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シオン対イサミ。

 早速シオンは体内のエリスから与えられた魔力と自身の魔力を解け合わせ、魔力を融合し全身に巡らせた。融合気功術の発動は、会得した当初よりも目に見えてスムーズにできている。ヴァリブトル地下迷宮でのマツリの特訓の成果のひとつだ。


 全身の発光という、普通の気功術とは明らかに異なるシオンの変化を目の当たりにし、イサミは感心するように「ほぅ」と短く呟いた。彼も即座に気功術で全身に魔力を纏う。その魔力は手にする弓と剣にまで至り、その剣を静かにシオンに向け構えた。


 先に動いたのはシオン。一筋の閃光となり真っ直ぐにイサミに向かい駆け出し、袈裟斬りに剣を振るう。身体能力が断トツに高いマサヤの突進と比較しても決して劣らない速度での接近だったが、イサミはそれを難なく受け流した。


「速いな」


 シオンの突進からの斬撃を対処したイサミは、剣を振り切ったシオンに呟きながらカウンターの一突きを繰り出す。本能に身を任せる魔物の攻撃とは明らかに異なる、洗練された刺突。

 しかしそれを読んでいたシオンは危なげなくその攻撃を避け、イサミの左手側から横薙ぎに斬撃を繰り出す。彼は左手に弓を持っている。弓では斬撃を対処できないだろうと踏んでの判断だ。

 だが、シオンの斬撃が到達するよりも早くイサミが体勢を立て直した。そしてシオンの攻撃を剣で受けつつ後退する。ここまで細かな動作が精確な相手は初めてだ。


 追撃を試みようとするシオンだったが、イサミの手にする剣により多くの魔力が込められた事に気が付いた。その意図を察するよりも早く、イサミがその剣をシオンに対して振るった。まだ二人の距離は攻撃が届く位置ではないにも関わらず。

 だが、その行動の理由はすぐに判明した。イサミの剣に込められた魔力が、振るわれた剣から放たれシオンに向かって来たのだ。剣から斬撃状の魔力を生み出し遠距離に攻撃したのだ。


 シオンは驚きながらも即座に身を翻し、その飛ぶ斬撃を避ける。そうして避けながら、遠距離攻撃の手段があるなら弓を持っている意味がないのでは? と、イサミの装備に疑問を抱いた。が、そのイサミの姿に目を向けた時、思わず焦りが過った。まさに今、いつの間にかイサミがその弓に矢を番えていたのだ。


 イサミの弓から矢が放たれる。弓矢にまで込められた魔力はその速度を恐ろしいまでに強化していた。恐らく威力も跳ね上がっているはずだ。というか、あれを受けてしまったらエリスの防護魔術までも貫通しかねないぞ?

 回避行動を取っていた為に未だ体勢が整っていないシオンではその矢を避ける事ができない。だが対処はできる。迫り来る矢に対し、手にする雨鴉で一閃。どうにか叩き落とす事に成功した。

 が、危機は未だ去っていない。二射、三射と次々と新たな矢が放たれていたからだ。シオンは集中力をより一層高め、それらの矢を弾きながらどうにか体勢を立て直し、続く矢を回避できるにまで至り地を蹴る。その時になってようやく矢の嵐は止み、二人の間に一時の膠着が訪れた。


「うおー! やべぇ! カッケェなおい! くっそー、次は俺とも勝負な!」


 そして結界の外で戦況を見守っていた外野のマサヤが、子どものように興奮しながら叫んだ。次って、どっちとだよ?


「近接戦闘もここまで極まると私にはお手上げね。もう何が何だか……」


「やー、私もあんな動きには着いて行けそうにないですね。私達術者タイプは魔術でごり押しが正攻法ですよね」


 マツリとエリスも今の攻防を見ての感想を漏らした。戦闘手段はそれぞれ異なるのだから、そのような判断になって当然だ。要は自分の戦術を如何にして相手に押し付けるかが重要なのだから。

