Extra episode : 幕の後で……。
後日談というか、蛇足に近い話です。この物語の結末的な。
「……来たか、イーヴィティアよ」
「ええ、久しぶりね。だいたい八百年振りよ」
「左様か。我が封印されてからそれだけの年月が経っていたか」
「個人的には、あなたが復活するのはもっと先になると思っていたわ。だから少し驚いているの。復活できた理由があるなら聞かせて欲しいわ」
「知らぬな。我の与り知らぬところだ。どうせあの神々の気まぐれだろう」
「ふうん、そう。まだアユミ程時空間魔術が扱えるわけではないから、私では神様に直接会いに行く事はできないからお手上げね……アユミって名前も懐かしいわ」
「シュヘルムヴィアーの権能持ちか……八百年、か。当然だが、其方以外に当時を知る者はいないか」
「ええ、そうね。人間にとっては長すぎる年月よ。私は寿命が存在しない精霊達と一緒に暮らしていたからそこまで寂しくはなかったけど」
「成る程、其方は精霊と共に悠久の時を過ごしていたか」
「まあね。各国を繋ぐ空間転移の中継地点で、その管理者としてね。退屈だけど、世界の情勢を常に知れるからそれなりに楽しんでいるわ」
「左様か……そろそろ、本題に入ろうか」
「それもそうね……ジャバウォック、封印から解放された今、あなたはどうしたいの?」
「…………」
「…………」
「……其方から見て、今の我をどの様に思う?」
「……そうね、現時点でのあなたは、当時のような荒事を起こそうとは考えていないように思えるわ」
「…………」
「あなたが復活したらしい情報を聞いた時から感じていたの。目撃情報こそあるものの、人類に敵意を向けているような話は一切聞かなかったから。そのうえ、こうして私をあなたの世界に招いてまでいるものね。敵対していた私に自ら心臓を差し出している。これはあなたなりの敵意がない事の表明だと推測するわ。どう? 当たっているかしら?」
「…………」
「…………」
「……憎き神々の子らへの恨みが、完全に消え去ったわけではない」
「…………」
「封印されている間、幾度も憎悪を思い出し、復讐を誓おうとした。神々の権能を持つ存在も、其方を除けば時の流れには逆らえぬ。其方だけで我を止められるはずもない。例え我の弱点を知り得ていようとも、かつて程の強者は存在しない。次こそは、必ず人類を滅ぼしてやろう……そう何度も考えた。だが……」
「…………」
「……エリス……」
「…………」
「復讐を誓う度に蘇るのだ。我に慈悲をかけたあの人間の顔が。言葉が。想いが……どれ程の月日が流れようとも、彼奴の言葉が離れなかった。忘れる事ができなかった……愚かな人間だと、一蹴する事がどうしてもできなかったのだ。そして、彼奴の言葉を思い出している時、我の中で燻っていた憎悪が和らいでいるのを確かに感じ取っていた」
「…………」
「エリスは過去の人間となった。その事は理解している。だが、彼奴の意志は、今尚我の中で息づいている……それが答だ。納得したか、イーヴィティアよ」
「……ええ、やっぱりお姉様の思った通りになったのね。私は……いいえ、あの時あなたを封印した時にその場にいた全員がきっと、こうなる事がわかっていた。互いに傷つけ合うだけでは本当の解決にはならない……お姉様の考えは今でも綺麗事だって思うけど、こうして証明されちゃったらもう何も言えないわね」
「……お前は我をどうするつもりなのだ、イーヴィティアよ」
「どうするつもりもないわ。あなたに人類の脅威として振る舞うつもりがないのなら、私から何かする理由もないものね。でも、そうね……提案があるのだけど、いいかしら?」
「申してみよ」
「ええ……あなたが良ければ、私と一緒にこの世界を見て回ってみない? お姉様が愛した、あなたが壊さなかったこの世界を」
「…………」
「この世界の人類はあなたが忌み嫌う神々の子だという事は変わらない。人類全てが善であるわけでもない。今尚愚かな人も沢山いる。それでも、お姉様はこの世界を愛し、救って、笑ってみせた。そんな世界を、あなたも自分の目で見てみるべきだと思うわ。どうかしら?」
「……良かろう、所詮は悠久の時の中の僅かな戯れよ。付き合ってやろう、イーヴィティアよ」
「フフッ、ありがとう。でも、ひとつだけ訂正させて。私の名前はマツリよ。これからはそう呼んで」
「……左様か。ならば案内せよ、マツリ」
「ええ、喜んで……さあ、冒険を始めましょう」
ーーあなたと私で、新たな物語を紡ぎましょうーー




