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フクオカ  作者: 夜紫希
第一章
20/32

それぞれの衝突

敵の本拠地を奇襲する竹志たちと別行動を取る五右衛門たち。彼らもまた突如現れた『ハカタ人形』に苦戦していた。

苦戦を強いられる原因は生徒会が『ハカタ人形』に対して有効な能力(アビリティ)がなかったからだ。

あのふざけた着物は戦車装甲のような硬さを持っており、銃弾程度では貫くことができない。

幸い頭部に付いた赤い瞳は(もろ)く、目の役割をしているので破壊すれば動きを止めることはできる。

だがそうなった人形は弾丸が尽きるまで所構わず撃ち、暴れ出す始末。厄介極まりない相手だった。

狭い路地を利用して戦闘を避けるが、敵の代表に中々近づけないでいた。

思い通りに進まない計画、そして自分の情報にない敵の出現に五右衛門は苛立ちを隠せずにいた。


「クソッ…! あんな馬鹿デカイ人形、どこから出したんや!」


愚痴を吐き出しながら銃を乱射する。壁に何度も隠れながら『ハカタ人形』の頭部を狙っていた。

生徒会も応戦するが、敵は腕で頭部を隠しながら上手く身を守っている。


「五右衛門さん、弾薬がもう…!」

「やかましい! 今考えとる!」


情けない声を出す西城に五右衛門は怒鳴り声を上げる。親指をグッと噛みながら頭の回転を速くする。

第参高校の兵器が突如現れた。これに関して考えることは後。今はどう突破するかを集中して考える。

まずどこから操作しているのか。五右衛門は周囲を見渡し必死に考える。すると視界に風紀委員会ビルが映った。


「……おった」

「え!?」

「風紀委員会ビルや! 第参高校の連中が見学しに来とる! 何で今まで忘れていたんや…!」


自分の考えの甘さに五右衛門は悔しそうに拳をグッと握り絞める。

風紀委員がクロだった時点で気付くべきだった。外野からの攻撃はまだ終わっていないことを。

元々『ハカタ人形』は第参高校の兵器。それを第参高校が操作しているという単純な可能性を頭の隅に追いやってしまっていた。

西城が急いで携帯電話を取り出すも、五右衛門は首を横に振った。


「無駄や。風紀委員にバレるようなヘマはせん。証拠も残すはずがないで」

「じゃあどうすれば…!」

「安心せい。簡単な話や」


五右衛門は携帯電話を取り出すと、笑みを見せながら操作する。


「こっちも同じように対抗すればええだけや」

「同じ、ですか?」

「時間は少し掛かるけど問題あらへん。このまま隠れながら進むで!」


五右衛門は手榴弾を『ハカタ人形』に投げつけると走り出す。爆発すると同時に生徒会は後を追いかける。

周辺の情報を常に把握している五右衛門の動きに迷いはない。複雑な動きで敵の目から姿を消していた。

細い路地に腰を落として身を隠す。何かを待っている五右衛門に先程の言葉が気になった西城は小声で聞く。


「一体何をやったのですか?」

「俺っちの知り合いにハッカーが居てな、ちょっと頼んだんや」

「だ、第参高校に勝てるわけないですよ。馬鹿なんですか?」

「何てこと言うのこの子」


五右衛門が西城の後ろに居た生徒会に真顔で聞くと、荒れた呼吸をすぐに整えて声を揃える。


「「「天然です」」」

「自分ら性格悪いやろ?」


殴りたくなる衝動を抑えて、五右衛門は説明する。


「確かにそのハッカーは無職のニートでオッサンや。でも腕は腐ってあらへん。唯一第参高校と張り合える奴やで」

「無職…」

「ニート…」

「オッサン…」

