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クソッタレ野郎の決定権  作者: 織重 春夏秋
第一章  悲しみの序章
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第二十四話   『逆風』

やっとだぜぇ……

「……ハッ! 確かにお前の覚悟は認めよう。だがな、俺と真っ向から撃ちあえるほどの力はテメエにはねえだろうが!」


 とは、肉薄するレイに対するウィンディスの言だ。彼は馬鹿正直に突っ込んできたレイに対し、手に持つ剣で応戦する。対して、振るわれるのはナイフ─────『椛』だ。

 確かに、ウィンディスがそういう感想を抱くのは無理もないだろう。レイはさっきまで死のうとしていたし、実際応戦できるだけの力も技術もなかった。だが、


ガキンッ


「ッ!?」

「……どうだ。バカにしていた相手に真正面から受け止められた気持ちは!」


 レイの振るったナイフが、黒い剣と打ち合っていた。その事実に対し、ウィンディスは眼を見開いて驚愕を露わにする。

 ─────能力を完全に支配した感覚。それが今、レイの中で巻き起こっていた。どの力をどう使って、どのように使えばいいのか、レイは理解できている。それは、感覚に近かった。今ウィンディスの剣を受け止めたのも、その感覚に身を任せたお陰だ。得体の知れない力。だが確実に自分の力だ。手に持つ『椛』も、不思議なほど手に馴染んでいる。数年使い続けたような感覚。よく聞く話ではあるが、実際経験すると不思議だった。


 さらに、次の行動も理解できる。

 レイは驚愕するウィンディスを置き去りにし、両手でナイフを持つことで黒い剣を弾く。続けざまにナイフを振るうが、二撃目三撃目と相殺された。


「面白れぇ……!」


 歓喜の声を上げ、ウィンディスは次の行動を起こす。

 弾かれた剣を再び強く握ると、より早く、わざと大振りに振るってきた。何の意図があるかは分からないが、レイはそれを背後に飛び退く。


 黒い剣は地面を粉砕し、底に小さな穴ぼこを作り、土や石が巻き上がる。ウィンディスはそれに対し、手を翳した。瞬間、風が巻き起こり、宙に浮かんだそれらをレイへ飛ばしてくる。自身に当たる大きな物だけを叩き落とし、そこらを走り回りながら距離を詰めていく。


「どうした! 残弾なくなるまで続ける気か!」

「……んなわけ、ねえッ!」


 ウィンディスはその叫びと共鳴するように手から風を前方へ放出する。それはレイにこそ実害はなかったものの、その背後にあるもの。切断した木や石などを根こそぎ巻き上げ、目くらましのような効果を発揮した。

 思わず椛を持たない方の手で顔を覆ってしまい、ウィンディスの接近を許してしまった。振るわれる剣に対し咄嗟に椛を突き出すが、弾かれ背後へ吹き飛ばされる。その勢いで転びそうになるのを全身を使って立て直し、即座に椛を構えた。


 息をつく間もなく、追撃が飛んでくる。ウィンディスはその手から大量の風を生み出し、まるで空気砲のように放つと同時に、跳躍しながら飛び掛かってきた。風の塊は身を屈む様に回避するが、すぐにウィンディスの飛び、そして蹴りが迫る。レイは慣れない左手で足首を掴むと、後方に投げ飛ばした。投げ飛ばされたことに驚愕するウィンディスの顔が見えるが、それを無視し、落下地点に駆けだす。ちょうど着地するかというところで椛を振るった。

 ウィンディスの体が空中に浮かんでいる状態で鍔迫り合い、レイが押し負けて少し後退する。再度刃を交わし、コンマ数秒刻みで何度も弾きあった。


「まだまだァ!」

「アァッ!」


 短い言葉と咆哮。ウィンディスがやたらに吠えるのは、戦闘時の癖か、意図的か。

 再び振られたレイの斬撃をウィンディスは体を捻って回避。武器を振るった後の隙をついて反撃を仕掛けてくるが、レイは体を強引に動かし、後方に転がる形で回避する。


「体いてえんじゃねえのか?」

「ッ……心配ご無用。どうやら耐久力も上がっているようでな」

「だったら、そのご自慢の体を真っ二つにさせてもらうとしよう」


 と、そこまで言うとウィンディスは肉薄してくる。蹴った地面が砕かれ、文字通り風に乗って加速した。刃と刃が交錯し、鉄の激突に火花と乾いた音が響いた。お互いに刃を逸らし、合計にして四回ほど激突した。乾いた音は一つの音楽だ。

