表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クソッタレ野郎の決定権  作者: 織重 春夏秋
第一章  悲しみの序章
18/30

第十七話    『痛み+魔王=絶望』

 ─────いったい、今目の前で起きたことは何だろうか。


 一体何が起きて、どうなって、どうして自分は固まっているのだろう。何かの目的があってここに来たはずなのに、今はそれすらも真っ白だ。

 分からないけど、見ている方には楓が見えた。レイの幼馴染だ。近くに行ってみれば、なんでだろう。楓が動かない。


 赤い水をこれでもかというほど流して、心臓のところがポッカリ穴が開いている。降りかかる雨に流されて、屋上全体に赤い水が広がる。手首は無残に折れ曲がり、その姿からは何も、何も感じられない。

 どうしてだろう。なぜ、楓はこんなことになっているのだろう。分からない。レイには、今何が起こっているのか理解する機能が、一時的に失われていた。けど、一つだけわかることがある。


 きっと、楓が『死んだ』ってこと。こんなに血を出していたら死ぬ。心臓が無かったら死ぬ。『死ぬ』ってどういうことだろう。たぶん痛いことだし、つらいことだ。それにもう『会えない』。

──────会えない?


 会えないってどういう事だろう。つまりそれは会話できないってことだろうか。という事は、レイはもう楓に謝ることが出来ないってこと。楓の為に何もできなかったってこと。もう楓と言葉を交わすこともできないってこと。なんで? なんで会えないの? 誰のせい? 誰かのせい? ─────自分のせいだろう?


「……あ」


 はまった。パズルがハマった。絶望という名のジグソーパズルが。

 楓は死に、レイは楓を救うことが出来なかった。それは揺るぎようのない事実であり、レイの怠惰が起こした惨劇だ──────否、それは惨劇と呼べるほどの代物ではない。レイは文字通り、何もできていないのだから。


 それらを認知した時、レイがとった行動は……叫びだった。


「あ──────────────────────────あ─────────────────ぁ─────!」


 もはや、叫び声にすら匹敵しないほどの、醜く煩い唸り。雨の轟音と重なり合って、それは醜い合唱のようにも聞こえた。

 その叫びに、どんな感情が含まれているというのか。それすら、今のレイにはわからなかった。悲しいという感情か、自分が楓を助けられなかったという後悔の念か。


 分からない分からない分からない。けど、レイは叫び続けていた。何故かはわからないけど、きっとそれは楓が死んだことによる涙なのだろう。なにも、かも。何もかももう遅い。もっと早くこうしていればと後悔することも、あの時こうすればよかったのかと過去を振り返ることも。

 楓との日々を思い出して、さらに溢れんばかりの涙を零すことも。


「涙を流す。人間とはずいぶん儚いものだな。知人が死んだぐらいで涙を流してピーピー喚くとは」


 レイが涙を流し、耳が痛いほど叫び声を聞いている時、ふとそんな声が響いた。滑りと、耳を通り抜けて脳を直接刺激するような声。

 しかし、そんな声は気にしないとばかりにレイは泣く。いまさらそんなことに構っていられるものか。構っていられるほど、レイの精神状況は安定していない。


「人の話をしっかり聞けって、親から教わんなかったか? それともお前に親がいないのか?」


 泣くレイに、その声は小声で、けどしっかり聞こえる声で囁いてくる。ゆっくり、ゆっくり脳の中に侵入するかの如き声だ。その不快感からか、レイの耳は一瞬だけその声を聞いた。

  ゆらりと、まるで死にぞこないのような動きでレイはそちらを向く。叫びをやめ、涙だけ流す姿は異様だ。


「もしもーし? 聞こえてますかー? 生きてますかー?」


 横を向いたレイを出迎えたのは、赤黒い蛍の光のようなものだった。というのも、正確な表現が思いつかない。別の言い方をするなら、赤黒く光を発している球体状の塊だった。

 それが屋上中に充満している。あたりの空気すら赤黒く染まっており、まるでそこら中の外気を汚染しているかのようだ。先ほどから充満しているが、不思議とレイと楓には当たっていない。何故だかはわかないが、まるで避けているかのように。


