第十五話 『始まりを刻み始める』
おー、だいぶ早く投稿できた。今回、そして次回は早く投稿できそうです。
何故って? 後書きにて。
「さて、着いたわよ」
美鈴の先導を経て、薄暗い街道を歩く事十数分。三人はしっかり目的地にたどり着いていた。さすがに自分の家ぐらいは把握しているようで(途中で美鈴が一瞬わからなくなり、詩織がサポートするというハプニングもあった)、あまり迷うことなく美鈴の家にたどり着いた。
その周辺はやたらと大きい家が多く、ある程度屋敷と呼べる建物も見える。レイは来たことがなかったが、この辺は近所で有名な金持ちが集まる住宅地だったはずだ。
美鈴の家も例外にもれず、それなりに大きい家である。さすがに屋敷と呼べるまで巨大ではないが、一目見ただけで金持ちとわかるような面積である。
「……でかいな」
「美鈴の家はお金持ちだからね。なんだかよくわからない業界で成功した系の」
「なんだからよくわからない業界、なんて認識でいいのか……」
「実際問題、娘の私もよくわかってないんだもの。詩織ちゃんが分からなくても仕方ないわね」
くすくすと、僅かに笑みを浮かべる美鈴。
実際そんな認識でいいかははだはだ怪しいところだが、そこは放っておくところだろう。世の中には親の顔も知らない人がいるわけだし、それと比べたら親の職業を知らないことぐらい許容範囲だろう。これで美鈴の両親がやばい仕事をしていたら、と考えると、背筋が凍る訳だが。
ガシャ
「さて……どうぞ」
「……お邪魔します」
「今日うち、両親居ないから。そんなときじゃないと友達とか招待できないしね」
その後、美鈴が家の鍵を開け、二人を招き入れる。
外観と同じく、家の中も様々な装飾品で彩られていた。玄関も通常の家の二倍ほどありそうだし、何よりそこから見える渡り廊下が長い。その間にもドアが七つほどあり、一見何かの施設と見間違うほどの大きさだ。普段からこの家で生活なんてしていると、常識の感覚が可笑しくなりそうだ。というより、こんな広い家に住んでいるのだったら、美鈴は方向音痴を直してもいいと思う。
その内装を見た瞬間、レイが思わず驚愕したのは言うまでもないだろう。小学生時代の友人にも、ましてや自分の家もこれほど巨大ではなかった。表情にはあまり出していないが、思わず見回して唖然としたほどだ。
ポンッ
「美鈴の家、大きいでしょ? さすが私の親友」
「確かに家と針城の財力はデカいかもしれないが、時雨の器は小さそうだな」
「否定……できない!」
自分の家でもないのに、自分の家かの如く自慢する詩織を軽く流し、レイは靴を脱いで美鈴について行く。美鈴は、詩織がそんな行動をするのは見慣れているようにスルーだ。大吾辺りと合わせれば、化学反応式に何か起きるかもしれないが、ぶっちゃけレイは恐ろしくて考えたくもない。
美鈴は廊下の先で立ち止まると、ドアの内の一つを開け、レイ達に手招きした。
中に入れば、そこは美鈴の部屋のようだ。全体的に明るい色で構成されており、ベッドやカーテンは淡い桃色。可愛らしい動物のカレンダーや、もふもふ兎のぬいぐるみや猫の置物も数々がこれでもかという程鎮座している。部屋全体がふわっとした雰囲気であふれており、微かに甘い匂いが漂う。人の気持ちをゆったりとさせるその部屋は、端的に言えば『非常に女の子らしい部屋』だった。
その部屋に入った瞬間、レイは不思議とドギマギにしてしまい、若干顔を赤くしたことを、ここに記しておこう。小学生時代、覚えてないない幼稚園時代、少なくとも数回女子の家に遊びに行ったことはあったが、自身が『クソッタレ野郎』と呼ばれ始めて以降、当然のように仲良くしていた女子も遠のき、殿田地の家に遊びに行くことなどなくなった。
詩織はそんなレイの心情に気づいたのか、ニヤニヤと笑みを浮かべると、からかうように近づいた。
