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フクオカ  作者: 夜紫希
第二章
31/32

第参高校の姫様

二階は運動系のゲームが設置されていた。エアホッケーからパンチングマシーン、バスケットボールやサッカー、バッティングセンターまで幅広くスポーツができるように三階を小さくすることで広々とした空間になっていた。

優香は運動ができるのか?と考えていると、彼女は輝いた瞳である看板に指を指していた。


『ホームラン賞』


思わず真顔になった。これが本日の目当てなのか。

優香が打てるとは微塵(みじん)も思わない。何かの冗談かと顔を見て確認すると、


「頑張ってタケ!」

「俺かよ…」


納得すると同時に溜め息をつく。

ここで男を見せる時だ!といつもなら気合を入れるのだが、バッティングセンターの中を見るとやる気はなくなる。

———バシンッ!!!と先程から強い音が響き渡っているのだ。

屋内でもホームランを狙える距離に狙う的がある。しかし、球の速度がヤバイ。

速いのはもちろん、音で分かるが威力は相当な物。それも当然。このバッティングセンターは軍学生用に作られているからだ。

一応奥の一席だけは一般人専用だ。軍学生専用じゃなくて、一般人専用って部分がもう軍学生の為に作られたバッティングセンターだと物語っている。


「……ちなみに何が欲しいんだ」

「当然、ケーキに決まっているじゃない!」


『ホームラン賞 あまおう(いちご)ケーキ 二十個』


それは俺も欲しい。今後の食生活の為に。

だが、その文字の下に書かれた注意書きを見た瞬間、俺の心は一気に冷める。


『※一般人専用打席不可 二百五十km/hのみ』


———鬼か。

下手して頭にでも当たったら死ぬゲームじゃねぇか。デスバッティングセンターじゃん。

優香から危ないことはするなと言っておきながらこれはさせるのか?

……違うな。単純に気付いていない。景品に目が眩んで下の文字が見えていないようだ。

それにボールがそこまで危険とは思わず、凄く速いとしか思っていない。

期待されたこの眼差しに俺は裏切れない。それに優香は俺の為にここまで連れて来てくれた。腹を(くく)ることにする。

それに———俺には見えるから大丈夫だろう。

中に入ろうとすると店員さんに止められようとするが、大丈夫だと首を横に振る。

機械にお金を入れて傍に置かれた金属バッドを握り絞めてバッターボックスの左に立つ。


「おい見ろよ。あの人、軍学生じゃないぜ」

「マジかよ。俺たちでも打てないのに無理だろ」


後ろの外野が騒がしいが、一切気にすることはない。ただ前を見て集中する。

前方にあるモニター画面では悪い顔をした外国人風の男が投球しようとする———凄まじい速度の球が放たれた。

———バシンッ!!!という音が耳に響いて気付く。後ろでネットに落ちるボールを見ながら呟いた。


「……嘘だろおい」


額から汗がダラリと流れる。

中に入る前に見た球の速度と明らかに違う。投球された速度が上がっていた。

後ろに居る優香と軍学生たちは気付いていない。優香は期待に満ちた顔のまま頷き、軍学生はバッドを振ることもできなかったことを笑っている。

…何かの間違いだろう。二百五十の速度を商売で出す時点で狂ったバッティングセンターなのだ。少しくらい速度が上がることもあるのだろうと考え直す。

———そんなことはないと、本当は分かっているのに。

二球目が投げられる。今度は見逃すことなくバッドを勢い良く振った。


バギンッ!!!と大きな音を立てて金属バッドが砕け散った。


真っ二つになった金属バッドが足元に落ちる。手は酷く(しび)れて震えている。

その光景に優香たちが息を飲む。さすがに気付いたのだろう。


(ふ、ふざけるなよ…!?)


