表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フクオカ  作者: 夜紫希
第一章
22/32

終戦の夜明け

白いベッドの上で寝ていると窓の外から陽の光が俺の顔に射していた。

太陽の眩しさに起きてしまう。布団で顔を隠そうとするが、どうにも光が邪魔で寝付けない。

寝たままカーテンを閉めようと右手を伸ばすが、包帯でグルグル巻きになった手を見て止める。


「小笠原、カーテン閉めてくれ」

「両手を使って自分で閉めたら?」


隣のベッドでは片手で本を読みながら溜め息を漏らす小笠原。仕方なく立ち上がり、両手を使ってカーテンを閉める。

まだ寝足りないな―――そう思い再びベッドの上で寝ようとするが、


「朝だから起きよう!!」


閉めたばかりのカーテンを勢い良く開いたのは愛理。泣きそうな顔になる竹志に小笠原も苦笑いだった。


「病院では静かに。小倉君は本気で眠いみたいだからソッとしてあげたら?」

「ノーセンキュー」

「それこそノーセンキューだ馬鹿野郎」


薄い緑色の入院服を着た愛理は元気良く俺のベッドに飛び込み布団を奪った。ホント泣きそう。

青色の入院服を着た俺と小笠原は同時に溜め息をつく。どうしてこんな元気な奴を同室にするんだよ。


「入院って普通、男女は別だよな?」

「この病院は第弐高校の軍学生でほぼ満室。援軍補助でまとめたかったからじゃない?


第弐高校の付近にある病院に入院することになった三人。俺と小笠原は《フクオカ》の最先端医療で全治一ヶ月の怪我だが、愛理に関しては一週間もない。

それなのに愛理はわざわざ俺たちの病室に泊まりやがる。正直に言おう。超迷惑。


「何より…一緒が良いって彼女が許可したことが大きいから」

「それな。正気を疑うわ」

「えー! 皆で泊まるの方が楽しいよ?」


ほう、楽しいか。小笠原と俺はそう思わないぞ。

服を着替える時はカーテン一枚仕切るだけで無防備に着替えるわ、どっちかのベッドで寝落ちして毎度ジャンケンで運ばなきゃいけないわ、看護師にめっちゃ怒られるわ。

羨ましいと思えることが何もないぞ。休まなきゃいけない奴を休ませない悪魔だよ。


「男を刺激するわ…寝相は悪いわ…キレた看護師からケツの穴に……とにかく俺たちは疲れたぞ」

「待って小倉君。最後は何、最後の尻に関しては知らないよ。どういうこと。看護師に何されたの君」


愛理は何も恥じることなく俺たちに接する。元気付けてくれるのは嬉しいが、やり過ぎは毒だということを分かってくれ。


「今日は外で野球しよう!」

「「死ぬわ」」


車椅子に乗せられ無理矢理病院から大学に連れて行かれたことがあるので必死にベッドにしがみ付いて抵抗の意志を見せる。


「大丈夫! ちょっとだけだから!」

「だああぁ! 抱き付くな離れろ!」

「よし、小倉君。君の勇姿は忘れない!」

「逃げやがったあの眼鏡! おい華道、一時休戦だ。あの眼鏡猿を捕まえるぞ!」

「任せて!」


三人は大急ぎで部屋を出ようとした時、部屋の扉が開いた。

そこには驚いた顔で俺たちを見る優香の姿があった。


「…え?」

「ちょうどいい! 優香、裏切者の小笠原を捕まえろ!」

「くっ、させないよ!」

「優香ちゃんも一緒に確保!!」

「ちょっと!?」


三人はぶつかり合い、そのまま優香を巻き込んで廊下へと転がった。


その後―――憤怒に染まった白衣の天使からお叱りを受けたことは言うまでもない。





カタカタと止むことのないキーボードの叩く音。《ハカタ》区画にある第参高校の一室では軍学生たちが一斉にパソコンを使っていた。

モニター画面に囲まれた部屋の中心では一人の少女が椅子に座りクルクルと回っていた。


「———んで、約束通り情報はあげるからもういいでしょ? はいこの話しゅーりょー」


パチンッと相手が何かを話そうとしているにも関わらず通話を終了する。テーブルに置いたお菓子を食べながらモニター画面を眺める。

身長は小柄で外国人のような金髪を後ろでまとめたポニーテールの少女。軍服は座っている椅子にかけて膝上まである大きな黒色のシャツを着ていた。


「あーやだやだ。こっちが失敗したわけじゃないのに天音(あまね)たちを責めるとか馬鹿みたい。自分たちのことを棚に上げるとか、人として最低! f××k!!」


一瞬だけキーボードの音が止まるが、すぐにカタカタと軍学生たちは仕事に戻る。

第参高校の生徒会長―――神河(かみかわ) 天音(あまね)。序列は五十位と()()()続けている軍学生だった。

しかし、学年は二年にしてレベル1(ファースト)なのだ。隠蔽レベル2(ハイド・セカンド)でもない、正真正銘のレベル1(ファースト)。それが五十位の序列に居ること自体が異常なのだ。

