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エリスの世界。

 エリスが発動する魔術の名称を宣言し、その能力が発揮される。

 エリスの足元を中心に、光り輝く魔法陣のような円が広がって行き、あたり一面を包み込んだ。この戦争の開始時に使っていた、魔術の適用範囲を広げる魔術に似ている気がするが……。


 広がった魔法陣らしき円は近くに居たシオンや異界人達のみならず、冒険者達、さらにはバンダースナッチ、そしてジャバウォックの居る位置にまでも到達して尚広がり、かなりの広範囲の地面を覆い尽くした。


 そして。


「おお、これは……」


「力が、漲ってくる……?」


 そこに居る全ての存在が一度動きを止めた。異界人達や冒険者達は口々に驚きの声をあげる。

 シオンが感じた身体能力の変化は、単純な武装強化や防護魔術を与えられた時とは違うように思えた。それ以上の能力の強化を感じ取っていた。


「ぬう……?」


 一方で、バンダースナッチ達は何処か居心地が悪そうに身を震わせた。その変化に気付いたジャバウォックが首を傾げる。

 これはいったい……?


「この結界内は、私の世界! 私の味方には大量に能力強化バフを、敵には弱体化デバフを与える結界です!」


 誰もが抱いた疑問に答え説明するエリス。これはつまり、味方全員の強化と敵全体の弱体化を同時に行う魔術なのか?

 能力の強化具合がかなりぶっ飛んでいたり、敵と味方の区別をどうやって行っているのか等、意味がわからない点ばかりで信じられない。

 だがシオンが感知能力で調べた限りは、確かに強化は味方全員に行き届いており、バンダースナッチやジャブジャブ鳥は余す事なく弱体化されている事がわかり、その言葉が真実であると判断せざるを得ない。この魔術、やばすぎるだろ。


「さあ冒険者の皆様! 今ならバンダースナッチだって簡単に倒せます! ガンガン攻めちゃって下さい!」


 そして未だに戸惑っている冒険者達に発破をかけるエリス。冒険者達はそれに応え、それぞれが武器を手にしたり魔術を構築したりしながら突撃を開始した。

 その効果の程はすぐに判明する。


「おおっ、脆いぞ!」


「嘘、術式の構築まですぐにできちゃう!?」


「光属性まで追加されてるぞこれ!」


「ははっ、最高だ! 無双できちまうぜおらぁッ!!」


 多くの冒険者達の武器が唸り、魔術が飛び交う。対するバンダースナッチは動きが鈍く、そのうえうんざりする程の硬度を誇っていた肌が嘘のように皆の攻撃に耐えられず砕かれていた。


 ユートが作り出したゴーレム兵達までも、大槌で次々とバンダースナッチ達を叩き潰している。

 さらには、上空に羽ばたいていたジャブジャブ鳥達は飛ぶ力までも奪われた様子で無様に落ち始めていた。攻めるついでとばかりに冒険者達に踏み潰され、ジャブジャブ鳥達は完全に無力化し次々と生き絶える。


 そしてその効果は異界人達にも及んでいた。


「わ、もう構築できちゃった。もっと時間かかると思ってたのに」


 呟いたのはアユミだった。どうやらジャバウォックを封印する魔術の術式が完成したらしい。エリスの補助は術式の構築にまで及ぶらしく、構築速度が早まったようだ。


「封印の術式だよな? ならもう発動できるのか?」


「や、結構条件がシビアでさ。すぐにって訳にはいかないかな。後で詳しく説明するとして」


 シオンの問いに答えながらエリスに目を向けるアユミ。エリスにこのとんでも魔術について聞きたいらしい。


「お姉様、こんな凄い魔術、いつの間に編み出していたの?」


 その質問はマツリが言った。シオンも含めて、こんなにも強力な魔術を修得していたという話はエリスから一度も聞いた事がなかった。


「やー、ほら、前にも領域拡大魔術で沢山の兵士さん達を一斉に強化した事があったじゃないですか。あれをもっと発展させれないかなって術式を掛け合わせていたら、この術式と詠唱が頭に浮かんできたんですよ」


 エリスは素直にこの術式を修得した過程を語った。魔術ってそんなに簡単に新しい術式を思い付くものなのか?


「ふむ、恐らくルキュシリア神の権能がエリス嬢の望む神聖魔術を教えてくれたのだろう。確か蘇生魔術も似たような発現だったのであろう?」


「はい、多分そうだと思います」


 エリスの不可思議な現象についてをトモエが解説した。本当に凄いというか、ズルいなあ権能の力。


「でもさ、こんなに万能な魔術、何で今まで使わなかったの?」


 続くアユミの質問は当然の疑問だろう。今回の戦争の進軍開始時に使っていたのがこの魔術だったならば、その進行はよりスムーズに進んでいただろうし、合流だって簡単だったはずだ。少なからず発生してしまった死者も皆無だった可能性すらある。だと言うのに今まで使わなかった理由とは何なのか。


「普通に考えると、何らかの条件やデメリットがあると見るべきかしら?」


「はい、そんなところです」


 その疑問に対する回答の予想をマツリが言い、エリスはすぐに頷いた。当然と言えば当然か。


「まず、消耗する魔力が信仰魔術とは比較にならないくらい多いんです。しかもこの結界を保つ必要もあるので、使用中は他の魔術が使えません。それ自体はこの魔術が殆どの信仰魔術を内包しているのであまり問題にはなりませんけど」


