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番外編:帰郷・前編。

今回の番外編は前、中、後編に分けて投稿します。こんなに長くなるとは思いませんでしたw


内容の時系列はエピローグ後。そのままエピローグの続きみたいなものです。

拾うべきでしたが本編中に消化できなかったあれの話です。

「あ、シオン君! 見えてきましたよ! 多分あの村ですよね!?」


「ああ、そうだな」


 馬車の窓から身を乗り出し、進行方向を指差しながら騒ぐエリス。シオンはその指し示された景色を見たわけではないが、そろそろ目的地が見えてくる頃合いだという事は察していた。

 最寄りの町から月に一度出ている馬車で一日かけて辿り着くその村は、アーヴァタウタ大国領土内の端、辺境と呼んで差し支えない位置にある田舎村。

 二人がその村に向かっている理由は、何らかの依頼任務があるわけではない。だが、気まぐれに旅をして寄るというわけでもなく、確かな目的地である。


 その村の名はアルヤメ村。シオンの生まれ故郷の村だ。

 シオンは自身の生まれ故郷に、約二年ぶりに里帰りしたのだ。


「…………」


 近付くシオンの故郷を見てはしゃいでいるエリスの横顔を眺めるシオン。楽しそうにしている彼女を見ているとこちらも嬉しくなるが、今のシオンは表情にこそ出してはいないが、複雑な感情が心中を渦巻いていた。


 葛藤を秘めたまま、馬車が進む。








 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★








「いやあ、二人には本当に助けられたよ。いつもはあんなに魔獣が出てこないはずだったんだが」


「いえいえ、護衛がお仕事でしたもの」


 アルヤメ村の停留所にて荷を下ろしながら、御者の男性と雑談するエリス。シオンとエリスはアルヤメ村に向かうこの馬車の護衛として雇ってもらい乗せて頂いていた。目的地に向かいながら仕事もできて一石二鳥だったわけだ。

 御者が言っている通り、道中に一度魔獣の群れに運悪く遭遇してしまったが、二人の前では大した敵ではなかった。もちろん御者のような一般人にとっては驚異だったのだから護衛が同行していて正解だっただろう。人によっては護衛をつけずに馬車を出す者もいるらしいが、魔物や盗賊に襲われる可能性を考えるとやはり馬車にとって護衛は欠かせない存在だろう。


 さて、そんな御者とも別れた二人は村を歩く。魔物除けの柵に囲まれた、十数軒の木造の家が並ぶアルヤメ村。人口は五十にも満たない小さな村で、シオンにとっては懐かしくも見慣れた、かつてと変わらない長閑な田舎村だ。


「ここがシオン君の育った村ですか……やっぱり良いところですね」


 シオンの後をついて来ながら、村を見渡し嬉しそうに言うエリス。


「そうか? ただの田舎村だぜ?」


「フフッ、それが良いんですよぅ」


 何がエリスの琴線に触れたのかわからないシオンだが、いつもの事だしまあいいかと肩を竦める。相変わらずよくわからない感性だ。異世界人特有のものだと思うが。


「あらあら、こんな辺鄙なところによく来たねぇ……あら? もしかしてシオンかい?」


 ゆるりと二人が村内を歩いていると、偶然通りがかった村人の女性が二人に歩み寄り話しかけてきた。村の外から来た者だと思っていたようだが、そこでシオンを見て顔見知りである事に気付く。


「あ、お久しぶりっす」


「あらあらあらあらまあまあまあまあ! 久しぶりねぇほんと! もう、帰ってくるならそうと言ってくれたらいいのに!」


 返事をしたシオンに捲し立てるように話し出す村人のおばさん。シオンは口を挟む間もなく苦笑する。


「もお、全然帰ってこないものだからみんな心配してたのよ? 冒険者って大変な仕事じゃない? でもまたこうして顔が見れて良かったわ。みんなにもシオンが帰ってきたって伝えないとね! ところで、そっちの可愛い子は?」