「人の話をあんまり聞かないと、殺しちゃうぞ? おっと、これは悪役として『ありきたり』だったな。いけないいけない。こう言うのは嫌いなんだ」


 赤黒い球体を目で追っていけば、そこには一つの死があった。──────死が、形をもって存在していた。そんな感想を持ってしまう程、恐怖と憎悪と苦しみで溢れた化け物が。化け物が──────化け物が立っていた。

 その存在を認識した時、レイは思わず「ひっ」と情けない声を上げて後ずさりしていしまう。一瞬楓の言すら忘れて、レイはその存在に恐怖を抱いていた。


「ん? 恐怖で震えてそれどころじゃないのか……まあ、知人殺されればそうも成る……か? 慣れちまったオレにはわからないけどよ」


 ははっ、と、その化け物は笑ったのだろう。

 『だろう』というのは、その化け物は赤黒い球体に全身を追われ、顔どころか全身が見えないのだ。レイはその時点で気づく。その球体は、化け物の形を作っていたことに。化け物が単なる球体の塊に過ぎなかったことに。


 だが、その球体が覆っている中身は人間に思えた。なぜならば、黒い球体の隙間から、時々人間らしい歯や肌が見えるのだ。それはしっかりと白く、そして肌色であった。

 球体は能力なのであって、操っているのは人間なのだろう。だが、レイはそれを認識してもなお、恐怖に怯えている。


「お前は」

「お? なんだ?」

「お前は一体、なんなんだ……?」


不思議と、口から出たにはそんな言葉だった。それは球体でできた化け物に対しての問いなのか、それとも単純に目の前の人間に対しての問いなのか。

ひとまず、人間は悩むようなそぶりを見せると、後者を選んだようだ。


「魔王」

「ま、おう……?」

「ああそうさ。滅茶苦茶ありきたりなんだが、オレは人間を滅ぼすためにやってきた異世界の魔王だ。だからオレは人間じゃないし、人間が想像するような魔族とかでもない。そのまま、魔王か化け物とでも呼んでくれればいい」


言っている意味が、わからない。意味自体は理解できるが、その言葉一つ一つが何をなしているのか、それが理解できない。魔王? 異世界? そんなこと言われたって、意味がわからない。普段なら、中二病という言葉も浮かんでくるが、それも浮かんでこない。

だが、その単語の中でレイが反応したものがあった。それは化け物という単語。レイの意識はその言葉で正常に戻り、脳内で何度も木霊する。


化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物!


 そして同時に、レイは目の前の人間が────魔王と名乗った男が、楓を殺したことを確信した。その球体が作っている姿は、まさしくその者だ。楓の心臓が貫かれる瞬間、心臓部分に触れていた球体だ。

 レイは、事実を全身で受け入れる。体が得体の知れない感覚に打ち震え、なぜだが力が湧いてくる。それは、きっと怒りなのだろう。そうでなければ、そうでなければ、今のレイに力が湧いてくるはずがない。


「お前かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッああ!!」

「ははっ、叫ぶ叫ぶ。面白いな」


 全身に力が巡るころ、腕を中心に白銀のオーラが迸り始めた。

 それは目の前の生物の黒い球体には負けているものの、しっかりとした光を持って、レイの体を包んでいる。それは、まるで黒い球体に抗うかのよう。


それは、美鈴との訓練で感じた白い波動。美鈴をもってして危険と言わしめた力。だが、それをレイは振るう。許してはならないから、楓を殺したやつを! こいつを生かしておいてはならない!

