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クソッタレ野郎の決定権  作者: 織重 春夏秋
第一章  悲しみの序章
26/30

第二十五話   『定めた先に観える意志』

今回は過去最大の長さです。

 ウィンディスを切り捨てた後、レイが行ったのは『後始末』である。この世界はアニメのように、戦闘や殺し合いが許されているわけでもなく、異世界のように殺人を犯してばれない程甘くはない。魔王を殺すため、手始めにウィンディスを殺した。それについては後悔していない。だが、殺人がバレてしまっては意味がない。いくら能力者と言えど全世界を敵に回して勝てるような力はないだろうし、能力者の存在が世間にばれてしまう可能性だってある。そうしたら、良くて能力者がモルモット。悪くて全面戦争が起こるだろう。


 ちなみに、『再生能力』の力は少し落ちていた。というのも、今まで一瞬で治ったり治らなかったりした体の傷の再生スピードが、一定になったのだ。今までの超再生が『おっ、いつの間にか直っている』っという感じだったら、今の再生能力は『ん? 治ってる……か?』といったような、少し早くなる程度である。ウィンディスの傷を受けたレイの傷が少しづつ直っているのが、その証拠だろう。


「しかし、どうすればいいんだ?」

『知らんよ。生前、私はレイの様に犯罪を犯した事は無かった物でな』

「アァ、ボクワルクナイヨ」


 首を傾げ、ウィンディスの死体を見て悩むレイ。割と異様な光景である。

 『後片付け』するにしても、何をやればいいのか分からないのである。死体を片付ける方法も知らなければ、血の匂いや拭き方も知らない。そもそもここは公園である。人気が無いのが幸いだが、ぽたぽた血が滴っている死体を引きずったら何が起こるか分かったもんじゃない。


 公園の惨状もある。指紋やら足跡やらついているだろうし、壊れた遊具は修復不可能だ。アニメなんかでは、現代を舞台にした物でも、案外後処理が適当だったイメージがある。しかし、それ等もよくよく考えてみたら森の中や使われていない廃墟。人が来ない場所などが多い。つまりは、暴れても大丈夫な場所で、戦闘は行われているのだ。

 しかし、よくよく考えてみれば、レイの体には能力がある。それに、体が変化するほどの何かも。そう考えれば、細胞や指紋が検出されようと、そもそもレイの物とバレない可能性もあるのだが……


「いや、ちょっと考えてはいるんだよ。このままでもバレないかなぁ……なんて」

『分からないぞ? もしかしたら今も見られているかもしれない』

「だよなぁ……まあ、最悪公園破壊する方向で行こう。全部ぶっ壊しちまえばいいんだ」

『……何か、性格が変化していないか?』

「気のせいだ」


 何となく、『覚悟』を決めてから自分の感情に正直に成れているような気がする。すべてが晴れたような気分なのだ。今まで内に隠していた本来の自分が出てきた……なんて、中二病な言い方も案外あっているのかもしれない。


 しかし、困ったことになっている。

 ウィンディスをどうにかしようとも、技術はない。方法もない。かといって放置する選択肢もない。割と八方塞がりな状況だ。それでもレイが落ち着いていられるのは、やはり心を入れ替えた(?)?からだろう。


「さて、どうしたものか……」

『能力者為らば対処法などを知っているので在ろうが、生憎レイも私も無知故』

「だよなぁ……ん? 能力者……?」


 能力者。その言葉が体中で反響する。こう、何か思い出せれば解決できそうな気配がするのだ。つい砂金でもあり、どこか昔のような……と、首を捻ってもなかなか思い出せない。

 レイが首を傾げて唸っている様子を見て、椛も『早く! はよ!』と急かしてくる。思わず頭を抱えて体を揺らすが、思い出せない─────と、赤い何かがレイのポケットから落ちた。