「加古川君、その反応、わかるでぇ? 男の子やもんな?」
『誰だお前は』
心の中でそう感じても、無理はないだろう。だが、その言葉でレイの精神は混乱から脱出し、ある程度落ち着いた。こんな方法で戻るのも癪に障るのだが、レイはグッと拳を握って我慢する。
「まあ、そんなに緊張しないでよ。別に大したものがある訳でもないんだからさ」
「……そうはいっても、俺にとっては初めてのことでな……勘弁してくれ」
「そう? そんなに大袈裟な事かな?」
悪戯をする子供の様に笑うと、美鈴は二人に適当に座るよう促した。
詩織は────いつも通りなのだろう。部屋に一つしかない椅子に腰かけると、美鈴の勉強机から漫画を取り出し、パラパラと読み始めた。
レイはそれを少し引きつつ眺めると、視線を巡らせ、やがて床に正座した。
困った時の正座である。レイは他人の家にお邪魔するとき、いつもこうだ。広間やイスが用意されている場合ならいざ知らず、部屋などに案内されるときはこれが一番効率的な座り方だと、経験が言っている。
「じゃあ、お茶持ってくるから寛いでてね」
「あ、お構いなく」
「お構いなく―」
なんて、ありふれた会話を交わし、美鈴は部屋を出ていった。
詩織はレイに一瞥することもなく、漫画を読んでいる。呼びかければ返事をするだろうが、特に話題もないのでレイは話しかけない。
手持無沙汰になり、ふと部屋を見渡してみる。女子の部屋を見渡すというのは、それはそれで変態みたいな行為である。だが、今は部屋の主がいないし、少しは許容範囲だろう。もっとも、見ていることを詩織に気づかれたら、美鈴に報告されそうだという恐怖はあるが、さすがにそこまではしない──────だろう……
そこで部屋を見渡したレイの視界に入ったのは、とある一つの服と荷物だった。
それは、学生服である。何の変哲もない、ただの制服だ。だが、レイの通っている『桜ノ坂中学』とは違う制服だ。思えば、レイは二人と違う中学だ。今までどこの中学なんて聞く機会もなかったし、この際だから聞いてみようと、レイは詩織に視線を巡らせる。
「なあ、時雨と針城って、どこの中学なんだ? 制服見てもどこか分からないんだが……」
レイの疑問を受け、詩織はピタリと動きを止める。頭にハテナを浮かべ、少し瞑目し、漫画を置く。その後、顎に手を置いて考えるような表情を見せる。やがてレイの方へ視線を向ける。だが、その表情はいまだ困り顔だ。
そして、満を持したように、レイの疑問に対して回答を投げる。だが、それはレイの予想していないものだった。
「私たち、高校生だよ?」
────────ん?──────今──────なんて?──────
詩織の口から出た言葉を耳で喰らい、脳が消化し、記憶となるまで数秒。レイはその言葉を理解できなかった。というよりも、予想外過ぎてレイの認識が追い付いてない。
だが、やがてレイの認識も追いつき始める。硬直していた体と思考が動き始め、その言葉に対する反応を口にする。
「もう一度、言ってくれ」
「? だから、私たちは中学生じゃなくて高校生。今年上がりたてのね」
詩織の口からはっきりとした校庭の言葉が飛び出し、レイのある感情を駆り立てる。
それは、激しい否定。現実を受け入れることのできない者が最初に口から出す─────『叫び』だ。
「────はぁあぁぁぁぁぁぁ!? 高校生!? 針城はともかく、お前みたいなのが高、校、生!?」
「その言い方はさすがにひどくないかい加古川君!? お前みたいなのって、私もちゃんと高校生だよ! 正真正銘のJKだよ!」
レイの突然の叫びに対し、詩織は若干の驚きをみえる。が、すぐに涙目になりながら言葉を投げる。
「何を言い出す、お前みたいな女子高生がいてたまるか!」
ありえねえ! と首を思いっきり振って否定を露わにするレイ。