そんな大物に恐る恐る、一人の軍学生が天音に話しかける。


「あの、会長…話の続きなのですが…」

「何かしら?」

「第壱高校と第弐高校で使った『ハカタ人形』の予算なのですが…」

「足りないなら盗みなさい」

「…はい?」

「政府の電気を盗んで売りなさい。天音たちならできるわ、完全犯罪なんて余裕よ」


その場に居た軍学生たちが戦慄する。

自分たちの長は本気で言っている。それを理解すると他の軍学生が手を挙げる。


「会長! 第壱高校と第弐高校の極秘情報を除いた情報を売れば問題ありません!」

「そう? なら仕方ないわね」


軍学生の提案につまらなそうに答える天音。だが周囲の軍学生たちは提案者に親指を立てる程、称賛を送っていた。

天音はお菓子を食べながら『ある人物』が映ったモニター画面を見ていると、着信が鳴る。


「誰?」

「だ、第壱高校からのお電話です…」


軍学生たちに動揺が走り喧騒(けんそう)に包まれる。天音はうろたえることなく、キーボードを叩き始める。


「無視よ無視。忙しいからって言い訳しておいて」

「会長。第壱高校の生徒会長なのでヤバいです」


唐突に語彙力が低下した部下だが、天音は即座に通話に出た。


「ひ、久しぶりですね先輩。元気ですか?」

『お前は変わらず学校を家代わりにしているようだな』


モニター画面には第壱高校の生徒会長―――千城 軍蔵が映し出される。

天音は腕を組んで堂々と対応する。


「それで、用件は? 天音は凄く忙しいから…」

「今回の夜戦、一枚噛んでいると聞いた」


軍学生たちの額から汗が流れる。

天音も言葉が止まるが、首を横に振って否定した。


「知らないですよ? 天音たちはいつものように夜戦の情報収集していただけですので」

「甘いな」


軍蔵はフッと笑みを見せる。


「第参高校は論より証拠を出さなければ認めないのはよく知っている。だから———用意したぞ」

「———マジ?」


天音は夜戦に関わった第参高校の軍学生たちを見る。彼らは全力で首と手を横に振った。

データに関しての証拠隠滅は天音も関わっている。そんなヘマをすることはないと頭の中で考えるが、モニター画面の映像に一同が驚愕する。


『すいません会長。私のせいです』


軍蔵の隣に出て来たのは第壱高校に侵入させていた有村リリだった。その姿に全員が驚きの声を上げた。


「「「えぇ!?」」」

「はぁい!? ちょっと有村!? どういうこと!?」

『会長の指示通り、失敗した私は拷問を受けても黙秘し続けることを覚悟していました…』


有村は申し訳なさそうな態度で頭を下げる。深い理由があるのか、自分たちを裏切る程の脅しを受けたのか。

有村の表情を見た天音は握り絞めた拳を緩めて頷いた。


「分かった。それだけ深い事情があるなら仕方ないわ。天音は、許しちゃうんだから!」


そして何故か拍手喝采。会長がドヤ顔で言った時は拍手をしないと怒られることを知っている軍学生たち。頭の上にはハテナマークがあることを天音は知らない。


「軍蔵先輩。天音たちは負けを認めますから、有村を解放してください」

『いや、解放している状態だが…』

「———え?」

『何を勘違いしているのか知らないが…有村は第参高校に戻る気はないらしい』


ちょっと意味が分からないと言いたげな顔で天音は有村を見る。するとモジモジと恥ずかしそうに説明を始める。


『実は私、ある人に恋をしまして……きゃっ』

「きゃっ、じゃねぇよ。ぶっ殺すぞ」


低い声で中指を立てる天音。軍学生たちも何とも言えない表情をしていた。


『第壱高校が手伝ってくれるので、私はこのまま裏切ります』

「天音、ちょっとキレそうなんだけどぉ?」

『そういうわけだ。諦めろ』

「あーそう来る!? じゃあ天音はもう怒ったから! 先輩、今から夜戦を仕掛けても文句は言えないですよ!? ボロボロになった数の少ない第壱高校の軍学生なんて、とっておきの『ハカタ人形』で———」

『気が合うな』


天音の言葉に対して軍蔵は笑みを見せたまま答える。


『ならば受けよう———()()