「ん? ……これだぁぁぁぁっ!」

『其れかぁぁぁぁぁッ!』

「え? これが何かわかってんの?」

『いや? 分かっていないが』


 ・ ・ ・


 なんとも言えない空気になり、レイはそれをぶった切って落ちた紙を拾う。

 そう、レイは持っていたのだ。『能力者の連絡先』を。それも、レイに一応有効で、恐らく能力のこともそれなりに知っているであろう人物を。性格的に助ける、なんて選択肢をしなさそうなやつらではあるが、協力関係という手前、無下にはされないはずだ。


 針城美鈴、及び時雨詩織の連絡先である。紙自体はレイの血で濡れ、大変な状況になっていたが、使われていたインクが濃くピンク色だったのが幸いし、ギリギリ見えている。


『能力者の知り合いなんて居たのか?』

「一応な。まあ、俺の能力に謎が多いから利用されているだけで、解明されたらそれまで、かもしれないけど」

『そんなものか』


 レイはその言葉を聞くと視線を巡らせる。当然、番号はあるのだが連絡の仕様がない。近くに公衆電話があるとは思えないし、レイは携帯を持っていない。何を思ったのか、一応確認するように服を弄ると……


「ん? あれ? まって……?」

『如何したのだ? レイ

「いや、えっとね」


  服の下に、何か固いものを感じる。というのも、横に長くて縦の長さがそれほどない四角形のものだ。まさか……と思いそこから物体を取り出すと、白い携帯が出て来た。それと同時に、メモ用紙も。

  レイは何か嫌な予感に冷や汗を流しながらも、そのメモ用紙を確認する。


『どうせ碌に荷物持たないんだろうから、分かりにくいところに入れておく』


  という伝言が。

  つまり、レイのポケットに入っていたのは愛子の携帯なのだ。何故今まで気づかなかったかというと、レイは上にいつも通りダウンジャケットを着ている。妙に厚い奴だ。それに加え、ダウンの下に来ている服にはポケットが一箇所あるのだ。レイの父さんが何処かに行った時の土産とかで、少し特殊な構造になっている。愛子はそこ携帯を入れていたようだが、体を確認していなかったレイは、今になってその存在に気づいたのだ。


 ちなみに、レイの父親の名前は────「ぁ………………!」


  ちなみにその携帯を開いてみると……バッキバキに画面が割れ、もはや閉じていなければ携帯だとわからないほど中身がひどくなっていた。レイは目を閉じ、そっ……ーと、携帯を閉じる。画面の残骸でも引っかかったのか、パキリッという音が聞こえたが、それを無視し、レイは頭を抱えた。



「やべぇ……母さんに殺される……!」

『いや、だが暫らくレイは帰っていないんだろう? だとしたら、携帯なぞどうでも良いのではないか? 腹を痛めて生んだ愛息子より携帯なんて、薄情な親が居る筈も無い』

「いや、母さんから絶対携帯を取る。俺ほとんど見捨てられていたから……」

『なんとまぁ』


 椛はレイの家庭事情に驚いているようだが、最早気にしない。感覚がマヒしているのでどうでもいい。

 其れよりも、携帯を壊してしまったことは割と重要である。帰る場所がなくなってしまう。死のうと思っていたので、大分周りの状況は無下にしてきた。なので連絡や痕跡すら残していないので、大分やばい状態だ……いや、これ以上考えるのはやめておこう。