———球の速度は暫定三百km/hを越えていた。

更に速度が上がった。これは不調や不良とは言えない。

前方を見ればモニター画面に映った男がニヤリと悪意のある笑みを見せた。


「速くないか? さっきよりさ」

「でも故障…なわけないだろう。第参高校の携わった遊戯(ゆうぎ)設備だぞ」


後ろでざわつき始める軍学生たち。さすがに今の光景を見れば素人(しろうと)でも気付く。

金属バッドが折れたことに優香は顔を真っ青にした。急いで扉を開けて竹志の下に駆けつけようとする。


「大丈夫タケ!? 怪我は———あれ?」


だが扉は開くことなく、ガチャガチャと音を鳴らすだけだった。

閉じ込められたことを察した俺は無理にでも優香に笑みを見せる。


「危ないから下がってろ。ゲームが終わるまで開くわけないだろ?」


優香の不安な表情は和らぐことはない。それでも不安な気持ちを消そうと予備で置かれた金属バッドを手に取りグッと握り絞める。

先日のテロ事件を思い出す。地下街で有村が襲われたあの出来事。

今回も絡んでいるのかと思うが、第参高校の管轄(かんかつ)内なら可能性は低い。わざわざゲームにハッキングする自殺行為に近い馬鹿な真似はしない。それにテロリストたちの狙いは軍学生。俺を狙う必要は無いはず。

残された線はただ一つ———俺の素性を知る第参高校の誰かがイタズラを仕掛けて来た。


(ここは敵に見込み違いか、失望させたいところだが…)


