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ドラゴン、そしてゴブリン

「超常自衛隊の……ドローン・ガイノイド……?」

「稲葉、りくちゃん?」


「超常自衛隊って、あの七瀬三佐や田原さんの?」

「はい。主の命を受けてあの教室にずっとスタンバっていました」

「え? あの時他に人なんて……」

 梓ちゃんはりくちゃんに疑問を投げかける――

「私は人ではありません――動作を止めていた状態ならば気配すらないので気がつかなかったのでしょう」

 梓ちゃんの疑問にあっさりと答えるりくちゃん。そしてボクは――

「フムフム、確か、ガイノイドって女性型ヒューマノイドの事だよね。ちなみに、男性型のヒューマノイドはアンドロイドって言われてる――つまりは、人間の形をしたロボットってことだね!! おおっ! 本当に君の体は全部機械できているんだね!!」

 ボクはぺたぺたとりくちゃんを触り、撫でまくる――! そして眼鏡を取り出して隅々まで研究し尽くす――!!


「ちょっと! 真琴!? 初対面の人間対して何気安くベタベタと触りまくっているの!」


「見てよ梓ちゃん、ホントにすごいよこの子、うわすご!! 肌の質感とかは人間のそれなのに頭の上にある兎みたいな耳とかは、完全に機械だ!! 一見コスプレ少女に見えるのに、そのスペックはちょっと調べただけじゃ計りきれるものじゃないよ、これ――!! うん?」


 ボクはりくちゃんを持ち上げてみて、思った。


「軽い?」

「いいえ、私が軽いのではありません。この異世界では何でも軽く思えてしまうだけです」

「あ、やっぱりそうだったんだ――」

「え? どういう事?」

「この世界の重力が地球に比べて小さいと言うことです」


 りくちゃんはボクが薄々感じていたことに対し答えを出してくれた。


「正確に計算してみると地球の重力の32%といったところでしょうか――つまり……」


 ギュオン――ガシャ!!


 りくちゃんは、背中についていた翼のようなギミックを広げ舞い上がる――りくちゃんの前には、あのドラゴン――!!


「連続ガイノイド・パンチ!!」


 ポコポコポコポコポコポコッ!!


 なんか、気の抜けるような音とともに、空飛ぶりくちゃんの連続パンチがドラゴンにヒットする!!


「グ、グギャア!!」


「やはり、重力の弱い世界の生物は、その構造上かなりもろいですね――」


 ドウン!!


「グキャオウ!!」


 小学生の女の子が空を飛んでドラゴンに体当たり――にしか見えない攻撃が、止めとなり、ドラゴンは悲鳴を上げて墜落する!


 ――そんな時だった――


「クグア……」

「――え?」

 なんか、周りからおかしな声が聞こえてきたのは――


「ギギイ、ガアア!!」

「キイキイ!!」

「カカカ!!」


「キャ、何こいつら!? こ、小人!?」

 いつの間にかボク達の周りに集まってきた小さな生き物達――といっても、ボク達の太ももぐらいの大きさがある――簡素な服を着て二足歩行でヒョコヒョコと歩いているその姿はまるでファンタジー世界にでてくる小人のようだった。

 ただ、ちょっとばかり顔が醜悪すぎやしないかな?

 中には明らか様に石槍とか尖った骨で作られいるようなナイフなどの武器を持って、亀らしき物の甲羅を加工した様な鎧をまとっているヤツまでいる――


「こいつらってもしかして……」

 ボクは頭の中のファンタジー辞典のページをめくる。

「ええっと、容姿から検索――ああ!! ネットにつながらない!!」

 梓ちゃんがスマヴォで答えを探そうとして、失敗している。

「……ゴブリンってやつかな? うわっ、初めての異世界転移でドラゴンとゴブリンってファンタジーの有名モンスターに会えるなんて感激だなぁ」

「ゴブリン? 確かファンタジー系のゲームだったら雑魚に等しいキャラクターだよね、でも……武器を持ってるって事は結構頭良さそうよ……」


「キャラキャラ!!」

「エラバッタ!!」

「ゴッデス!! ルナーズ!!」


 確かに、ボク達には何を言ってるのかわからないがゴブリン同士で話し合っているように見える――つまり、こいつらは人間並の知能を持っているということになる――


「襲い掛かってきたら倒さなきゃいけないのよね?」

「うん、梓ちゃんの蹴り技なら楽勝だね!」


 バギ!!


 ボクの言葉に飛び膝蹴りで答える梓ちゃん!