「とにかく、まずは……」

『連絡手段だな』


 だがしかし、手はない。この場から離れるわけにもいかないし、携帯電話はもう壊れている。かといって連絡しない、という手も悪手だ。

 しかたない。こうなればいっそ────


『おっ、レイ。そこに何やら怪しい長方形の何かが』

「? こ、これは!」


 椛がふわふわと空中を漂い、公園の端まで行く。一定の位置まで移動すると、その剣先を、人間が指差すように向けた。

 そこには、黒い長方形の、薄い板が存在していた。やたらに黒光りし、ゴムのケースで守られている。それはまさしく────


「スマフォ、だな」

『すま……ふぉ? なんなんだ其れは?』

「ん? 知らないのか? スマフォというのはだな……平たく言えば電話出来るゲーム機だ。きっと、ウィンディスのだろう」

『そんな物か』


 いや、普通逆だろ!? というツッコミが聞こえてきそうではあるが、スルーである。レイの中では、電話する相手などいないの、スマフォはそ程度の認識だ。

 今は説明よりも電話できるという状況が大切だ。レイは即座にそのスマフォを手に取る。おそらく、戦闘中ウィンディスのポケットかどこかから落ちた物だろう。その証拠に、カバーが一部削れ、少し画面がエライことになっている。具体的に言うと少し割れている、が、レイは無視して電源を入れた。


『パスワードが必要じゃないのか?』

「確かにそうだ。だから、指紋認証なら嬉しいんだけど……ビンゴ」


 起動させると、映るのは海の背景。

 そしてボタンを押すと、指のマークが映っている。パスワードでなくて指紋認証で助かったパスワードならどうしようもないので、また八方ふさがりになるところだった。レイはスマフォを持ってウィンディスの傍まで行くと、その指を取り、スマフォにくっ付ける。

 ロック機能が解除され、様々なアプリが表示されていった。


「……おいおい。ウィンディスなにパズル&ドラキュラとかモスキートストライクやってるんだよ……うわ、内藤さんまで入れてやがる……」


 え? 魔王軍で流行ってんの? 異世界の魔王軍順応しすぎじゃね? 

 と、心の中で死んでいったウィンディスを残念な人判定をする。いや、異世界の文化がどのようになっているのかは知らないが、よく創作物で語られる『中世ヨーロッパ』系の世界なのだとしたら、かなりの順応っぷりだ。名前を察するあたり、中世ヨーロッパであっている気がする。


『ふむ……興味深いな……』

「現代科学の賜物だぜ」


 レイはその中から電話のアイコンをタッチし、血に塗れた紙の番号を入力していく。

 そういえば、この番号は美鈴か詩織か、どちらのものだったか。記憶が正しければ念のためといってどっちの番号も聞いてあったはずなのだが、今となってはどの番号がどちらかなど曖昧だ。できれば、美鈴の方がいいのだが……いや、好みとかそういう問題ではなく、詩織の場合はまともな会話ができるかという意味で。


「……あれ、なんかすげえデジャブ─────」


 プルルルル、プルルルル、プルルガチャッ


「やあ! 私の名前は時雨 詩織。特技はCDの中身を入れ替えてごちゃごちゃにすることです!」

「ごめんなさいだまってくださいひとちがいでしたつまんないですかえってくださいはい」


 ピッ


「ふう……さて、電話を掛けようか!」

『現実逃避をするのではない。レイよ』


 体から冷や汗を出しながら目を逸らしているレイに対し、椛は淡々とした口調で冷酷な現実を告げてくる。

 其れも無理はないだろう。いや、無理はあるのだが、|この(レイと詩織の)場合、仕方がないというべきか。一縷の希望を持って美鈴であることを望んだのに、よりにもよって|ハズレ(詩織)が出てしまうとは、これがフラグなのか……と、レイは思わず頭を抱えた。


 とはいえ、出てしまった以上は仕方がない。嫌だが、大変耐えがたいが、再度電話をしよう。いや、もしかしたら次は美鈴が出るかもしれない。いや、出るだろう。きっと出るはずだ。そう何度も不運が続くわけが─────


「はい、こちら加古川君の対応に寂しい感情を抱いている時雨 詩織です」

「うん、俺はとても悲しいよ」

「というか、なんでそんなに加古川君は私を毛嫌いするの? なに、好きなの?」

「なんでだと思う? 自分の胸に手を当てて考えて見な」

「……え、やだ変態」

「そういうところだよ!」


 予想通りの反応してくれやがってこの野郎! と思いながら、レイは脱力する。戦闘時や真面目な話をしている時は普通に元気な奴なのに、こういう真面目でないときは中学生以上にはしゃいでいる。それこそ、レイが引くぐらいに。別に嫌いではないのだが、正直言ってうざったい。というより、詩織のテンションはこれがデフォルトであると悟ったのでもう直らないだろう。