「えっと、五右衛門さんと同じですね!」

「やっぱ天然じゃないやろ自分!? 明らかに悪口言ってるで!?」


さらに文句を言おうとすると、携帯電話が鳴り出した。五右衛門は確認することなくその場から立ち上がり走り出そうとする。


「よし、『ハカタ人形』は()()止めたはずやで! 今や!」

「ま、待ってください!」


瞬足(ダッシュ)】を使って一気に道を駆け抜ける。その後を生徒会は必死に追いかけた。





———女子トイレから投げ出されたのは閃光弾だった。

第壱高校の軍学生は急いで柱やバリケードに隠れて防ぐが、突如異変は起きた。

閃光弾が爆発すると同時、自分たちの体が凍っていることに気付いた。

床のタイルが一面凍り付き、体が動かせないでいた。不可解な現象に軍学生たちは混乱する。


「今です師匠! 先に行ってください! すぐに追いつきます!」


女子トイレから飛び出したのは第弐高校の生徒会長。鹿野が大声を出すと、後ろから四人の援軍補助が飛び出した。

小笠原、愛理、優香、そして竹志の順で走り出す。が、


「おぐぅ!?」

「ちょっとタケ!?」

「きゃー!」

「うわぁ!?」


最後を走っていた竹志は足を滑らせて転倒。そのまま前を走っていた優香を巻き込み、愛理と小笠原も転倒させた。

その光景に鹿野は一瞬固まるが、ハッと我に返り第壱高校の軍学生に襲い掛かる。


「し、師匠! 後で追いかけます!」


わざと見てない素振りを見せる彼の優しさに、竹志たちは恥ずかしい思いをしていた。

急いで立ち上がり逃げるように走り出す。顔を赤くしながら優香は竹志を叱りつけた。


「何で転ぶとよ!?」

「うるせぇ! 好きで転んだわけじゃねぇよ!」

「喧嘩はそこまで! おがちゃんに怒られるよ?」

「大丈夫、もう怒ってるから」

「「マジですいませんでした」」


鬼の笑顔で怒る小笠原の顔を見てすぐに立ち上がり仲直りする二人。打ち所が悪かったのか小笠原から怒気がメラメラと伝わった。

廊下を駆け抜けて代表が居る軍学生を目指す。前に愛理、後方に小笠原、間に竹志と優香の構成で走り抜ける。


「居たぞ! 敵だ!」

「援軍補助!? 何故こんな場所に!?」


前方に軍学生の団体を発見すると敵もこちらの存在に気付く。驚きを交えながら大声を出していた。


「優香、隠れていろ」

「う、うん」


竹志の指示に従う。廊下の柱に優香は身を隠した。

愛理の走る速度が加速する。軍学生から見れば断然に遅い動きにしか思えないだろう。

彼女の強さを舐めるように笑みを見せる軍学生。距離を詰める愛理に先頭に立っていた軍学生は武器を使わず拳で殴ろうとする。


「がぁ!?」


しかし拳を振り上げた直後、軍学生の胸に小笠原の撃った銃弾が当たる。軍服のおかげで貫くことはなかったが、たたらを踏んだ。

その一瞬の隙を、かつて『凶姫(サドクイーン)』と呼ばれた元軍学生は逃さない。

バチバチッ———と目を眩ませる青白い閃光が軍学生の首元から光が放たれた。

愛理の前に居た軍学生は後ろから倒れ、目を裏返して気絶する。

愛理の右手には小さな黒色の棒状が握られていた。服の袖に武器を隠し持っていたのだ。


「スタンロッド!?」

「何だその威力は!?」


ギョッとするような威力に軍学生は急いで銃や武器を愛理に向けるが、距離を詰めているせいで一歩遅い。

銃口を向けた軍学生に近づきスタンロッドで上に弾き飛ばす。間髪(かんはつ)を入れずにスタンロッドでもう一度軍学生の首元を叩く。鋭い痛みと共に電撃が流れ、軍学生は(うめ)き声を上げる間もなく気を失う。


