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クソッタレ野郎の決定権  作者: 織重 春夏秋
第一章  悲しみの序章
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第十九話    『能力者の戯れ』

戦闘……難しい……

 不良の手に握られている液体の脈動するナイフ、それを突きつけられながらレイは内心驚きを浮かべていた。

 現在の体調のまま考えても分かる。不良の持つナイフは、確実に『能力』によるものだという事。一瞬幻覚でも見ているのかと思いもしたが、変化があるのはナイフだけだ。うねうねとその形を変化させながら、銀色の輝きをもって、その先端はレイに延びている。


「聞こえなかったか? 痛い目遭いたくなかったら金目の門出せって言ってるんだ。ほらほら、ナイフだぞぉ? こわいだろ!」


 不良が大袈裟気味に腕を広げると同時に、それに共鳴するかの如くナイフがさらにうねる。普通の人間なら唖然とした表情か素直に金品などを置いていくのかもしれないが、それが『能力』だと理解してるレイにとって、ナイフの動き一つ一つが恐怖だった。


 雨でぬれ、凍える全身がさらに震える。レイは自身の体を強引に動かすと、気を入れ直すかの如く深呼吸をした。

 まさか、こんなところで能力者と遭遇するとは夢にも思ってなかった。確かに数ははっきりしていないにせよ、まさかこの遭遇率は予想外だ。だがしかし、このまま行動せずにいると、自分の身が危ない。下手したら金目のものだけでなく、命そのものまで盗られる可能性もある。


「おいおいおい、なに固まっているんだよ! 早くしないと殺しちゃうぜ? 俺様『超能力者』だからよ、このナイフがその証拠さ。さっさとした方がいいんじゃないぃ?」


 不良の笑みと言葉をもって、レイの憶測が誠であると証明される。『超能力者』──────少々認識とは違った言い方だが、それぐらいは誤差だろう。現代ではアニメなどで『異能力』という言葉が染みついているが、昔はそうでなかったはず。そう、不良が言ったような超能力という認識だったはずだ。もっと単純な、サイコキネシスやテレキネシスなどと言った力。目の前の不良が現代知識を持っているなど知らないが、超能力がレイ達の持つ能力と同じものとみて間違いはないだろう。


 能力の詳細も、相手がどんな攻撃をしてくるのかも不明。そんな状況だが、不思議と絶望感がなかった。魔王による攻撃を喰らったせいか、それとも楓が死んだことによる精神的ダメージのせいか。はっきりしないが、レイは今平常を保てている。


「悪いが、今金目のものは持っていないんだ。見ての通りの無一文でな……他を当たってくれ」

「だめだめ。そんなこと言って何か持っているんだろ? ごまかしたって無駄だよ! ギャハハハ! もっとも、本当に何も持っていなかったとしたら、殺しちゃうかもな」


 やんわりと意味のない回避を試すレイに、不良がそれを否定する。

 その上、何も持っていないのなら命を奪うと来た。予想通り、逃げられる状況ではなさそうな感じだ。レイは内心苦笑いを浮かべると、若干落ち込み気味だった目を見開き、片目だけ紅い瞳が不良を移す。赤い瞳が、不良を映す、─────紅い瞳が映す、


 瞬間、不良の腕が動いた────


「お前も超能力者かよ!」

「はぁ!?」


 視線を上げた先にあったのは、真っすぐ伸びてくる銀色の脈動体。先ほどよりも長くなっているようだ。

 レイは反射的に腕を前に出し、自身の顔を守ろうとガードする。不良の持つナイフはそのままレイの腕を薄く切り裂くと、まるで鞭のような動きで元の形へと戻った。


 突然の痛みに若干低い声を出そうとするが、それよりも早くレイの腕が再生を始める──────重症でもなく、ただのかすり傷で、だ。


 今までは骨折以上でないと再生しなかったのに、ナイフでの切り傷、しかも、腕の皮膚が少し切れたぐらいの傷で治っている。ちなみに、鉄骨が原因の頬の切り傷も同時に再生しているのだが……その事実までレイの頭は回らないない。その全身は焦燥しきっており、具合の悪い体を強引に動かしたせいか、苦痛の表情を浮かべている。


