暗躍する者共
———時刻は二十三時三十分。風紀委員の審査まで残り三十分となった。
既に第弐高校の前線は『災禍の箱』の手によって本拠地近くまで追い詰められている手筈になっているはずだ。そろそろ全滅覚悟のカウンター攻撃を仕掛ける時間。
生徒会長と援軍補助の竹志たち、そして援軍補助の仲間である小笠原と愛理の部下たちで本拠地を襲撃する。
五右衛門と残った生徒会のメンバーで第弐高校の本拠地を攻撃している敵に背後から奇襲。
戦闘準備を整えた俺たちは外に出ると、第弐高校の本拠地がある方向から爆音を耳にする。第弐高校が動き始めた合図だ。
「全滅覚悟の突撃や! 無駄にさせへんで!」
「ま、待ってくださぁい!」
駆け付けるように五右衛門が【瞬速】で向かう。その後から生徒会が付いて行った。西城が生徒会長に手を振っているの一瞬だけ目撃した。
「鹿野。柳を頼む。全力で守って欲しい」
「承りました」
竹志の頼みに迷いなく頷く。
援軍補助の仲間たちが先導して敵の本拠地へと疾走する。周辺を警戒しながら、されど素早く移動しなければならない。敵の本陣に足を踏み入れているのだ。いつ襲われてもおかしくない。
商店街を一気に突き抜けて通りを走り抜ける。第弐高校に一斉攻撃を仕掛けているおかげか第壱高校の軍学生が見当たらない。
「……駅か」
正面に見えたのは《カシイ》駅。服や本、飲食店やコンビニまで施設が多く複合している駅だ。広く大きい建物だ。軍学生が配置されているのは間違いない。
しかし、ここで嫌な予感がした。第壱高校の過去を知っているせいか、まさかと思ってしまう。
「なぁ小笠原」
「大丈夫、ここが第壱高校の本拠地だから」
「えぇ!?」
尋ねる前に答えてしまう小笠原。その表情は複雑そうな顔だった。
生徒会長たちが驚きの声をあげる。それもそうだ。第弐高校は頑張って本拠地を作成したにも関わず、敵は元々ある施設を拠点にしているのだから言いたいことは山ほどあるだろう。
第壱高校の数は自分たちより三倍居るにも関わらず自分を守る拠点を造っていない。特に駅も改造されているように見えない。
「少しは何か整えていると思ったが…監視カメラ一つも無いぞ。軍蔵が見たら泣くぞこれ…大の男がわんわん泣くぞ」
「でも前よりはかなりマシだけどね…」
敵の本拠地を見ただけなのに竹志と小笠原は呆れるように息を吐いていた。これでマシと聞いた鹿野は戦慄する。
しかし敵の本陣であることには変わりない。気を引き締めて戦いに臨まなければならない。
「て、敵だああああああああああああ!!!」
突如鼓膜を震わせるような大声が響き渡った。駅の警備をしていた第壱高校の軍学生だ。
人間が出せる音量領域を遥かに越えている。恐らく能力だ。
「み、耳が痛ぇ……!」
「珍しい能力だけど、発見された…!」
「おがちゃん、撃って! 今すぐに!」
「分かってるよ!!」
愛理が叫ぶと同時に小笠原は背負っていた狙撃銃を構えて即座に発砲。スコープを覗くことなく駅の前に居た軍学生を撃ち抜いた。
距離は二百メートル近くあるにも関わらず狙撃に成功した小笠原に鹿野は息を飲んだ。
(なッ!? 狙撃銃で速射!?)
軍学生でも速射できる者は少ない。まして一般人がそんな芸当を簡単にやって見せることなど聞いたことがない。
この夜戦で一体何度自分を驚かせるつもりなのか。知らず知らずのうちに鹿野の胸は彼らに対する期待で一杯一杯だった。
「まだ起きてるぜ!」
「ぐはぁ!!!」
倒れた軍学生を踏み付けて走り抜ける竹志。敵の苦痛の声も大きく、隠密に動こうとしていた自分たちに取って厄介な相手だった。
駅の中からドタドタと足音が聞こえる。大声を聞いて駆け付けた軍学生たちだ。
援軍補助の仲間たちを追い抜いた竹志は先頭を走りながら指示を出す。
「とにかく中に入れ!」
このまま外に居ても意味がない。急いで駅の中へと入ろうとする。
五右衛門の情報が正しければ敵の代表はどこかに居るはず。部隊を二つに分けて代表を探す———と思考が過ぎった瞬間。
ギチギチッと小さな音が聞こえた。
脳が危険だと叫んでいた。頭上を見上げれば無数の紅い瞳がこちらを覗いた。
息が詰まるような恐怖に殺される前に竹志は絶叫した。
「上だあああああああああああああ!!!」
一斉に全員が見上げる。人の形をした何かが天井を這う姿に呼吸を忘れた。
気味の悪い光景に体が硬直してしまう。優香が悲鳴を上げようとする前に、視界がブレた。
刹那———耳を劈く発砲音が連続で響き渡った。
一秒前まで自分が居た場所、床のタイルが粉々に砕け散る光景に優香は戦慄する。
ドンと背中に衝撃を感じる。視界がブレたのは竹志が自分に突進するように庇い、助けたからだと。
そして———辺りに散らばった夥しい鮮血を見て、自分たちが危険に晒されていることも頭で理解した。
「全員撤退だ!! 細い道に向かって全力で逃げるんだ!」
小笠原の叫び声に援軍補助の仲間たちは脇目も振らずに駅とは真逆の方向へと駆け抜ける。
自分に飛び込んで来た竹志は急いで優香を抱きかかえると、駅の中へと走り出した。後ろからは小笠原と愛理、そして鹿野もついて来ている。
抱えられた優香は竹志の顔を見上げると、頭部から血が流れていることに気付く。
