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フクオカ  作者: 夜紫希
第二章
32/32

過激派の暴挙

———《フクオカ》の軍学生が絶対にしてはいけないこと。

一つ、自国の情報を売ること。

二つ、軍服や自分の細胞や血液を売ること。

ならば逆もまた然り。国の情報を盗まれたり、軍服や細胞を盗られてはいけない。

それが今、起きている瞬間を(とら)えた映像が流れていた。


「『平等平和(フェアピース)過激派』の一団が国に侵入。政府組織を襲撃して軍服を奪って行きました」

「そんな馬鹿な…守りはどうした? あの軍学生たちなら余裕だろうが」


竹志は愕然(がくぜん)としていた。いくら何でもありえない、信じられないと首を横に振っている。

第参高校の生徒会長———神河(かみかわ) 天音(あまね)は嫌な顔をしながらゲームのボタンを押して操作すると様々な映像が何度も切り替わる。


「風紀委員は地下街で暴れている過激派の逮捕(たいほ)で忙しかった。だから政府の警備に回されるのはどこの高校かと言うと…」

「……第四高校か」


竹志の解答に天音は頷く。ここでその名前が出るのは不気味で仕方なかった。

軍蔵から得た情報でも、あの夜戦の火種は第四高校の仕業だった。そしてまた第四高校。

不自然としか思えない。第四高校の名前が嫌な形で何度も登場している。

天音は俺の顔を見ながら説明を続ける。


「政府が襲撃(しゅうげき)された時、見張りをしていた軍学生はほぼ全滅」

「それこそありえねぇだろ!?」


思わず声を荒げて否定する。驚きと同時に張り上げてしまった。

第四高校は《(とう)》の高校とまで呼ばれている。戦争に特化した集団ゆえに団体行動なら強さを発揮できる。テロ集団なら迅速(じんそく)に潰せることは間違いない。

それが全滅なんて馬鹿げた話にしか思わない。冗談としか捉えきれない。


「ありえないから裏がある。その結果、軍服が盗み出されているのだから」

「軍学生がただの人に負けるわけがない。裏があるのは間違いないが…」

「その裏が分かっているならとっくに天音は第参高校の生徒を動かしてる」


当然だと言わんばかり顔で天音は竹志より先に言っておく。

事件の詳細を聞くと天音は説明しながら犯人を捉えた映像を全て閲覧(えつらん)させてくれた。

天音は俺に対して何かを狙っているのは分かっている。だがあえてそこは踏み込むことにする。

しかし、映像は酷いの一言に尽きた。監視カメラの全てが何かが起きる前に破壊され、唯一映像に白い光が見えるだけだった。それ以上の情報は何も手に入れられない。


「第四高校の軍学生たちは銃弾で全員が負傷。政府の警備員は頭を撃たれて即死。過激派が侵入したことしか判明していない」


天音の説明に竹志は口を閉ざす。証拠どころか手掛かりがないことに黙ることしかできなかった。


「逃走時も最悪。軍服を一人でまとめて所持するのではなく、一人一着所持してバラバラに逃げてる。追跡が困難になった」

「もう国から出たのか?」

「こちらが知らない秘密のルートを使われていたなら終わり。それ以外なら目撃情報もないから…」

「まだ中に居る可能性はあるか…」


情報を全て開示した天音は竹志の顔を見て返答を待つ。後ろでは優香が不安な顔で竹志たちを見ていた。

真剣な顔で情報を細かく見る竹志。映像も何度も再生を繰り返していた。

時間にして数十分。天音はクルクルと椅子で回り始めて、優香は竹志と天音に飲み物を買って来てあげていた。


「コーラで良かったかな?」

「完璧」


天音が嬉しそうにコーラを受け取り一気に飲む。お茶を竹志に渡そうとすると、


「手掛かり見つけたぞ」

「ぶふっ!?」


天音の口から盛大にコーラが噴き出した。竹志の顔にコーラが思いっ切りかかる。

苛立った顔で天音を威圧すると、急いで手をパンパンと叩いた。


「タオルです!」


気が付けば隣で片膝を着いている第参高校の軍学生が居た。天音が呼び出したのだろう。

タオルを受け取り顔を拭く。同時に手掛かりとなる映像を流してストップする。

映像は過激派の逃走する姿。とても小さく、奥の方に居るので顔は不明のまま。


