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フクオカ  作者: 夜紫希
第二章
24/32

尽きない悪運

四人が実習助手として先生になることを受けた日の夜。その日も大家さんのカレーをご馳走になっていた。

大家さんの作ったカレーはまだまだ残っている。ありがたいことだが、あと二日はカレーな気がした。どんだけ作ったんだこの人。


「夏期講師か。ククッ、先生とは似合わねぇな」

「ペポドンさんの方が似合わないと思いますよ」

「おいコラ。お前まで俺の名前をいじりだすか」


砲さんが怒気を振り撒きながらカレーを食べている。今日の昼にあったことを話していた。

大家さんはニコニコと俺が先生になるのは似合っていると言うが、砲さんは似合わないと笑う。世志は、


「チャイナ服で授業…兄貴、どうにかできないのか?」

「どこに食い付いているんだよお前は」


思春期だが発情期だが知らないが、お前の学校に授業しに行くことは無いから安心しろ。


「何だ何だ? もしかして可愛いのか? その柳って子は?」

「砲さんまで…この子だよ」


スマホで撮った写真を一枚見せる。竹志と優香が映った写真を見て世志は「リア充爆発しろ」と陰口を叩き、砲さんは目を細めた。


「お前…!」

「な、何だよ」

「死ね!!!」


ストレート過ぎる悪口もどうかと思います。深刻そうな顔をしたから一瞬ビビってしまった。

ワナワナと震えながらスマホを見る砲さん。大家さんは可愛いと褒めているが、周囲と違う反応なので目立つ。大家さんは変わらず清き心のままでいてくれ。この二人みたいに汚れないで欲しい。


「おい世志! 竹志の悪い話を全部この子に聞かせてやれ! コイツを絶望の底に叩き付けろ!」

「外道だな砲さん」


砲さんは世志の両肩を掴み熱弁しているが、俺は呆れている。だが世志はハッと何かに気付く。


「それでもし兄貴が嫌われたら…俺たちにワンチャン?」

「ああ、ワンチャンあるな!」

「ねぇよ」


何この人たち。俺に勝てると思っているの? そんな(みにく)い心をしているのに、勝てると本気で?

いやー、怖い怖い。この男たち、怖くて引く。ここは一つ、痛い罰を与えておく。


「大家さんは三人の中で誰がイケメンだと思いますか?」

「竹志君?」

「「ぐはぁ!?」」


まさかの即答に俺もビックリだが、世志と砲さんは血でも吐いてしまうようなビックリを見せた。

ここまで大家さんに好感度を持たれていることには驚きだが、大家さんはすぐに理由を答えてくれた。


「世志君、一番生活を支えているのは竹志君ですよ? 砲さんは私が居ないと部屋を片付けないじゃないですか」


大家さんに部屋を片付けて貰っている新事実に俺と世志は半目で砲を睨む。どんだけ駄目人間なんだよこの人。


「女性が結婚したいのは竹志君の様に頑張る人間ですっ。二人はもっと頑張らないと彼女もできないですよっ」

「「ぐはぁ!?」」


意外と厳しい大家さんに二人の心はノックダウン。プルプルと小刻みに震えながら倒れていた。

大家さんの嬉しいお言葉に感謝したいのですが、俺も彼女が居ないので辛い。小さな流れ弾が俺の心を掠めていた。





———第弐高校。


小笠原から貰った紙に大きく書かれた文字に俺は何度も目を擦り疑っていた。

この用紙は俺たちがお世話になる学校が書かれているはずだ。小学校か中学校、どこの学校かと考えたり、近場だったらいいなぁとか遠かったら格安ホテルの場所を覚えないといけないなぁとか考えた。

正面に座る小笠原は両手で顔を隠して絶望していた。黒い負のオーラを()き散らしていた。

優香と愛理も同じように紙を見て同じ様に絶望している。なるほど、これは現実だということが分かった。


「———いや何でだよおおおおおォォォ!!!」


ビリビリビリ!と紙を破りながら叫んだ。

確かにどこの学校に行くかは上が決めると聞いた。でもこれは酷い! 数ある候補の中から高校が選ばれるとは思いもしなかった。

小笠原は手で顔を隠しながら悲しそうに説明をする。


「朝、僕は企画説明の会議に行った。説明を聞いてクジ引きで学校を決める説明も聞いた」

「おい。もうオチが見えたぞ。洒落にならないオチが見えたぞ」

「まさか引き当てるとはね…百分の一の確率を…」

「やりやがったよこの眼鏡!」


周りと同じように自分も顔を手で隠す。そして絶望のオーラを出した。寄りにもよって軍学生とか…!