後ろに優香が居る以上、人質を取られたりでもしたら最悪だ。

厄介なことには関わりたくないと思っていたのに。教師でも目指そうかと思っていたのに。

———この国は簡単に平和な日々を送らせてくれないようだ。


「すぅー…はぁー…」


深呼吸しながらバッドを構える。恐らく次の投球も速度を上げて来るだろう。

この際、相手が誰だろうと関係ない。このゲームに五百円玉を入れた時点で俺の辞書から諦めるという言葉は消えた。

とっととホームラン出して、景品でも手に入れるとしようか。

前方の画面が切り替わる。笑えることに悪い顔をした外国人風の男からムキムキのゴリラの様な男が立っていた。

大男は雄叫びを上げながら投球する———三百五十弱の速度の球が竹志に襲い掛かった。

それでも竹志はバッドを(おく)することなく勢い良く振る。渾身(こんしん)の力を込めて。

ガギンッ!!!と甲高い音が響き渡った。

握っていたバッドはまた折れてしまう。(しび)れた手でも、今度はバッドを離すことはなかった。

数秒の静寂が続いた後、ゴンっと何かがぶつかる音が小さく聞こえた。

次の瞬間、軽快なファンファーレが鳴り出した。まるでバッターボックスに立つ男を称えるかのように。


「ホームラン…」


呆然と光景を眺めていた優香が呟いた。すると竹志は振り返り震えた手でグッと親指を立てていた。


「ホームラン!? 凄いタケ! ホントにホームランだ!」


喜ぶ優香と驚いた顔になる軍学生たちの顔に俺は笑ってしまう。

壊れたバッドを箱の中に直す。扉を開けて出ようとする時、前方の画面が真っ黒に切り替わり、赤い文字が浮かび上がった。


『3-5-4L』


暗号の様な文字はすぐに理解した。この場所に来いと呼び出されているのだ。

映し出された暗号は数秒で消えてしまう。それを見た後でやっと部屋から出ることができた。

焦った様子で店員さんから心配されるが、バッドを折ったことを謝罪すると、全く気にしないで良いと許してもらう。救急車まで呼ぼうとするので全力で止めた。

最後に優香は店員からケーキの交換券を貰う。俺にも分けて欲しいとお願いしようとすると、優香は満面の笑みでお礼を言う。


「さっきの凄くカッコイイよ。ありがとうね、タケ」


可愛い笑顔で言われると照れてしまう。頬を掻きながら無難(ぶなん)な返事を返してしまう。

券を貰うことより、優香に喜んで貰えたことが何より嬉しかった。

頑張った甲斐(かい)があったと心の底から思えた。





最後に書かれた『3-5-4L』の意味。それはこのゲームセンターの三階に来れば自然と分かる。

三階はメダルゲームやアーケードゲームなどの筐体(きょうたい)が多く設置されていた。手前は大きなメダルゲームのコーナー、奥に進むと綺麗に整列した筐体があった。

列ごとに種類分けされた筐体を見ながら進む。指定されたのは五列目の四番目。そして左に座っている。

そう、暗号の意味は『三階の五列目の四番目の(Left)』———『3-5-4L』の答えだ。

優香が不思議そうな顔で後ろからついて来るが、俺の視線の先に居る相手に気付いたようだ。


「どうしたのタケ? 知り合いなの?」

「違う。だけど、向うは俺を知っているようだ」


格闘ゲームに座っているのは女子軍学生。制服は第参高校のエンブレムが見える。

小柄で外国人のような金髪。頭の後ろでまとめたポニーテールの少女はガチャガチャと音を鳴らしながらゲームをしている。

俺たちが背後に立った時、ゲームの画面に勝利の文字が出る。百連勝した文字と一緒に。


「んーぴったし。良いタイミングで来たけど、このゲームはクソゲーね。ハメ技やら即死必殺技が多過ぎ」


クルリと体を回転させて俺たちと向き合う。彼女は口端を吊り上げて笑いながら自己紹介する。


「初めまして小倉 竹志。第参高校生徒会長、神河(かみかわ) 天音(あまね)よ!」


堂々とした態度で足を組む天音に俺は二つの事に驚く。

一つは第参高校の長がどうして俺に接触しに来たのかと疑問を持ったこと。そして二つ目は慣れていないことをしたせいのか、組んだ足の隙間から白いパンツが見えてしまっている。


「見んなアホ!!」

「理不尽の極みぶふっ!?」


パンッ!!と優香は顔を真っ赤にして竹志の頬を叩いた。突然の暴力に天音は驚愕していた。


「な、何!? どうして叩かれているの!?」

「お前の…お前のせいだ!!」

「何でぇ!?」


怒りの形相で竹志は天音に向かって怒鳴っていた。天音は仰天(ぎょうてん)するしかなかった。

調子を狂わされた天音はオロオロとしていたが、何かに気付き態度を改める。


「こ、こほんっ。とにかくさっきのゲームは凄かったと思うわ。やるじゃない小倉 竹志」

「目上に敬語も使えねぇのかクソガキ。俺じゃなかったら大怪我だぞ」

「天音はクソガキじゃない! もう立派な高校二年生よ! 大人の仲間入りだって…ちょっと。何よ。何でそんな目で見るのよ!?」


———俺たちは知っている。高校二年生でその体型なら、もう希望は残っていない。夜々月が良い例だから…。

彼女がそれ以上成長する見込みがないと分かると優香は肩に手を置き「大丈夫」の連呼。竹志も微笑み「これから良い事あるさ」と(なぐさ)めていた。

ここまでされるとさすがに察する。天音は優香の手を払いながら涙目で反論する。


「ふざけんなよ!? 天音はこれでもモテるし可愛いから! それに希望はあるし! そこの成長しない胸のお嬢様よりはな!」

「ふざけてんのはお前だろ! 確かに優香の胸は控えめだが柔らかい感触は最高だった! それにお前の小さい尻(笑)と優香の完璧なお尻を比べたら百万倍お前の方が劣ってんだよバーカバーカ!」

「F××k you,b××ch! マジでキレた! 天音マジでキレたから! 今からこの国のコンピュータサーバ全部落として、テメェら全員地獄に落としてやるッ!」

「いい加減にしなさいっ!!!」


天音の頭にはチョップ。俺の頬にはビンタ。扱いの違いに泣きそうになる。


「セクハラよタケ。猛省(もうせい)して」

「はい」


素直に反省した。我を忘れて天音にとんでもないことを言っていた。顔を赤くしているのは怒っているのではなく、羞恥(しゅうち)によってだろう。

天音は叩かれたことに目を張って優香の顔を見ていた。


「は、初めて暴力振られた…」

「女の子なのに汚い言葉を使うからよ。容姿はすっごく可愛いんだから」


ま、待つんだ優香! ソイツは第参高校の生徒会長だから! 普通に叩いちゃ不味い奴だから!