「何を言っているのかな、いきなり胸に手を当てろとか言う人に対して嫌悪感を抱くのは当然の権利だと思うのだけれど」

「おい、ちょっとまて。それだと全面的に俺が悪いみたいに聞こえるからやめろ! 常識的に考えてくれ!」

「ん? JKである私とJK(常識的に考えて)を掛けたトリックかな? ははっ! なかなかやりおるわ!」

「まずその考えを常識的にしろッ!」

「何を言う。ひそかにこんなに面白いダジャレを仕掛けてくれた愛すべき人生の後輩には敬意を表すべきだよ」

「おいおいやめろ! なんだか俺がスベッたみたいな解釈の仕方をするな! 起きている事件をことごとく俺のせいにするんじゃねえ!」


 すっかり疲れた様子で息を吐くレイに対し、詩織はとてつもなく楽しそうだ。その理由は、偏にレイをからかって楽しいという事だろう。心を入れ替えたという表現は大袈裟せよ、少しは考えやその他諸々が変わったレイでも、詩織の態度は大分堪える。


 その後もいくらか詩織によるレイ弄りが終わった。

 さすがに疲れたが、そうも言ってられないため、本題を切り出す。


「時雨、電話した理由なんだが……」

「能力者間関連カナ?」


 自信満々で詩織がそう尋ねてくる。

 その回答に、レイは少し「おっ」という声を上げて驚いた。いや、詩織とレイの繋がりが能力者関連だけであったとしても、まさか一言目でそれを言われるとは少し意外だったのだ。心なしか、その声色も真面目なものに変わっている。


「ああ、その通りだ。なんでわかったんだ?」

「『反応・・』だよ。電話越しでも、声から少しは判断できる」


 あまりにも鋭すぎる詩織と、その能力『反応』に思わず眉をひそめてしまう。いや、恥ずべきことなどないが、先ほどと同じようにピンポイントで当てられると、どうしても思うところがある。それが行動となり、思わず対応を辛くしていた。


「いや、全然そんなことないぞ?」

「うまい人は判断しずらいけど、君のウソは分かりやすいねぇ」

「うぐっ……参った。そうだよ、ちょっと、個人的に変化があってな─────例の風の能力者、あいつが襲ってきた」

「なんと……」


 電話越しでも分かるほど、詩織の驚きが伝わってくる。この前襲われたばかりだというのもあるだろうし、レイが襲われた、というのもあるのかもしれない。


「それで、今襲われているとか?」

「いや、さすがにそれはない。殺したよ」

「へぇ……意外だったけど、心境の変化とやらはそれかい?」


 ─────サラサラ


『ん……? なんと……』 


 現状を尋ねられ、答えると、今度は関心の声が聞こえてきた。

 ちょっと前まで無力だった少年が風の能力者ウィンディスを殺したという事に、驚きを隠せないのだろう。

 レイが詩織の質問に対して「……そうだ」と答えると、


「やっぱりねえ。大方、殺し合いの中で君の考え方とかが変わったのかな?」

「おいおい。反応ってすげえな。なんでも当てやがる」

「自信をもって強い能力と言えるよ。ただまあ、扱えなければ弱いけどね。扱えなければ。扱えなければね!」

「ごり押しがすげえよ。自身を持っているのは分かったから、話を進めていいか?」

「かまわないよ」

「……俺はウィンディスを殺した。それまでは良いな? でだな、その死体の片づけ方法が分からないんだ。そういう場合、能力者ってどうしているんだ?」


 大分時間がかかった気がするが、ようやく本題にありつけた。本来は少し会話するだけで完了するはずなのに、ここまで長引くのは何故だろう……

  詩織はレイの言葉に少し無言になると、電話越しに指を鳴らした。


「つまり加古川くんは後先考えず普通に人が来るところで殺っしゃったわけだ。無計画だねぇ」

「うぐ……! し、仕方がないだろう。後先考えて戦える相手じゃなかったんだから」

「はいはい、言い訳はいいから。それで、後片付けかぁ。方法はなくはないけど、普通能力者同士の戦闘の場合、人が来ないところとかでやるのが普通だしなぁ。能力者であることがバレたらどうなるかわかったもんじゃない」