その言葉は、本当に予想外ものだった。レイとしては二人は同級生だと思っていたし、違いがあっても中三か中一だと思っていた。確かに若干大人びている部分もあったが、それでも、だ。
背丈が同じほどの女の子を、レイがどうして高校生だと思えるだろうか。確かに、二人は自身の年齢について言ってなかった。その上敬語を使わなくても何も言ってこなかったし、レイは完全に同い年と錯覚していたのだ。
そのレイの言葉にと等々怒りを覚え始めたのか、先ほどとは違い、少しむかっとした表情になると、その怒号とも呼べる声を発する。
「そんな言い方ないじゃない! 第一、それ言ったらレイ君だって中学生とは思えない身長よ! なんなの? 私たちと同じ背丈って。中学生ならもう少し背丈を縮めてから来てよ!」
「身長は仕方ねえだろ! 俺も成りたくてなったわけじゃないんだから! 第一、それ言ったらお前の身長が低いことが原因だろ!」
「低くないよ! 私はクラスでも平均ぐらいだからね! むしろ中二の癖に頭が高いんじゃないかな!?」
「ちょ、まてまて、さすがにその体制はあぶな──────」
怒号のキャッチボールを交わしている最中、興奮しすぎたせいか、詩織は椅子から身を乗り出してこちらを見ている。しかし、その椅子がぐらぐらと音を立て始めていた。椅子が壊れることはないだろうが、このままでは詩織は落ちてしまうだろう。そう思っての注意だったのだが─────
「椅子とかどうでもっ、わぁっ!」
「えぇ!?」
レイの言葉は、もうすでに手遅れだったらしい。詩織がその言葉を発した瞬間、椅子がぐらりと傾いた。そして、そのまま詩織の体重を乗せ、前のめりに倒れていく。
レイはそれに驚き、思わず尻餅をつくような体制になる。まさかとは思ったが、本当に倒れるとは予想外だった。
しかも、このままでは詩織はレイに抱き着くような体制になろだろう。ちょうど落ち行く詩織の位置と尻餅をついているレイの位置が重なり、見事なフラグの匂いを漂わせている。
そして、そのまま詩織はレイに覆いかぶさるように──────は、ならなかった。
「あっぶねぇ!」
「そこで避けるの!?」
詩織がレイに覆いかぶさる瞬間、レイはその場を抜け出してぐるぐると横に回避する。そのまま勢い余って壁に激突。しかし、レイが下敷きになるような展開は避けられた。
一方、詩織はレイが動いて驚いたのか、しっかりした体制らしい体勢を取れず、片手で体を支える結果となった。だが、さすがに片手では無理があったのだろう。がくんとその姿勢を崩し、床に延びてしまう。
レイは内心、冷や汗をかいた。
ありふれたテンプレである『何かの拍子でいきなりの床ドン』なんて展開は阻止できたようだ。少女漫画や恋愛小説でもあるまいし、誰が好き好んで床ドンなどされるだろうか。
いや、思春期の男なら、それも女子高生からの床ドンなど喜んで受け入れるのかもしれないが、レイはそうではない。回避する、意地でも回避する。いきなりそんなこと起きても混乱するだけだ。
部屋にいる片方の男が壁に激突し、その衝撃による痛みで顔を歪めている。
一方の少女は、顔から床に激突しなかったことに、一先ずホッとしている。
端から見れば何が起きた!? と、疑問と叫びを押さえられないような状況。そんな状況の部屋に、
「一体、何があったの……」
湯呑が乗っているお盆を持って来た、金髪の少女の嘆きが、静かに響いていた。
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「なるほど、加古川君が私たちを中学生と勘違いし、それに対し詩織ちゃんが怒って、まあなんやかんやあってあの状況になったと」
金髪の少女──────美鈴は、自らの持って来た茶をずずずーと啜ると、一息ついてそう言った。
