不思議な鍵穴 異世界への鍵?
『今日の午後、県下の風巻高校で生徒達が28人の生徒が異世界に連れ去られるという、大量異世界召喚事件が起こりました』
高橋先生の持っているスマートヴォンの動画に映っているのはボク達が通っている風巻高校の映像だった。
『行方不明になっている生徒は以下の28人です』
動画が切り替わり、あんまり似ていない子供の顔写真と共にクラスメイト達の名前が表示されていく。
当然だけど、ボク、大友理琴と立花梓ちゃんの名前はなかった――
「う~ん……写真の下に小学校や中学校の卒業アルバムより提供って書かれてるけどこの学校で撮った写真は使われてないのかなぁ? 確か、このあいだ全員で集合写真を撮影してたよね?」
「28名もの生徒が消えてゴタゴタしている時に、マスコミに写真提供なんてしている学校があったら、だれも行きたくなくなるでしょうね!」
うん、いつもながら梓ちゃんのツッコミは的確だね。
「あ、フェイスマガジンからっていう文面があった。っていうかこいつ、フェイスマガジンやってたんだ! でもなんか、美化されてない?」
「そういうところは、突っ込まなくていいと思わよ」
梓ちゃん優しい。
『政府は超常現象を専門に扱う機関、超常自衛隊を派遣し事件解明に全力を上げるという事です』
動画内のアナウンサーがそう言うと、今度は動画からでも臭ってきそうなゴミが散乱しまくった家が映される――
『次のニュースです○×市のゴミ屋敷問題で、行政は住人の入田利康(49)に対し……』
――ヴォン――
下品な男の顔が映ったところで、高橋先生はスマートヴォンの動画を止めた。
「以上が今配信されている動画ニュースです……と言っても現場にいる私達が知っていることもほとんどこれと大差ないことかもしれませんが」
うつむいた顔でスマートヴォンをバック中に片付ける高橋先生。
「安心してください、我々超常自衛隊全力を持って、召喚拉致被害者の救出に当りますので!!」
そう言って分厚い胸板を叩いたのは、自衛隊の服を着たごつくていかついおっちゃんだった。
「田原さん……」
頬を少し赤らめて田原と呼ばれた自衛隊の男を眺める高橋先生――おいおい、ちょっと待ってよ! クラスメイトと担任教師を元気づけるのは、応援隊長であるボクの役目だよ?
「この事件解決のために超常自衛隊の中でも生え抜きのエリートと呼ばれる七瀬三佐が動いてくれていますのですぐに解決しますよ!」
ガラガラガラ――!!
「そう簡単に行くとは思わない」
閉まっていた教室のドアが開き、田原と同じ軍服を着た田原って人より数段かっこよく、そして幾分若い兄ちゃんが出てくる――
「え!! じゃあ、私の生徒達は――」
自衛隊員田原を眺めていた高橋先生はその若い自衛隊員に詰め寄る――
「七瀬三佐!! どういう意味ですか!?」
田原自衛隊員が声をかけたことによってその若い自衛隊員が七瀬三佐ということがわかった。
「……あれが三佐さん……? ずいぶん若いんだね……」
梓ちゃんがボクの隣でボソッと言う。
そうだね、あれはコネかなんかを思いっきり使って異常な速さで出世したんだろうね、うん、間違いない!
「助けられないとは、言えないが、多少は苦戦するかもしれない。ほとんど手がかりが残っていない――何かしらの手がかりかとっかかりがあれば、なんとかなりそうだったと思ってはいたが……」
そう言って、七瀬と言う超常自衛隊はパット型のパソコンを取り出して画像を見せる――そこには無人の教室が映っていた――
「あ――!」
うん?
今、梓ちゃん、『あ』って言った? 『あ』って言ったよね?