 そして互いに近しい戦闘方法を有する者同士になると、実力の差が勝敗を左右する。

 シオンとイサミは……当然だが、イサミが一枚上手だ。シオンは最初の接近以降、全く攻めに転じる事ができなかったのだから。


「身体能力はお前に分があるな。成る程、皆がお前を戦力のひとつとして数えるのも頷ける」


 そしてイサミも、構えながらも今の一戦で読み取ったであろう感想を述べる。彼自身が言っているのであればそれは真実なのだろう。恐らく攻撃力や速度はシオンが上。しかしイサミは、その差を圧倒的なまでの技量で補い上回っている。


「ホント、お前って他の異界人とは色んな点が真逆だな」


 シオンも、イサミに抱いた感想を告げた。


「真逆、とは?」


「あー、オレ個人としての意見なんだが、お前ら異界人って、スキルで手に入れた能力をそのまま振るっている印象があったんだよ。最近はみんな鍛えて改善できてるけどな。でもお前は、権能の能力よりも戦闘技術が特出しているみたいでな。それとも、それが権能の能力に由来するのか?」


 シオンはかつて異界人達に対して、経験不足から来る技量の低さを指摘した。それでも連中は能力の高さを押し付ける事で大抵の敵はどうとでもなっていた。マツリとユートとの合流の後はしっかり技量も身につけているが、今まで単独で行動していたイサミは他の異界人と違いその技量が特出していると感じたのだ。

 一応シオンはその技量が権能の能力によるものなのかと疑ったが、スキルはあくまでも能力を与えるだけのはず。戦闘技術は自ら身につけなければならないので、その可能性は低いと考えているのだが。


「権能の能力……そうとも言えなくはない。俺の能力を活かす為に身につけた技術だし、俺の権能はそう言った技術が身につきやすい性質だったからな」


 それに対するイサミの答は、そのようなものだった。しかし、その答を聞き、新たな疑問が生まれた。


「お前の権能の能力って……戦闘に応用できるのか?」


 イサミの身に宿る神の権能、グリア神の権能は、アユミから聞かされた話によると、確か感知能力を中心にした身体能力の上昇だったはずだ。故にイサミはシオンと似た能力をしている、という話だった。

 だが、他の戦闘能力に特化した権能と比較してその能力は地味過ぎるのではないか? 単に、その身体能力を活かす為に戦闘技術を身につけたという意味なのだろうか?


「……そうだな。少し本気を見せてやる。俺の能力もお前達には明かしておくべきだろうからな」


 シオンの疑問を聞き、イサミはその能力を見せる気になったらしい。というか、さっきのは本気じゃなかったのか。


 それを最後に二人は会話を止め、改めて武器を構える。あまり気にしていなかったが、シオンの融合気功術は制限時間があるのだ。地下迷宮での修行によってその時間はかなり伸びてこそいるものの、長期戦ができる程ではない。その時間内で模擬戦をしなければ。


 そしてあわよくば、異界人相手に一矢報いたい。


 さんざん自分と異界人との格差を見せつけられてきたシオンだが、もし自分が彼等に敵うのならば……。そう夢想した事もないわけではないのだ。それが可能かもしれない、千載一遇のチャンス。逃す手はない。


 密かな決意を胸に、シオンは再びイサミに向かい構える。

 相対するイサミは、仕掛けて来る様子はない。シオンの出方を伺っているようだ。

 波ひとつ立たない水面のような静音を思わせる姿。しかし、その眼光だけは鋭くシオンを射抜いている。

 待ちに徹する様子のイサミに乗る事にする。シオンの能力には制限時間があるのだから、こちらまで様子見を続けて膠着が続いてしまってはまずい。


 再度イサミに向かい駆け出す。しかし今度は、攻撃にフェイントも混ぜる事にした。それがイサミに通じるとは思えないが、先程と同じ攻撃を繰り返したところで結果は目に見えている。


 互いの剣の間合いに入る。イサミは未だ動かない。


 シオンが袈裟斬りに剣を振るう、ように見せて即座に剣を引きその軌道を変更する。


 イサミは、動かない……!?


 フェイントをかけた後の本命である斬撃を放つ寸前になって、ようやくイサミが僅かに動いた。

 一歩もその場を動かないまま、最低限の動きでシオンの本命の薙ぎ払いを避けて見せたのだ。


 読まれていた!?