現在、美鈴の恰好は、先ほどの浴衣で姿ではない。かといってワンピースでもなければ、もちろん侍姿でもない、普通の服だ。緑色が目につくその服は、非常に美鈴に合った服と言えよう。だが、その服装は、一見運動に適した服にも見える。髪は結ばれてなく、しっかりと金髪の美しさを引き立てている。
一瞬空間で変えればとレイは思ったが、それを今聞く自信はない。茶を持ってくるにしては時間がかかっているとは思ったが、着替えが理由だったようだ。
レイと詩織は、現在進行形で説教中である。
勘違い云々の話は良いらしいが(ちなみに、美鈴とレイの身長はそれほど変わらなかった)、部屋でドタバタしていたのはだめらしい。二人とも、椅子に座る美鈴の前で正座させられている。
「あ、はい。すいません」
「美鈴、ごめんなさい。悪気はなかったんです……いや、あの、ごめんなさい」
これ以上とやかく言う事はないらしいが、「二人とも、とりあえず正座ね!」と、指を立ててビシッと断言されては、反論する気も失せるというもの。
どうやら、能力者の話はこの体勢のまま行われるらしい。そういわれたわけではないが、美鈴の表情と雰囲気で察することが出来る。
「さて……加古川君が『能力』を使ったんだっけ?」
「ああ、使った」
「どういう能力だったの? 回復系?」
「回復系って言うよりは、体全体が強化される感じ……なのか?」
なのか? と疑問風に言ったのは、レイがまだ確信していないからだ。今までレイの体に現れた症状は、肉体の修繕、身体強化等々である。そこから考えれば、身体強化というよりは、肉体のレベルが上がる、なんて能力の方がしっくりくるだろう。
「あ、あと、私たちが森で迷ってた時、『あっちに神社がある』って言ってたんだ。私の『反応』には察知しなかったし、私の視界にも何も見えなかったんだ……何かあるのかな?」
詩織がハッと思い出したように、先ほどの森での出来事を言う。
その言葉に美鈴は黒瞳をスッと細めると、少し考える様に数秒……そして、納得がいったように「ふむ」と漏らした。
「今の詩織ちゃんの話と加古川君の話を聞いて、そして私が加古川君の回復を見て考えてみたことなんだけど……加古川君の『能力』って、身体のあらゆる能力が強化されるんじゃない? その森での出来事は、加古川君の『視力』がよくなって、能力者を倒したのも、足、腕などが強化された、とか」
その話を聞き、レイはハッとした表情で美鈴を見る。
確かに、それならガッチリとピースがハマる。鉄骨を腹に受けた時の長回復も、『回復力』が上がった。茶髪の槍をポッきりと折ったのも、単純な『力』が強化された。あの時詩織の目に見えず、『反応』も察知しなかったのは、レイの『視力』が強化された。
考えてみれば、単純な話である。体の機能が強化された。唯の単純な、そしてシンプルな話だ。
だが、その中でも一つ疑問が残る。それは、『何がスイッチになって発動するのか』という事だ。レイがまだ能力に対して未熟者だから、と言えばそれまでかもしれないが、二人から話を聞く限り、それはあり得ないらしい。
というのも。いくら未熟者でも、『出せない』という事は存在しないらしい。能力が制御できず暴走することや、力加減を誤ることはあるらしいが、全く出せないというケースは初めてだという。能力に謎は多いので、こういう場合もある、と言ってしまえばそれまでだが……
「謎は、まだまだ多いってことだねぇ……」
ぽつりと言葉の詩織の言葉に、二人も同様に唸る。
レイとしては、謎は多いどころかほとんど謎だらけである。他の人とは違う点が見つかり、普通なら喜ぶところなのだろうが、今回の違いは迷惑なだけだ。早く使える様にならないと、何時何時襲われるか分からないのだから。
「─────よしっ! 実戦あるのみ!」