「な、何が分かるの…」

「全然小さくて分からないわよタケ…」


目をグッと凝らして映像を見る二人。竹志は過激派の足を指差す。


「ここだ。ズボンの(すそ)が濡れている。水路を使って侵入して来た可能性が高いと思う」

「嘘!? こんなの普通気付かないけど!?」


竹志の証言に偽りはなく、微かに濡れているのが分かる。ズボンが僅かに濃く変色していた。


「水路で証拠が見つかると良いな。現地で調べるのは風紀委員辺りに任せれば仕事は早いと思うぞ」


あまりにも小さい証拠だが、大きい手掛かりだった。天音は椅子の上に立ち上がり、大声で呼びかけた。


「水路よ! 《フクオカ》中の水路を調べなさい!」

「「「イエッサー!!」」」


十数人の軍学生が立ち上がり敬礼。すぐに走り出して出て行った。

残ったコーラを一気に飲み干す天音。彼女もどこか忙しそうに携帯電話を扱っていた。


「感謝するわよタケきょん。これは困った時にね」


天音は竹志の手に小さな紙を握らせる。そこにはメールアドレスの様な物が書かれている。

困った時は頼れと言う意味だろう。だが気になることが一つだけある。


「何もしないのか?」

「利用すると?」

「俺はお前がそうすると思っていた。今のも柳を人質にすれば俺は間違いなく命令に従った」


天音は驚いた顔をした後、クスリと笑う。


「ネットの情報にも信用できるかできないか、凄く大事よね? それは現実(リアル)でも同じ。信頼できる者からの情報はとても大切で大事にする方が良いの」

「……第参高校らしくねぇな。あまり賢いと思わない」

「頭が良いから、賢いからって理由だけで今は生きられないのよタケきょん?」


小悪魔ような笑みを見せながら天音はその場から離れて行った。





「会長、よろしいのですか?」


建物の外に出ると近くから見守っていた第参高校の部下の一人が話しかけて来る。天音は手に持ったタブレットを見せることで黙らせた。


「無理よ。天音たちが下手なことをすればこっちが危ないわ」


タブレットには小倉 竹志の情報が記載されており、先程のバッティングデータも載っていた。

速度約三百五十km/hの球をバッドで打ち返す。球を捉えていること自体が人間として逸脱(いつだつ)していが、それ以上に信じられないデータが取れてしまっている。

あの球を打ち返し、ホームランまで持って行くには巨漢の男が持つ膂力(りょりょく)でも無理がある。身体強化した軍学生ですら厳しい球を一般人である竹志に()()()のだ。

速度を徐々に落とす予定が、最高速度を打ってしまった男を見た時は目を白黒させた。


「元最強たちって、引退した後も常識破りなのね…」


生徒からタブレットを返して貰うと天音は別のページを開く。

そこには『賢帝(けんてい)』、『凶姫(サドクイーン)』と書かれた顔写真、そして細かいデータが載っていた。同じ列には先程追加された竹志の顔写真もある。


「元最強軍学生の残りは『剛腕(ギガント)』だけ。よしパス」

「えぇ…」


序列三位の『凶姫(サドクイーン)』の上に君臨した元最強の顔写真を天音は消す。データは学校にあるのでタブレットに残ったデータは全て削除した。その行動に生徒たちは不安な顔になってしまう。

しかし、彼女は『剛腕(ギガント)』の動向を知っているからこそ無視するのだ。


「それよりもよ! これから風紀委員と連携して第四高校の動きを一切逃さないようにする! そして全学生に告げなさい。今から学校から出るのは禁止と!」


天音の宣言に軍学生たちは頭を抑えながら絶望の波に()まれる。

極秘情報を第参高校から漏らさない為の特別策として『第参軍学生完全閉鎖籠城(ろうじょう)』———軍学生を学校内に宿泊させて保護することだ。つまり、学校に引き(こも)令状(れいじょう)を生徒会長権限で天音は使ったのだ。

年に一度あるかどうかの頻度で行われるのだが、過酷(かこく)な日々になるのは間違いないのだ。

いつ終わることができるのか分からない期間。外の情報を漏らすことができないので気軽に携帯ゲームで遊ぶことも連絡を取ることもできない。食事は倉庫に保管された食料のみ。