  詩織曰く、襲うにしても場所を考えるのだそうだ。四ノ宮亜蓮や、脈動するナイフを持っていた不良などがいい例である。人が来ない森や路地裏、そういうところで、普通戦闘は行われる。そうでもしなければ一般人にバレてしまう。これは能力者にとっていわば常識であり、だからこそ今まで能力者の存在が明るみにならなかったのだ。


「私たちも、能力者と戦うことがある。そういう場合は一般人を巻き込まず、静かに行うのが定石だよ。今回は……異例といってもいい」


  さらに説明曰く、ウィンディスはレイを殺した後、それを始末する手段を持っていたのではないかということだ。

  だが今回、レイが勝った。何の技術も持たないレイが。今回のような出来事はないわけではないが、かなり珍しいことであるという。


「あれだね。私が電話越しにペラペラ言ってもしょうがないから、直接出向こう」

「わかった。助かる。場所はわかるのか?」

「反応舐めんな」

「OK」


 もはや何も言うまい、とばかりに、阿吽の呼吸で反応するレイ。その凄さは身を持って体験した。

 その後の詩織の話では、どうやら美鈴も連れていくらしい。というのも、状況が分からない以上美鈴、行ってしまえば『空間』があった方がいいとの判断だ。


 今現在詩織は美鈴の家にいるため、連絡はすぐに済むが、準備やレイのいる公園に着くまでなどで、合計十五分ほどかかるとのこと。主に美鈴の迷子的な意味で。

 それを言い残して電話は終了したが、幸いにもレイにはやりたいことがあった。それは────


「────質問返答だ。椛」

『了解した。微力だが答えよう……その前に』


 せっかくかっこよく(レイの中では)決めようと思った矢先、椛によって止められた。レイはその対応に疑問を思いつつも、椛が地面を────正確にはウィンディスの方を指さしているので、そちらに視線を向ける。


 其処にあったのは、灰だった。


「……………………………………………ハッ!? えっ!? ウィンディスは!?」

『会話中、空気を読んで黙っていたのだが……何時の間にか、肉体が灰になって言ってな。血液だけを残してこの様に成ってしまった』

「ゑぇ……なんで?」


 思わず変な声が出てしまった。

 まさか、電話した直後にこうなるとは思わなかった。いや、それよりも灰になるとはどういう事だろう。能力者が死んだら灰になるという事はないし、良くある例は能力の暴走などだが、ウィンディスの能力は風を操る能力のはず。だとしたら、灰になるなどありえない。ということは……魔王軍はそうなる、とでもいうのだろうか?


「分からない……まあいいか」

『大分前向きだな』


 今回のことは割り切ることにした。

 どうして灰になったのか。灰になる条件は何か、なんてわけわからないことはとりあえず割り切ることにした。今度機会があったら美鈴や詩織に聞いてみよう、と思うぐらいだ。


 しかし、実際良かったとも言える。本来困っていたので、消えてくれてよいぐらいだ。レイは灰の山になったウィンディスへ近づくと、思いっきり息を吹き出してすべてを飛ばした。勢いは変わらないが、強化された肺活量を侮るなかれ。数十秒に渡って放たれた息は灰をすべて風の彼方へ吹き飛ばした。


『風になったウィンディス……』

「聞いたことあるな……さて、質問だ」


 レイは話を切ると、本題に入り始めた。


 今回のウィンディスとの戦闘などで大分謎の要素があった。ウィンディスの椛への呼び方────『残痕』や『穢れた生命』、そしてこれを知っているかは不明だが、『決定権』。これらの言葉ワードに対しての質問だ。

