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フクオカ  作者: 夜紫希
第二章
23/32

新たな兆し

———《ハカタ》区画の人気ファストフード店。学生が多く集まる店にフクオカ学園大学二年生の小倉(こくら) 竹志(たけし)とフクオカ風紀委員の最高責任者、十二時(とおにじ) 夜々月(よよづき)は向かい合って座っていた。

二人は周囲からある意味目立っていた。夜々月は綺麗な金髪を持ち、幼くはあるが可愛さを持っている。それに対して、やる気のない目にボサボサの黒髪の男が座っているのは異様な光景だった。

テーブルの上にはハンバーガーとポテトが置いてある。金は男である竹志が全て払った。血の涙を流しながら店員に金を渡した。


「悪魔め…俺の資金が超絶少ないことを分かっている上でやってんのか」

「やーん! 先輩は愛する後輩の為なら何でも買ってあげますよね?」

「喧嘩なら買うぞコラ」


怒気を露わにする竹志だが夜々月は全く動揺することなくハンバーガーを美味しそうに食べ始める。

今日は早く大学の講義終わり帰ろうとしたところ、夜々月に捕まった。包帯は全て取れて退院したばかりだが、講義には問題無く参加できている。だが危ない奴に連れて行かれるのは問題ありなのだが、今回は大丈夫なようだ。