 そしてシオンの体勢が整うよりも速く、イサミが振るう剣がシオンの胴体に直撃する。綺麗にカウンターを決められてしまった。


「くっ……」


 エリスの防護魔術のおかげでその斬撃自体がシオンの身体に到達する事はなかった。しかしその衝撃を打ち消すには至らず、思わず後退するシオン。追い討ちに備えようと身構えるが、追撃が来る事はなかった。イサミは再度構え直し、待ちの姿勢に入っていた。


 戦術的には追い討ちを仕掛けるべきだったのではないか? 疑問に思うシオンだったが、これはそもそも模擬戦である事を思い出す。戦闘面の効率よりも、シオンの技量を見定める目的。イサミはそれを優先したのだろうか。

 イサミの思惑はこの際置いておこう。今はとにかく攻め続ける。次は先程とは異なる攻撃の軌道で。


 気持ちを切り替え再度イサミに向かう。刺突による攻撃。避けられ、またもカウンターを受け距離を置く。間髪入れず攻撃を再開。またしても動きを読まれ、受け流されてカウンターを受ける。即座に立ち向かう。攻撃を読まれ、またしてもカウンターを食らう……。


 数回の攻防の後、あまりにも一方的な展開に堪らずシオン自らイサミから距離を置いた。おかしい。意味がわからない。何故こちらの動きが全て筒抜けなんだ?


 一連の攻防は、全てシオンの攻撃が読まれた上でカウンターを受けている。自分の斬撃がイサミの身体を避けているかのように錯覚してしまう程だ。

 実力が拮抗した剣の達人同士の戦闘は、動きの読み合いになるとは聞いた事がある。しかしイサミのそれは、シオンの動き全てに確信を持って対応しているようにしか思えない。


 いったいどんな理屈でそのような芸当ができるんだ? 未来予知か? 読心術か?


 ……戦闘を再開する直前に、イサミが呟いた言葉を思い出す。確か、自分の能力を明かしてやるみたいな事を言っていた。


 つまり、これが。


「……まさか、感知能力でオレの動きを読んでいるのか?」


 同じ感知能力に特化したその身でも、信じられない理屈だが、もしこの予知めいた対応力の理由が、イサミの持つスキル、グリア神の権能に由来するものであるのだとしたら。


「正解だ」


 その問いに答えを出すイサミ。シオンの予想は的中した。


「生物の身には強弱こそあれど常に魔力を帯び流れている。その魔力の流れはこれから身体を動かすという直前に予備動作と言える動きが発生する。俺の権能による感知能力は、その微細な魔力の流れの変化を感じ取る事が可能だ。こうした一対一での戦闘ならば、俺は常に相手の一手先を予測できるという事だ」


 イサミの能力の詳細を聞き、戦慄した。同じ感知能力に優れている身だからこそわかる。それがどれ程並外れた能力であるかを。

 今のシオンの感知能力では恐らくそれ程まで精密に相手の体内に流れる魔力を知覚する事はできない。あまりにもその能力に差があり過ぎる。最早人間業ではない。

 改めて目の前の人物が、神の権能をその身に宿す異界人であるという事を察した。いや、自分と似た能力であるからこそ、より他の異界人以上にその異常さを理解してしまった。間違いなく化け物だ。


「他人の行動の先を把握できる。それは戦闘における技量の上達に大きく貢献した。騎士同士での模擬戦を通して最適な行動を身につけていくうちに、この能力をより活かす技術を覚え、実力を向上させる……能力を由来にしての成長と戦闘技術と言えるだろう」


 そしてこの技術を身につけるまでの過程も端的に語るイサミ。自身の能力を戦闘に活かす鍛錬を積み、こうして身体能力が上である相手に対しても圧倒できる程の実力が備わるに至った。

 いくら感知能力に特化していようとも、やはりそれはマツリの能力程ではないにせよ、戦闘面には直接影響を与えるわけではない。その能力を活かせる技術を備えて初めて発揮できる。イサミはそれを成し得たのだ。


「さて……もう一つ、見せておくか」


 イサミの実力を理解したシオンだったが、イサミは短く呟くと同時に戦闘を再開した。今度はイサミ自ら仕掛けてきたのだ。


 離れた位置に居るシオンに向かい、矢を番い放つ。構えて放つまでの動作が相変わらず呆れる程の速さと精密さだ。しかしシオンも反応できないわけではない。矢の軌道上から即座に身体を避け回避する。

 次の矢を放たれる前にイサミに接近せねば。矢を避けたシオンはイサミに向き直り、駆け出そうとした。


 だが。


 いない。


 イサミの姿が、ない!?