 

「質問ワン、『穢れた生命』、『残痕』とは何ぞや?」


 人差し指を一つ立て、椛へ質問を開始する。

 椛は空中に静止したまま『ふむ』と声を漏らし、語っていく。


『言わば、私と(魔王軍)の名称だな。私の『穢れた生命』というのは、魔王軍、詰りは魔王の下についている者達への名称だよ。奴ら、人間ではないからな』

「人間じゃ……ない? じゃあなんだっていうんだ? 魔族か?」


 創作物では魔王軍の部下などは総じて魔族や魔人と称される。いくら現世とはいえ、異世界からきているのならその括りなのかと思ったのだ。

 椛はその質問に対し、『然り』と言うと、


『奴らは人間と限りなく近い生物だ。しかしその体は人間以上に『能力』との結びつきが強く、皆強力な能力者であるらしい』

「らしい?」

『……言ってなかったか。私の知識は殆ど楓の知識だ。憑依すると生前の記憶が無くなり、一般常識以外忘れる。ので、これらの能力などに関する知識は全て楓の語った内容である、そういう意味だ』

「ぬぉー……」


 いろんな情報がいっぺんに出てきて少し混乱しそうではあるが、何とか理解した。つまりは椛は一般常識以外、楓の言った内容しか知らないと。

 レイはそれを整理すると、椛に続きを促した。


『『残痕』というのは……正直理解不能だ。楓と能力者の戦闘の際も何度かその呼び名で呼ばれていたが、楓も私も等々その意味を知ることはなかった。楓は、敵に質問できるほど余裕のある戦い方ではなかったからな』

「なる、ほど……」


 いくつか質問したい項目が出てきたが、今はその類の質問をする時間ではないので伏せておく。


「質問ツー、『部外者』、とは何だ? 能力者で言うところの」

『ふむ……不確定要素が多いが、部外者とは『生まれつきではない能力者』のことを指す。それらの単語を使用する者は、自分が選ばれたものだと思って居る例が多い。そうでなくとも、能力者の中では後天的能力者のことを『部外者』という風潮がある』

「なるほど、段々頭が回らなくなってきた」

『励め』


 何とか理解し、ショート寸前になった脳を押しとどめる。いきなり情報量が多くぎるし、一度に喋る量が多すぎてなかなか大変だ。が、そうも言ってられない。レイは言葉を続けた。


「質問スリー────────『決定権』、とはなんだ?」


 これが、一番の疑問だ。否、正確には、その意味をレイは知っている。自分自身が覚悟を決め、能力の使い方、この体の使い方を無意識に理解した時に、一緒に理解した──────『決定権』とは、レイの中に宿る能力。そして、能力ではあって能力ではない。この世界に存在する本物の摩訶不思議である。詳細も分からず、自分自身さえも理解できない不思議の集合体。それが決定権だ。


 もちろん、全てが、ではない。身体強化という効力が現れているのは事実なのだ。だが、それ以外を全く理解できない。何が分からないのかすら分からないが、分からないことを理解できるという、意味不明な言葉の綾なのだ。


 レイが聞きたいのは、『能力』としての決定権ではなく、なぜウィンディスがレイを決定権と呼んだのか、そもそも決定権とはどういう存在なのか、という事だ。これに関してはあまり回答を期待していない。先ほどの回答からわかるように、椛はそれほど能力系の知識は無いように見える。が、もしかしたら能力者の中では有名かもしれないし、もしくは単純に情報を持っているかもしれないので、一応聞いておく。


『……そう、だな。正直私もあまりわからない。だがこれは分かる。楓は魔王がお前を狙っていると知り、守ったわけだが、魔王はお前の決定権を狙ったのだろう。他に知ってることと言えば……ほかの能力者が、特に強い能力者がその類の情報を多く持っていた。これしか知らないよ』

