お正月特別編 『世界が鐘に染まる日(そんなことない)』
『さあ! 今年もあと数時間となって参りまいた! これからの時間は、今年ブレイクした映画メドレーを────』
テレビから、年末行われる歌の祭典の音が聞こえ、今のテンションを盛り上げていく。そうでなくとも大勢の人が密集しているせいで家じゅうがうるさく、今年何があったかを振り返る者が居れば、来年何をするかなどを振り返る者がいた。
外は雪が降っており一年の中でも類を見ない寒さだが、ヒーターを付けなくともその中は温かく、また、その笑い声などは本来近所から煙たがられるものだが、今日ばかりは何処の家も宴会が開かれ、町中がにぎやかだった。
加古川家、性格には、レイが住む加古川家は現在、宴会中である。
加古川家はそれなりに歴史がある家(らしい。レイは知らないが、一時期町の名称になったこともある家らしい)。親戚も多く、毎年年末から年始にかけて集まり、年の反省や抱負を言い合うのが恒例となっている。
ならばなぜ、レイ達の家に集まっているのかと言われれば、それはレイ、前夜が子供だからである。『子供がいる家だからこそ遠慮するもんじゃないの?』と思うかもしれないが、そうではない。
現在加古川家にはレイと前夜しか子供と呼べる年齢の人間がいない。それ以外は最低でも大学生以上で、ある意味二人は稀有な存在と言える。
『そんな二人にわざわざ遠いところに来てもらうのは大変だ! 其れじゃあ二人が住んでいる家で宴会を開こう!』となっているのだ。レイはそれを聞いた時『ん? それはおかしくねえか?』と思ったが、恒例なのでもう変わることはないらしい。ちなみに加古川家の人間は主に『気仙沼(宮城県北東端の太平洋沿岸に位置する市)』に住んでいるため、まあ、遠いと言えば多いので、レイは別に何と思って居ない。
「─────だとしても、毎年ご苦労なことだよって痛った!」
「ガハハハハハ! 何を言うレイの坊主! 俺たちは好きでやってんだから、開かせてくれるだけでもありがたいってもんだ!」
周りの親戚もそうだそうだ! と声を合わせてレイの背中を叩いた人物────加古川 源次郎に同意してくる。短く切りそろえられた黒い髪に黒い目、ガタイは相当よく酒を飲んでいるせいか顔は熱い。シャツ一枚の体からは、はち切れんばかりの筋肉が覗かせる。口元は豪快に開かれており、常に笑いが付きまとうイメージの人である。ちなみにこの源次郎、加古川家の中でもその代表格とも呼べる人物で、弱冠40歳にして世界有数の家電量販店の社長を務めており、その名は世界に轟くほど有名な人物だ。
どうやらレイの呟きは聞こえていたらしく、態々気にすることはないと言いに来てくれたらしい。気前もよく、人柄もよい源次郎は加古川家大半に人気である。かく言うレイも、嫌いではない。捻くれ加減からか、好きには成れないのだが。
「あっはは、そういうものですかね……自分は東京から出たことがないので、どれぐらい遠いかなんて見当もつかないですけど」
「大人になればどこへだって行けるさ。そうすれば、日本なんてどれだけちっぽけか分かる」
腕を組み、瞠目して語る源次郎。周りも反応は様々だが、おおむね賛同が見られる。ちなみにレイが他人と会話するときの様に悪態をついていないのは、単純に昔からの知り合いという事もある。源次郎はレイが諦めたのを察しているようだが、そこは割り切って接してくれている。
ちなみに、愛子は現在親戚と一緒に料理を作っている。居間にいるのはおおむね男衆だけで、台所はそんな男たちの食欲に比例して、人数が増えている。単身赴任中のレイの父親は帰ってこず、現状愛子が家主なので、やれこれ使っていいか、やれあれは何処にあるか、など、言うなれば指示で忙しいので、レイに小言を言う事もない。言い方を変えれば、この場には無害な人間だけが存在しているという事になる。まあ、あまり意味はないのだけれど。
「期待しておきます」
「ああ、何だったら俺が連れて行ってもいい。世界は広いぞ? 日本じゃ絶対見られない光景や、奇想天外な法律なんてたくさんある。むしろ、俺は日本がつまらないと言いたいね!」