「コイツ!」


刀を持つ軍学生が愛理に斬りかかる。近距離戦闘に自信を持つ軍学生に対して愛理には不利だった。

人間離れした力で振るわれる強刃。スタンロッドなどでは防げない一撃が愛理に襲い掛かろうとしていた。


「代われ!!」

「ッ!」


背後から聞こえる声に愛理は後ろに向かって跳躍する。入れ替わるように出て来たのは竹志だ。

刀に対して竹志は黒色の手袋をした左手で振り下ろされる刀の左から打撃を与えた。

甲高い金属音が響く。空を切った刀が地面に当たったのだ。


「なッ…!」


目を疑う光景に硬直する軍学生。タイルの床にヒビが入るほどの威力を左手だけでいなしたのだ。その場で驚かない軍学生はいない。

何度も動揺を見せる軍学生に対して竹志は情けをかけない。間髪(かんはつ)入れずに軍学生の首に右腕を押し付けて進んだ。


「うぐぅ!」


苦しそうに呻き声を上げても腕の力は一切緩めない。刀を持つ軍学生の後ろで銃を構えていた者達は仲間に被弾することを恐れて銃の引き金を引くことを躊躇(ためら)ってしまう。

そのまま銃を構えた軍学生と距離を詰めた後、拘束した軍学生をどけるように右腕で振り払う。


「あがッ!?」


銃弾が撃たれる前に顎下から左の拳を突き上げるように殴る。同時に踏み込んだ足で敵の足を払い、体勢を後ろから(くず)させる。最後は顔面に右肘を叩き落として地に伏せさせた。

敵が握ってたアサルトライフルが宙を舞う。すかさず銃身を両手で掴み、近くに居た軍学生の顔にバッドを振るように叩きこんだ。

強烈な銃の破壊音と共に軍学生の鮮血が勢い良く飛ぶ。容赦の無い一撃に軍学生たちはやっと危機感を持つ。

残った軍学生は一番危険とされる竹志に全員で襲い掛かろうとする。だが発砲音と電気が弾ける音を耳にした瞬間、彼らの動きは止まった。


「忘れないで欲しいかな」

「油断大敵だよッ」


優しい声音で告げているにも関わらず、心臓が凍り付くような恐怖に包み込まれた。

振り返れば何人もの軍学生たちが床に倒れている。そこには軍服を着用していない援軍補助の二人が武器を構えていた。

最弱であるはずの小笠原と愛理の手によって倒されたことを物語っていた光景に残った軍学生は愕然とする。

———その後、数十人と居た第壱高校の軍学生は一分にも満たない時間で敗北を知ることになる。





———小倉 世志は女の子を押し倒していた。


こんな状態では誤解と言い張っても信じて貰えないだろう。何故なら世志は第壱高校の女子軍学生を馬乗りしていたのだ。

押し倒しているのは第壱高校の女子軍学生だった。自分が倒したわけじゃないが、倒している。何を言っているのか自分でも分からない。だけど誤解だと言い続けるしかない。

周囲に居る仲間たちが凍り付いている。一体どういう状況なのか説明して欲しいと目で世志を見ていた。


「さすが後輩君。想像以上の結果だよ」

「先輩が突っ込めと指示したらこうなったのですが!? おかしいですよね!?」

「確かに、(おか)しい」

「字が違う!?」


クスクスと鏡花は口元を抑えながら笑っている。世志は急いで女の子から身を引いた。

彼女は第壱高校の女子軍学生の中で一番序列が高くこの夜戦の代表に選ばれていた。全滅覚悟の中、先輩に付いて行った世志は彼女の強さを目の当たりにした。

白衣の中から多彩な道具を取り出し敵を次々と蹴散(けち)らす。銃、手榴弾、剣、槍、罠。第弐高校の英知を結集させた戦い方を見せてくれた。

だが目の前で見ているにも関わらず、世志は一切彼女の能力(アビリティ)を見破ることなく終わった。武器や道具の多さに何を能力(アビリティ)としているのか見当も付かない。もしかしたら使っていないのかもしれない。