「そうか……だったら、手加減する必要はないな。死ね」


 刹那、狼狽するレイに再度ナイフが迫る。しかも、蛇のようにジグザクと、空中を這うような形で迫る。動きが読めないほど、知識に当てはまる武器がないほどに変幻自在だ。単純な鞭や縄のような物理法則にのっとった動きではない。地面に落ちることもなく、等しく平行に伸びるナイフ。


 レイは当然、動く事の出来ない状態だ。疲労した身体では、脳から体へ信号を送ろうとしても、思い通りに動かない現状。

 しかし、無様にやられるだけかと思いきやそうではない。ナイフがレイに迫る瞬間、条件反射的に足が動いた。しかも、空中へと。


 唐突に動き出した足が熱を帯びる。痛みが走る訳では無いが、奇妙な感覚に違いはない。

 だが、変化はあった。足が動いたその瞬間、全身を掌握したような感覚に襲われる。腕が動き、足が動き、脳が動く。疲労感や気怠い感情はぬぐえないものの、不思議と吐き気はなくなっていた。


 ──────そして、分かる。

 自分がこの体をどう動かせばいいのか。この|力(能力)によって変化した体を、どうやって動かせばいいのか。

 空中へ放り投げられた足は、普通の跳躍とはかけ離れた高さへと体を導く。そう、裏路地の建物、高さの半分ほど、7mほどまで、レイは跳躍していた。


「なんだ!? 身体能力強化か!」

「ぉれだって……何が何だか分からないんだよ!」


 自身の身体能力に混乱する理性を強引に押し込み、レイは己が体に宿る感覚のまま、壁を蹴る。まるで走り幅跳びのように体をそりながら。強化された足による壁蹴りはとてつもない促進力を生み出し、蹴った壁を少し破壊しながらその体を不良の背後へと飛ばした。


「っ、とと……」


 が、まださすがに完璧とはいかないようで、レイは着地の際たたらを踏んでしまう。だが、それだけだ。常人にとっては骨が折れることはないにせよ、痛みを感じずにはいられない高さから着地したというのに、痛みどころか違和感すら感じなかった。まるで階段から足を降ろす瞬間のように、自然な感じで降りられたのだ。


 それでも、その異常な光景を疑問に思っている暇はない。相手は自分を殺しにかかっている。レイは唇を噛みしめると、地面を足で踏みしめ、拳に力を入れた。

 いくら対抗できるかは分からないが、やるだけやるしかない。こんな跳躍が出来るのなら、拳の破壊力にも期待していい……はずだ。


 恐怖に震えることももうない。怖いと感じることはあれど、足がすくんでガタガタ震えることはない。殺意や怒りなどではない。殺意や怒りなど沸かない。あるのは、この状況を逃れようという生存願望。それでも不思議と、逃げるという選択肢は沸かなかった。それは、逃げたところで無駄だという、いつも通りの諦めだろうか。


「ちっ、おらっ! とっとと死ね!」


 不良は掌のナイフを振りかぶり、今度は縦に振りかざす。

 一瞬膨張したように感じると、今度はさらに太さを増してレイへと襲い掛かる。液状のナイフが地面を抉り、路地裏の横幅全体までに巨大化している。


 レイはそのナイフに対し、回避行動を試みる。が、その大きさを今一度確認すると、何を血迷ったのか真正面から対抗するように拳を伸ばした。

 何故かはわからない。ただ、己の直感が、そうしろと言っているかのようだった。結果は……


 上々。衝突した肉体とナイフはガキンッという金属音を響かせ、お互いに弾き合って終わる。が、レイの方は無傷とはいかなかった。打ち出した拳が薄く切り裂かれ……再生。さすがに真っ向から受け合って無事であるわけがない。もっとも、レイが能力を存分に扱えていないので、一概にそうとは言えないが。


 ただ、一つ分かった子ことがある。目の前の液体状のナイフは、いくら形が変わろうとも同じ強度を誇っている。実際、液状であってもレイの拳が切り裂かれたのだから、認めざる負えないだろう。


