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ぼーい・みーつ・がーる。

 鬱蒼と木々が覆い茂った、深い森の中。上空には未だ陽光が照りつけている時間帯のはずが、所狭しと立ち並んだ木と木が作り出す天然の木の葉の天井は、木漏れ日すらも許さぬ有り様で、視界を狭める木々も相待って夜間を連想させる程に暗い景観。

 所々に隆起した木の根には苔生したものも少なくなく、嫌でも足元に注意を意識されてしまう。


 そんな暗い樹海の中、歩を進めている、一人の少年。

 外見は十代の半ばかそれより下あたりだろうか、背は低く顔立ちも未だ幼さが見て取れる。革製の簡素な鎧にリュック、腰には片手で振るにも困らない程度な短剣を下げている。


 少年は安全な足場を見極めながら、一歩一歩、慎重に歩む。しかしその動きは決して緩慢なものではなく、歩き慣れている事が伺い知れる。その様子を確認できる者こそこの場には彼以外にいないのだが。

 少年の目線は地面に向けられている。自身の足元ではなく、周囲の木々の根元あたりを、歩む足を止める事なく忙しなく、何かを探すように見渡している。


 そしてその視線は、数歩先の木の下で止まり、少年の歩みもそこに向かう。

 目的の場所に着き身を屈め、手を伸ばした先にあるものは、地味な色の笠をした、手のひらに収まる程度の大きさの茸だった。


「見っけ、っと。これでノルマ分は集めれたな」


 少年は誰ともなしに呟きながら、背負っていたリュックを降ろし開けて、中から小さな麻袋を取り出し摘み取った茸を入れると、再び麻袋を手早くリュックに仕舞う。


 少年ーーシオンは、『冒険者』だ。

 冒険者とは、人に仇なす存在、『魔物』や『魔獣』等といった危険な生物が闊歩する街の外やダンジョン等に踏み入り、そこを仕事場とする者達の通称だ。

 その仕事の内容の多くは魔物、魔獣の討伐、若しくはその場所でしか入手できないようなアイテムの採取。その危険性から、自ずと戦う術を持つ者でなければ務まらないものだ。


 シオンの今回の目的はたった今入手した茸の採取なのだろう。魔物等の討伐が必要ないものだとしても、この樹海にも人に害を為すものは少なからず存在する。街の城壁の外はそれだけで危険地帯だ。

 とはいえやはり、討伐が不要である仕事は大した実力が必要ない冒険者向けのもの。シオンはその例に漏れず駆け出しに毛が生えた程度の冒険者だ。


 無論、危険性が低い仕事だとしても簡単というわけではない。慣れない者ならば歩く事すらままならない不安定な足場が続く森林、目的の茸も前以て必要な知識がなければ見つける事も難しい。そして場所が場所なだけにやはり魔物等に遭遇する危険性も付き纏う。一般人がこなすには厳しい条件はじゅうぶんに揃っている。


 そのような仕事を、シオンはたった今終えたところのようだ。腰のポケットから取り出したコンパスを確認し、先程までの地面に向いた目線とは違い、今度はしっかりと前方を向き歩みを進め始める。


「結構深くまで来ちゃったけど……日が落ちるまでには余裕で帰れそうだな」


 森の中のどの位置に居ようと、西に進めば街へと続く街道に出られる。シオンは時折コンパスに目を向けながら、西へと進む。後は魔物等に出くわさなければ、問題なく仕事は終わる。


「……ん? 何だ?」


 そんな時、目の端で急な光を捉えた。その方向に向くと、この樹海には似つかわしくない輝きが木々の向こうから確認できた。光を放っているものが何なのかまでは、この位置からでは見てとれない。


「あんな光を出すようなの、この辺にはないはず……」


 突然の発光。考えられるとすれば、『魔術』の類だろうか。しかしこの樹海に生息する魔物等に、そんな魔術を扱える存在がいるとは聞いた事がない。大半が野生動物が魔力を帯び魔獣化したものばかりで、それらは肉体が魔獣化以前よりも強靭になっているという程度の存在だ。というか魔術を使ってくるような魔物等が現れる場所など、シオンの実力では探索の許可が下りない。シオン自身そんな魔物を相手にするのはごめんだ。

 魔物等でないとすれば、人間……他の冒険者だろうか? それならば何ら問題ない。魔術を扱える冒険者が遭遇した魔獣と一戦交えているのかもしれない。可能性としてはそれが最も高いだろう。


(けど……何か、妙な気が……)


 しかし、シオンの歩みは止まったまま、光を放っていた方向に顔を向け思案する。理由はわからない。だが、言いようのない胸騒ぎが止まらない。


 光は既に消えている。だが向かおうと思えば光を放っていた場所に行く事は可能だろう。


(……ま、念の為確認してくるか。もし何か異常があったら『ギルド』に報告しなくちゃだしな)


 ギルドとは、冒険者に仕事の依頼を斡旋する事を主とした施設だ。故に仕事先となる街の外やダンジョン等の異常はいち早く察知し確認しなければならない。仕事先の異常の報告も、冒険者にとって立派な義務なのだ。……場合によってはちょっとした報酬も得られるし。


 シオンはこれまで以上に慎重に、光を放っていた場所へと向かう。可能性の高い魔術を扱える冒険者が戦闘をしていた場合、まだその戦闘が終わっていないならば、加勢すべきだろう。もっとも、大した実力のない自分では役に立つかはわからないが。

 そんな考えを巡らせながら向かうが、その予想は外れている事に思い至る。戦闘中だとするなら、もう少し騒がしいはずだ。先の方向からはそれを思わせる音はなく、これまでと変わらない静寂が続いている。戦闘があったとしても、もう終わった後だろう。


  若しくは……それ以外の異常事態、か。


 そろそろ光を発していた場所に到達すると予想したシオンは、木々に身を隠すように進み始める。何があるかわからない。光を放ったものが人と敵対的な存在である可能性もあるのだ。用心に越した事はない。


 そして、木の影から先を覗き見ながら進んでいたシオンは、遂に光を放っていたであろう存在を目にする。


「……え?」


 シオンの視線が捉えたのは……仰向けに地に倒れた、一人の少女だった。

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