レイは全身に滾る力を解放するかの如く叫び、目の前の魔王に拳を振るう。


ピシャ


「無駄だ。人間如きが俺に敵うわけないだろう……いや、違うな。人間だからバケモノとか俺たちの敵となりうるんだ。よし、言い方を変えよう。単なる能力者が敵うわけないだろう? これも悪役として『ありきたり』だが……多少そうなるのは仕方ないな。うん」

「──────あ」


 そんな、軽い音を立てて、レイの渾身の一撃は破壊され、腕はありえない方向にひしゃげた。その衝撃で腕から血が噴き出し、ベキベキと鳴ってはいけない音を出している。自然と、口からも吐血してしまったようだ。

 何が起きたのかわからない。何をされたの変わらない。目の前の魔王は、動いた気配すらないというのに。


 気合を入れたところで、怒ったところで悪役を倒せると思うのは間違いだ。叫ぶだけで敵を殺せるのなら修行など意味がない。それこそ人生など意味をなさない。


「あ”あ”あ”あ”あ!」


 いたい痛いイタイイタイ痛いイタイイタイイタイイタイ痛いいたいいたいたいたいたいたいた痛いイタイ!

 無意識に、腕を押さえて叫びまくる。もはや腕の感覚すらないというに、腕がものすごく痛い。頭がガンガンと警告を鳴らし、レイの全身を締め付ける。


 不思議と、こんな疑問が浮かび上がってくる。何故回復しないのかと、これほどの負傷なら回復するはずだと。分からない。分からないけど痛い。とにかくイタイ。痛みが痛みに代わっていたい。痛いしか考えイタイたくもイタイ。


 あまりの痛みにそのうちレイは気絶してしまった。地面に転げ落ち、雨水にバシャッ! と体を打ち付け、無残に転がる。当然だ。鉄骨を体に受けて気絶しなかったとはいえ、それは単なる偶然のこと。その上なぜか回復しないとなれば、痛みは永久に続いてしまう。そんな状況に、レイの体と心は耐えられない。


 だが、そんなあっけないレイとは違い、魔王の反応は劇的だった。


「なんという……まさかお前が。様子を見に来たのは正解だったな」


 魔王は、無残に転がるレイを睥睨する。

 その肉体に、拳に、足には傷一つついていない。その事実が、レイが魔王に何一つ跡を残せなかった証明となっている。


 だというのに、その表情は酷く歪んでいた。それと共鳴するかの如く、魔王を取り巻く赤黒い球体が、ゴウッと一瞬巻き上がる。

 魔王はしばらくレイを睨んでいたが、その表情をスッと緩めると、少し息をついた。


「はっ、今となってはそんな力も恐怖でもなんでもない。『決定権』も、宿る人間を間違えたな……中学生・・・じゃ肉体も出来上がってないし、何より精神が弱すぎる。その証拠に今の一撃も擦り傷すら付いていない。」


 安心だ、そう呟いて、魔王はレイに背中を向けると、背後の柵に向かって歩き出す。それに連なるように赤黒い球体も続く。どうやら、降り注ぐ雨でさえ、魔王に干渉できていないらしい。その赤黒い球体が守るように纏わり付き、全ての雨を遮断している。

一歩……二歩……三歩……四歩……五歩。そこまで歩くと、魔王は再び背後を見つめる。


「中学生、か……」


 ふと、魔王はその言葉を口にすると、完全に振り返った。

 するとレイに向かって歩き出し、側まで来るとしゃがみ、その顔を覗き込むかのような態勢になる。その目に宿すのは見下しか、それとも揶揄いか──────否、殺意だ。魔王は今、殺意を持ってレイを見ている。


「気が変わった。今この場で『決定権』は排除する。出来損ないの悪役のように、覚醒する暇なぞ与えんないようにな……これは、割と悪役っぽいな」


 その言葉がトリガーとなり、魔王の雰囲気が、今まで恐怖の塊だった雰囲気が殺意そのものへと変わる。それは、確実にレイを殺すという意志表示でもあった。気絶しているというのに、情けなく涙を流しながらバカみたいに雲を見上げているレイには、もはや抗うこともできない。