「そんなことじゃなくて、明らかに知能を持っている相手を攻撃して良いのか……それに言葉が通じるならこの世界にクラスメイトが来ているのかどうかを聞くことができるんじゃないかって……」


「「――ギャ――」」


 梓ちゃんは言葉を途中で止める――鎧を着た兵士ゴブリンが何かを守るように整列し、他のゴブリン達は周りに群れる――そして、


「う、嘘……」


 梓ちゃんは絶句した――ボクも、ゴブリン達の中心に現れた、可愛らしい小人に釘付けになる。


 他の小人達と同じような簡素な衣服を身につけているが、かなり整えられていてまるで絵本の世界の主人公のようにも感じる。明らかに、他のゴブリン達とは、様子が違う――


「うう……」

「梓ちゃん?」


「か、可愛い!! お持ち帰りしたい~~!!」


 ドン!!


 地面にクレーターを作り飛び跳ねる梓ちゃん!!


「いけません!!」


 ギュオン!! ダン!!


 その梓ちゃんの目の前に、りくちゃんが舞い降りる――!!


「りくちゃん、ドラゴンは……?」

「もう、倒しました――」


 そういうりくちゃんの指差す先には翼を破られて地面にのたうちまわるドラゴンが見えた。


「あの向こうからやってくるドラゴンの群れがここに到達する前に鍵穴に向かいましょう!」

 りくちゃんが、ボク達の手を引いて走り出そうとする!!

「ちょ、ちょっと! ドラゴンの群れをどうにかしないと、下手したらこの子たちまで被害が出るよ!?」


 梓ちゃんがゴブリン達を……っていうかあの可愛らしい小人の少女を見て言う――その手の中にあるスマヴォでゴブリン達の中の少女を撮影しながら――


「っていうか、この子をゴブリンの中に置いておけるの? 日本に連れ帰ったほうが良くない!?」


 梓ちゃんがほんの少し邪念がこもった顔で言う――


「この小さな重力の中で生きてる生物を、地球の重力に晒したら潰れてしまうんじゃないかしら?」


「うう、でもあのドラゴンの群れに襲われないように、安全な場所まで連れて行くのは……」


 もうだいぶ視認できるようになったドラゴンの群れ―――


「安心してください、あのドラゴンの群れの目的はおそらく――」


 りくちゃんがそう言った時だった――


「グギャアアアアア!!」


 地面にのたうちまわっていたドラゴンが、悲鳴を上げる!! 一番早く飛んできたドラゴンが、そのドラゴンに噛みついたのだ!!


「――うっ!!」


 ――共食い――


 弱ったドラゴンを、他のドラゴン達は喰らおうというのだ。

 後続のドラゴン達も同じ目的でやってきているのだろう。


「弱ったドラゴンは、他のドラゴンにとって餌でしかない――いいえ――」

 りくちゃんは、周りのゴブリン達を見渡す。

「おそらくこの小人達も、そのおこぼれに預かろうと思って集まってきたのでしょう――」


 あらためて周りを見ると、ゴブリン達はあの可愛らしい小人を中心に岩陰や地面に開いた穴に隠れ始めていた――


 それにしても、

「ドラゴンって……美味しいのかな?」

 ボクはフト、そんなことを口に出してしまう。

「重力の小さい世界の生物なんて、中身はほとんどスカスカだと思いますよ。特に空飛ぶドラゴンは見た目よりもはるかに軽いといわれています」

「……ようは鳥みたいなものか……」

 唐揚げとかにしたらおいしそうだな、とボクは思った。


「あら?」

 仕方なく鍵穴に向かって走り出そうとした時、名残惜しそうにかわいい小人を見た梓ちゃんが声を出す――

「あの子、何をやってるのかしら?」

 彼女は小さなナイフで、平らな石に何かを刻んでいる――

「絵をかいているんじゃない? これはドラゴンと……空飛ぶりくちゃんにボク達、かな?」

 ボクもかわいい小人の描く絵をチラリと覗く――

 まだ大まかだが、地面に打ち倒されたドラゴンとそれを討ち倒した空飛ぶりくちゃん、そしてそれをたたえる様子のボクと梓ちゃんらしき姿が描かれていた――


「これは……この世界に新たな神話を生み出してしまったかもしれないな」


 完成品を見てみたいと思ったけれど、それは諦めなきゃいけないな

 ――いや、もしかしたらこの世界の数千年後の異世界に、行くことがあるかもしれないけど――

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