「かってえ! しかも再生とかマジ勘弁」


 伸びたナイフを元の長さに戻しながら、不良が軽口をたたく。

 だが、レイにそんな余裕などない。先ほどから降っている雨による汗も影響して、レイの肉体は水分を失い始めている。さすがの『再生』と言えど、ありもしない水分は生み出せないようで、それは回復する気配はない。


 レイは深く深呼吸をすると、不良に向かって駆けだす。相手は遠距離手段を持っているが、レイには生身一つしかない。よって、攻撃するためには近づく事しかできない。もっとも、先ほどのように跳躍するなどと言った超人的考えは浮かばなかった。あくまで異常なのは行く体であって、発想は凡人の域を出ない。


 そのまま、不良の目前までくるとあらん限りの力で蹴りを放つ。なんの技術もない、ただの蹴りだ。だが、能力もあってその破壊力は折り紙付き。常人なら軽く崩壊しそうな威力だが……不良はそれに対しバックステップで回避。


「さっさと沈みやがれ!」


 さらにその際、空中で体を回転させながらナイフを振るう。遠心力に乗せて放つ一撃は、先ほどより勢いが増しているように見えた。これでもう何回目かというナイフでの突き。レイはぎりぎり当たるかというところで身を腰を深く落とし、間一髪というところでナイフを回避する。


 そのまま、不良の懐へ。先ほどから見ている限り、一度伸ばしたナイフを元に戻すには、少し時間がかかる。まるでメジャーのように、巻き戻し作業を行わなければならないようだ。


 懐へ入り込んだまま、レイは拳にギュッと力を入れ、不良の鳩尾へと振う─────


 ゴキンッ


 ─────が、ナイフに阻まれて失敗。不良はレイの拳の衝撃を受け、まるでアニメのように背後へと飛ばされる。足が地面につきながら、砂を巻き上げるイメージだ。もっとも、今は雨なので巻き上がる物など一つもないが。


 どうやら、間一髪のところで巻き戻しが完了したらしい。今や液状でもなく、元の形状になったナイフでガードされたようだ。だが、その代償として不良の持つナイフがひしゃげている。さすがに受け切れなかったようで、見事な曲がり加減だ。


「あ”あ!? いい加減殺されろよ! めんどくせえな!」

「……いきなり切れるなよ」

「うるせえゴミが! さっさと死ね!」


 不良の我慢が限界に達したようで、地団太を踏みながらレイを睨んでいる。どうやらナイフを壊されたのと、中学生相手に手間取っている事実が、不良をそうさせたようだ。対して、レイは平常を保っている。怒りこともなければ、滅茶苦茶に行動するわけでもない。さすがにミスや焦りはあるものの、そこまでひどくはないといった状況だ。


 だが、その怒りは全く意味がないというわけではないらしい。

 不良はポケットに乱暴に手を突っ込むと、ナイフを持っていない方の手で……もう一つ、ナイフを取り出した。


「あはははは! もうこれで終わりだ! くらえ、『銀世界』!」

「なんだその中二病はぁぁぁ!?」


 場違いなレイのツッコミが響くのと、不良の手から……文字通り、銀色の爆発が起きたのは同時だった。正確には、ナイフが鞭のようにしなりながら、次々と周囲の物体を破壊するかの如く暴れまわっている。壁、ごみ箱、電柱。うぬうぬと暴れまわる其れは、まるで触手のようにも見えた。


 それがそのままならよかった。だが、その鞭の標的はレイへと向く。血走った眼で不良が叫びながら、腕をレイへと向ければ、ナイフも同様にレイへと向いていく。


 ナイフの数は二本なのに、まるであと数本あるかのような暴れっぷりだ。

 そのまま、真っすぐレイへと一本目が迫る。それを、横にステップすることで回避。続いて襲来する二本目は、手を手刀のような形にして、はじく。


「いたっ!」

「しね! シネ!」


 その瞬間、レイの手に鋭い痛みが走る。なんと、レイの手の切り傷が先ほどより大きくなっている……というより、肉が裂かれている。くっきりと肉が見え、血がちょろちょろと溢れていく。

