせ、ゴーレム兵を次々と呑み込むジャバウォックに向かう。


 ……ぬくい。やわっかい。いい匂い。


「……あ、ユートはベルトがあるのね。結構揺れて落ち着かないのだけど……」


 歩行を始めた黒騎士だが、マツリは振動に慣れない様子でこちらに訴えてきた。

 マツリが見つけた通り、俺は黒騎士とはベルトで固定されているので振動はそこまで気にならない。しかし俺に密着しているだけのマツリはそうはいかない様子だった。


「あー、ベルトか……これはすぐには作り出せないし……」


 装着しているベルトの材料になるものは生憎黒騎士内部には残っていない。今あるベルトを引き伸ばそうにも、そうすると耐久性に難が出てしまうし……。


 ……あ、そうだ。


「きゃっ!? ちょっと……」


「悪い、これで我慢してくれ」


 俺はマツリのお腹に両手を回し、しっかりと抱き寄せた。俺がしっかり支えてやればマツリの身体も固定される。

 下心があるわけでは……いやなくもないけど。


「……変なところ触らないでよね?」


「勿論」


 マツリは少し不服そうに顔を赤らめながらも納得した様子だ。やだなあそんなことしませんよハハハ。




 ……それにしても今のマツリの姿、ヴァルキリーの鎧を模したドレスを身に纏っているが、よく見るとそれが実態のない魔力で構成されていることがわかる。つまりはちょっと透けていたりする。

 透けている、とは言っても完全に中が見えてしまっているわけではなく、マツリの身体のラインが見えている具合だ。肝心なところは見えないあたりもどかしい限りだが、それはそれとして見応えのある姿だったりする。


 揺れ動くたわわな二つの果実が眼下すぐに実ってらっしゃるのだ……!


 しかもその魅惑の双岳が、ほんの少し手を動かせば触れられる位置に……それどころか、時たま揺れた際に俺の腕に触れたりしちゃっているのだ!! むはーっ!! 最ッ高!!


 嗚呼……できることなら今すぐにでもその誘惑するように揺れ動くたわわなお胸様に触れてみたい。揉みたい。しかしそれは駄目だ。気をしっかり持てユートよ。そんなことをしてしまえばマツリからの信頼は地に落ちてしまう。というかそもそも今は最終決戦の真っ只中。そんな場合ではない。いやもちろんそれはわかっているけども、だってほら、凄いんだぞ? 今までの少々露出が目につくという程度とは訳が違う。大事なところが見えないだけで注意深く見ればほぼ裸にすら見えるんだぞ? そんな状態のマツリの乳が、こんなに近くにあるんだぞ? これが落ち着いていられるか? 無理だろ。やばいぞこれ。もうほんとおっぱい。おっぱいで頭がいっぱい。戦いとかジャバウォックとかどうでもいいからずっとこうしてマツリと密着しておっぱい見ていたい。触りたい。どうにか事故を装って触れないだろうか? ほらあのよくある、思いがけない衝撃で体勢を崩してしまったりとかして。うん、行けるかな? 行けるかも。事故なら仕方ないよね事故なら。よし、そうと決まればタイミングを見て黒騎士を強く揺らしてその拍子にあのやわらかおっぱいを




「クスクスクスクス……漸く木偶人形では無意味で有ると思い至ったか」


 と、思考がおっぱいに埋め尽くされていたら前方でゴーレム兵と争っていたジャバウォックがこちらを向き声をかけてきた。気付かぬ間にかなり近付いていたようだ。くっ、時間切れか。じゃなくて、ミスの許されない佳境なのだ。集中せねば。


「さて、其方等の次の策は有り也? 其れとも、其方等二人が囮と成り他を逃す算段か? クスクスクスクス……」


 癪に触る笑い声で挑発してくるジャバウォック。フッ、よもやこれからその正体を白日の下に晒されるとは微塵も思ってはいないだろう。

 我は、黒騎士は無言のまま先んじて駆け出す。鎖鎌を構えてはいるが、攻撃を仕掛ける為ではなく、可能な限り接近する為に。


「うまく行くよな……?」


「ええ、絶対に成功させるわ。だから……」


 外には聞こえない程度の小声で話す俺とマツリ。


「クスクスクス、愚かな」


 黒騎士の接近を嘲りながら右腕を掲げるジャバウォック。その腕が触れようという直前ーー。


「ーー今!」


 俺は即座に黒騎士を変形させ、鎧を開きマツリを解放する。

 同時に、マツリが。


「お願いレシオン!」


『承ったわ!』


 何故か憑依しているヴァルキリーと短いやり取りをし……。




「私を見なさい、ジャバウォック!」




 マツリはその姿を、ジャバウォックの目の前に晒した。






 ……全裸で。






「なっ!?」


 声を上げたのは、俺だったのかジャバウォックだったのか。両方だったかもしれない。いやだって、え、嘘だろ!?

 先程のヴァルキリーとのやり取りはこの為か。黒騎士を開いた瞬間に、マツリの身に纏わせている魔力で構成されたドレスを解除させたのだ。

 うん、考えてみてほしい。ジャバウォックすらも虜にしてしまうイーヴィティア神の美貌。その女性の裸体。ジャバウォックは今、それを真正面から間近で目の当たりにしたのだ。膠着しないわけがない。というか俺にも真正面から見せろずるいぞちくしょう!!


 そして異様に長く感じた一瞬の後、黒騎士の手にする鎖を掴まれる感覚で我に帰った。いかんいかん、作戦を実行せねば。

 鎖は予定通りにシオンが掴み、その腕に巻き付けられる。そのシオンが黒騎士を横切るーーと同時に、マツリは再びヴァルキリーの魔力のドレスを瞬時に身に纏った。ああうん、目的は果たしたしシオンに見られたくないだろうからな。


「ーーっ!? 貴様っ……」


 ジャバウォックが気付いた時にはもう遅い。シオンはジャバウォックの妨害を受けることなくその身をジャバウォックの肉体に投じるのに成功した。


「決め手が色仕掛けなんて、笑い話よね」


 作戦の成功を確信したマツリが、俺に振り返りながら不敵に笑みを浮かべてみせる。我が君よ、その決め手はジャバウォックだけでなく俺にもクリーンヒットしてたぞ。危うくタイミングを誤ってしまいそうになった。


 色々あったが、ともかくこれで……。


「ユート!」


「応ッ!」


 マツリの掛け声を聞き入れ俺は黒騎士を操作し、ジャバウォックの身体へと伸びている、シオンに繋がったままの鎖を力一杯引き寄せさせる。

 鎖はシオンとともにジャバウォックの身体に呑み込まれていたが、引き寄せられる鎖は案の定、ジャバウォックの身体の外へと巻き取られる。そして、鎖の先に繋がっているシオンがジャバウォックの身体の外に飛び出し、無事帰還した。




 ーージャバウォックの正体が確定した瞬間だった。






 ……結末が決まれば過程は関係ないだろ? 黒騎士内部でのやましい思考とかはほら、失敗しなかったんだし。な? いやその、自分でもこんな最終決戦でいいのかよって思わなくはないが……うん、誰にも何も言わなければ何も問題ないな。よし。

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