軍蔵の頷きを見た天音はダラダラと汗を流す。

ゆっくりと立てた中指を折り曲げて両手を合わせた。


「———許してください」


その場に居た軍学生たちは椅子から転げ落ちた。

突然の謝罪に軍蔵は頭を抑える。


『はぁ……まぁいい。話はそれだけじゃない』

「聞きたいことはどうせ『裏』のことですよね」

『分かるだろ?』

「はい―――第四高校です」

『……何だと?』

「天音たちに依頼したのは第四高校じゃないですが、糸を辿れば第四高校でしたよ。目的は知らないですが」


天音はテーブルに置いた緑色の眼鏡をかけ、先程見ていたモニター画面を見る。

そこには三人の男女の姿があった。


「あのいけ好かない男、何か企んでいますよ」


鉄格子の中に居る一人の男———ボロボロの状態で寝ている小倉 竹志。

涙を流している一人の女———眠った男を見て安心する柳原 優香。

能力(アビリティ)が発覚した生徒会長―――そんな二人を見て安堵している鹿野 吹雪。


「———誰が狙いなんですかねぇ」





「ケツは無事か?」

「逆に小倉君の尻が心配だよ」

「ギリギリ外れた」


自分のお尻を触りながら疲れた顔をする竹志と小笠原。そんな二人を腹を抱えて笑う愛理と苦笑いの優香。

病院の屋上から『フクオカタワー』が見える景色を眺めていた。長いベンチに四人で並んで風を浴びていた。

左端から愛理、竹志、優香、小笠原の順で街を見ていた。


「ねぇタケ、大学は大丈夫と思うけどバイトは?」

「世志に行かせている。モヤシからクラスダウンさせるわけにはいかないからな」

「どういう生活しているのよ…」


白飯を盛る。その上にモヤシを乗せる。焼肉のタレをかける。食べる。美味いぜ! これを何日も繰り返す。


「手が使えないって不便だよなぁ」

「片手でも不便だけど、小倉君は両手だからね」


小笠原は左腕の骨折。利き手じゃない方でも本を読むときには不便だと文句を呟いていた。

俺は左手が全部使えない状態だが、利き手の右手は人指し指と親指なら使える。


「だから手伝うって!」

「いいか華道。恥ずかしいからやりたくないんだ。そんなに俺と夫婦ごっこしたいのか」

「ふっ!?」


突如顔を赤くして竹志から距離を取る愛理。そのまま小笠原の隣に移動した。

妙な所で気にする愛理に俺と小笠原はアイコンタクトを交わす。


『何コイツ』

『この天然野郎』


―――俺は小笠原の頭を一発叩いた。

それでもヘラヘラと笑う小笠原は小声で優香に何かを話していた。


「小倉君、優香ちゃんが来るのいつも楽しみにしているみたいだよ」

「ッ!?」


今度は優香が頬を赤くして俺の顔を見ていた。今度は一体何かしらん?


「何を吹き込んだ」

「さぁね、購買に行こうか愛理さん」

「う、うん…」


そわそわとした愛理を連れて小笠原たちは屋上を出て行く。えー! あの眼鏡、許さないんだからぁ!

居心地の悪い空気の中、残された俺と優香は何も話せずに街を眺めていた。

思い返せばこの短期間で凄まじい出来事だった。またあの戦場に戻ることなど、第弐高校の事情を聞くまで思わなかった。

今は優香との距離はこんな感じだが、ちゃんと縮まったはずだ。もちろん、華道や小笠原とも。


「なぁ優香」

「な、何…?」


傍に居てくれる人の為に―――俺は必ず話すよ。

それまではいつも通り、平凡な日常に戻るとしよう。


「夜戦を頑張ったご褒美が欲しいと思ってな」

「ご褒美!? えっと…そうね、良いと思うわ…」

「でも俺には祝ってくれるような彼女はいない。分かるか?」

「えっ……いない、わね…」

「だから頼みある。もし良かったら―――」

「っ……な、何? もしかして…!」



「———たった一度だけでいい、お尻を触らせてください!!」



バチンッ―――と素晴らしく気持ちの良い音が屋上に響き渡った。

真っ赤な顔で怒る優香。竹志の右頬も赤く染まりながら思い出す。

敵の本拠地、駅で最初に『ハカタ人形』に襲われた時、優香を抱きかかえて逃げ走ったあの瞬間。

―――完全に触っていた。ええ、がっつりと。

あの時は必死で気にすることはできなかったが、右手は今でも覚えている。


「———タケの馬鹿っ!!!!」


―――感触は最高だった!っということを。

……うん、しばらくは無理だな!


第一部 完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