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集結。

「それじゃ、初めての人もいる事だし、みんな簡単に自己紹介しよっか」


 ヴァリブトル地下迷宮から帰還し、サーグラ国の崩壊を耳にしてから四日後。シオン達は王城の一室に招かれていた。そこに集まっている人数は、全員で九人。


 シオンを含めた異界人パーティー、加えてアーヴァタウタ大国王子のリーフェルト王子も交えて、卓を囲んだ会談が始まった。


 最初に口を開いたのは、異界人にして神託の巫女、アユミ。そして続きを側に居る青年……シオン達とは初対面の人物に促した。

 彼がどういった人物なのかは把握してはいるので形式上、といった意味合いではあるが。


「イサミ・カザマだ。サーグラ国の……いや、元サーグラ国の騎士だ。異界人で、グリア神の権能のスキルを持っている」


 アユミはこの四日間、サーグラ国周辺の村で最後の異界人の行方を探していた。そして今日、見つかった異界人がようやくアーヴァタウタ大国に到着したのだ。予想していたよりも早い合流だったが、その理由は彼自身もアーヴァタウタ大国に向かって進んで来ていたからとの事だ。


 自身の名を語った、イサミ。恐らくは二十歳前後の、美青年と呼んで差し支えない整った顔立ちをしている人物だった。

 美形としてはリーフェルト王子殿下も相当だが、爽やかな雰囲気を醸し出す王子とは異なり、静穏、冷静な印象を受ける。そして今までの異界人達と比べてかなり落ち着いた性格をしているように思える。少しだけ異界人の事を誤解していたぜ。


 しかしその表情に疲労している様子が浮かんでいるように見えるのは気のせいではないだろう。その理由は長旅による疲れ……だけとは思えない。

 異世界から来た身とはいえ、今まで自分が暮らしていた国の崩壊を目の当たりにしたのだから……その心労は計り知れない。


 イサミの後はそのままシオン達がイサミに向けての自己紹介をそれぞれ行った。シオンの紹介の際には多少の補足を加えて。異界人でないシオンは少々特殊な立場故。


「では、最後に僕だね。僕はリーフェルト・アーヴァタウタ。この国の王子にしてアユミちゃんの共犯者さ」


「何の共犯なのさ」


 最後に自分の番が回ってきたリーフェルト王子が冗談混じりに語った。アユミが王子様に対してタメ口なのはもう気にしない。気にしていたらきりがないし。


「御多忙の中、御面会する機会を頂き感謝致します」


 そんな王子様の自己紹介に対し、イサミは深々とお辞儀をしながらそう返した。他の異界人はどいつもこいつも王子様を敬う態度を示していなかっただけに意外に思えた。できた人物だ。それとも騎士団に所属していたが故の判断だろうか? とにかく、他の連中に是非とも見習わせたいところだ。


「気にしないでくれ。君との会談は最優先事項だからね」


 そして王子様は気さくに返答してみせた。前々から思っていたが、王子様も王子様で威厳ある態度を見せない。十中八九、異界人の皆のノリに合わせてくれているのだろうが。そのほうが気楽に対応できるのは確かだろう。


「さて、まずはボク達異界人の事情を説明しようかな?」


 各々の紹介を終え、アユミはシオン達と初めて会った時と同じ、異界人がこの世界に転移する事になった流れを説明し始めた。詳細を聞きイサミはやはり呆れたような表情を見せたが、ジャバウォックの説明に入るとその表情を険しくした。


「ジャバウォック……それが敵の名か」


「そ。バンダースナッチとかの新種の魔物を生み出している張本人。魔族と結託して、君の国を襲った主謀者はそいつのはずだよ」


「…………そうか」


 アユミの説明を聞き入れ、イサミは静かに相づちをうった。恐らく……いや、間違いなくジャバウォックに対して深い恨みの感情を抱いている事が見て取れた。当然の事かもしれないが、その静かでありながら気圧されてしまいそうな気迫に思わず息を呑んでしまう。

 何かと他の異界人とは印象が違う人物だな。気楽さがかけらも感じられない。


「とりあえず、ボク達の事情はこんなところかな? 次はイサミ君。サーグラ国で何があったのか聞かせてよ」


「……ああ。俺の知り得た範囲の事は全て話そう」


 そして今度は、イサミが体験したサーグラ国での出来事を語り始めた。

 突如として出現したバンダースナッチを始めとした新種の魔物達。以前の報告にあった飛行する魔物だけでなく、球形の自爆する魔物の存在。そして魔族。


「やっぱり魔族も一枚噛んでたんだね」


「三種類目の新種の魔物、か……」


 アユミとトモエがイサミの話を聞き終えそれぞれ呟く。魔族のみならず、新たな魔物まで生み出されていたとは思いもよらなかった。


「鳥と、球形……うむ、鳥の魔物はジャブジャブ鳥、球形の魔物はハンプティダンプティと呼称しよう!」


 そしてトモエが何を言うのかと思えば、新種の魔物にこれまた奇っ怪な名を付けた。何だそれ。


「両方とも不思議の国のアリスに登場するキャラクターでしたっけ?」


「うむ。ジャブジャブ鳥はジャバウォックの詩の中で触れられる鳥、ハンプティダンプティは卵を題材にした謎かけだ」


「いやいや、今それ必要か?」


 唯一トモエの名付けた名の由来を知っていた様子のエリス。トモエも早速その由来について解説を加える。こいつらよくこんな重苦しい空気の中で盛り上がれるな?