しばらく三人が唸って数分、自身の手のひらを合わせ、パンッと美鈴は叩き、声を張り上げた。
「おお! やっぱそれが一番手っ取り早い?」
「実戦……戦うってことか!?」
詩織が美鈴の言葉に賛同し、レイがそれに異議を立てる。
その言葉をそのまま受け取るなら、『能力者による』実戦を行うという事だ。もしかすると、レイは回復するのでいくらでも実験できる、なんて考えているのではないか……だが、さすがにそこまで残虐ではないらしい。
「あはは、違う違う。模擬戦だよ。も、ぎ、せ、ん。武器も使わないし、ただ能力を試してみようって言うだけの話だよ」
「!? ……な、なんだ、それだけか……」
レイは殺し合いではないと分かり、ほっと胸を撫で下ろす。当然だ。人を殺したい衝動がある訳でもなし、いきなり『殺し合いしますよ!』と言われて動揺しないわけがない。
「けど、いったいどこで試すって言うんだ? まさかここじゃないだろう……? 広間とかでやるのか?」
能力を試すといったところで、こんなところでドンパチするわけにもいかないだろう。レイの能力は今使えないが、何かのスイッチで入るか分からない以上、危険だ。しかも、その破壊力は折り紙付きである。
亜連の槍を砕くほどの威力(使ったのはナイフだが、力を入れたのは確か)、つまりは、石や鉄を花入するほどの威力という事である。
詩織の『反応』はまだしも、美鈴の『黒い空間』は見た限り、物体などを破壊することに適した能力だ。同様に、ここで使うには危険すぎる。
様々な可能性を考慮した上での言葉だ。
しかし、それは考えていた様だ。美鈴はその言葉を受け取ると、何も言わず部屋にある壁紙を取っ払った。
いきなり何をするのかとレイが驚くが、それも束の間。それを上回る驚愕がレイに訪れた。なんと、その壁紙の向こうにはドアがあったのだ。丁度壁紙サイズに隠された、まるで秘密基地にある様な隠し扉が。
しかも、部屋の明るい雰囲気とは合わず、鉄扉である。
「……ひとまず聞こう。それはなんだ……?」
「隠し扉。疑問はあるだろうけど、騙されたと思ってついて来て?」
その表情には可愛げがあるが、割とマジで騙されそう、と言うのは言ってはいけないのだろう。美鈴は取っ払った壁紙をぐるぐるとまとめ、テーブルに置くと、その扉を重々しく開け始めた。
ギィィィィ……
おおよそ扉とは思えない重低音を響かせながら、その扉は開いた。美鈴はそのまま中に入る。詩織も当然の様に続く。詩織はこの扉のことを知っているのであろう。先ほど扉が現れた時も何も言わなかったし、この場にレイの味方はいない様だ。いや、元からないが。
さて、いよいよ腹をくくるしかないとばかりに、レイは唾を飲み込む。さうがにここまで来て、帰るわけにもいかない。というか、帰してくれるわけもない。それに、そこが何であれ能力が使える様になるならば問題なしだ。
退かぬ、媚びる、省みるの精神だ。なんか違くない? という声は無視だ。
レイは意を決してドアに飛び込む。その先にあったのは─────まるで、白色に染まった世界だった。
「なん……だと……!?」
まるでどこかの漫画の様な言葉を吐き出し、レイは戦慄する。
全てが真っ白、というよりは、部屋全体が発光しているかの様だった。大凡家とは釣り合わない面積のその部屋は、全てが近未来の技術でできているかの様に見える。公園、広場、そんなもんではない。例えるなら────そう、学校の校庭ほどの面積である。高さはそれほどないが、発光 していることによって、部屋の存在感を引き立たせていた。
「い、一体、ここはなんなんだ……?」
「うーん、説明が難しいんだけど、一言で言えば……技術と能力の結晶だね。ここで訓練とか、能力を研究したりするんだ」