「そして僕たちと同じように参加していた僕の部下は第壱高校に…」

「もうやめろ! お前は悪くない! 社会が悪いと思え!」


自分から傷口を(えぐ)るどころか更にナイフを突き刺していた。自分の悪運をここまで恨んでいる奴を罵倒することはできなかった。

もう二度と行くことは無いだろうと思っていた第弐高校。事件も解決したので軍学生とも関わることもないと思っていたのに。

あの危ない学校に再び行く。それがどれだけ嫌なことなのか…。


「ふざけんなよちくしょう…学校は何を考えてんだ!」

「で、でもそんなに嫌なことなのかしら? 第弐高校の生徒は優しかったでしょ?」


イマイチ危機感を覚えていない優香に俺は両肩を掴んで説明する。


「いいか? 軍学生はヤバいということは夜戦で思い知っただろ? 教室で授業をする風景を想像してみろ。俺たちからすれば———全員がロケラン構えた状態で座っているようなモノだぞ!」

「そんな酷い言い方はないでしょ!? タケの想像が過激なだけよ!?」

「そうだよ小倉君。ロケランを構えているわけじゃない。爆弾を抱え込んでいると表現するべきだ」

「だから過激だってば!?」


真面目な顔で軍学生のことを説明する男たち。大袈裟に話している二人に優香は首を横に振るが、愛理が止めた。


「先生が病院送りされること、珍しくないんだよ」


ロケラン構えて爆弾抱え込んだ愛理は容赦なく真実をぶちまける。息が止まるかと思った。

一番酷いことを言っているにも関わず、一番重みのある言葉だった。

竹志と小笠原の顔を見ると気まずい表情で頷いた。嘘では無いと。

顔色を悪くする優香。握っていた用紙を小笠原に返そうとするが、


「諦めろ。途中でやめれるなら、俺たちはこんなに落ち込んでいないだろ」

「もう嫌っちゃけど!!」


無慈悲な竹志の宣言に、優香は参加したことを後悔した。

こうして明日から始まる。楽しい楽しい夏期講師に、俺たちは不安で胸が張り裂けそうです。




———《カイヅカ》区画にある第弐高校。

何度も電車を乗って行ったことのある学校に足を運んでいた。しかし、今回の足取りは重い。軍学生を助けるより重い足取りは喧嘩を売ることぐらいだと思っていたが、まさか先生として行くとは。

世志にお前の学校には行かないとか言っていたのに、アレはフラグだったのか。だとしたら俺にも責任があるな。


「いいかお前ら。軍学生を怒らせるような真似をしなければ大丈夫だ」

「そうだね。必ず乗り越えて帰ろう」


小笠原と拳をぶつけ合い誓う。そうだ、俺たちは一緒に帰るんだ!


「フラグ?」

「うるせぇ黙れ」


愛理の呟きに俺は片手で両頬を掴んで黙らせる。一番やらかしそうなのはお前だからな。

職員室まで中に入ると今日からお世話になる先生方に挨拶をした。どうやら先生たちは俺たちのことを知ってるようで色々なことを感謝された。学校存続の危機を救ってくれたこと、夜戦で勝利に導いたこと。