 一瞬の攻防が過ぎ、ウィンディスはその場で蹴りを繰り出してくる。だが、それは上半身を某有名な弾避け映画並みの仰け反りで回避する。蹴りはレイの髪と鼻の先端を少し掠める。と言っても、本当に先端だったので傷らしい傷はない。ただちょっと痛むだけだ。


 レイは無理な体勢を取りすぎたせいで息が少し上がる。続けざまにウィンディスが振るった足による踵お落としを繰り出すが、それは後方に身体を動かし回避する。

 息を整え、レイは再び椛を振るった。


「ツッハァ! 休む暇すらねえ」

「あたりめえだ。俺や『アイツサマ』殺すといった以上、覚悟を決めてもらわねえと────ところで、距離が開いたな」

「ッ!?」


 不敵に笑い、ウィンディスは手を変えに翳す。風の刃を飛ばすための予備動作。今までを見て考えるのならそうだ。だが、明らかに一つ違う点があった。それは、翳している手が、開かれておらず、握りこぶしだという点だ。


「─────普通、風に『斬撃』を持たせることは不可能だ。真空の刃だとか、鎌鼬なんかはあるがな、外でそんな芸当は不可能。だから俺は、風を圧縮するのさ」


 ウィンディスはその手をさらに強く握ると、拳をグッと引き絞る。レイは接近しようとして、やめた。今から近づいたら『ヤバイ』と本能が伝えている。或いは、能力によって強化された五感が。そういった逡巡をしてしまったがために、相手にさらなる行動を許してしまった。


「─────強風ラファーガ!」


 一瞬、ウィンディスの手に宿る、透明であるはずの風が見えたような気がした。次の瞬間、拳は降り抜かれている。眼にも止まらぬ速さで振りぬかれたそれからは─────弾丸のように放出された。風を拳に纏わせ、圧縮。そしてそれを弾丸のように打ち出す技なのだろう。強風ラファーガ。先ほどレイの体を薄く切り刻んだ攻撃と同盟。おそらくだが、風全体が水の水圧カッターと同じようになっているのだ。そんなことが可能なのは、偏に摩訶不思議な『能力』であるからだろう。


 レイは足を動かそうとして、風が不可視であることを恨んだ。ウィンディスの拳はレイに向かって振りぬかれたが、風がどれほどの規模か、どの方向か。まったく理解できないのだ。先ほどまでの空気砲などは、間近で、そして腕の方向が定まっていたからこそ回避できた攻撃。だが、ある程度距離が開いた今ではそのような予測は不可能だ。どうすればいいか、まずは考えることを─────


レイ! 右だ!』

「みっぃ、ぎぃぃぃッ!」

「あ”ぁ? 『残痕』がぁ……」


 ほとんど無意識に、右に全力でダイブしていた。瞬間、元いた場所から爆発音がし、今までとは比べ物にならないほどの衝撃を感じた。だが、回避し損ねたというわけでもない。全力ダイブを決めたお陰で、その範囲内からは完全に逃れられた。直接受けていなくても感じるほど、強いという事だ。

 息を整えながら先ほどまで自分がいた位置を見る。地面が、まるで刃物に傷つけられたようになっていた。本来あり得ない光景だが、十字、斜めに、真っすぐ切り裂けれていたのである。目視しただけでも、その数十数。


「もみ……じ。お前喋れたのか? いや、あえて喋らなかったのか?」


 先ほどから疑問には思っていた。あれほどレイを説教していたはずなのに、ウィンディスとの戦闘に入ると嘘のように静かになっていたのだ。正直それを考え続ける余裕がなかったので、脳の片隅に追いやっていたのだが。