「そうか……ありがとう。結局あまりわからないんだな」


 予想がついていたからか、それとも自分のことだからか。先ほどと同じように話されたにも関わらずすんなりことを理解できた。が、収穫がなかったかと言えばそうではない。

 多少なりとも、情報は得ることが出来た。魔王は正体不明の決定権のことを知っているのだろう。そして、決定権()を狙っている。理由は分からないが─────


「ハッ────目的が同じなら好都合だ。俺は魔王を殺す。魔王は俺を殺す。どちらかが死んで、生きる。それだけのことだ。楓の敵を討つことだけが生きる意味だからな」

『楓は望んでいないかもしれないぞ?』

「あいつは、自分勝手に死んでいった。だったら俺も、自分勝手にこの命を散らしてやる。それが俺のけじめだ」


 先ほどはウィンディスに宣言した。

 今度は、自分と、楓に。今一度決意を固める。それは、折れる事は無い。


『一つ言わせて貰おう。レイ、私は曲りなりにも多くの能力者と切り合った。その私から言わせてもらえば……その発言は、この世界全ての『能力者』を敵に回すと、そう取っていいのだな? お前が完璧と認める、そして敵わないと認める楓が指一本で殺される様な化け物に、お前は、楓より劣るお前は、挑むというのだな?』


 ────椛の言葉が心に染みる。

 形は違えど、それ即ち楓を超えるという事。決して敵わないとあきらめた存在に、もう一度挑むという事。魔王の存在の大きさは椛の言葉からわかる。何を見てきたかは聞かないが、真実だろう。


「そうだ」

『───後悔はないな?』

「ない────ない! それが俺の────」


 もう一度、宣言する。


「クソッタレ野郎の決定け「軟骨が食べたいかあぁぁあッ!」────知らねええええええええええええ!!」

『……これまた濃いな』

「やっぱり、分かる人にはわかるのね……ン? この場合はナイフ?」


 なにやら、いろいろと残念なようで。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「消えた……マジですかい」

「……それはまた、難しい状況ね」


 レイと詩織がひとしきり騒ぎ、美鈴に正座させられ、その後説明をした。

 自分が魔王軍とたたかったこと、楓のこと。椛のこと。そして灰になったこと。自分と楓のことに関しては掻い摘んで説明したため、「お気の毒」の一言を貰った。


 椛のことに関しては、それほど珍しいことではないらしい。知恵のある剣インテリジェンスソードは確かに数は少ないものの、二人は何度も見たことがある代物らしく、それほど驚いてはなかった。というのも、その類は別に魂を宿す系でなくとも、希に物質に能力が宿る場合があるそうだ。


 そして現在は、ウィンディスが灰になったことを伝えた後である。


「お前たちも何か知らないのか? 能力者が灰になるだとか」

「いや、聞いたことがないよ。何もせず灰になるだなんて、聞いたことがない。美鈴ちゃんは?」

「私も聞いたことが無いわ。魔王軍と名乗る連中とは何回か遭遇したことはあるけど、負けたら灰になるだなんて聞いたことがない」


 どうやら、熟練者であっても聞いたことがないらしい。情報が少なすぎるのだ。二人によれば魔王軍とは数ある能力者たちでも、希に遭遇する者らしく、見分け方も、外見も、何もかも普通の人間と同じなので、本人が名乗るしか判断方法がないらしい。


「一切謎に包まれていると……」


 まあそうだとしても、やることは変わらない。情報が少ないのならかき集めるまで。能力者に聞いて回るだけだ。もちろん、武力で。


「それより加古川君。あなたがその……能力者たちと戦闘している時、眼鏡をかけた学生を見なかった? 能力者なのだけれど……」

「あっ」


 美鈴はその顔に不安を宿しながら、恐る恐ると言った感じで聞いてきた。レイは今まで忘れていた事実に、思わず声を漏らしてしまう。その脳裏に浮かぶのは先ほどの、極操作の少年だ。だが、その少年は────