軍学生の常識を覆すような予想できない戦い方―――『災禍の箱(パンドラ)』と呼ばれる由縁(ゆえん)を納得した。

そして憧れる情景を目に焼き付けていた世志は———彼女の指示に犬の様に従い、女の子を押し倒してしまう結果になった。つまり完全に騙された。


「完璧だったじゃないか。私が敵を誘導、後輩君はトドメを刺す」

「走れ!と言われて走って、普通にぶつかっただけですけどね。尋常じゃないくらい痛かったです」


改めて基礎の【瞬速(ダッシュ)】の強さを身を持って感じることができた。


「でも最後に犯したのは後輩君の意志だろ?」

「だから違ぇよ!? あと何もやってねぇよ!」

「先輩にそのような口の利き方をするとは…ますます信じられない」


女でなければ一発冗談抜きで殴っていた。世志は怒りを堪えながら前方を指差す。


「とにかくあと一人、残っていますから行きましょう!」

「それなら問題ない。生徒会が仕留めたとたった今、報告が来た」


走り出そうとする体が止まる。鏡花は少し物足りなさそうな顔で首を横に振っていた。


「さすが生徒会と言いたい所だけど…もう一人の代表は珍しい能力(アビリティ)を持っているらしいから、実験の被験者にでもなって貰おうと考えて———」

「外道だよ」


思考がマッドサイエンティストなのは変わらないことに世志は呆れて溜め息をつく。

周りに居た軍学生たちが巻き込まれないようにと、敵である第弐高校の軍学生を探しに逃げ…駆け出す。

その時、生徒会の人たちが走っているのを確認した。彼らもこちらに気付き、鏡花を発見すると嫌な顔になるが、腹を括った表情で歩いて来る。


「あ、あの……ごめんなさい! 何もしていないですけど、許してください!」


突然の命乞い。生徒会書記の西城は腰を曲げて謝った。どうやら生徒会がこの悪魔のような先輩にいじめられている噂は本当らしい。


「何で急に謝るねんッ。アンタが『災禍の箱(パンドラ)』やな?」


古びた茶色のコートに下駄を履いた変な軍学生が西城の頭に手刀を入れながら鏡花に話しかけた。

学生に見えない男は無精な髭を触りながら鏡花の体を舐め回すように観察していた。

確かに先輩は美人だ。軍服の上からでも分かる豊満な胸。スラリと伸びた足、束ねた赤い髪は綺麗だった。

百人に聞いて百人が美人と答えるだろう。だが言わせて貰う―――中身がアレなのでノーチャン。


「後輩君、失礼なことを考えていないかい?」

「いえ、全く、全然、滅相も」


否定の四連続で首を横に振る。顔の表情でバレる前に世志は話を切り出す。


「ところであなたは?」

「俺っちは五右衛門や。小倉 竹志の弟、世志やな?」

「……情報屋っすか」

「正解や。良い勘しとるやん自分」


ニコニコと笑みを見せる五右衛門に世志は戸惑う。話は聞いていたが、本当に第壱高校を裏切っているとは思わなかった。

すると隣に居た鏡花は世志の両肩を掴みながら誇らしげに言う。


「当たり前じゃないか。私が目を付けた後輩君だぞ。夜戦が終われば私の部に入れるつもりだ」

「え?」

「「「「なッ!?」」」」


ポカンと間抜けな顔で驚く世志。対して生徒会は戦慄するかのように驚いていた。

西城は世志の腕を引っ張り生徒会の後ろに隠れさせる。


「駄目です! いくら知力の高い先輩でも、馬鹿みたいに問題ばかり起こす先輩には渡しません!」


書記の西城、本日も切れ味が抜群だった。世志は生徒会の後ろに隠れながら鏡花の様子を伺うが、彼女は微笑みながらこちらを見ていた。


「安心したまえ書記君。無理矢理じゃない。彼は私と一緒に部を盛り上げたいと思っているはずだ」

「ほ、本当ですか?」


西城が不安そうな顔で世志の顔を見る。鏡花は世志に向かって手を伸ばした。


「さぁ! 私と一緒に最高の部活を―――!」

「お断りします」

「———今何て?」

「全力でお断りします」


何を言っているんだこの先輩と言った感じの顔で世志は嫌な顔をして拒否していた。

だから何度でも言おう。いくら美人でも―――中身がアレなのでノーチャン。

彼女の部活に入ったところで絶対に被験者(オモチャ)にされる姿が目に見えている。

拒否された鏡花は引き攣らせた表情で話す。


「か、『仇討(かたきう)ち』ぐらいはするよ? 私はそこまで薄情者でない」

「いや、部活は銃器部と前から決めていたので。そういう問題じゃないです」

「銃なら私も作れる! むしろ銃器部より私は上手くできる!」

「遠慮します」

「何故!?」


信じられないと鏡花は世志の両肩をガッチリと掴む。顔が近いせいで世志は思わず顔を背けてしまう。

それが嫌だと受け取ってしまった鏡花は俯くが、小声で呟く。


「……私が銃器部に入るのもありか」

「は?」


世志が本気で言っているのか確かめようとすると、ドンと背中を押された。


「おっと」

「!?」


突然の出来事に対応できない世志は鏡花を抱き締めるような形になる。顔を真っ赤にして急いで離れるが、鏡花は照れることなく平常心だった。

振り返れば自分を押した西城が無理な笑みを見せていた。


「こ、小倉君の入部を拒否します…」

「書記君は銃器部の部長だったな」

(み、見捨てられたぁ!?)