下の者は上の者に見張られ、上の者は更に上の者に見張られる。情報を完全に自分たちのみで共有する態勢(たいせい)を作り上げるのだ。辛くないわけがない。


「安心しなさい! 天音は鬼じゃない、ちゃんと分かっているわ!」


その救いの言葉に軍学生たちは顔を上げる。


「食料のことも、自由時間のことも!」


絶望に染まった目にキラキラと輝きを取り戻す。天音は堂々とした態度で発言する。


「食料は倉庫のカップ麺だけじゃないわ。今回はピザ職人を雇っているのだから!」

「……ピザだけですか?」

「ええ、十分でしょ!」


生徒たちの表情が真顔に切り替わる。様子がおかしい。


「部下を鬱病(うつびょう)になんてさせない…レトロゲームの持ち込みも許可したわ!」


感想。微妙と生徒たちは涙をホロリと流しながら呟いた。

それでも第参高校の地獄生活———『第参軍学生完全閉鎖籠城』は始まるのだった。





思わぬ人物との遭遇(そうぐう)だったが、夜戦の様な厄介なことに巻き込まれずに済んだ。結構嫌なことには絡まれたが。

天音がどこかに行った後、少し休憩してから俺たちも建物を出た。優香と一緒に(いちご)ケーキの引換券を近くにある専門店で交換しに貰いに行く。


『まさか第参高校の生徒会長が先輩にわざわざ接触するなんて…』

「まぁこれが俺の知った情報だ。忙しいだろうに急に悪いな」


店の前で俺は夜々月に電話を掛けていた。優香が店内で券を交換している間に先程起きた事と手に入れた情報を教えたのだ。

事件が多発して慌ただしい中、電話に出てくれた夜々月を労いながら謝ると、


『ええ、ええ、これは重罪です。事件が解決した後は先輩から全奢りデートをしないと駄目ですからね?』

「着信拒否していいか?」

『厳しい先輩もまた素敵…!』

「脳どころか耳まで腐ってんのか」


平常運転な夜々月を相手するのに疲れを覚える。普通に会話して終われないのか。

暗くなった道に街灯がともる。時間を確認すれば十八時半を過ぎていた。


「夜戦が始まる前に帰るとするか。お前も調査に巻き込まれたりするなよ」

『調査場所は閉鎖済みですからご安心を。それに今も地下街なので夜戦は起きませんよ』


そうかと答えて安堵の息をつく。風紀委員の最高責任者になった今でも心配になってしまう。

軍学生の元後輩として元先輩が、何かしてあげれないかと考えてしまう。夜々月が電話越しでクスクスと笑っているのが聞こえて恥ずかしくなって来る。


「タケ、交換したわよ。半分ね」

「ああ、サンキュー。それじゃあ———」


切るぞと言いかけた時、異変は起きた。

ズガガガガッと銃声が聞こえたのだ。連続して鳴り響く音に俺と優香は同時に聞こえた方角を振り向く。

電話越しからでも夜々月には聞こえていた。


『…おかしいですね。違法夜戦ならとても良い取締ができるのですが』

「野太い男の声が聞こえた。学生じゃないな」

『駄目ですよ先輩。すぐに向かいますから絶対に———!』

「悪いな夜々月」


そう言って通話を無理矢理切る。関わっちゃ不味いと分かっているが、本能が行けと命令しているのだ。

ケーキを優香に渡しながらお願い事を告げる。


「柳はここに居ろ。近くに軍学生が居たら助けを呼んでくれ」

「待ってタケ!? アタシと一緒に助けを呼んだ方が…!」

「軍学生相手なら骨が折れるが、銃を持ったただの人間なら何とかなる」


そう言って優香の静止を無視して走り出した。

銃声が聞こえて来たのは路地裏。薄暗い建物と建物の間にある細い道を駆け抜けると、三人組の黒い覆面(ふくめん)。目と口に穴を開けた覆面が銃口から硝煙(しょうえん)を上げて立っていた。