豪快に笑う源次郎の言葉に場が沸き、『それはお前だけだろぉー!』という誰かの声に笑い声が一層豊かになった。やはりレイにはこの空気は明るすぎる。というより、レイがこの場にいる資格はない。そう思い、レイは源次郎の拘束から逃れ、退散しようとするが……
「───おっと、そうはいかねえぞ!? 逃げようとしても無駄だからな! 付き合ってもらうぞ?」
「ぇう、いや、でも」
自分でも信じられない声を出しながら、レイは抵抗する。しかしそれと同時に、源次郎おじさんには敵わないな、なんて確信もあった。やはり人の上に立つ人間は違う、なんて思うべきか。
「そうだな……よし! レイの坊主には俺達男どもと腕相撲をしてもらうか! もちろん、勝つまでだぞ!」
「……、……ウェ!? はっ!? んなもんやっても勝てるわけないでしょう!? 大体俺まだ中学一年生ですよ? 源次郎おじさんとの差を考えてみてくださいよ!」
いきなりの申し出に狼狽しながらなんとか抵抗を試みるレイ。当然だ。いきなり腕相撲とか言われたら抵抗するに決まっている。それに源次郎は体格がかなりいい。趣味はトライアスロン、筋力トレーニング、ベンチプレス、特技は42、195キロを完走すること、スイカを拳で粉砕すること、とても人間じゃ考えられ無いような身体能力と握力を誇る源次郎だ。そんな相手に勝てるとは思えない。
余談だが、加古川家は超人が多いことでも有名である。
世界的家電量販店社長の源次郎を筆頭に、
乗り気で袖を捲り始める、サッカー日本代表の『加古川 勝』
気にしないとばかりに食事を続ける、今年映画化をしたアニメの原作を書いている『加古川 出流』
高校生で企業を果たし、今なお業界から注目されている大学生『加古川 千斗』
などなど、である。
『よっしやるぞ!』と気合を入れていた周りの大人も、その言葉を聞いて少し悩み始める。源次郎も顎に手を当てて唸っていたが、すぐ結論を出したらしい。掌に拳を当てるという一昔前の閃き方をし、意気揚々と提案をしてきた。
「むっ、確かにそうだ……よし! 大人一人に勝つごとにお年玉を千円プラスしよう!」
うん、そう言われては逆らえない。
「─────シャアッ! やるぞおらあぁぁぁぁ!」
「ようやく大きい声出したじゃねえか! よしっ、負けるわけにはいかねえぞ野郎どもぉぉぉぉッ!」
「「「「おおーっ!」」」
「一回戦スタート! まずは俺とレイの坊主の勝負だ!」
「望むところだ源次郎じいさん! 一勝目勝って、来年の懐を温めてやる!」
『両者スタンバイ! レディー……ファイ!』
「ふんぬッ!」
「ふんっ、負けるかよ! いくら腕の関節が逆方向に曲がって掌からミシミシ音が出始めても負けな───いだだだだッ! 折れる! 割と尋常時無い感じに折れるから! ていうかもう折れてるから!」
「─────男ども煩い! 黙ってテレビ見てなさい!」
「「「「「「へい! すんませんしたッ!」」」」」」
母は強し。
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「レイの家は賑やかでいいなぁ。私も参加したいけど……今はこれを調べないと」
加古川家の隣、花岬家の一人娘花岬楓は溜息をついた。現在少女の両親は仕事中である。二人とも年末にも関わらず会社が忙しいようで、その日の夜は楓一人だ。何回もこういうことは有ったので、別段寂しいとは思わない。
部屋は明るいし、人の声も聞こえる。そして何より、横には、
『友、私だけでは不満か? そんなに幼馴染が恋しいか?』
「そ、そんなことないよ! 私は一人でも大丈夫だって」
宙に浮くナイフ────椛は、『本当にそう思って居るのか?』と疑問気に楓の周りを漂っている。
花岬楓は能力者である。『物体に魂を憑霊させる能力』を持ち、この椛もその能力によって憑霊させた魂だ。
もっとも、憑霊させる時代、人物、国などは選べないが、憑霊させた中では一番気の合う友人だ。何時もこうして傍にいてくれるし、危なくなったら助けてくれる。
『それで、今は何を行っているのだ?』
「あ、うん。今はね? この前拾った『痕跡』を憑霊させようとしているの」