学校の存続は先生たちに取っても大事なことだ。職を失うのだから、家庭を持つ先生には特に握手され何度も感謝の言葉を俺たちに送った。

これでもかと言う位感謝された後、どのような授業をすればいいのかを説明を受ける。そして注意点を心して聞くように言われた。


———軍学生に喧嘩を売るような真似は絶対にしないこと。


先生と言う地位でも喧嘩になれば必ず負ける。大怪我することもあると警告もされた。

当然な話だ。俺たち一般人から見ればこの学校の生徒、軍学生は全身に凶器を身に着けているような物だ。危険に決まっている。

授業の説明よりも重点的に話を聞かされた。良い生徒も居れば悪い生徒も居る。十分に気を付けなさいと。


「———二人二組で授業か。どう組み分ける?」


先生の説明を終えた俺たちは更衣室で持って来たスーツに着替えて廊下で話していた。大学の入学式に来たスーツが役立つとは。来年の成人式まで出番はないかと思っていた。

先生から授業は二人二組でしなさいと言われたので従う。小笠原は考えることなくビシッと答えを出す。


「小倉君と優香さん。それしかない」

「やっぱりそれが妥当か。柳もそれでいいな?」

「うん」


そう言って担当する教室を竹志と優香は一緒に目指す。その後ろでは小笠原と愛理が悪巧みした笑みを浮かべているとも知らずに。


(むしろこの組み合わせしかないと僕は思うよ…!)

(タケ君と優香ちゃんが一緒じゃないって考えられないじゃん…!)


二人の事情を知っているドSコンビ。下衆の笑みを見せている二人だが、大学では積極的に二人を並べて座らせたり、二人っきりにさせたりなど恋のキューピットをやっている。

汚い笑みを浮かべていても、善意で二人は動いている。そう、善意なのだ!


(夏休みまでに関係が進展する為に、僕達は応援しよう!)

(おー!)


———面白そうだからっと考えているのは秘密である。





第弐高校の廊下を歩いていると教室から覗く軍学生の視線が竹志と優香に集まっていた。

目立った覚えはないが、援軍補助で暴れたことを知られているなら仕方ない。その辺は小笠原辺りになすりつけよう。きっと上手く解決してくれるさ!


「だ、第一印象が大切よね」

「そうだな」


担当する教室の前まで歩くと竹志は深呼吸する。そして勢い良く扉を開いた。


「おはよん! あっ…」

(たった四文字の挨拶で噛んだ!?)


教室が一気にシンと静まり返る。突然の登場に驚いたのではない。噛んだことに戦慄しているのだ。

先生は事前に生徒たち言っていた。この授業は大学から来た生徒が教えに来ることを。だから噛んだことに驚いているのだと尚更優香には分かってしまう。

出鼻を(くじ)かれた竹志は咳払いすると、振り返って教室を出ようとする。


「後は任せた」

「……いや、逃げちゃダメよ!?」


グッと左腕を掴んで竹志を止める。あまりにもスムーズに帰ろうとしたので一瞬理解が追いつかなかった。

恥ずかしいのは分かる。第一印象を爽やかに決めようとしたのに噛んで最悪な一歩を踏み出した気持ちがどれほど辛いのか分かる。でも逃げるのはやめて欲しい。優香は説得しようとするが、


「す、すげぇ!? 小倉先輩だ! 小倉 竹志先輩が来たぞ!?」


一人の男子軍学生の声にクラスがざわざわと騒ぎ出し立ち上がる。写真を撮る者まで出る始末だ。

今度は竹志と優香が驚く番だった。何が起きたのかサッパリ理解できないでいた。


「あ、あの! 握手して貰えますか!?」

「え?」

「サインください! Tシャツの背中にお願いします!」

「え? えええ?」

「今日から先輩が授業をしてくれるなんて感激です!!」

「えええええェェェ!?」


既に何故か人気者になっていた。驚愕の声を上げながら状況を確認する。

挨拶を噛んだだけで人気者になれるなら誰でもテレビ出演できる。この人気はもしや———夜戦での援軍補助しかない!


(完全にバレてる! 夜戦での出来事が学校全体に伝わっている!)


廊下を歩いている時に視線が集まっていた理由はそれだ。俺が目立っていた。

優香も竹志の人気の秘密に気付いたのかポンと手を叩く。


「やるわねタケ。もう生徒の心を掴むなんて…」

「感心している場合か!」


生徒のハートを鷲掴(わしづか)みしたことにライバル視しているのか、優香が嫉妬深そうな目で竹志を遠くから眺めていた。

反応に困り、どうしようかと考えていると———後ろの席に座る男子軍学生に見覚えがあった。彼は目を見開いて驚いた顔で俺を見ていた。

見覚えというか、自分の身内だった。そう、俺の弟である。


「世志!?」

「何やってんだ兄貴!?」


どうやら俺の担当クラスは弟のクラスらしい。


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