鏡花の入部を恐れた部長は世志を切り捨てた。ショックのあまり言葉を失ってしまう。

しかし、このままだと鏡花の医学部に入れられてしまう。それを阻止する為に世志は首を横に振る。


「さ、策略部がありますから! まだ入ってみたい部はたくさん―――」

「悪いが拒否する」


西城の後ろに居た生徒会の一人が同じように首を横に振っていた。副会長(ブルータス)、お前もか。


「爆薬部も!」

「ごめん、無理だ」

「さ、サッカー部なら」

「すまん」

「……ラーメン部とかでも大丈夫です」

「そ、そんな馬鹿みたいな部はないよ?」


生徒会全員に否定されて泣きそうになる世志。最後の抵抗を試みる。


「じゃあ俺がゲートゴルフ部作りますからぁ!!」

「部活設立の申請は二年生からしか認められないよ後輩君」

「ドちきしょうがあああああああああァァァァ!!!」


嬉しそうに教える鏡花に世志は悲痛の叫び声を上げた。

両膝を地に付いて落ち込む世志を同情の眼差しを送る五右衛門は後頭部を掻きながら鏡花に話しかける。


「あー、話続けるで。こっちに攻めて来た代表二人は倒した。あとは生徒会長と援軍補助たちやけど…」

「助けに行くことくらい分かっている」


鏡花は五右衛門が言うより先に歩き出す。しかし五右衛門の反応は違った。


「いや、必要あらへんよ。第壱高校の軍学生が本拠地に帰らんように止めるだけでええ」


その言葉に鏡花の足が止まる。五右衛門の顔を見て真偽を確かめる。


「ホンマや。残り二人は向うに任せて大丈夫やで」

「……生徒会長君が本気を出すのかい?」

「無理やろうな。それに倒すのは援軍補助―――あの三人や」

「そろそろ聞かせて欲しいね、彼らの正体を。私は気になって仕方がないんだ」


生徒会も鏡花と同じ気持ちだった。五右衛門に説明を求める目で訴えている。


「生徒会には言ったけど、小笠原 春町(はるまち)と華道 愛理の元序列は四位と三位や」


鏡花の額から汗が流れた。

五右衛門の発言に聞き逃すことができない点があったからだ。


「待つんだ。元序列四位と三位?」

「せや」

「いや、まさか……」


本当だということを確かめた後、絶対に知る必要があることを尋ねる。


「もう一つ聞く。それは———()()()の話だ?」


慎重に答えを聞こうとする鏡花。五右衛門はその質問を待っていましたと言わんばかりの笑みを見せた。


「———()()()の話や」


その発言に鏡花は目を見開く。そして口端を吊り上げて笑った。

世志と生徒会は何を伝えたかったのか全く理解していない。

一体この夜戦で何が起きているのか? それを知る為に西城は五右衛門から説明を聞こうとした―――





「もういいぞ」と竹志が言うと、隠れていた優香は柱の裏から顔を出す。

戦っていた三人の足元には軍学生たちが倒れている。気を失っている者、意識があっても動けない者、第壱高校の軍学生たちは援軍補助に敗北していた。

竹志は自分の装着した黒色の手袋を見ながら満足気な表情をしていた。


「こんなに薄いのに防刃防弾のグローブとか凄いな第弐高校」

「僕はスタンロッドの威力にビックリだけどね…」

「じゃあ試す?」

「「人に向けるな」」


両手を挙げて降参のポーズを取る竹志と小笠原。スタンロッドを楽しそうに振る愛理はもはや狂気だった。

優香は倒れた軍学生の間をおずおずと進む。途中、それに気付いた竹志が手を取り誘導してくれた。


「大丈夫なの?」

