♯6 道ユキ会う時に
――集団へと近付くと異様な熱気に包まれていた。
集団を押しのけて、その中心へ行くと、たしかに美人の二人がにらみ合っている。
一人は、オレ達の制服と同じようなデザインだが、服の色は白かった。その服の白さに遜色のない白く透き通るような肌に、一色だけ口元が薄紅色に染まっている。長く伸びた黒髪が風にさらさらと、肩から腰へと流れ揺らいでいる。
もう一人は、深い海のような青さドレスに身をつつんでいる女性だった。青いドレスには片足だけ深いスリットが入っていて、そこからは長い足をのぞかしている。その足を白いガーターストッキングが包んでいる。丁寧にカールされた巻き髪は、けして浅ましくはなく、彼女に上品さ以上の気品を与えていた。唇には紅のルージュが浮き出て、魅惑的な存在感を出している。
オレは青いドレスの女性に見覚えがあった。そう彼女とのここでの出会いは、運命で決められたものだったのだろうか?
偶然をあたかも、必然であったかのように思い込ませる言葉が……それが運命という言葉だとおもう。
歯が浮くようなロマンチストであるならば「いまここで君に出会えたこと……これは運命だ」と、気の利いた台詞に使うであろうが、あいにくそういった使い方は、まだオレには難しそうである。
もしも使うのであれば「これも運命だった、だからしょうがない……」こんな感じだろうか――
「これも運命だった、だからしょうがない……って言えるか!」青いドレスの女性の前に立ちオレは叫んだ。
「なにしてんですか葵さん!」
「お、やっときたわね暁」葵さんが笑顔でオレに手をふってきた。
「葵さん……たしか、家に居ましたよね? どうやってココまできたんですか?」
「え、あれで」この空間に明らかに不自然な、真っ赤な外車を葵さんは指差した。その外車の前には、背の高い白人の男性が笑顔で手をふっている。
「あれで! じゃないですよ! ……ってあの背の高い外国の方は誰ですか!?」
「ベルナルドよ」
「だ、だれ?!」
「なんかね、この格好で走ってたら疲れちゃって……ちょうど近くに車が止まって、ベルナルドが降りてきたから、彼に倒れこんでみたの……」
「そうしたら乗っていかないか? って聞かれたから、乗せてもらったの!」
「女の武器を、最大限に活用しないでくださいよ!」
「なに〜暁〜妬いてるのかな?」
「ち、ちがいますよ!」
「ちょっと、お二人、いいかしら?」
白服の女生徒が、不機嫌そうにオレと葵さんの会話に割ってはいってきた。
「とにかく、その格好では式典への参加は認められません。もしも、ご参加なさりたいのであれば、お着替えください」
「え〜なんでよ〜これでも、かなり抑えてるのよ?」葵さんがそう言って、その場で回転すると、周囲の男性陣から歓声が上がった。
「節操がないです……我が校の風紀をこのように乱すのは明白」歓声を上げてる男性陣を白服の女生徒が指差した。
「ですので、我が校への立ち入りは許可できかねます……よろしくて?」
「なんで、私があんたの指示に従うっぐぐ……」葵さんの口をオレは押さえた。
「すいません、オレからも言っておくので」
「暁?! あんたどっちの味方っぐぐ……」再び葵さんの口をオレは押さえた。
――葵さんの口から手を離し、白服の女生徒の前へと出た。
「ご迷惑おかけしまして、すいません……でした」白服の女生徒に頭を下げた。
「なんで? お母様が来れない……だから、せめて私が入学式に出ようと来ただけじゃない! なのになんで、暁が謝らないといけないの? なんで?」
葵さんが納得できないという表情で、オレに詰め寄ってきた。
「葵さんが、入学式に来てくれるのは嬉しいです……けど……」
「オレのために、こんな騒ぎまで起こして、参加しようとしてくれる……」
「そこまで葵さんにさせるのが申し訳なくて……せめてこれくらいは、させてください……本当にすいませんでした」
オレはさらに頭を深く下げた。
「……おとなしくするわよ、だから頭を下げるのやめて……ね? わかったから……わかったから……」葵さんがいままで見たこと無いような、弱々しい表情を浮かべ、オレの肩をひっぱり、頭を持ち上げようとしている。
「わたくしからも、お願いするわ。もう頭を下げるのはお止めになってください……」白服の女生徒がオレの肩に手を置いて言った。
――頭を上げたオレを見て、葵さんが安心した表情を浮かべる。
「暁、私……ちょっと着替えてくるわ」
「また後でね……暁」少し寂しげな顔をして、赤い車へと歩いていった。
――葵さんを見送った後、白服の女生徒に頭を再度下げた。
「ご迷惑おかけしました」
「まあ……いいわ……わたしも熱くなり過ぎた面もあるし」腕を組んだ白服の女生徒は、申し訳なさそうにいった。
「さあ皆さん、早く校舎へ……始業ベルがまもなく鳴りますよ」手を叩き周囲に呼びかけた。
その言葉に、辺りを囲っていた生徒達が一斉に校門へと走り出した。
「あなた達も、早くおゆきなさい」白服の女生徒がオレ達の方を見て言った。
「あなた……暁、お待ちなって」
「はい、なんでしょうか?」
「わたくしは、雪、この学校の生徒会長です……よろしく」
白服の女生徒が優しく微笑んだ。凛とした雰囲気を、一気に華やかさせた、その笑顔におもわず見とれてしまう。
「あ……はい!」
「アカツキ、もう鐘が鳴ってしまったよ!」「暁君早く〜! 初日から遅刻はまずいよ〜」
セイとユイが校門で手をふっている。
「わ、わかった! では、生徒会長失礼……」
「ユキでいいわ」
「では、ユキさん失礼します!」
ユキさんへ一礼して、ユイとセイの待つ校門をくぐった。