開かれる異世界への扉?
「あの時、光の中で手に入れたこの鍵は――多分、この鍵穴に差し込むべき鍵だと、私はそう確信しているの――」
「根拠は?」
梓ちゃんの右手首に付いている腕輪から伸びる細い鎖――彼女は、その先についている鍵を手に持ち鍵穴へ向ける――
「あの超常自衛隊の七瀬三佐って人は、手がかりが少ないって言っていた――でも、あの人は多分この鍵穴のことは知っていたんだと思う。だけど、この鍵がなかったからそれ以上の調査はできなかった、だからそう言っていたのよ」
そうだね、ここはボクが突っ込むところかな?
「そんな鍵があるんだったら、なんであの田原さんとか七瀬三佐さんとかがいた時に出さなかったの?」
「――クラスメイトの皆がほとんどいなくなっちゃった後で、こんな異世界の物かもしれない鍵を持ってるなんていう理由で、私までおかしくなったら1年5組はどうなっちゃうの? 私達クラス全員がまともじゃないなんて、考えられない……だから私だけはまともでいないと!」
「まだ、ボクがいるじゃん」
「あなたははっきり言ってまともじゃないでしょ、真琴――」
軽くボクをにらんでそういう梓ちゃん。なんか心外だ……
「……梓ちゃん――あの時も、そして今も異常事態だって事はわかっているよね?」
「もちろん――でも、もしこの鍵で異世界へ行くことができて、クラスメイトをその異世界から助けることができたら――私は一躍有名人になるわね! それがクラス委員たる私、立花梓の役目!!」
「……それがまともな人間の行動かな?」
梓ちゃんはその後もなんかしゃべりながら、鍵穴の前に鍵を突きつける――だけど――
――ピタリ――
「……………!」
鍵を空中に浮かぶ鍵穴に向けた状態のまま、梓ちゃんは動かない――
「――? どうしたの……?」
ボクがそう声をかけると、梓ちゃんはしゃべっていた口を閉じて、
ギギギ―――
動きを止めていた梓ちゃんの顔だけが、ゆっくりとボクの方を向く。
「――いや、なんでもないわ――」
さっきまでの勢いのいい言葉はどこいったのやら? 言葉にもさっきまでのテンションは無い。
「……」
あ、そっか。梓ちゃんはもしかしたら、この期に及んで怖じ気付いてしまったんじゃないだろうか? あと1歩、踏み出す勇気が梓ちゃんにはないんだ――
ボクは、無言で梓ちゃんの後ろに回る。
「ちょっと、何後ろに回っているの? 押さないでよ!」
――未知なるものに対して恐れを抱くのは当然だね――
「押さないでよっ、押したらダメだからね!!」
後ろに回ってよくわかる。梓ちゃんはガッチガチに緊張している――
全身汗だくになってるし、小刻みに震えているし、声もむちゃくちゃ硬い――
「いいわね、絶対に押さないでよっ!!」
ドン!!
「え――?」
ボクは梓ちゃんの背中を思いっきり押した――
カチャン!
それにより、梓ちゃんの鍵は無事鍵穴に刺さる!
「ちょっと!! なんで押すのよ!!」
「いや、前フリだと思って」
「前フリって何!?」
知らずば教えてしんぜよう!!
「押すなよ、押すなよ、絶対に押すなよ――の絶対に押すなよの所で押す!! 偉大なる先達より伝わるお笑いの常套句!!」
「そんな常套句存在しないわよ!!」
バキバキバキィッ!!
梓ちゃんの三段蹴りがボクにヒットする!!
カチャ――
「あ――」
三段蹴りの反動で鍵が回転する――
「わ、わ、わわわ――鍵が、鍵が回っちゃった!」
「という事は……これで異世界への扉が開く……!?」
――キ――キ――
一筋の光の線が鍵穴から上下に伸びる!!
「おお、なんかそれっぽい演出!!」
「え、演出!? それって何!?」
ある程度上下に伸びた光は、左右に広がり始める。
「まずい、このまま教室全体にこの光が広がって私達も飲み込まれちゃんじゃない! そしてそのまま異世界に行っちゃうんじゃ!?」
「梓ちゃん落ち着いてよ! 異世界召喚物の常識として、まず女神が現れてチート能力をくれるっていうのがセオリーで……」
カカカカカッ!!
「え?」
鍵穴から伸びた光はある程度の大きさで止まった。
そう、人一人がようやく通れるくらいの大きさの長方形の光。
それが、鍵穴を中心に広がっている――そして、その光から……何かがたくさん飛び出しきた――
「え~と、何なのこれは……?」
梓ちゃんが教室の中心に出現した長方形の光の扉より飛び出した沢山の小さな四角形の物体――あえて例を挙げるとするならば……そうだなあ、
「小型のテレビのテレビ画面みたいだね。もしくはたくさんの画像を映したスマヴォ?」
「そんな呑気なことを言ってる場合!? まあ確かに、小型テレビとかたくさんのスマヴォって言われたらそんな感じに見えるけど――でもこれ、どこの風景が映っているの!?」
そう、長方形の光から飛び出してきた四角い何かには、それぞれ平原とか砂漠とかお城とか、よくわからないものが鮮明に映っている。どこかのファンタジックな街並みが映っているものもあり生活している人が確認できるのもある。
そんな中には、明らかに地球では無い……というか、この世界では考えられない風景が映っているものまである。
そして、同じ風景を映しているものは何一つない――
「……もしかしてこれ、異世界の風景を映しているの?」
そうなのかもしれない。もちろん、全部が全部ファンタジーの風景を映しているものばかりじゃない。オーバーテクノロジーで作られているような飛行船や宇宙船みたいなものが映っているSFちっくなものもいつかあるし、どうってことないごく普通の――この地球で見慣れた風景――みたいなもの――が映っているものもある――
「何か、良く分からない人が歩いてる映像もあるわね――それに、これ……もしかしてドラゴンってやつじゃない?」
右手に鍵が繋がってるためその場から動けない梓ちゃんは恐る恐るという感じで飛び出してきているテレビ画面みたいなもののうち、一つを指差す――
「ドラゴンって……? マジ!?」
ボクは梓ちゃんが指さしているやつを見る――そこには、確かに翼を持った緑色のドラゴンが映っている! 大きさは、映っているものがそんなに大きくないからわからないけれど、かなり洗練されたデザインに、立派な角や牙を持つ紛れもないドラゴン!!
「これって、ドラゴンがいる異世界があるってこと!?」
ボクはそのドラゴンが映っているやつをトン、と触る――
その時だった――
シュン……
光の周りに浮いていた異世界の映像が、ボクのさわったドラゴンの映像覗いて消え失せる。そして、ドラゴンの映像が鍵穴から広がる光と一体化し――!!
「な……!?」
「うわ、すご……!!」
ボクと梓ちゃんの目の前に、そのドラゴンの姿が鮮明に現れる――
そう、ドラゴンのいる異世界への扉が、今、教室に開いたのだ――!!