表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フクオカ  作者: 夜紫希
第一章
6/32

無謀な援軍補助

援軍補助で適応される人間は二つ。《フクオカ》に住む住人であること。


———そして、命を捨てる覚悟があることだ。


何故なら補助された人間の大抵は軍服無しの人間。彼らは軍学生の前では一撃でやられてもおかしくないくらい弱者である。

戦争で援軍補助を出す場合、学校側は《フクオカ》の住民を雇っても、戦わせることは絶対にないのだ。戦争で使う武器準備などの雑用、通信機器の整備、資料をまとめる簡単な事をさせるために雇い金を払う。ただそれだけのことしかさせない。

制服を着れる人間は限られている。雑用をさせる軍学生など一人も出したくない状況にするのが普通だ。

しかし、普通じゃない奴らはここにいる。


「というわけだ。俺たちのフクオカ学園大学の生徒五十人は全面的に支援したいと思い、第弐高校の援軍補助として入りたいと思っている」


例えば、目の前にいる大学生たちとか、だ。

第弐高校の会議室にいた生徒たちがザワザワと騒ぎ出す。第弐高校の生徒会メンバーは目を見開いて竹志の話を聞いていた。唯一の女子である書記の西城(さいじょう)なんか「あ、頭がおかしい人がいるよぉ…」と()()失礼なことを言っている。


「え、えっと先輩方。本当に夜戦の前線に出せと言っているのでしょうか?」


恐る恐る尋ねたのはこの学校の全権代理者である生徒会長、鹿野(かの) 吹雪(ふぶゆき)。銀縁の眼鏡をクイっと上げながら再度問う。額から汗が流れているのは正気とは思えない発言を聞いたからだ。


「ああ」


戦争に勝ってやるというような強い意志も感じられない返事。いいから早く許可を出せと言いたげな表情に鹿野は言葉を詰まらせてしまう。

自分の学校生徒である後輩の兄が仲間を引き連れて助けに来てくれる状況はかなり嬉しい出来事。しかし夜戦の前線に出せと言われてしまえば厄介な出来事になってしまう。

軍学生の卒業生である彼らにサポートはしてもらえど、戦場に赴くことは決して必要ない。もし命を落としてしまえば罪悪感のあまりに鹿野はこれから先、生きて行けないだろう。

鹿野は七三に整えていた髪を乱しながら頭を掻いた。


(援軍補助で物資の調達や整備は聞いたことがある。でも先輩の出す異例は過去に聞いたことがない。制服が着れない先輩たちが戦えるわけが…)


高校生だけに着用が許された制服。それを着ることができなければ圧倒的強さを持った敵には勝てない。そもそも数の差が絶望的状況だというのに。


「あ、あの! 世志君のお兄さん!」

「お、おう。どうした?」


薄い黒髪で短髪の女子生徒、西城が緊張しながら竹志に話しかける。急に話しかけられた竹志も困惑してしまっている。ナチュラルに弟のことを名前で呼んでいるあたり嫉妬している。あのチャラ男、こんな可愛い子と仲が良いのかと。