『ああ。何方かと言えば意図的に黙っていたな』

「なんでだ?」

『お前が戦っている時に横で何を言えばいいのだ? 叫んでればいいのか? 応援すればいいのか?』

「ごもっとも……いや、無言になるのはやめてくれ」

『承った』


 脳内に直接声が響くようで、未だに慣れないが、黙っていたのはそういう理由があるらしい。さすがに横で関係ないことを話されても困るが、逆に黙るとそれはそれでなにか……という感じもある。だがなんにせよ、助かった。あの時椛が叫んでいなければ、レイはどうなっていたかは分からない。

 いや、どうせ治るだろ? とか言うツッコミは無しである。正直、あまり治る気はしないのだ。


「お話は終わったか?」

「っ……ああ、満足だ。意外だな、待つだなんて」

「敵同士で、まともに自己紹介をしたわけでもないお前に何が分かる。興味があっただけだ。意思のある剣インテリジェンスソードとその主のな」


 意思のある剣インテリジェンスソード。創作物などでも有名な、所謂定番の剣である。そういった類は元々剣に意志があるという感じだが、椛の場合、魂が憑霊している(らしい)ので、厳密には違うのだろう。


「んじゃ、会話が終わったところでちょっと段階を進めるぜ? いい加減飽きてきたんだ」

「何か────」


 来る、そう言おうとしたところでウィンディスは突撃してきた。さすがに今回は予測できたので、レイもしっかり椛を握っている。ウィンディスは黒い剣を脇腹から肩に架けて─────俗にいう、右切り上げをしてきた。


 レイはしっかりとそれをガードする。しかし、


(軽っ─────!?)


 予想以上に軽かったのだ。重い一撃、と思っていたがために、強い力を込めてしまった。当然、予想以上の力がかかっているので、椛は黒い剣を押しのけ、ウィンディスへと迫っていく。しかし、それでは終わらない。レイが驚き、意識を切り替える刹那の前に、ウィンディスは剣に力を込めた。


「嵌ったな。馬鹿が」


 予想外の連続。急激に重くなった剣にレイは対応しきれず、力負けをする。結果、レイの腕は剣ごと弾かれた。捉えられていたのが剣でよかった。これが腕であったらどうなっていたことか……と、内心冷や汗をかく。


 しかし、そうでなくても致命的だ。レイの腕は頭の上にある状態で、次に来る攻撃をガードできない。が、それは相手も同じようだ。剣を斜めに振るったせいか、相手も一度腕を元の状態に戻さないと剣を振るえない。故に、


「ぁらよっと!」

「ッ、いってっ」


 ウィンディスはレイの腹に蹴りを叩きこむ。腹を蹴られたせいで呼吸がしずらくなるが、我慢する。風の加速を受けた足蹴りを喰らったレイは公園の遊具に激突しそうになるが、遊具の一部を掴み、遠心力を利用して逆にウィンディスに突っ込む。

 単純な速度だけではなく、自然現象も利用した加速だ。当然勢いも今までとは異なり、ウィンディスも対応できないだろうと考えていた。実際レイも椛を振るう事しか考えられない。だが、


「確かにお前の身体能力は大したものだ。風を利用した俺の加速と同等のスピードを、素で出してきやがる。技術面も未熟だが、少なくとも俺と対峙する、最低限の基礎はある。だけどな?」


 ゴアッ! という鈍い音と共に、レイは空を向いていた。蹴とばされたのだ。速度故にその事実を認識する前に、顎を蹴られた。先ほどと同じように風を纏った蹴りはレイを空中に飛ばした。レイは顎の痛みを抑えながら視線を巡らせる。


 ─────どこだ? どこにいる……!? な!?


 しかし、その場所にウィンディスはいなかった。視線を巡らせても視界の中には、戦闘によって変化した惨状しか見えない。思わず額に脂汗を浮かべる。

 瞬間、ゴウッ! という音が耳元で聞こえ、強風が吹く。レイは思わず手で顔を覆いかけ、それを辞めると、驚きながらもなんとか目を開け続ける。そして、驚愕した。


「けーいけーんがー、たりねえナぁ!」


 上段に剣を振りかぶり、振り下ろすウィンディスの姿があったのだから。


「おいおい! それは──────」

「そんなちんけな『残痕』で受け止められるほど、この一振りは軟じゃねえ!」

『楓の残した()は、軟ではない!』


 咄嗟に椛でそれを受け止めようとするが、距離が近いせいで、其れもかなわない。しかし、一瞬でも、受け止めようと腕を前に出してしまった。駄目だと分かったのは、それを行ってからだ。故に、今レイの前には、ウィンディスの黒い剣の直線状には、レイの前腕の部分がある。そして刃は─────レイの腕を捉えた。