「死んだ、かもしれない……その魔王軍のやつに吹きとされて、全身から血を出して」

「えっ!?」

「な…………!」


 重く告げたレイの事実に、二人の顔が驚愕に満ちる。そう、少年はウィンディスに吹き飛ばされ、血の池を作ったのだ。普通に考えて死んでいてもおかしくない。というより、死んでいなければどれだけの耐久力かと疑問に思う程だ。


「ど、どこ!?」

「何が、だ?」

「どこにいるの!? 孝義はどこ!?」

「そ、そっちに」


 詩織は焦った表情で、少年────孝義のことを聞いてきた。レイは咄嗟に孝義がウィンディスに飛ばされた方向を思い出し、そちらに視線を向ける。だが、孝義が飛ばされた場所と、今現在の場所は離れている。レイも同様にウィンディスに飛ばされたためだ。


 だが詩織はその言葉を聞くと、「こっちじゃない!」こっちじゃない!と叫び、ほかの方向に走り始めた。そしてアスリート顔負けの動きで一番高い木に登ると、周囲を見渡し始める。その顔はひどく焦っているようだった。


「……邨山むらやま孝義たかよし、私たちの仲間よ。能力は『SN操作』。磁石とかのあれね」

「そ、そうなのか……お前」

「言いたいことは分かるわ。なんでこんなに冷静なのか、でしょ? ─────だって、死んでいないもの」

「え?」


 告げられた言葉に思わず間抜けた声を出し、その後響いてきた「居たっ! って、生きてるじゃん!?」という声に振り返り、詩織と同様に木に登ってそちらを確認する。そこには、気絶しているものの、血を流さず救急車に搬送される孝義の姿があった。


「はぁ!?」

「生きているじゃないか! 心配させるなよッ!」

「いや、あの時見た時は確かにっいたっ、ちょ、いたっや、めて」


 怒りをあらわにする詩織が呆然とするレイの脇腹に拳を入れる。割と痛いので詩織の拳を止め、ごめんごめんと謝った。


「……まぁ、命のやり取りだから仕方ないとはいえ、次からは発言に気を付けてね? ねぇ?」

「わ、分かった……それにしても、なんで針城は生きているってわかったんだ?」

「あ、それ私も気になる」

「なんでって、そりゃあ、死んだら詩織ちゃんの能力が『反応』するでしょ?」

「あっ、そうだった」


 詩織と美鈴の会話が分からないレイは首を傾げるが、すぐに説明された。

 反応とはいろいろなものに反応する能力ではあるが、自分で使おうとなると難しいらしい。というのも、感情に作用される場合が多いらしいのだ。つまりは、本来死んだ場合、詩織の能力が反応して分かるらしい。先ほどは思わず焦ってしまったがために、判断できなかったとのこと。


 ちなみに、追加で能力を話していることを指摘し、「言ってもいいのか?」という質問をすると、


「いいんだよ……この前での加古川君は正直信頼出なかったけど、今の加古川君は信頼できる。能力者としても、一人の人間としても」


 そういうことらしい。

 そこまで言われると少し照れるが、正直言って嬉しいことだ。自分の決めたことが信頼に値すると、価値を認めてもらったようなものなのだから。


 詩織が「でもよかったぁ」と呟くと、続くように美鈴が口を開いた。


「じゃあ、そこまで言って孝義を回収しないと」


 このまま救急車に搬送されるのもいいのだが、体を調べられて何か異常があった場合、下手したら能力者だとばれる。いや、バレないにしても、怪しい存在と思われる、らしい。だから病院に連れて行くのは自分たちで様態を見てかららしい。


 ────本来なら付いていきたいところだ。一応は仲間となる孝義を見ておきたい気持ちもあるし、単純に興味がある。だが、今はそれよりも優先したいことがある。それは、


「加古川君も来る?」

「いや、俺は良い。ひとまずは家に帰って─────



















────母さんに謝らないと」









 






後半部分が難しい


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