『ああ、あの例の』
楓はその言葉に頷くと、手元の鎖に再び意識を集中させ始める。行っているのは、物体に魂を憑霊させる作業だ。光や魂への叫びなんか聞こえないが、憑霊できた時には何となくわかる。憑霊させるのも条件やタイミングが存在しており、自由に何が何でもできるわけではない。
そして『痕跡』とは、この前交戦した能力者が落とした粉である。調べてみても薬物や鉱石を砕いた物ではないし、謎のままだったのだ。
さて、憑霊させることがどうして調べることにつながっているかと言えば、それは『何かを媒体にした憑霊の場合、その媒体に関係する時代、人物、国から魂が選ばれる可能性が高い』からである。
どんなシステムになっているのかは分からないが、そういう仕組みなのだ。実際外国の砂を媒体にしたときは大概外国の魂が憑霊する。
なので、今回もその『痕跡』を媒体にすることでそれに関連する人物を憑霊させ、その真実を探ろうとしたのだ。
───しかし、結果は……
パリンッ
「っ!? えっ!? 成功しない!?」
『ほう……其れは又稀有な状況で在るな』
今まで失敗などありえなかったのに、ガラスが割れた音と共に失敗してしまった。
思わず「うぅ~」と恨めしそうに頭を抱えながら、楓はうずくまってしまった。
「どうしてだろ……」
『悔いを残しているからでは無いか?』
「ふぇ?」
『やはり友は幼馴染の所へ行きたいのだよ』
無茶苦茶である。今までどんな精神状況で在ろうと失敗などありえなかったのに、それで失敗するなど普通はありえない。だが、楓自身も思うところはあったようだ。
「────うん、そうかも。いやそうだよ! やっぱり気分転換は大切だよね! よし私行ってくる!」
『行ってくるが良い。私が留守番はしておこう』
「ありが、とう。じゃ、じゃあ行ってくるね!」
楓は部屋のマフラーをとり、元気に外へ飛び出していく。ナイフに留守番が出来るのかという疑問は、声が出せるのだから留守番ぐらいできるだろうという考え方で解決する。というより、何回もやっていることだ。
────飛び出していく少女の頬が赤く染まっていることを、ナイフはしっかり確認していた。
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「いやぁ、やっぱり兄さんとねーさんはお熱いねぇ」
そんな中、加古川家でも花岬家でもなく、友達の家で加古川家に仕掛けた監視カメラを遠隔で見ている人物、加古川前夜はにやにやとした笑みを浮かべた。
疑問に思わなかっただろうか。前夜が宴会の席にいないことに。前夜はめんどくさいことになると予想し、友達の家に避難していたのである。お年玉だけはちゃっかり貰う予定だ。
自分の家に監視カメラを仕掛けているという犯罪に関しては、最早何も言うまい。それにいくら犯罪で在ろうとも、前夜を縛るものは何もないのだから、問題ない。バレないように加工はしてあるし、バレたとしても証拠隠滅は出来るようにしてある。
泊まりに来た家の友達が「前夜ぁ、何見てんの?」?と聞いてくるが、「なんでもないですよ。面白くないものです」と、前夜はスマフォをしまう。友達は不服そうに唸っているが、そこは子供。ゲームやろうぜ! と割り切ってさっそくゲームをし始めた。
前夜もこれ以上やることは無いので、それに参加する。
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──────さて、そろそろ時間である。2017年が終わり、2018年が始まる。
ゴーン、ゴーン
除夜の鐘が鳴り響き、人々は言葉を口にする。
ある一人は大人たちとの腕相撲に叫びを上げ、
ある一人はその様子を楽し気に微笑み、
ある一人はその様子を遠くから観察し、片手で友達を蹴散らし。
三人はほぼ同じタイミングで─────
「「「新年! あけましておめでとう!」」」
─────今年もよろしくお願いします。という事で、おめでとうございます。
今年も頑張って参りますので、何卒、『クソッタレ野郎の決定権』をよろしくお願いします。
明日、もう一回特別編を投稿するかもしれません。