 魔王は「ふぅ……」と、息をつく。

 刹那、魔王の周りに浮かんでいた黒い球体が、いくつか魔王の腕へと集まっていく。見えていない手が黒く染まり、レイが下から見た『化け物』の腕へと変わっていく様は禍々しくも圧巻だ。魔王を中心とし、周囲の大気と雨がまるで歪んだような衝撃を受ける。

 先ほどの化け物は赤黒い球体が魔王に集合してできていたらしい。もっとも、魔王の容姿どころか外見そのものが確認できない以上、断言することは不可能であるが。


 そのまま、化け物の腕は倒れ伏すレイの腹に添えられる。パンチなどと言った勢いがあるものではなく、ただ単に『置いた』という表現が正しいのかもしれない。


「精々恨め─────ラスボスと遭遇した自分をな」


 降りしきる雨がさらに酷くなる頃、魔王はそっと呟き、手に力を入れる。


「『人殺し』」


 レイの体内に、赤黒い何かが侵入していった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


──────一体、この一日で何回叫べばいいのだろう。


「あああああああああああああぁぁあ……」


 体中が痛い。何も考えられないほどに痛い。気絶するほど痛いのに、永遠に続くようなこの痛みが意識を覚醒させ続ける。得体の知れない何かが、体中を駆け巡るのを感じる。

 脳、目、腹、指先、内臓、膝、耳、喉、胃、心臓、動脈、骨、皮膚。すべてに痛みが走るのを、激しく実感することが出来る。


 いつの間にか、魔王はいなくなっていた。


 べきべきと、骨などが軋むのも感じられる。ドバドバと血があふれ、屋上が赤く染まっていく。その激痛のたびに身をよじれば、帰ってくるのはまた激痛。しかし、レイの体が朽ちることはなかった。

 その感覚を、覚えている。これは死ぬと脳が認識しているのに、不思議と体が再生していく現象。まだまだ謎のままである、レイの『能力』が発動している結果だ。


 レイの体の一部が崩壊するのと同時に、その部分を修復していっている。脳が破壊されれば脳を回復し、足の骨が砕ければ骨をくっ付け、鼓膜が破れれば新しい鼓膜を作る。能力が、死のうとするレイの肉体を強引に生かし続けているのだ。


 あまりの痛みに、髪の色も抜け落ちて───────いかない。髪の色が白くなった途端に、黒色に戻る。一時の猶予さえも、安らぎさえも与えてくれない。死と生、ぎりぎりの境をレイは彷徨っている。

 かといって、魔王がレイに与えた『ダメージ』のようなものが、回復力と合わさって体に中和するわけでもない。その力により、肉体が変化するわけでもない。永遠に、痛みと再生が繰り返されるだけ。


 脳が考えをやめようとしても、痛みによって引き戻され、また痛みによって……まさしく、無限ループだ。魔王がどんな力でレイを攻撃したのかも、レイの『能力』がどれほどの再生力を持つのかも、見当がつかない。例え誰かがレイにとどめを刺そうとしても、気持ち悪いほどの再生力が直していく。しかし、魔王による攻撃の影響が、完治することもまたない。