「てっきり二ヶ月前の夜戦について、色々と言われるかと思っていたがな」

「話は病院で聞いただけで十分です」


第壱高校と第弐高校との夜戦から既に二ヶ月の歳月が過ぎていた。六月中旬に入ろうとしている。

優香たちとの関係は変わりなく、一緒に勉強したり遊んだりしている。アレだけ大きな事件があったにも関わらずだ。

特に優香の反応には正直驚いている。元フクオカの頂点に立った最強なのに、昨日はちょっと口を滑らせただけで足を蹴られた。いいじゃないか、お尻が好きでも。

小笠原の大怪我も治り、華道もいつものように俺たちを振り回してくれている。平和な日々が帰って来たのだ。


「第(いち)高校は第()高校に対しての『強者命令』を撤回することを宣言しました。そして生徒会の間で同盟を組んだのです」

「なるほど、同盟か。考えたな」

「生徒会長は今回の事件は互いに望んだ夜戦ではありません。再発を防ぐ為に同盟を組み、他の高校に対して強い姿勢を見せるつもりです」

「つまり第(さん)高校か第(よん)高校に夜戦を仕掛けられないようにしたんだろ?」

「はい。風紀委員から見ても今の二校は危険です」


真剣な表情で教える夜々月。彼女が病院で話してくれたことを思い出す。


『裏で糸を引いていたのは第四高校でした』


第壱高校の生徒会長———千城(ちしろ) 軍蔵(ぐんぞう)が得た情報だった。第参高校を密かに操り、第壱高校と第弐高校をぶつけたのだ。

第壱高校で火種を作り、風紀委員にも紛れ込ませ、死人すら出させた。

汚いやり方に反吐が出る。怒りも込み上げた。自分たちも最低な戦い方を取ったが、外道と言われるまではしていない。


「第参高校は第壱高校が脅すようにしているので大きな動きは見られないのですが、コンピュータ技術に関しては手が出ませんので、たちが悪いです」

「…小笠原の性格みたいだな」

「それ超分かります」


グッと親指を立てて夜々月とニッコリ笑顔。気が合う後輩だこと。


「第四高校に関しては俺も分からねぇよ。華道も聞いたがお手上げだ。今ある情報で何をしようとしていたのか方針も分からないってさ」

「…元々よく分からない人ですよね」

「それ超分かる」


コツッと拳同士をぶつけて夜々月とニッコリ笑顔。この光景を話題の二人が見たらピキピキと怒りの笑顔を見せそう。

夜々月はポテトをつまみながら話を続ける。


「狙いが何にせよ、警戒するしかない。両校が手を取って備えるのは良い事だ」

「ですね。あの酷い夜戦は風紀委員にも責任があります。できる限りは協力しますよ」


そう言って夜々月は笑顔を見せると、美味しそうにポテトをかじるのだった。





その日の夜。タイムセールを逃した竹志と世志は死にそうになっていた。

竹志は夜々月のせいで金が足りず、世志は何故か疲れ果てていたせいで間に合わなかった。ここ最近、世志は疲れて帰って来るのが多い。


「馬鹿兄貴…何で金がねぇんだよ」

「馬鹿弟が…学校に行くのにどれだけ金が必要なのか分かってんのか。アンダァスタァンド?」


畳の上で倒れている二人。先程から腹の虫が先程から鳴いている。特に世志は何度も鳴っていた。


「……夜々月のポテト、奪えば良かった」

「兄貴。まさか金がない理由は———」

「おっと!? 何も入っていない冷蔵庫の電気は消しておかないとな!」


誤魔化すように冷蔵庫の裏に手を突っ込む竹志だが昨日の朝から消している。世志は冷めた目で兄を見ていた。

額から汗を流しながら竹志はどう切り抜けるか考えていると、ドアがノックされた。

バッと竹志と世志は勢い良く振り返る。ドアのチャイムを鳴らさずにノックをするのはただ一人だと知っているからだ。


「竹志君? 世志君? カレーを作ったので一緒に食べませんか?」

「「いただきまーす!!」」


元気な声で返事をして飛び出す二人。ドアを開けるとエプロンを着た幼い少女が立っていた。

身長は夜々月とほぼ同じくらい。短髪の黒い髪に赤いカチューシャを付けた女の子はウチの大家さんだ。

これでも歳は俺の四つも上だという。最初世志と聞いた時は体が震えた。これが合法ロリげふんげふん。


「今日も元気ですねぇ」


ニコパァと微笑む大家さん。可愛いくて小さいけど年上とか本当に信じられない。

お金が厳しい小倉兄弟は大家さんにいつも助けられている。こうやってご飯をご馳走(ちそう)になったり、残り物を貰ったりお世話になっていた。


「では(ほう)さんの所に行きましょうか」

「チッ、ミサイルか」

「世志。笑うからそういうあだ名やめて」


大家さんの言う砲さんとは下の住人のことだ。舌打ちしながらまた違うあだ名を呼ぶ世志に竹志は口を手で抑えていた。確か前はポンポンと呼んで腹を抑えながら死にそうになった。ちなみにポンポン砲という面白い名前の大砲が実際ある。だから死ぬほど笑った。


「ミサイルとは物騒だなオイコラ」

「あ、ポンポン」

「ポンポンやめろって言ってんだろクソガキ!?」


大家さんの後ろから出て来たのはボサボサの長い髪のオッサン。タバコを咥えながら嫌な顔をしていた。この人が砲さん。廿楽(つづら) 砲さんだ。

部屋の中はパソコンなど機械まみれでニートのような生活をしている。どうやって稼いでいるかは知らないが、俺たちより金を持っているのは確かだ。


「二度とゲーム貸さねぇぞ!」

「ごめんって砲さん! 俺が悪かった!」


手を合わせて謝罪する世志。砲さんはゲームマニアなのかたくさん所持している。

休日はこの四人でゲーム大会することもあった。無職のクセに金はどこから錬成しているのか気になるが、インターネットを通じて何かしているのだろう。


「よう竹志。病院生活でナースは堪能したか?」

「ええ、ええ、それはもう堪能しました。たっぷり味わいましたよ。だってナースにケツを注射されましたから」

「どんな特殊プレイだよ!? 羨まキモいわ!」


プレイ言うな。拷問だから。というか羨まキモいって何。羨ましい! でもキモイって言いたいの?


「それよりお前の弟のゲームデータ、全部消していいか?」

「消すよりアイテム全部捨てて貸した方が絶望的ですよ」

「なるほど。さすがだな」

「鬼か!」


竹志と砲さんの悪巧みに世志が泣きそうな顔で嫌がっていた。

パンパンと手を叩く音が聞こえると、


「はいはい、皆さん、早く食べに行きますよ。でも砲さん、どうしてこちらに? 下で待っていた方が…」

「今日はこっちで頼むよ大家さん。今、部屋が大変なことになってるからさ」

「大変なこと?」

「そそ。別にどこでもいいだろ?」


砲さんのお願いに俺は頷いた。別にこちらでも全然構わない。だからカレーを早く。


「じゃあ今から持って来るから手伝ってね?」

「「「はーい!」」」


料理ができないダメ男トリオに取って、大家さんは母のような存在だった。すっごい小さいけど。





「先生? 学校の?」

「うん、小倉君も一緒にどうかなと思って」


大学の食堂で小笠原に偶然出会った。一緒に食べていると、ある提案を俺に持ちかけて来たのだ。


「実習助手って言うのかな? 講義が早く終わる日は別の学校に行って生徒に授業をする。それを続ければ教職免許を取る時、有利になるから小倉君も一緒にしない?」


小笠原の提案に頭を悩ませる。悪くない相談だった。

就職活動で資格が多いのは有利なのは間違いない。それが先生になる為に必要な教員免許でも損することはない。そう、資格を多く取れば自分の死角を無くせる! 何かすいません。