「あはは、まあ、呼び名を決めておくのはいいんじゃないかな? それにしても、自爆する魔物、ねぇ……」


「生命としての機能よりも、目的の遂行の為に創造された存在である印象がより強くなったわね。きっと市街地の破壊を目的として創造されたのね。使い捨てでこそあるけれど、効率的に、ね」


 今度はマツリが球形の魔物……ハンプティダンプティについて考察した。そのマツリは王子様も部屋にいるので、顔を隠すフードを身につけてこそいるが。

 その魔物は最初から、サーグラ国を崩壊させる為に生み出された存在。例え人間に害なす魔物であるとしても、初めから死ぬ為に創造された生命というのは、何とも言えない冒涜的な所業に思えてしまう。


「その魔物への対処については後でゆっくり考えましょう。問題は新種の魔物を創造する速さよ。イサミ、ジャブジャブ鳥が初めて現れたのはどれくらい前の事なのかしら?」


 ハンプティダンプティの事は保留にし、マツリは今度はそのような事をイサミに尋ねた。というか、最も大人びているイサミに対しても呼び捨てなのな。


「確か、一月以上は前だったはずだ」


「そう……ジャブジャブ鳥の機能を聞く限り、そいつはサーグラ国崩壊の役割を考慮して創造してはいないように思えるわ。あくまでもバンダースナッチの補助。つまり、ジャバウォックが魔族と結託してサーグラ国に攻め入るのを決めたのは、ジャブジャブ鳥を創造した後の事でしょうね。その一ヶ月間以下の期間で創造する魔物の性能を決定し、複数体を創造した」


 マツリがイサミからの返答を聞き、その期間が意味する事実を語る。


「むぅ、あまりよろしくない事実だな」


「そうね。新種の魔物を創造するペースは予想以上に早いわ。しかも神様の話を聞く限り、素材となる魂もサーグラ国崩壊によって大量に確保されている」


「ええっと、何がどうまずいんだ?」


 深刻に悩むマツリとトモエに、いまいちピンと来ていないらしいマサヤが尋ねる。


「こうしている間にも、新種の魔物を生み出しているかもしれないって事ですよ。一刻も早く対処しなければいけません」


 そのマサヤの疑問に答えたのはエリスだった。いざジャバウォックが居着いているサーグラ国に攻め入ったという時に、情報にない魔物の存在によって想定外の事態に陥ってしまう可能性がある。時間を置いてしまえばそれだけ勝算が低くなってしまうのだ。


「新種だけでなく、単純に創造する魔物自体増え続けているでしょうね。あなた、数千のバンダースナッチ相手にどれだけ戦える?」


「うげっ……さすがにそりゃやべぇな」


 そして最も可能性の高い事態を具体的に教えるマツリ。いくら異界人達ならばバンダースナッチも単独で倒せるとはいえ、他の魔物と比較して非常に強力な存在である事に変わりはない。そんな魔物が数えきれない程の量で襲いかかって来たら……普段はどんな相手でも余裕を見せるマサヤも、その厄介さに顔をしかめた。というか、そんなん無理に決まってる。


「挑むならできるだけ早く、だね。前にマツリちゃんが言ってた、各国から実力者を募るって話は……」


「ええ、無理でしょうね。でも、最低限、アーヴァタウタ大国内の実力者くらいは少しでも集めて欲しいわ」


 ダンジョン内でマツリが語っていた、可能な限りの戦力を集めてジャバウォックに挑む、という計画は、事態が事態なだけに中止せざるを得ないだろう。世界各地の実力者に声をかけていては、集まるのにどれだけ時間がかかってしまうことか。


「行動開始は可能な限り早く、尚且つ、確保できる戦力も可能な限りは集める、と。どうかな、リーフェルト?」


 今後の指針をまとめ、アユミは王子様に確認するように尋ねた。大国側からのバックアップ等は可能なのだろうか?


「ああ、問題ない。できる限りの支援は約束しよう」


「うん、決まりだね。じゃあこれからする事は、王都とサーグラ国に向かうまでの道中に点在している街に参加者の募集をかけて……」


 そこからはアユミと王子様を中心に、広げた地図を見ながら今後の予定を立て始めた。時折トモエとマツリが口出ししていたが、シオンは特に意見できそうな事もなかったので見守る事に。

 意外にもマサヤが意見を出していたが、それはフラムさんも誘おうという下心込みの意見だったので却下……にはならず、アユミもフラムさん程の実力ならば、とそれを聞き入れ、少々道程から外れてはいるがリインドの街にも寄る事になった。まあ、あの街は冒険者の活動が盛んだし、フラムさん含むBランクの冒険者が結構いるからな。


「……うん、こんなところかな? 出発は五日後。サーグラ国までの道中の街で募集した冒険者達を引き入れながら向かうとして、到着までには十数日はかかるかもしれないけど」


「ギリギリね。ジャバウォックの魔物を創造するペースは予想でしか立てれないけど、それ以上の期間が空いてしまうのは危険よ」


「わかってる。でも戦力を確保しようとしたらこれくらいはかかっちゃうよ」


「……まあ、仕方ないわね。それを目安に進めましょう」


 話は纏まったらしく、今後の大まかな日程が決まった。出発は五日後。さらに各地で冒険者達を拾いながら向かい、到着は十数日。その日が、ジャバウォックとの決戦となる……。

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