「ぐ、アァァあぁ”ァ”アァァ”ッ!」


 痛い。

 いたい。

 イタイ。

 

 覚悟を決めたからだろうか。何もかも諦めていたころとの痛みとは大違いだ。腕を切られる感覚。全身が悲鳴を上げ、脳が沸騰する。よく、熱さで最初は分からなかった、なんて話を聞くが、冗談じゃない。痛い。刃が肉に食い込んでくる。黒い剣が面白いように肉を切り裂き、骨をくdいあjけmばgjrk─────


「ビンゴ。ようやくダメージを負ったな」

「ア”ア”ァ”ア”ァ”ァ”ア”ア”ッ!」


 あまりの痛さに身体を引いたことで、完全に切断されるまでには至らなかった。だが、鮮血が飛び散り、骨半ばまで切断される。ぷらぷらと肉が糸を引いて断面が露出し、ぽたぽたと腕から滴る血が地面に池を作っていく。


「ひっ、ひっ、ひっ」

「おいおい。情けねえなぁ」


 あまりの衝撃に脳が混乱し、過呼吸になっている。顔を思いっきり歪めながら、段々と背後に後退した。一瞬では、治らない。考えていたことだ。なんだか、自分が次怪我した時に『治るのか』、『治らないのか』が分かるようになっている。現に今は治っていない。何の判定基準かは分からないが、あまり瞬間回復には期待できない。それでも、徐々には治っているようだが。


「ぬるいぞ、決定権。所詮お前の覚悟とかそんなもんだろ? お前の力は、覚悟さえあれば十分使える力だもんな? 結局、夢物語だ。みんな散っていく」


 ウィンディスは黒い剣に滴るレイの血をどこかから取り出したハンカチで拭き取り、嘲笑った。「アッハハハハハ!」という嘲笑がどこまでも響き渡っていく─────


 ──────だけど、それは悪役のセリフだぜ?


「だまってろ」

「あぁ?」

「覚悟なんてどうでもいいんだよ。俺は覚悟なんて大層なもん持ってねえ。ただ単に決めただけだ。『楓の為に戦う』っていう事を」


『覚悟』─────そう呼べるほど、レイの決めたことは綺麗でもないし、大層でもない。もしかしたら世間一般で言うところの覚悟が、それなのかもしれないが。少なくともレイは、そんなことしていない。『楓の為に戦う』。それだけが、今のレイを保っているものだ。醜くてもいい。夢物語でもいい。覚悟などどうでもいい。だが────


「これだけは、譲れねえ。ほかの事なんてどうでいい。だけど、『楓の為』っていう事だけは、譲れねえ」


 楓はレイにこんなこと望んでいないかもしれない。もっと普通に生きてというかもしれない。魔王を倒すことなんて、考えないで─────きっと、そう思っている。けれど同時に、レイが今、こうやって戦っていることを仕方ないと、そう考えているかもしれない。


「きっと楓は、そう思っている」

「自己満足だな。できもしない希望掲げて、ありもしない力を振るう」

「自己満足さ。けど、あいつも俺を助けたのは自己満足だ。だから俺も、自己満足で戦うんだよ──────それに、力はある」


 ─────もう、何をすればいいのかは見つけた。


 瞬間、レイの体から赤黒いオーラが発せられる。全身に力が灯り、体の傷が再生していく。かつて発せられた純白の色彩とは違い、魔王のそれより赤く、より強く、鮮明に。もはやそれは、別物となっていた。そして今のレイには、それが何なのか、理解することが出来る。


 ────言うなればこれは、力の集合体だ。レイの中に収まらない力の奔流、中身(能力)が飛び出したもの。レイは、自分のこの力をそう考えた。正しいかどうかは分からない。だが……少なくとも、間違いではないらしい。