美鈴は唇に指を当て、悠然とレイの疑問に答える。といっても、その一言では全然理解できないが、なんとなくニュアンスは伝わった。家とここの面責が釣り合ってないのも、能力のおかげなのだろう。
この場所こそ、能力を試す『訓練場』らしい。正式名称はないので、勝手に呼んでくれ、ということだった。
美鈴はレイに「ここに立ってて」と告げると、そのまま走り出した。しかも、とんでもない速度で。確実にレイより早く、まさに地を駆けるかの如くだ。
走り出した地点から目視で五、六十メートルぐらいだろうか。その地点まで行くと、ピタリと止まり、くるりとレイの方を向く。
「加古川くん! 能力は使える!?」
「いや! それが今は使えない様なんだ!」
思わず会話が大声になってしまうのは、距離があるということでご愛嬌。
実際レイは今能力を使えない。自らで切り替えられないし、そもそも何で発動するのかわからないのだ。第一使えていたのなら、今ここにはいないだろう。
「ふむ……戦いの中で使えるかな……?」
美鈴はレイに聞こえない様に言ったのだろうが、バッチリ聞こえた。というより、聞こえてしまった。今までの流れから察するに、どうやら『聴力』 も強化されているらしい。腕や足が強化されている気配はないのだが、その違いはなんなのだろうか。
「よし……加古川くん! 構えて!」
「えっ!? ちょ!? いきなりかよ! 」
唐突に言葉をかけられ、レイは焦りを口に出す。だが、逃げられる雰囲気でないのはもう明らかだ。詩織は察して部屋の端に移動しているし、美鈴は黒い空間を展開している。
ああもうどうにでもなれ! そう思い、レイは我武者羅に走り出した────
結論から言えば、レイの『能力』についての謎は、さらに深くなった。
というのも、その訓練中にレイの『能力』は発動し、身体能力やらなんやらが強化されたのだ。そのまま訓練を続けていたのだが、その最中、レイが美鈴に追いつめられるという事があった。
回避できないような位置、速度、威力。無論殺傷能力はない。その攻撃は、レイに当たるかと思われた。
しかしその瞬間、レイの体中から得体の知れない力が沸き上がったのだ。溢れのを止められず、その力は放出される。するとどうだろう。レイの腕か白いオーラが浮かび上がり、刹那、美鈴を吹き飛ばしたのだ。さらに力の暴走は止まらず、レイが立っている位置の地面がえぐれる結果となる。
レイが意図的にやったわけでもなく、ましてや殺そうという意志があったわけでもない。飛ばされた美鈴は空中で反転し、負傷することはなかったが、危険だという詩織の判断で訓練は中断された。
現在、三人が一箇所に集まったところである。
「加古川君くん……今のは」
「い、いや、俺にもわからない。あんなのさっき戦った時にも出なかった!」
「詩織ちゃん、どう?」
「うん、加古川くんの言う通りだよ。能力者と戦った時も、あんなオーラが出ることはなかった」
美鈴は「うぬう」頭を抱えて唸る。問題が解決するどころか、さらに多くなってしまったわけだ。
そのまま、微妙な雰囲気になるかと思いきや、そんなことはなかった。
「ああもう! 悩んでいても仕方ない! 今日はもう終わりにして、明日考えよう! 加古川くん、学校の放課後空いてる?」
「ああ、空いてるが……基本的に暇だし」
「私たちも早く切り上げてくるから……五時半にまたここにきて?」
「詩織ちゃん、いきなり何を」
「このまま悩むぐらいなら、明日考えたほうがいいよ。幸い、加古川くんは今オーラ? を出していないわけだし」
詩織は声を張り上げると、そう言って場を締めくくった。
確かに、このままにするぐらいなら明日に回す、という詩織の言葉には賛成だ。レイとしても自信がなんだかわからない何かを出したところで、少し混乱しているのが事実である。ちなみに、訓練中に『能力』が発動し、未だにその効力が続いているのは、言ったらボコボコにされそうなので言わない。