 おばさんはシオンの後をついてきていたエリスを見て尋ねる。ようやく一呼吸ついたシオンはエリスを紹介しようとするが。


「ああ、オレの冒険者仲間の……」


「はい! シオン君のお嫁さんのエリスです!」


 シオンの言葉を遮るようにエリスがとんでもない発言をしやがった。おいこらまてこら。


「え、お嫁さん……あらあらあらあらまあまあまあまあ! 本当に? まあーもうシオンったら隅に置けないわねもう! こんなに可愛い子を連れてきてくれるなんて!」


 案の定、それを聞いたおばさんはさらにテンションを上げて喋り出した。これは訂正は難しそうだ。


「お前なあ……」


「えへへ、第一印象は大事だと思いまして。それに何も間違った事は言ってません!」


「まだそんなんじゃねぇだろ」


「まだ、ですか? えへへへへ〜」


 恨めしげな眼差しをエリスに向けるも、シオンの何気ない発言を拾って嬉しそうにするエリス。何がそんなに嬉しいんだか。


「あらあらまあまあ、本当にラブラブなのねぇ。あのシオンがねぇ。嬉しいわ〜。みんなにも伝えてこなくちゃ!」


「え、ちょっ……」


 二人のやりとりを見ていたおばさんはそんな言葉を残して呼び止める間もなくさっさと離れて行ってしまった。これはすぐに村じゅうに広まってしまうな。


「…………」


「あはは、良い人でしたね〜」


 再び恨めしげな目をエリスに向けるシオンだが、どこ吹く風な様子のエリス。絶対に面倒な事になると確信しているシオンは深いため息を吐いた。








 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★








「おーおー、よう帰ってきたのぉシオン。しかもこんなに面こい嫁さん連れてくるなんてのぉ。いやぁめでたい。村をあげて宴会にするか」


「いいってそういうの。そこまで大事にすんなよじいさん」


 かつてシオンがこの村で暮らしていた頃に住んでいた、村の中でも一際大きな一軒家で出迎えてくれたのは、この村の村長だ。幼い頃に両親を亡くしたシオンを引き取って育ててくれた育ての親である。

 その村長のじいさんが二人を見るなりそんなことを言って顔を綻ばせた。何も言ってないのに嫁って。まだ村人のおばさんの言い広めた話が伝わってはいないはずだが。


「初めまして、シオン君のお嫁さんのエリスです!」


「おぉおぉ、エリスっちゅうんか。よう来たのぉ。歓迎するぞ。小煩い坊主だがよろしく頼むぞ」


 案の定乗っかって自己紹介したエリス。もう否定するのも面倒なので何も言わない事にしよう。まあ……まだそこまで進んだ間柄というわけではないだけで間違いというわけでもないのだし。


「ん? お前さんら二人だけか? シオン、マサ坊はどうした?」


「え? ああ、マサヤなら別のパーティと組んでるぜ。今はオレとエリスで二人旅してるんだ」


 室内に招待しながら外を見回し確認する村長。どうやらマサヤも一緒に来ていたと思っていたようだ。

 マサヤはこの村の近くに召喚され、この世界に来た当初はお世話になっていたらしい。元の世界に戻る方法を探す為に村を出て、この村出身の冒険者であるシオンに協力を仰いできたという流れまでしか村長は知らない。その後異世界人達に課せられた使命を終えた後はエリスと二人旅を始め、その際にマサヤとは別れて行動していた。マサヤは今、リインドの街で他の冒険者とパーティを組んでいる。


「そういえば、マサヤさんも誘ってみても良かったかもですね」


「確かにな。でもまあ、あっちの都合もあるだろうし次の機会があればでいいだろ」


 村長に言われるまで二人ともすっかり忘れていた。マサヤには少し悪い事をしたかもしれない。本人が村に戻るのに乗り気かどうかはわからないが。


「積もる話もあるじゃろうし、飯でも食いながら聞かせてくれ。昨日ヨツカが獲ってきた獣の肉がまだ残ってるからの」


「あ、私も準備手伝います」


 荷を下ろしたエリスは食事の準備を始める村長を手伝おうと駆け寄った。シオンもせっかくなのでそれに続く。


 料理は肉を鍋で煮込んだ鍋料理だった。火を着けた炉に鍋を置いて温め始める。その鍋を三人で囲ってようやく寛げるようになった。


「ほれシオン、話してみい。色々あったんじゃろう」


 そうして村長は鍋を見ながらシオンにこれまでの話を促してきた。シオンも最初から語るつもりではあったので苦言なく話し始める。


「そうだな、どこから話そうか……」


 やはりまずはエリスとの出会いか。幸い村長はマサヤと関わった際に異界人の存在を把握しているので、変に隠して話す事柄もない。

 語り始めたシオンと、横から時折茶々、もとい補足を入れるエリス。村長は二人の話を驚きつつも聞き、頃合いを見て鍋の肉をお碗に装い配る。話の内容は我ながら眉唾物も良いところだが、村長は疑う様子もなく聞き入ってくれていた。


 そうして話を続け食事も終わり、日が暮れ始めた頃だろうか。家の戸を叩く音が聞こえてきた。


「んむ、誰かのう。シオンの顔でも見に来たかの」


「オレが出るよ」


 腰を上げようとする村長を制して立ち上がり、玄関に向かうシオン。訪ねてきたのが誰かはわからないが、村長の言っている通り村人の誰かが帰ってきたシオンの顔を一目見に来たのだろう。

 戸を開けたシオンの目に映ったのは、懐かしい人物だった。


「おー、ホントに帰ってきてたのかシオン! 久しぶりだな」


「ああ、ただいま、ヨツカ」

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