「殺してない。小笠原も急所は外して撃っている」

「……そう」


優香は目線を少し落とす。

聞きたいことはそれじゃない。だが優香は聞き直すことはなかった。


「急ぐぞ。走れるか?」


優香は頷き竹志と並んで走り出す。先程と同じでその前方には愛理が先行して走り、後方から小笠原が付いて行くようにしている。

薄暗い廊下を駆け抜けて駅のプラットホームに出る。軍学生と『ハカタ人形』を警戒しながらホームを駆け抜ける。

その時、線路に何かあることに気付いた優香は竹志の服を引っ張る。


「アレは何?」


優香の視線の先にある物体は大きいが、しっかりと目視するには暗くて分からない。何かあるのは間違いない。

気になった竹志は一度その場に止まり、小笠原に確認したい旨を伝える。すると小笠原は自分の掛けていた眼鏡を渡して来た。

理解できない行動に戸惑っていると、眼鏡のレンズ周りを囲む(ふち)———リムと呼ばれる所に小さなボタンがあることに気が付く。


「暗視モード付きだよ」

「いろいろとツッコミを入れたい」


無駄に高性能な眼鏡を普段から掛けている小笠原に言いたいことはあるが、とりあえず線路にある物体を眼鏡を掛けて目視する。

そこには鮮やかな色の着物を着たロボット―――『ハカタ人形』が倒れていた。

外傷は見当たらない。まるで電池を抜かれたかのようにぐったりとしていた。

そのことを小笠原たちに伝える。驚いた様子を見せたが、すぐに小笠原は結論を出す。


「凄い……ジャミングだよ」

「何が凄いんだ? 第弐高校の誰かがやってくれたんだろ?」

「僕の携帯電話はそのジャミングを感知できていない。『ハカタ人形』だけに有効なジャミングを第弐高校の軍学生ができるとは思えないかな」


何者かの介入。味方だと思うが……いや、そんな場合じゃない。

近づいて原因を突き止めようか迷うが、残り時間が少ない。無視して代表を倒すことを優先する。

小笠原に眼鏡を返して再び走り出す。階段を上り線路とプラットホームの上に造られた通路を駆け抜けようとした時、後ろから足音が聞こえた。


「遅くなりました!」

「いや、十分早い」


後ろから走って来たのは鹿野だった。傷一つない軍服に改めて生徒会長としての強さを認識する。

謝罪する鹿野に竹志は首を横に振る。合流することに成功したので先に進む。

通路を駆け抜けようとした矢先―――誰かが居ることに気付いた。


「居るぞ。第壱高校の代表だ」

「———気付かれていたか」


男の低い声で息苦しい雰囲気に包まれる。武器を構えて攻撃に警戒するが、敵は無防備な姿で歩いて来た。

軍服を着た男の髪は茶色の短髪。鋭い目つきに、身長は竹志よりやや高い。

両手には赤いグローブの上から手甲を付けている。実力武闘派という情報はあながち間違っていない。


「第壱高校三年、序列六十位、ボクシング部で部長を務めている毛利(もうり) 玄兎(げんと)だ」

「ご丁寧にどうも。援軍補助の小倉 竹志だ」


ボクシング部―――その自己紹介に鹿野は竹志の肩を掴む。


「待ってください。相手は———」

「多勢でも俺は構わん。かかって来るがいい」


鹿野が何かを言う前に毛利は声を重ねる。構えた姿に竹志は目を細める。


「安心しろ。お前の相手は俺だ」

「ほう…援軍補助如きが?」

「ああ、そうだ。だから他の連中は見逃せよ」

「面白い、良いだろう。先に行けば良い」


毛利は自分の背後を親指で指して通ることを許可する。その姿に竹志は振り返らず告げる。