 この魔術の欠点をエリスが皆に伝える。無尽蔵の魔力総量を有するエリスが消耗を気にする程の消費量となると、普通の人間の魔力総量の何十人分になるのだろうか。想像もつかない。

 もう一つは、他の魔術の使用制限だそうだ。エリスは確か、複数の魔術を同時に扱う事ができたはずだ。それにも関わらず他の魔術の使用に制限がかかるとなると、この魔術の制約と考えるべきか。


「それから、皆様にどれだけの負担がかかるかもわからないので、使うなら最後の段階でって決めていたんです。皆様に常にドーピングしているって考えるとちょっと怖いですよね」


 もう一つ挙げられた理由は、この魔術の影響を受けた味方への副作用だった。

 確かにこの術は、武器の性能の上昇や身を守る魔術だけでなく、あらゆる身体能力にまで作用しているのがわかる。一時的な能力強化を行う魔術が存在している事はシオンも知っているが、そのような魔術には決まって使用後の反動も存在していると聞いた事があった。エリスに何度も使って貰っている自己治癒能力強化魔術にも存在しているという話だし。この魔術も恐らく例外ではないだろう。


 そのデメリットを聞いてアユミ達が複雑な表情をした。まあ、副作用が存在する可能性が高い魔術をかけられて、その事実を後になって教えられてはそんな反応にもなるか。


「そういう事は先に言って欲しかったかな〜?」


「まあ、ここで決着をつければ反動なんて関係ないわよ」


「うむ、それ以上に冒険者の皆がこれ程までに強化されたという事実が大きい。敵の弱体化も含め、確実に我々の追い風となっている」


 愚痴を零すアユミだが、他の者は今エリスがこの魔術を発動した事については肯定的だった。まさかあのバンダースナッチを、異界人のみならず冒険者達までも雑魚扱いできてしまうとは。


「んー、まあ、確かに封印にも都合が良いんだし駄目なんて言わないけどさ……あ、ついでに今で封印の条件も伝えておくね」


 渋々ながらもアユミも納得し、そこで話題を件のジャバウォックを封印する魔術に変えた。


「封印対象を適用範囲に収めてから、少し時間がかかるの。だいたい十秒前後かな? その間ジャバウォックが適用範囲から逃げないようにしないといけないの。そのうえ発動時に範囲内に対象が単体でない場合は失敗しちゃうんだって。冗談抜きにかなり厳しい条件なんだ」


 皆に伝えられた封印の条件は、一定時間ジャバウォックをその魔術の適用範囲から動かないようにさせ、さらに発動時の範囲内の存在がジャバウォックのみになるようにしなければならない、というもの。


「……確かに難しいな」


「えー……すいません、それをクリアできる方法あるんですか?」


「んー、気合?」


「もう少し考えなさいよ……」


 案の定、その条件の厳しさに皆が苦言を申し出る。ジャバウォックを拘束する手段なんて思い浮かばないし、そもそもジャバウォックの肉体からは次々と魔物が出現するのだ。ジャバウォックが単体で居る機会などあり得ないのではないか。


「昔はジャバウォックがイーヴィティア神の顔に見惚れている間に封印したって話だけど、その再現も難しいよね」


「ああ、本当にイーヴィティア神が昔の封印の鍵になっていたのね……そうね、私の顔なんてとっくに見られているし、十秒も我を忘れてくれるなんて思えないわ」


 マツリの権能が昔の神々とジャバウォックとの争いの時と同じように通用するか尋ねるアユミだが、既にマツリの存在を知っているジャバウォックをそんなに長らく見惚れさせるのは無理だろう。せいぜい一瞬動きを止めてくれるかもしれないくらいだ。とても封印の条件を満たせるとは思えない。


「もう、戦いの中で手段を模索するしかないよね。でも、冒険者達がバンダースナッチを簡単に倒せるようになったのは大きいよ。あいつが魔物を生み出せるのだって限界があるはずだし、そのリソースを枯渇させられたなら条件を満たす足がかりになるだろうし」


 現時点で条件を満たす手段を見つけるのは諦めたアユミだが、ジャバウォックと冒険者達の攻防を眺めて希望を見出した。このままジャバウォックが生み出す魔物を駆逐し続ける事ができたら、いずれは生み出せる魔物が枯渇するだろう。そうなればアユミが語っていた条件の後半は達成できる可能性が高い。


「シオン、お前も前線に行け。この位置からは俺が観察する」


 話がまとまった頃合いを見て、矢を放つ手を緩めぬままイサミがシオンに指示した。イサミはシオン以上の感知能力を有しており観察眼に優れているので任せても大丈夫だろう。ならばシオンはイサミとは異なる距離と角度から今後の展開を注視すべきだ。


「ああ、行ってくる」


 頷いて駆け出すシオン。ただし皆が戦闘を繰り広げている戦場とはある程度距離を置いた位置を目指してだ。

 次々と倒されてゆくバンダースナッチ。その死体を踏み鳴らしながら冒険者達がどんどんジャバウォックに近付いて行く。もうすぐ、冒険者達の中にジャバウォックに攻撃を仕掛ける者が出てくるだろう。


 魔術を発動する前にエリスが言っていた、今までにない攻め方。それはさまざまな冒険者達による数多の攻撃手段を指している。

 これからのジャバウォックの反応を観察する事で、その生態のヒントを掴む為だ。

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