「し、失礼かもしれませんが…あの…」

「何だ? 言ってみろよ。怒ったりしねぇから」

「はい…えっと…」


その時、生徒会メンバーがゴクリっと唾を飲んだ。


「話にならないので帰ったほうがいいかと…!」

「この子すっごい毒舌なんだけど?」


あまりの斬れ味に怒ることを通り越して不安な表情をした竹志。生徒会のメンバーが口を揃える。


「「「天然です」」」

「なお悪いわ」


全くその通りである。

竹志はため息をつくと、話を始める。


「ハッキリ言うぞ。お前らが第壱高校に勝てる見込みはない」

「そんなこと…俺たちが一番分かっています」


鹿野の拳は怒りで震えている。卒業した先輩方に託された学校が今、存続の危機に陥っている。それがどれだけ悔しいことか。


「負けるわけにはいかないんですよ。血眼で助っ人を探して、自分たちに(ムチ)を打って鍛えています」


鹿野は諦めない。敗北が決まるその瞬間まで絶対に戦い続ける。

決意はもう固まっていた。例え敵の数が多くても屈しないことを。


「この学校で一番強い俺が、前線に出て士気を高めれば今の戦力で勝つ可能性だって!」

「いい加減現実を見ろよクソガキ」


竹志の低い声に鹿野は押し黙った。周りも竹志の反応に驚いている。


「お前がリーダーなら、冷静になって勝てる指示をしろ。勝てないなら穏便に負ける方法を考えろ」

「ふざけているのはアンタの方だ! 勝てる指示? 穏便に負ける? 勝てなくても必死に抗い、負けない作戦を模索する方がよっぽど―――!」

「だから綺麗事抜かしてんじゃねぇぞ。テメェの勝手な価値観で、同級生や後輩、俺の弟を危険な目にあわせてんじゃねぇ!」


竹志の一喝が部屋に響き渡った。鹿野は開いていた口を閉じ、唇を思いっ切り噛み締めた。

本当は分かっている。少年漫画のような熱い展開にはならないことを。諦めなければいつか奇跡が起こることなんて無いことを。

そんなことが起きるわけがないこと、一番自分がよく理解していた。

奇跡は起きないと頭で理解していても、心のどこかで期待していないと、おかしくなりそうだったから。

この最悪な状況に、圧倒的に不利な状況に、屈しそうになっていたから。


「じゃあどうすれば…どうすればいいんだよ! このまま負けを認めろってか!? 負けた屈辱をみんなで味わえって言うのか!?」


鹿野の叫びが周りの者たちを不安にさせる。自分たちの長が悔しそうに、涙を堪えて苦しんでいる姿は見ていられないモノだった。

だから、彼は静かに怒る。


「リーダーが周りを不安にさせてんじゃねぇよ。どんな状況でも、胸を張って最後まで強がれ」

「黙ってください…」

「こんな悩み、単純なことだろうが。俺たちを前線に出せばいい。それだけで勝てるって俺は言っているんだ」

「信じられるわけがないでしょ…」

「だったら信じなければいい。利用しろよ」


その発言に鹿野はバッと顔を上げた。

耳を疑った。彼は今、信頼しなくていいと言ったのだ。


「使えないと思ったら切り捨てろ。裏切ると思ったら背中を刺せ。それくらいのこと、考えておけよ」

「ほ、本気で言っているのですか!?」

「本気じゃなきゃそもそも俺はここにいねぇよ。冗談で俺の友達がわざわざ仲間を集めたりなんかしないだろ」

「どうして…そこまで自分のこと悪く言うのですか……」

「なぁ生徒会長。お前は俺と学校の全生徒、どっちが大事だ?」


竹志の質問に鹿野は答えない。しかし、沈黙は答えを出しているようなモノだった。

鹿野の答えない解に満足したのか、竹志はニカッと笑う。


「俺みたいな奴より、学校の奴らの方が大事なのは当たり前だ。だから、これからもちゃんと守れよ」


鹿野は竹志に騙されたのだと気付く。自分の評価を低くして危険な前線にわざと出させようとしていることに。

だが同時に期待という感情も心に生まれていた。

この無謀な提案に、彼はどのように答えてくれるのか。どのように救い出してくれるのか。


「先輩、どうか俺たちを助けてください」

「ん、後輩の悩みくらいいくらでも聞いてやるよ。あと弟をこれからもよろしくな」


鹿野の助けに竹志はすぐに返してくれた。生徒会室の空気は少しばかり和やかなモノに変わった。

ずっと重たかった背中の荷物が、先輩が持ってくれた。気持ちは大分楽になり、やっと息をつくことができたような気がした。

その後、鹿野は両手で竹志の手を握りながら何度も感謝の言葉を送り続けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