「……決定権。まだ一部だが、ものにしたな?」

「気になっていたんだが、決定権ってなんなんだ? 俺の能力名? そういうのって決められるのか?」

「……知らないのなら知らないままでいい。まだ知るべきじゃねえさ」

「そうか」


────話は終わりだ、そう言わんばかりに、二人は肉薄した。レイはそのオーラーを、操作する。別にビームが出るわけでも、それが具現化するわけでもない。ただ単純に、力が溢れているだけ。内側に収まらないというのならば、外側に纏えばいい! オーラーを腕に集中させ、椛ではなく拳で対抗する。ウィンディスは変わらず剣だ。拳で対抗するというレイに選択に一瞬驚愕していたが、慢心はやめだとばかりに全力で剣を振るってきた。


「オラァ!」

「ぁあ!」


そして激突。拳と刃が交差し────力勝負に負けたウィンディスが、剣ごと背後に吹き飛ばされ、剣を地面に突き刺して勢いを殺し、停止した。普通なら、拳と剣など勝負は見えている。ナックスダスターをつけているわけでも、籠手をつけているわけでもない。だが、レイのオーラはいわば、自然の鎧。相手の剣を粉砕することもできないが、砕かれることもないのである。


「つええな……まさか力負けするとは思わなかった」

「これ以上負けるわけにもいかない───魔王軍。見せてやるよ、俺の力を!」

「はっ! 中二病の上に慢心……救いようのない。負けるわけねえだろうがぁ!」

「中二病はお互い様だぁ!」


『レイ』

「椛」

『わたしが知っていることは少ない。だが、その力、間違えるなよ』

「あぁ!」


椛からの激動を貰い、二人は───否、レイは、ウィンディスよりも素早く肉薄する。動き出そうとした相手より早く接近し、そのわき腹に蹴りを叩き込む。

反応が遅れ、ウィンディスは蹴りをまともに喰らい、くの字に体を歪ませて吹き飛ぶ。


「ぐぼぅ!」

「お前のそういう声を、ようやく聞けた気がするよ!」

「なめ、るなぁぁぁ!!!!」


まるで自分を奮い立たせるような叫びをあげ、ウィンディスは追撃をくらわそうとしてくるレイに対して剣を振るう。普通なら椛で受けるか避けるところだが、今のレイに、さっきまでの戦術は通用しない。黒い剣をを目の前にし、レイは腕をぐるりと動かしながら精一杯伸ばす。剣を振るうウィンディスの手首を思いっきり押すことで剣を自分から遠ざけた。


「なにっ───」


すかさず、レイは椛を振るう。腕を退かしたことでガラ空きになった胴体はひどく無防備だ。だが、ウィンディスには風がある。黒い剣を掴んでいない方の手で風を起こし、先ほどの────強風ラファーガを放ってきた。空気が圧縮され、当たれば等しく斬撃効果をくらう風の暴力。

レイは逡巡の暇もなく、地面を蹴り、体を大きく下げる。だが、それでは間に合わない。むしろ、やたらな回避行動をとったことで回避できなくなった。


───それでいい。予備動作だ。


「引っかかったな! 武器でこの風はガードできねえ。武器だろうが盾だろうが切り刻んじまうのさ! 強力だから、距離が開いてねえと俺もダメージを喰らう。もう背に腹は代えられねえ!」

「それは考えた。だから俺はこうするのさ」


レイは、足元の風の残骸を目視する。先ほどの風や攻防のせいで、地面のタイルなどは砕かれ、さまざまな大きさになっている。拳大のもの、文字通り小石、先が尖って鋭利になっているもの。だが、レイの望む大きさは、なかなか見つからない。いくら五感が強化され、思考時間が伸びているにしても限界がある。レイは一か八か、腕を犠牲にしてガード────


『レイ! タイルを剥がせ!』

「───それだぁぁぁ!!」

「!? 何をする気だァ!」


(いいタイミングだこの剣!)