「まったく、こんな事件に取り組むくらいなら、宇宙人と戦った方がまだマシかもしれないな」
本気なのかそれともふざけているのか、よくわからない表情でそう言う七瀬三佐――
「自分は、宇宙人と戦う方が辛いのでありますが……」
「そうか、なら今度宇宙人攻めてきたらお前に任せるよ、田原――」
「ふざけてないでください!! 生徒達を助けられるのですか!?」
高橋先生は少し泣きながら超常自衛隊二人に詰め寄る――
「そうだな、もう少しきちんと考えなければいけないな――」
そう言って、七瀬三佐はパット型のパソコンを操作して誰かを呼び出していた――
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まぁ、そんなこんなでクラス内のほとんどの生徒がいなくなっちゃった1年5組はクラスとしては成り立たなくなり、ボクと梓ちゃんは他のクラスに編入することになったちゃった――
実はこういった異世界からの拉致事件はしょっちゅう起きているらしく、超常自衛隊はあちこちひっぱりまわされている。
だから、ボク達の学校にばかり構っていられない――
ちなみに、ニュースもそうだ。
いつどこで手に入れたかわからないクラスの集合写真――もちろんボクや梓ちゃんにはモザイクがかけられている――を映して報道していたニュース番組も、他の場所で異世界召喚拉致事件が起こると、すぐにそっちのほうに行ってしまう――
だんだんと少なくなっていくボク達のクラスの事件――そんな中でも時々ボク達の学校のニュースが報道されるんだけど、
『皆いい人たちでしたよ』
『元気でやっていてみんなちゃんと帰って来てくれます』
『無事で帰ってきてくれることを願っている』
『俺だったらいやだな』
『ったく――異世界へ行って大活躍って言うのは』
……どのニュースをみても、そうなんだけど……
「どうしてボクはカットされているんだろう?」
確か、このニュースに映っている上級生は、この後『主人公である俺の役目だろう』と言っていたはず――ボクもその取材現場にいたんだから――そして、カメラに映っていたはずだよ!!
「それは当然でしょ! 私も真琴、あなたもこの事件の当事者なのよ――テレビ局にだってそれがわかっているから私はあなたが映っている映像はニュースで流れないようにカットしてくれているんでしょう」
僕の前にいる梓ちゃんがそういう――
「そっか、確かにボクの顔がテレビで放送されたら『あの超絶美形は誰だ!?』っていう質問がテレビ局に殺到して次の日にはスーパーアイドルが誕生しちゃうね!」
「あなたの思考回路はどうなっているの!?」
バシッ!!
梓ちゃんの裏拳によるツッコミが僕にクリーンヒットする!!
「で、梓ちゃんはボクに何の用? わざわざ立入禁止になっているこの、1年5組の教室に呼び出したりして? もしかして、愛の告白?」
「私にそんな趣味は無いわよ。は~~……」
何事もなかったように話を進めるボクに冷たい目を向けて、あきらめたようにため息をつく梓ちゃん。なんでだろう? ボクと梓ちゃんなら結構いいコンビになれるような気がするのに。
「……ねぇ、真琴……あなたはその……異世界に召喚される物語というものに対し何かしらの詳しい……知識を持っている?」
言葉を選びながら梓ちゃんはボクに言う――
「まあこれだけ、異世界の召喚拉致事件が起こっていたらね――そういったものを題材にしたネット小説とかも結構たくさんあるし」
「だったら――これが何なのか、わかる?」
梓ちゃんが一歩、右に動く。そこは、ちょうど教室の中心といった場所だった――そこに、何かがある。
「? 何、これ?」
僕が宙に浮かぶ黒い穴――上が丸くて下に細長い長方形――まるでそれは……
「前方後円墳!!」
ドガ!!
「こんな時までつまらないボケをしてるんじゃないわよ!! これはどう見ても鍵穴でしょ!!」
梓ちゃんのかかと落としが、ボクの右肩から真下へ、一気に振り落とされた――
「でも、鍵穴って言ったって鍵がなかったら何にもならないじゃない?」
大したダメージもなく起きあがったボクは梓ちゃんに尋ねる――
「……………………鍵ならあるの」
――シャラン――
「?」
真横に突き出した梓ちゃんの右手に腕輪と鎖につながった小さな鍵が付いていた――
大きさから言って、教室の中央にぽつんと浮かぶ鍵穴に入るくらいの小さな鍵だ。
「どうしたの? それ?」
「……あの時私は、この手を中に入れていたの――少し開いた教室のドアの隙間からね――あの光の中に――そして、私は異世界に行かなかったけど、この鍵を手に入れた――」
「その鍵は、異世界に関わるための手がかりだと言うの?」
コクン――
ボクの問いかけに、梓ちゃんは小さく頷いた――