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♯7 自由あるところに

「ボクは認めない! こんな理不尽な世界の結果など!」

 セイが紙を手に、必死に抗議している。

「気持ちはわからないが、自分のクラスへ行けよ」

「頼むから、気持ちは、わかっておくれよ!」

 校舎に入って受付で渡された紙に、クラスと名前が記載してあった。それによると、結とは同じクラスで、セイは隣のクラスという、とりあえずは幸先いいスタートの結果となった。

 セイにとっては、とても受け入れがたい、結果だったようだが……

「アカツキと別れるくらいなら、我が命を、ここで……絶つ!」

 物騒なことを言っているが、それはそれでいいかと思った。ただ、確実に化けて出るだろうとおもうので、とりあえず止めることにする。霊体に対する防衛手段はオレにはないからだ。

「あのな、セイ。オレたちは、離れ離れになっても……けして二人の関係は永遠に変わらないさ」

「あ、アカツキ……」セイが、今にも泣き出しそうな顔で、抱きつこうとしてくる。

「そう、友人以下知り合い以下、飼い犬以下の関係はね」

「ボクは……ボクはいつの間にか、キミに捨てられて……野良犬になってたいたのか!」

 犬の自覚は、あったらしい。

「くそ…ゆいちゃん、ボクを拾ってくれるかい?」

 文字どおり、捨てられた子犬のような目をしている。

「え〜……犬は好きだけど、セイ君だし……嫌かな」本気でセイを嫌がっている

「そ、そんな……ゆいちゃんヒドいよ」こいつも本気で泣いている。

「セイ、保健所に通報される前に、早く自分の巣へおかえり」

「キミがそもそも、ボクを捨てたんじゃないか! あんなにもてあそんで……そう、あんなにも激しく……ああ……」目の前の金髪が、クネクネと自分の世界に浸っている。

「ユイ、席にいこうか」

「お前も早く、飼い主をみつけろよ!」

 クネクネしている金髪を置いて、教室の奥の席へと着く。

 ――しばらく教室のドアが開き、シスターの格好をした、若い女性が入ってきた。そして教壇へと上る。

「皆さん、そのままで……」シスターは片手で立とうとした生徒を制止した。

 九年間も義務教育を受けてきたのであれば、条件反射的に、教室に入ってきて人物が教壇に立てば、起立をしてしまうのが身体に染み付いている。たとえ、直後に反応できなかったりや、気づいていなかったとしても、一人が立ってしまえば、またひとり、またひとりと、起立の連鎖が起きる。これが日本の学生というものだ。

 その連鎖の途中を、シスターが制止したのだから、教室の生徒たちは何故止められたのかと混乱し、一種のショック状態におちいっていた。

 そんなオレたちを察して、シスターは話をつづけた。

「本校では、起立の強要はいたしません。ですので、そのままで」そう言って微笑んだ。

 シスターの一言で、教室の混乱は解けて、各々バラバラに席へと座った。

「まずは、本校へようこそ皆さん。」シスターは生徒一人一人の顔を見るように、教室を見渡した。

「皆さんも、その席にお座りなっているならば、既におわかりかとおもいますが、本校は世間から所謂いわゆるところのミッションスクールと称されています」

「教師は全員、私のようなシスターとなります。ですが、本校では一切の教師からの強要はいたしません。それが宗教であっても、教育であってもです」

「私たちは伝道の役目、ミッションからの独立が進んだ今日こんにちでは、教育と宗教の一線を引く方針と理念のもと、全ての青少年に広く門を開き、平等に学習の機会を用意しています」

「ですので、自ら意欲のおもむくまま、学業にはげんでください……まあ、するもしないも、それは自由ですが」最後のシスターの言葉に、生徒より笑いがわいた。


 ――この学校には三つの特色がある。


 一つは、自己責任主義。自己の責任において、自己管理・自己教育・自己向上を尊重している。つまり簡単に言うと「自発的に自主的に全てをやれ。サポートはしてやる」ということだ。校風を一言でまとめると「責任ある自由」ってところだろうか。


 二つ目は、この学校に入学するには入試はあれど、形式だけで面接を重視している。なので基本的に願書を出せば入学はできる。しかし、全てに門を開く代わりに、出るには狭き門があるようだ。それなりの努力をしなければ進級ができずに、他校へ編入もしくは退学の選択を迫られる。そこが責任ある自由の負の面だ。

 ただ救いがあるならば、学費の面であろう。私立であるこの学校も、例外なく公立との学費の差はかなりある。しかし私立特有の免除というのも存在する。学業優秀者はもちろんのことだが、世帯収入によっても免除に近い学費が免除される。多くは寄付で運営されているから、できるシステムである。

 これらは、シスターの言った「全ての青少年に広く門を開き、平等に学習の機会を」これをまさに体現するものだ。


 最後の三つ目は、一つ目の自己責任「責任ある自由」を突き詰めた結果なのだが……

「最後に一つ。さきほども言いましたとおり、教師からの強要はありません。皆さんに全てをお任せしています。ですが、それでは、規律がどうしても乱れる場合あります」

「規律なき中の自由は、本当の自由ではなくエゴとエゴとの不毛な戦いとなります」

「そんな事態にならないため、一定の規律を保ち、その自己浄化を目的とした、生徒の自己管理組織である生徒会が存在します」

「生徒会には全てをお任せする代わりに、多くの権限があります。それは私たち教職員以上とおもって問題ありません」

「ここで学校唯一の学則を申し上げます」

「生徒会がルールです」

「私たちは強制しませんが、生徒会はその限りではありません」

「ここまで言ってなんですが、普通に生活する上では、とてもお世話になる人たちであり、むしろ感謝することの方が多いはずです。恐がらずに、皆さんのいままでの生徒会に対するイメージのまま、接していただいて問題ないですよ」そう付け加えて、シスターが微笑んだ。

 シスターの言葉によって、幾分いくぶんかの不安な表情を浮かべていた生徒たちも安堵あんどの表情を浮かべている。

「――では皆さん、入学の式典のある大聖堂へ移動を……ああ、これは自由参加なので、これで帰られても問題ないです」そう言って、シスターが教室を出ていった。


 ――シスターが見えなくなると、ユイが話しかけてきた。

「暁君……入学式どうするの?」

「うーん……自由参加だろ?」

「うん、そうだけど……わたしはでるけど」

 ユイが何か言いたげな表情を浮かべる。

「おれも」

「うん?」

「おれも出るよ」

「ほ、ほんとに?!」

「ああ、普段ならサボるけど……

「じゃあなんで参加するの?」

「まあ、いいじゃないか……いこうか!」

 そう言って歩き出したオレの後を、ユイが慌ててついて来た。



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