レイは心の中で椛に感謝し、地面の剥がれかけのタイルを全力で蹴り上げた。攻撃でもない。言うなれば、防御のための蹴り。巻き上げられたタイルは少し砕け、空中を舞うことなく、真っ直ぐラファーガと激突する。


「そんなんで防御のつもりか? 強風ラファーガはタイル一枚ごときじゃ止まらねえ!」

「いや、止まる! 装いが正しければ、これで止まってくれるはずだ!」


ラファーガが激突した瞬間、タイルが何十個にも分裂し、さらに粉々に粉砕されて行く。その爆発の範囲は周囲にも及ぶ。元々小さくなっていたタイルや、石や遊具。それらが風圧に晒され、散らばって行く。当然、ダメージを覚悟したのだから、ウィンディスもその体に切り傷を負った。だが、それで終わりだ。強風ラファーガは消滅した。回避不可能、防御無意味の攻撃は、タイルによって阻まれてしまった。


「はっ?」


予想外の光景に直面し、事実を認識できないウィンディスの呟きが空間に小玉する。ラファーガによほど自信を持っていたのか、その事実を認識した時、顔を憎悪に歪め、歯を思いっきり噛む。そして目を動かし、叫んだ。


「ッ!!! 決定け───!」

「あの風の弱点はそれだ」


 とは、ウィンディスに気づかれず懐に潜り込んだレイの言葉だ。レイには、強風ラファーガの弱点が分かっていたのだ。それは、『凝縮された一撃・・』という事と、『物体に当たることで効力を発揮する』ことである。つまりは、強風ラファーガは何かに当たらないと発動しないし、何かに当たってしまえばその時点で止まる。当然、武器での防御や自分の肉体なら、切り刻まれるだろう。だが、その事実を知っているレイにとっては、チャンスでしかない。もっとも、かなり不確定だし、風に関する知識がそれほどないレイにとって、これは成功するか不安だったのだが────


「うまくいったようだな……!」

「くっ……分かった。俺も切り札を切る」


 レイは、椛にオーラを流していく。もちろん、残っている分すべてだ。否、正確には上限など分からないのだが、気持ち的に、という意味だ。

 対するウィンディスも、自分の黒い剣に風を纏わせている。さすがにまずいと判断したのだろ。直感に従うのだとすれば、あれは強風ラファーガと同じような風だ。いわば、鎌鼬。剣に風を纏わせることで風の斬撃を放つ、有名な技。だが今回ばかりは、それを内側に内包しているよう。あれが直撃すれば、剣と風のダブルコンボが決まる。


「おぉぉぉぉお!」

「あぁあ”あああ!」


 そして、剣が交差する。

 お互いに、もう防御はしない。

 交差した一撃は、お互いの体を、肉を、皮膚を切っていく。

 レイは風で、ウィンディスは斬撃で。


「ッっ」

 

 ウィンディスの風が、レイを強く切り裂く。血に染まっていた服は更に深紅に染まり、最早元の色が分からない。

 一瞬、ウィンディスがほくそ笑む。確実に、死ぬほどの致死量ダメージを負わせた。続いて追撃を入れようとするが───────


「甘い」

「何!?」


 瞬時に立ち上がったレイは一閃で攻撃を防ぎ、黒い剣を弾き飛ばす。

 無防備になったウィンディスの胴体に、今までで最高の一撃を振るう。


「────決定権……加古川レイ! いつか、覚えておけ!」

「おぉぉぉおおおぉおあおおおおッ!」


 レイの絶叫が響き渡り、ウィンディスの胴体に椛が食い込んでいく。一撃はウィンディスの全身を切り刻み、あまりの威力に、地面や周囲の物体にクレーターを作り、止まった。

 ウィンディスの体から鮮血が噴き出し、その胴体が鮮血で出来た池にジャポンッと沈む。


 レイがウィンディスの方を見ると、ふと、何の拍子もなく強風が吹いた。思わず目を閉じる。そして目を開けた時には……ウィンディスがいない、なんてことはないが────風に何かが乗っていくのを感じた。


 レイはそれを確認すると、ふぅ、吐息を吐き、全身の力を抜く。そして口の中に残る血を地面に吐き出すと、


「ウィンディス。『切り札を切る』、なんて、死亡フラグだぜ」


 そう、届かない呟きをした。


 ─────魔王軍『ウィンディス・クリアス』。それが死んだ瞬間だった。

 


漸く一章終了! 次回から二章に入ります。ようやくレイ君のあれこれが解決しました。暫らく鬱展開は続かないと思います(きっと)


では、次回を楽しみにしてくれる人がいるなら、お楽しみに。

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