そもそも教師の仕事には少し興味がある。たくさんの生徒に(した)われるイケメンな先生…うん、悪くない。


「とりあえず詳しく」

「期間は学生が夏休みに入るまで。学校で相談すれば無理なく入れるからバイトは安心して」

「よしよし。一番大事なことを分かっているじゃねぇか」

「小倉君がサラダしか食べていないからね…」


黙れ。サラダを馬鹿にするな。サラダは凄いんだぞ。ドレッシングをかけるだけで最高に美味いんだ。今日からサラダさんと呼びやがれ。


「それに講師として働くからお金も多少は出るよ」

「有能」

「さ、サラダはいらないかな…それと今年から始めた企画だから来年もあるとは限らないでしょ? やった方が得だと思うよ」


モシャモシャと食べていたサラダさんを小笠原に渡そうとするが拒否される。トンカツ定食、超美味そうなんだけど。

これは良い話を持って来てくれた。資格とお金で一石二鳥で断る理由はない。そして俺もトンカツ定食をドヤ顔で頼みたい。


「どこの学校かは上が決めるらしいけど、グループを作れば全員で一緒に行けるから」

「なるほど。俺が困ったことがあればお前に押し付けれるな」

「なるほど。全部拒否させて貰うよ」


悪い笑みを見せると小笠原はニッコリと邪気を含ませた笑顔で返してくる。怖いよ。真面目にやるから。

と俺を睨み付けている隙にトンカツを一切れ奪う。それに気付いた小笠原は溜め息をついて諦める。


「それを食べるのが私!!」

「華道ぃ!!」


俺の箸に食らい付いたのは華道。俺が食べるよりも先に背後から顔を出して奪ったトンカツをパクリと食べた。


「俺のトンカツがぁ!」

「いや僕のだよ」

「最後は私の物!」

「何やっているのよ…」


呆れながら俺の隣に座る優香。彼女もトンカツ定食だった。いや華道もだ。

今日のオススメのメニューは確かにトンカツ定食だ。だからってサラダさんを食べる俺に、あんまりだろ…!

哀しみに囚われた男は、顔を手で隠し俯いた。


「華道が憎い……………肉だけに」

「しょうもないこと言ってるとあげないわよ」


優香の言葉に顔を上げると、サラダさんの上には一切れのトンカツが置いてあった。


(やなぎ)……様」

「タケの信頼、安過ぎるわよ」


トンカツ一切れで様付けする男に優香は苦笑いだった。

だが正面に座る悪い男女はニヤニヤとした顔で俺たちを見ていた。


「あれ? 小倉君? おやおや?」

「呼ばないの? 『優香』って?」


小笠原と愛理の発言に優香は顔を赤くするが、竹志は冷静に箸を横に一閃。愛理のトンカツを見れば綺麗に切り分けられていた。


「次は豚で済むとは限らないぞ?」


奪った小笠原のトンカツを食べながら二人を脅した。結局、小笠原はおかず無しで白飯を食べるハメになってしまった。

優香と愛理にも教員免許のことを話した。愛理は話の途中だと言うのに参加決定してしまい、優香は悩んでいた。


「教師ね…」

「無理にする合わせる必要はないぞ?」

「ううん、予定は空いているから大丈夫。今はタケみたいにバイトしていないからね」


お金の心配はないと優香は首を横に振るが、優香が金持ちだということをここで思い出す。高級ホテルのスイートルームをカード一枚で取ってしまう程の金があることを。

何故彼女が金持ちなのかは聞いていない。言いたいことではないはずだから。

うやむやのままにしておくべきではないことは分かっている。だがすぐに切り出す必要もない。


「チャイナ服を着て授業する予定があるなら見に行くけどな」

「あるわけないでしょ!」


四人の参加が決定した。小笠原の用意した参加登録用紙に名前を記入した。

———記入した用紙は地獄への切符(きっぷ)だとは知らずに。


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