 破壊と再生。


 レイの肉体は、まさにそんな状態だ。0と100を行ったり来たりしている。これが50になる訳でも、どちらかに収まる訳でもない。

 しかし、永遠に続くはずであろう苦痛に、終わりを告げる者がいた。


─────再生


 レイの耳に、微かにそんな声が聞こえた気がした。その瞬間、パッ! と体が光った気がする。

 もっとも、再生と破壊を繰り返すレイに幻聴が聞こえたとしても、おかしくはない話だ。しかし、今回はまやかしではなかったらしい。


 次第に、レイの痛みが治まっていく。というよりかは、レイの体内で暴れる『何か』が、全体に収束していくのを感じる。

 体が軋んでいく感覚が消え、血が噴き出すのが止まっていく。

 脳が正常に動き始め、喉が空気を求めて活動を再開する。完全に治ったとまでは言わないにせよ、かなり楽になったのは確かだ。


 その瞬間、レイの動きがピクリと止まる。まるで、活動をし続けた肉体が安らぎを求めるかのように、一時の浅い眠りについたのだ。

 だが、そんな安息は続かない。レイの閉じられた瞼がピクリと動くと、次第に瞳を写し始める。


 いまだ脳内が混乱しているせいか、その眼は終点あっておらず、口からは情けなく「あー」なんて声を出したりしている。

 やがて安定してきたのか、瞼をパチパチさせると、むくりと起き上がった。


「はぁ……」


 レイは、ため息をつきながら状況を整理する。何故か、不思議と疑問は沸かなかった。

 今自分がどうなっているのか、何が起きたのか、なぜ自分の周りは血で染まっているのか。それは、肉体が破壊されている最中も、脳が動き続けたのが原因なのか。はたまたレイの『能力』が何かしら干渉したのか。

 大体脳が把握している。そんな状態だ。


 ふと、レイの瞳が、雨の影響で出来た水面を見つめる。


「……!?」


 雨がまだ降っているおかげで、水たまりに雨が落ちて見ずらい。だが、レイの変化を映し出すのには十分だった。なんと、レイの右目が赤く染まっていたのだ。右目が赤で左目が黒。ごしごしと擦ってみても変化は無し。


 それは、水面で確認できるほど赤かった。まるで魔王の赤黒い球体の色彩のように。赤く、黒く、そして鮮明に。

 何故かはわからない。いや、魔王の球体とレイの能力が何かしら影響したのは分かるが、なぜこうなったのかは分からない。そのうえ、肉体も少し変化している。何かこう、力が漲るのだ。


 能力が発動している時の感覚とは、また一線を画す風だ。

 そこから浮かんでくるのは、魔王の攻撃が、レイの体に何かしら変化を及ぼしたという事。再生と破壊が繰り返される中、聞こえた声が──────優しい声だった。この場にいる人間は、去ってしまったレイの他に─────


「そうだ、楓!」


 レイはまるで人が変わったように慌て始める。

 もがきながらも、いまだ慣れない体の変化に驚き、屋上に視線を巡らせ─────そして、すでに事切れた楓を発見する。


「あ……ああ」


 縋りつくように近寄り、その赤い瞳に絶望を浮かべる。


────どうして?


 冷たい水が頬を伝い、地面に落ちる。時々その雫が熱を持っているのはなぜだろう。それは『自分』が悲しんでいるからだろうか。

 身体に力が入らず、ただ目の前の虚無だけを見つめている。


───どうして、こうなった?


 目の前で起きた状況が理解できない。今分かっているのは、止めどなく溢れるように出ている血が、目の前の『彼女』の血であるという事だった。

 出血多量とか言う問題ではない。否、血という問題でなく、そもそももう心臓が無いのだから。その人を証明する証が吹き飛ばされているのだから。


───あ、死んだんだ。


 驚くほどに、そんな冷酷な事実が読み込めた。いや、すでに気づいていた事実を理解したくなかっただけだろう。その人が、こんな簡単に死んでしまうなんて理解できなかった。理解したくなかった。だって、このまえまであんなに元気だったのだから。


───どうして死んだ……? あいつが殺したのか?


 『自分』の思考は、次に、その原因へと向かっていく。『自分』は確かに見た。『彼女』の心臓が吹き飛ぶ瞬間、そして誰がそうしたのかを。


───あの目、赤い目。


 彼女を殺したのは、とにかく赤い人物だった。それが可笑しいだとか、それを思える脳を彼は持ち合わせていない。 


 そして、ただ思う。あの人がいなくなって、どうしていいのかわからなくなって。今、やっと『彼女』が大切だったと気づいて。愛するとかそんなことじゃない。家族のような温かい、たった一人がいなくなって『彼』は思う。


───ああ、何もしたくない


最近、後書きを書かないといけない衝動に駆られます。

何故だろう。持病かな。ようやくレイ君がどうのこうのし始めました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