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フクオカ  作者: 夜紫希
第一章
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忍び寄る影

日が沈み切るまで会議は続いた。小笠原がまとめてくれたおかげで最後は綺麗に作戦を整わせることができた。

学校の生徒たちが授業を終えて帰宅するタイミングと同時に会議も解散となった。駅までの道が同じだった竹志と優香は並んで帰るが、会話は一切なかった。

竹志は秘密を隠していること。それを聞けない優香。互いに気不味い空気となっていた。


「…なぁ柳」


長かった沈黙を破ったのは竹志。優香は思わず身構えてしまう。


「な、なに?」

「俺のこと、嫌いになっただろ」


その一言は優香の表情を曇らせた。


「え…何でそんなこと聞くと?」

「そりゃ…俺が、元軍学生だったからだ」

「…そ、そうね! 確かにビックリしたわね! でも嫌いになんか…」


その時、竹志の表情は酷かった。

口元は笑っているのに、辛そうな瞳で優香を見ていた。まるで何かを諦めているような、仕方がないと納得した表情。

それが、酷く嫌で不快な気持ちにさせた。


「…何で…何なん? どうしてそんな話になるとよ」

「だって嫌だろ?」


竹志は俯きながら小さな声で自嘲する。


「数え切れないほどの人間を、潰して来た悪魔のような奴なんか」


全身がゾッとする答えが返って来た。優香は何も言えず、ただ口を開け閉めするだけだった。

驚愕する優香に竹志は軽く笑った。しかし、そのふざけて笑う表情を見た瞬間、体は動いた。


「うるさい馬鹿」


パチンッと優香は竹志の頬を軽く叩いた。

目をパチクリさせ、竹志は自分の手で頬に触れてやっと今の状況を飲み込んだ。


「な、何すんだよ!?」

「知らん! タケが何したかアタシは分からんとよ!?」

「だからッ! ……だから知らなくていいんだよ。知らない方が良いことだって、あるだろ」

「…それでもアタシは、タケのことをもっと知りたいよ」


小さな呟きは、竹志の耳に届いた。

竹志は優香の顔を見るが、優香は目に溜まった涙を見せないように竹志と顔を合わせようとしなかった。


「タケは、ホント優しいとね」

「何だよ急に…俺は全然優しくないし、柳が思っているより最低な奴だ」

「そうやってわざと距離を取ったりするところとか優しさとよ」

「……は?」

「アタシが今日の会議のせいで軍学生ちょっとやだなーって思っている時、分かったから距離を取ったりしたんだよね?」

「…分かったかのように言うな。全然違うからな」

「嘘。分かると。あの子は雰囲気が違うなぁって思ったら関わりに行かないもん。思われる方もすぐに気付くし、これ以上踏み込もうとしない」


本当に理解していたかのように話す優香に竹志は驚きを隠せなかった。


「でもアタシは違うけん。タケが何であっても、味方でいられる」


ドンッと優香はグーで竹志の胸を叩いた。全然痛くないのに、体が震えた。


「この一年、ずっと一緒だったし、変に格好つけんな、馬鹿ッ」


少し照れながら言う優香に竹志の顔は赤くなる。


「は、はぁ!? かっこつけてねぇし!」

「…キモかった」


グサリっと優香の言葉のナイフが竹志の心にまた刺さった。本格的に大泣きしそうになるがそこは頑張って堪える。

照れた顔を見えないように、竹志は優香にお礼を言う。


「まぁ何だ…礼を言っとくよ」

「普通にありがとうって言えない?」

「うっせ」


重くなっていた空気はいつもと同じ落ち着ける空気に戻った。

気持ちが楽になった竹志はペラペラと今日の会議で起こそうとしたバカなことを話す。優香は楽しそうに聞き、笑っていた。

駅まであと少しの所で竹志はふと足を止めた。


「どうしたん?」

「…いや、俺の卒業した高校を言ってもいいかなって」

「えー、どこでもいいっちゃけど?」

「何だ気にならねぇのかよ。こっちは嬉しい言葉をもらって言いたい気分MAXだぞ」

「フクオカ幼稚園でしょ」

「掘り返すな。それネタだから」

「どこでもいいわよそんなの」


優香はニッと笑いながら俺の背中をドンと押す。


「全然気にしないからね」


優しい声音に竹志は頬を掻いた。優香に照れているとすぐにバレているが、言わないでニヤニヤしていた。

竹志は咳払いした後、優香の目を見て話す。


「あのな、俺が通っていた高校は―――」


その時、竹志の言葉が止まった。

顔の表情を強張らせ、優香の前に立つ。まるで敵から守るように。


「最悪だ…目を付けられていたみたいだ…」


忌々しく言葉を吐き出す竹志。すぐに優香は事態を理解した。

竹志の視線の方向から男子制服を着た三人組がこちらに向かって歩いて来ていた。言わずとも分かる。第弐高校で見た制服と違うが、軍服を着ていることは竹志だけじゃなく優香にも分かった。

そして、このタイミングで違法夜戦をしようとする企む学生。つまり彼らは第壱高校の軍学生だということも。

三人は優香と竹志を逃がさないように囲む。ニヤニヤと笑う男たちは気味が悪かった。


「補助援軍だろお前ら? だったらもう分かるよな?」


一人の軍学生が竹志を睨みながら問い詰める。竹志は苦笑いで答える。


「手を出したら犯罪だぞガキども」

「馬鹿だなぁお前。俺たちは偶然夜戦の練習をしていたら規則を破ったお前らがいた。何も悪くねぇだろ?」


ニヤニヤと苛立たせるような笑みで軍学生は言った。その発言で竹志は何をしようとするのか瞬時に分かった。


(チッ、二十時まで足止めして巻き込むつもりか…)


確かにそれなら自分たちが悪くなってしまう。竹志は心の中で舌打ちをした。

年上に対して敬語一つ使わないだけでなく、自分を馬鹿にした軍学生に怒りを覚える。だが優香は怒りより恐怖心が強かった。


「た、タケ…!」


震えた小さな声で竹志の背中に隠れる優香。それを楽しそうに見る軍学生はヘラヘラと笑いながら近づく。


「おいおい彼女持ちかよ。やっぱボコそうぜコイツ」

「くははっ、リア充爆発ってか! いいね!」

「面白ぇなそれ! 時間になったらやろうぜやろうぜ!」


醜悪な笑みを浮かべながら近づく軍学生。優香はギュッとタケの服を強く握る。


「おいお前ら」


その時、タケは一歩前に出た。


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