「小笠原、華道。来た道を引き返せ。もう一人の代表は別の場所に居る」


毛利の言葉を信用していなかった。いや、信用と言うより言っていることに嘘はない。だから違うのだ。

小笠原は竹志の言葉に数秒迷うが、愛理と頷き合って来た道を引き返す。

鹿野はどうするのか竹志に聞こうとするが、自分には優香を守ることを託されている。もし危なくなれば助けに入ればいい。鹿野は優香の前に出て警戒を強めた。

毛利は少し苛立っているのか、額にしわを寄せていた。


「何の真似だ?」

「わかるんだよ。お前みたいな奴は決まって後でこう言う―――『俺は一度も言っていない』ってな」

「……チッ」

「どうせ『俺はこの先に代表が居るとは言っていないぜ?』とか言うんだろ? 時間稼ぎすれば勝ちだからなそっちは」


毛利の顔には憎悪のような感情が現れていた。汚物でも見るかのような目で竹志を見下す。


「運良くここまで来れた雑魚のクセに…調子に乗りやがって」


その時、毛利はポケットに手を突っ込み何かをしていたのを見逃さない。

仕掛ける前に竹志が走り出そうとした時、背後からガシャンッと大きな金属音が聞こえた。


「師匠!?」

「タケ!?」


振り返れば上から鉄格子が落ちて来ていた。自分と優香たちが分断され、毛利と一緒に閉じ込められている。

状況の不味さを察した鹿野が軍服の力を使って鉄格子を壊そうと試みるが、


「超強化素材……!?」


軍学生たちが建物を壊さない為に開発された超強化ガラスや超強化壁。その素材が鉄格子に使われているのだ。恐らく、この駅の通路も同じ。

それでも鹿野は諦めずにこじ開けようとしている。自分を閉じ込める罠に()められたことに気付くと、毛利を睨んだ。


「制限時間までいたぶってやる」

「この野郎……!」


うす気味の悪い笑みを見せながら近づく毛利に竹志は拳を構えた。




一方、小笠原と愛理はもう一人の代表を見つけていた。

駅の一階にある駅員室の先———大広間の管理室にもう一人の代表は居た。

モニター画面に囲まれた部屋の奥に立っているのは着物を着た女子軍学生。小笠原が調べた有村(ありむら) リリがそこに居た。

長髪の黒髪と着物が大和撫子風の美人を(かも)し出しているが、目の下にあるクマがそれを消している。


「……意外な人が来ましたね」


落ち着いた声音で二人を見つめる。小笠原は容赦なく銃口を有村に向けた。


「悪いけど時間が無いんだ。大人しく倒れてね、第参高校の刺客さん」

「調べたのですね。外の人形が止められたのも頷けます」


有村の言葉に線路で動かなくなった『ハカタ人形』を思い出す小笠原だが、戦闘に集中する。

彼女は右腕に付けた機械装置を見せびらかしながら笑みを見せた瞬間、


「でも、死んでください」


―――天井から何かが落下するのを視界に捉える。

まるで入り口の襲撃を思い出させるかのような光景。嫌な予感がした小笠原は急いで銃口をそちらに向ける。地面に落ちた正体を見ようとすると、無数の赤い光と目が合った。

予想はしていたが、背筋をゾッとさせるような光景に額から汗を流す。


「やっぱり『ハカタ人形』を使うんだね……!」

「来るよおがちゃん!!」


機械音を鳴らしながら立ち上がる三機の『ハカタ人形』を―――有村リリは操りながら笑った。



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