足元には女子軍学生が二人。ここからじゃどこの高校なのか判別できないが、そんな些細(ささい)な事は救うことに関係しない。


「ッ!!」


男たちが気付く前に奇襲(きしゅう)を仕掛ける。一番近くに居た覆面の背中を強く押し、一人の覆面とぶつからせる。ここで三人組はやっと俺の存在を認識した。

残った覆面が突如現れた俺に銃を向けるが一瞬だけ遅い。発砲する前に右足で銃伸を蹴り、誰もいない場所に銃弾を浴びさせた。

聞き慣れた銃声が耳に響くが、(すく)むことなく攻撃を続行。覆面の喉を左手で掴み覆面を逃がさない。グッと握り絞めた右手で覆面の顔を三度殴打(おうだ)する。

覆面の意識を()り取った後、よろけていた二人が銃を向ける。発砲しようとした瞬間を狙って、気絶した覆面を盾代わりにして距離を詰めようとする。

衝撃が盾にした体から伝わり顔を(ゆが)める。僅かに左腕を銃弾が(かす)るが、痛みで狼狽(うろた)えるわけにはいかない。傷ついた左腕と右腕を死体の後ろから銃身へと伸ばす。両手で上へと上げると銃声は止んだ。


「このガキッ!?」


男の声を上げる覆面は再び銃を構えようとするが間に合わない。もう一人の覆面の腕を掴んで盾にする。しかし今度は撃たない。二度も同じ手は通用しないと言いたげな笑みを見せていた。

———それぐらい、竹志が予測できていることも知らずに。

盾にした覆面から銃を後ろから奪い取る。そして盾にした男を右足で横に蹴り飛ばしながら笑う男に向かって発砲。呆然と見ることしかできなかった馬鹿な男は血で真っ赤に染まった。

銃を無くした男は腰から拳銃を引き抜こうとしているが、そのまま銃を横に向けるだけでその命は終わる。

……路地裏は血で汚れた惨劇(さんげき)が広がっていた。

自分のやった行動に不快感を覚える。人として逸脱(いつだつ)した事をやっていることくらい分かっている。しかし、軍学生時代の時から命の奪い合いとはこういうことだと思い知っている。

やらなければやられる。弱肉強食な世界なのだから。


「おい、しっかりしろ」


血で濡れた手で倒れた女子軍学生たちの体を揺さぶる。起きる反応は見せないが息はしている。外傷が見当たらないことから薬で眠らされていたことが分かる。

———外傷がない?

違和感を感じた。軍学生の服をよく調べてみるがどこにも怪我をしているようには見えない。


(おかしい。あの時聞いた銃声はこの覆面が持っている銃と同じ)


しかし、彼女たちに撃たれた痕跡(こんせき)はどこにもない。路地裏の壁やコンクリートの床を見てみるが自分たちが争い撃った(あと)だけが残っていた。

覆面が威嚇(いかく)射撃した可能性を思い付くが、この国に侵入することがどれだけリスクの高い行為かを理解しているはず。そんな奴らが不用意に発砲するだろうか。

その時、こちらに向かって走って来る足音を耳にした。振り返ると焦った表情で女子軍学生がやって来た。

銃を構えようとするが必要はなかった。何故ならその女子軍学生を知っているからだ。


「鹿野!?」

「先生!?」


短い茶髪に赤いカチューシャを付けた学生、鹿野 夏希(なつき)だった。驚いた表情で俺を見ていたが、この状況に顔が真っ青になる。

変な誤解をすると思い弁明しようとするが、


「大丈夫ですか先生! 怪我はないですか?」

「……あぁ」


俺の事を心配しながら近づいて来た。それに少し驚いてしまう。

しかし彼女があまり動揺を見せなかった理由はすぐに判明する。


「柳原先生から事情を聞いています。路上で泣きそうな顔でしたよ」

「……そうか」



夏希は片膝を地に着いて俺の事を気遣おうとする———そして返事と同時に銃口を夏希に向けた。

敵意を見せた俺に対して今度は驚いた様子を見せない。まるで命の危険を感じていないように見えた。

それどころかこの状況になることをある程度予想できていたように見える。冷静過ぎる。


「理由はいるか?」

「当然です。いきなり銃を向けられて驚かない人はいませんよ」

「目の前に居るだろ?」


理由を求める夏希に慎重に答える。軍学生としての実力を知っているが故に警戒している。能力(アビリティ)の発動、ただの近距離戦闘だけで命を刈り取られてしまう危険もある。

本来なら近づけたくなかったが、気付くのが遅くなってしまった。


「お前が(かが)むまで気付かなかったぜ」


竹志の視線は夏希の軍服。横腹に直線の汚れを発見した。

何かをひっかけたような痕にも見えるが、竹志にはそれが弾痕だと確信する。

竹志自身、彼女が敵とは思えない。しかし、味方として信用することができない。

何かを隠していることは確実だった。


「撃たれた理由、しっかりと聞いてやるよ。教師として」


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