 どうやら『銀世界』という、まるで技のような行為は、あながち間違いではなかった。明らかに、速度や切れ味が上がっているのだ。無茶苦茶に振っているのと、二本連続で、レイが処理しきれなかったものあるだろう。


 幸いすぐに再生したが……刹那、足に鋭い痛み。


「っぅ!?」

「おらおらどうしたァ!」


 痛みに驚き、思わず逡巡している間にも、そのナイフは迫ってくる。今度は太もものあたりが切り裂かれ、じんわりと服に血が滲み始める。

 レイは痛みに苦しみつつも、なんとかこの防戦一方の状況を打開しようと、頭を使う。だが、その間にも次の攻撃が迫る。今度は腕のあたりに。


 ──────実際、この攻撃には隙がない。本人が怒っている分単純に見えるが、裏路地という地形効果も相まって、その攻撃は恐ろしい。

 長いリーチを生かしながら、二本の刃で連続攻撃をくらわせる。逃げ場もなく、一度ハマれば抜けずらい無限コンボだ。それこそレイのように驚異的な身体能力があれば話は別かもしれないが、使っている本人がポンコツでは役に立たないというもの。


 まだ一撃目を喰らってなければなんとかなったかもしれないが、もうナイフの範囲に入ってしまった。

 そのまま、三撃目、四撃目も直撃し、レイの目に自身の鮮血が映る。痛みと苦痛に身をよじるばかりで、打開など浮かびそうにない。


 ザク、ブシュ


「っ……ぁ」


 だが、かといってそのままやられるわけにはいかない。不思議な何かが、レイの生きるという感情を加速させていた。

 何かないか……! もはや考えるのではなく、直観にかけるかのような行動。だが……レイは見つけた。


(あ……)


ザク、ザク


 それはまるで、レイを導くかのように、ただ悠然と、あった。度重なるナイフの連撃。一瞬そちらへ眼を向けた目に映ったのは──────いわば、その二刀の隙、のような物であった。何故気づけたかは分からない。だが、確かにはっきりと認識した。



 今のレイには、緻密なナイフの連撃、その隙間を認知できる。


 

 ナイフとナイフの間、一人一人が通れるかという短い通り道。レイはそれを発見した。何秒かに一度、という規則的なペースはない。ただ、何回かに一回、そんな道が現れる。

 

───────行けるか……? いや、


 行くしかない! レイは一瞬で意識を統合し、一目散に駆け出す!

 もともとナイフの範囲ににいたレイは、その合間に入り込むことに成功する。どうやら不良にレイの行動は映っていないようで、憤怒を浮かべながらナイフを振るうのみ。


 その間意にも、レイは駆けだす。


 腕が切り付けられる……再生、足の肉がえぐられる……再生、腹の皮膚が剥がれる……再生──────レイの体が破壊される苦痛に顔を顰めながらも、レイは不良の懐へもぐりこむことに成功する。そのまま、拳を握る。


 刹那、レイの体が赤黒いオーラに包まれた。これは……この感覚は、白いオーラを出していた時に似ている。


 ─────力が湧き出る感覚

 ───────得体の知れないものが浮き出る感覚。


 レイは、そのオーラを、拳に全て乗せる。本当に乗っているかは分からない。気持ちだけかもしれないが、確かに力は籠った──────それを一気に放出するかの如く、拳を伸ばす!!


「おらぁぁぁぁッ!」

「っぅ!? あ”あ”あ”あ”ぁ”あああぁッ!!」


 ──────どうやら、そのオーラは虚構ではなかったらしい。たっぷりと力のこもったその拳は、不良の顎を捉えた途端、不良の体を吹き飛ばし……十数メートル後方へ吹き飛ばすと、地面に転がった。その口からは血が出ており、レイが殴った際に吐血したものだと分かる。


「はぁ……はぁ……はぁ」


 こうして、唐突に訪れたレイ単体での初戦闘は、相手を殴り気絶させるという結果に終わった。


やっぱり、戦闘は難しいですねぇ……うまくかけた感じがしません。もうちょっとうまく書けるようになりたいです。というより、レイ君を早く変えたい。

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