「なっ、消え……」


 驚愕するシオン。放たれた矢に意識を奪われた一瞬のうちに、イサミの姿が忽然と消えてしまったのだ。

 慌てて周囲を見回そうとしたシオンだが、直後、その首元に刃が突き付けられている事に気付いた。


「そうか、俺は消えていたか」


 向けられた剣の先。シオンの背後からイサミの声が聞こえた。いつの間にこんなにも近くに接近していたのか。全く気づかなかった。

 シオン以上の速度で疾走できるマサヤであろうと、シオンにはその動きを目で追う事はできた。だが、今のは何だ? イサミは今、そのマサヤよりも速く、シオンの目にも止まらぬ速さで背後に回り込んだのか?


「言っておくが、これはお前が気付けない程の速さで俺が動いたわけではないぞ? さっきも言ったが、身体能力はお前が上だ」


 戸惑うシオンの首元から剣を引き、ゆっくりと後退するイサミ。今の現象を解説してくれるようだ。


「じゃあ、どんな理屈なんだよ? まさかとは思うが、お前もアユミみたいな時空間魔術が使えるとか言うんじゃないだろうな?」


「魔術ではない。単にお前が気付けないように動いてみせただけだ」


 思い浮かびながらも自分でもありえないと思った理屈を当然否定しながら明かされたその答は、やはり意味がわからないものだった。

 シオンが気付けないように? 気配を消したという事か?


 ……直前まで目の前に居たはずなのに、感知能力に秀でたシオンに気付かれない程に気配を絶っていたというのか?


「魔力の流れは生物にだけあるものではない。大気中にも微量ながらも存在し、常に流動している。それくらいならお前も知っているだろうが……俺はその大気中の魔力の流れと自分の体内の魔力の流れを極限まで同一になるように動かした。結果、俺の気配は他者には知覚できない程に稀薄になった。簡単に説明するとこんなところだ」


 そしてその技術をより細かに説明してくれたが、やはりシオンには到底理解できない内容だった。というか、今のも感知能力に由来する技術なのか?


「……仙人か何かかよ、お前」


「バネッサにも同じ事を言われたな……いや、こっちの話だ。とりあえず、俺が会得している他の者にはない技術はこんなところだ」


 説明を終え、シオンと、そして結界の外に居る皆に一度視線を送るイサミ。今の言葉が外野にまで届いているとは思えないが、その動作を見てイサミのこの模擬戦を挑むにあたっての目的を理解した。

 イサミはシオンの実力を測るだけでなく、自身の技術も皆に見せておく事も目的だったのだ。今後の作戦で自身がどのような動きができるのかを皆に伝えておきたかったのだろう。


「さて、俺の手の内はこれでひとまず明かしたが、どうする? 模擬戦は続けるか?」


 そしてその目的が達せられ、シオンの実力も把握した今、これ以上の模擬戦の続行はイサミにとっては無意味なのかもしれない。ここで終了するかと提案してきた。


 ……だが、シオンはまだ満足していない。


「悪いけど、もう少し付き合って貰いたいな」


 シオンは再び剣を構える。融合気功術はまだ続けられる。シオンは未だこの模擬戦で良いところを見せていない。一方的にイサミの実力を見せつけられたまま終わっては格好がつかないではないか。


「……いいだろう」


 シオンの要求を聞き入れ、同じく構え直すイサミ。模擬戦は続行に決定した。


 シオンは今まで、感知能力は戦闘に一切関わらない能力だと思い込んでいた。

 だが、その考えはイサミによって覆された。感知能力も極まればここまで驚異的な能力になり得るのか。


 ーーものにしたい。まだオレは、強くなれる。


 イサミの実力に、自身の可能性を見出したシオン。この模擬戦で、少しでもその技術の会得に繋がるならば……!




 その後シオンは融合気功術が尽きるまでイサミに挑み続けた。結局イサミには一太刀も攻撃を当てる事は叶わなかったが、この模擬戦は自分にとって無意味なものには決してならない。そう確信していた。

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