———そんな言葉を掛けようとするが、天音はボーッと優香の顔を見ているだけだった。


「そ、そんなに優しくしても駄目だからなっ…!」

(急にツンデレみたいな反応を取り出したぞこのロリ…!?)


天音はそっぽを向きながら優香を突っぱねる。その顔は朱色(しゅいろ)に染まり、照れているようにしか見えない。

天音の態度に寒気がする。すると天音はまた何かに気付くように咳払いした。


「げ、げふんっ。天音のことは置いといて…それよりもタケきょんに天音から話がある」

「誰がタケきょんだコラ」

「タケきょんの情報は夜戦で手に入れていたけど、細かいことはなかった。だから取らせて貰ったんだ」


天音がニヤリと笑みを見せると、卑屈(ひくつ)な笑みを返してしまう。

やはり迂闊(うかつ)だった。見られても良いと割り切って取った行動だが、案の定(あだ)となった。


「でも安心していいよ。天音は外部に漏らさないから」

「…取引か」

「違う違う。逆に情報提供のお礼をしたいの。良い話でしょ?」


相手の意図を読み取れない。竹志は怪訝な顔をするだけだった。

警戒を解かない竹志に天音はゲームの台をトントンと叩く。すると画面が切り替わった。

映されたのはこの街に設置された監視カメラの映像。彼女たちには全てお見通しなのだ。


「地下街のテロが相次(あいつ)いで起きているの。巻き込まれたなら、尚更(なおさら)知っているはずよね」


今更何で知っているのか聞くつもりはない。全て筒抜けになってバレているのは画面を見れば明白。

コンピュータ情報に関しては情報屋の五右衛門(ごえもん)(はる)かに越える実力を持つ第参高校。フクオカの脳とまで呼ばれるほどだ。

それに情報はこの国の事だけじゃない。世界中の情報を常に掻き集めている異常学校だ。情報面で敵に回す愚かな行為だけはしたくない。

トドメの一撃と言わんばかりに、この()()()()()()()()下で下手な動きは見せれない。

先程から天音がチラチラと周囲を気にしているのは周りでゲームをしている軍学生が全員第参高校の生徒だからだ。俺の素性を知っているなら警戒するのも当然。


「タケきょんの情報を貰った代わりに教えてあげる。敵のテロ組織は———『平等平和(フェアピース)過激派』」

「『平等平和(フェアピース)過激派』?」


聞いたことのない名前に首を傾げる。しかし優香は知っていた。


「知ってる。ニュースで見たことあるよ。独立国で力を持ち過ぎた《フクオカ》に対して兵器と武力を捨てろってデモまで起こしてるのよね…」

「迷惑なことに、今も国の外でデモ活動ですよ。《日本》と和平を結んだせいで乱暴な対応はできないですし、『三玄武(さんげんぶ)』が言うには無視していいと放置する始末」


ゲームの画面には国の外でデモ活動をする人たちの写真が並べられる。数は多く、日本人だけじゃなく外国人まで混じっている。


「悪質なことに他の国までデモに参加しているせいで手は完全に出せない。あーホント嫌になる」


筐体を蹴って苛立ちを露わにする天音。未だにこの情報を俺たちに公開する天音の意図が読めない。

画面を凝視する俺に天音はクスクスと笑っていた。


「…何がおかしい」

「先走り過ぎ。本題はここからよ」


見ていた映像が切り替わる。そこにはフードを深く被った男たちが何かから逃げるように走っていた。

手には銀色のアタッシュケース。金でも盗んでいるように見える光景だった。

しかし、わざわざこの国で金を盗むには割に合わない。軍学生にボコボコにされるだけだ。

金は違うとすぐに分かるが、何を盗んでいるのか分からなかった。


「この国で一番起きてはいけない事件が(つい)に起きたわ」

「……まさか!?」

「———軍服が二着、盗まれたのよ」


俺たちはまた、とんでもない事件に足を踏み込んでしまっていた。


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