何時もふざけているが、こういう時には緩和剤になる。そんな詩織が活躍した場面だった
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案の定帰り道。
詩織はそのまま美鈴の家に泊まるらしい。家に親がいないので、絶好の機会だったそうだ。現在時刻は八時前後。この時間じゃ母さんに怒られるかな、なんて思っているレイは現在、自身の手を見つめていた。
というのも、訓練中に大凡人間は思えない身体能力を発揮していたからである。拳を振るえば空気が振動し、全力で走れば俊足が出る。美鈴の些細な動きも察知し、詩織が暇そうに欠伸をする音まで聞こえるのだ。
「ほんと、自分がやっているとは思えないな……」
最早あまり驚かないが、それでも困惑はするのだ。随分変わったと。精神的な面は全然変わっていないが、肉体的な面はごっそりと変化した。今なら能力者に襲われても返り討ちにできる自信は……流石にないにせよ、並大抵のことは解決できそうである。
─────例えば、そう。たまたま視界に入った『桜ノ坂中学』の屋上を見てみても
───見て、見ても……
──見て、も……
「え……………」
何もない帰り道。普段と変わらぬ帰り道。変わったとすれば、レイの体ぐらい。そんなレイの視界に、『それ』は映った。
見た、見えた、映った、目撃した、見えてしまった、見ることを許してしまった、見らされた、見せらされた、瞳に映った、瞳に写した、目に焼き付けた、目に映った、視界に入った、目で捉えた、映じた、視界で捉えた、見ることを許してしまった、見ることを許容してしまった、見ないという選択を潰した、視界に移すことを許してしまった……見えないという認識を殺した視界に捉えるという結果を選んだ目に焼き付けることを脳が許可した目で見るという行為を許してしまった視界という概念に映り込んだ目撃したという現象を受け入れた黒い目で見ることを許した見た見た見た見た見た見た見た見た見た見た見た見た見た見た見た見た見た見た見た見た見た見た見た見た!!!
「あ、ああぁ……」
レイの視界に、瞼に、瞳に、目に、『それ』はハッキリと映った。
疑う余地もなく、見まがうこともなく、相違なく、明白で、はっきりとして、確実で、明らかで、文句なしに……一言で言うのは困難を極める、が、それでも言うと言うのなら、それは、
「あ、あ、あ、あ、あ、ああぁあぁあぁああああ」
『化け物』
と言う表現が、一番遠く、一番近い。人の形をしていなかった。獣の様な形で、だけど目が赤く輝いている体の大きさは五メートルぐらいあって口は大きく歯はむき出しで腕から血肉みたいなものがはみ出していて胴体は異様に細くて足は5、6本目あって。
それは等しく、見たものに恐怖を与える存在だった。
だが、それでもレイの驚き様は異常だ。恐怖の声もあげず、かといって逃げ出すわけでもない。ただ屋上を見つめて人差し指を向けている。
どうしてそんな状態なのか。どうして、逃げないのか。どうして、固まるだけなのか。それは、
「な、んで……なんで、そんなところにいる……!?」
───────楓ッ!!
加古川 レイの幼馴染にして、未だ喧嘩状態が続いているのは存在、花岬 楓がいたからだ。
レイは────迷わず、学校に向かって走り出した。何故かはわからない。体が勝手に動いた。
ただ、ただその時思ったのは、『今動かなければ、楓が死ぬ』と言うことだけだった。
美鈴と詩織を可愛く描写できた気がしない……
そして最後のあたりをカッコ良くできたか心配だ……! 一応、自分ができる力は使いました。これでかっこよくできなかったら、もっと頑張るしかないですねぇ。
次回、投稿は早いと思います。この続きを早く書きたいので。