痛みに文句一つ言わない竹志は小笠原たちに怒鳴る。
「馬鹿が! 何で来やがった!?」
「怪我人を放っておけるわけないだろ! 少しは僕たちを頼れ!」
「そうだよ! タケ君の大馬鹿!」
背後から建物を破壊する轟音が聞こえた。振り返ると土煙が巻き上げられ、その奥から何かがこちらに向かって来ていた。
凝らした目で正体を見ると、鹿野が驚いた声を出す。
「ろ、ロボット!?」
金色の装甲で作られた頭部と光る赤い目。それは人ではないとすぐに判断ができた。
四、五体の機械は足元に取り付けられたタイヤを回して追いかけて来た。
人と同じような体格に派手な着物を身に纏っている不思議な人形。精度が高いロボットに竹志は声を荒げた。
「ふざけんな! 何で第参高校の玩具がここにあるんだよ!」
「第参高校!?」
「話は後にして二人とも!」
小笠原が叫ぶと同時に背後から銃弾が飛んで来る。銃弾が当たる前に曲がり角を曲がることに成功する。
一秒止まるだけで死の可能性がある鬼ごっこにふざけろと心の中で吐き散らす。
階段を二段飛ばしで駆け上がるが、敵の機械はピョンと跳ぶだけで自分たちの頭上を飛び越えた。
自分たちの行く先に着地し、機械人形は手に付いた銃を俺たちに向ける。先回りされたことに足を止めそうになるが、止まれば後ろに居る機械人形に撃たれる。
背後に居る仲間を信じて大きく前に踏み出した。
「せやぁ!!!」
正面に来た機械に愛理は槍を投擲した。一直線に突き進む投擲槍は敵の銃に当たり、銃口の狙いを大きく外した。
放たれた弾丸は駅の窓ガラスを何十枚と割るが、敵の弾丸に被弾した者はいない。
一瞬の隙ができたのを小笠原は見逃さない。降り注ぐガラスの雨に気を付けながら片手銃を構えて、頭部に付いた赤い瞳を撃ち抜く。
発砲と同時にガラスが砕ける音と共に機械の動きが怪しくなった。壊れたのか、動きがヨロヨロとしている。
「邪魔だぁ!!」
走ることを止めなかった竹志がいち早く機械の目の前に辿り着く。優香を抱きかかえたまま、右足の回し蹴りを機械の横腹に叩きこむ。衝撃を受けた機械は地面を転がり、そのままガラスを割りながら外へ落ちた。
「後ろは任せてくださいッ!!」
背後から攻まり来る機械から逃げようとした時、鹿野は掛けていた緑色の眼鏡を外す。
あの装甲と着物には銃弾を当てる程度では効かない———と叫ぶ前に異変は起きた。
轟音と共に突如現れたのは氷の柱。階段の下から天井まで深々と突き刺さるように伸びた巨大な氷に息を飲んだ。
巻き込まれた機械は氷の中に閉じ込められている。地面から氷が突き出たわけじゃないとすぐに察した。
「鹿野、お前の能力は…」
「小倉君! 軍学生が来る! 隠れるよ!」
小笠原の声にハッと我に返る。
言いたいことを飲み込み、急いで軍学生たちから身を隠すために走り出した。
#
隠れた場所に選んだのは女子トイレだった。状況が状況なので四の五の言っていられない。
ダミーとして途中の道や階段にはジャージを脱ぎ捨ててある。血で汚れているが、場所の特定を少しだけ遅らせる程度のことはできるはず。
小さな個室に五人で入るにはかなり窮屈だった。竹志は便座に座り優香がハンカチで血を拭いていた。
小笠原と愛理は静かに携帯電話で外に居る仲間と連絡を取っている。鹿野は不安な表情で竹志の容体を伺う。
「大丈夫ですか?」
「大袈裟だ。少し切っただけで痛くねぇよ」
「少しの割には血の量が多いけどね」
嫌味を含ませたように小笠原が呟く。竹志は舌打ちして黙り込んだ。
ここで愛理が怒るのがいつもの流れだが、彼女も唇を噛んだまま何も言わない。
刻々と迫る制限時間。ゆっくりしている場合じゃないのに、行動を起こせないでいた。
「……アレは、何ですか?」
沈黙を破ったのは鹿野。『アレ』とは襲撃を受けた人形兵器のことを言っている。
黙っていた竹志は小さな声で説明する。
「第参高校が使う兵器だ。『ハカタ人形』って言う奴だろ、製作者さん?」
「アレは違う。僕の作った物じゃない、新種だよ」
小笠原は首を横に振って否定する。
《知》の第参高校は戦闘力が低い。それを補う為に彼らは《知》を使いある兵器を開発した。
第弐高校とは違う、知能で動き、戦闘する機械を作り上げたのだ。それが自動兵器人形———『ハカタ人形』だ。
それ以来、第参高校は知力だけでなく武力を付けることができた。今では第参高校だけが使役できる戦力とされているはず。
だがその大事な戦力が、まさか第壱高校に流通しているとは思わなかった。
「でも関わっているのは間違いないだろ。黒幕の繋がりは、意外と第参高校かもな」
「確かにこの騒動を引き起こした可能性は高い。第壱高校がするとは思えない点は、裏から糸を引いているのが第参高校の仕業だと言われても不思議じゃない」
竹志と小笠原の話には信憑性が薄いと言い切れなかった。
第参高校の持つ兵器を第壱高校が持っている。それだけで話の信憑性が増しているのだ。
「……『ハカタ人形』はアレだけか?」
「仲間たちからの報告だと外からは見えないみたい。だけど、多分いる」
小笠原の報告に竹志はため息をついた。
五右衛門の情報に無かった予期せぬ展開に絶望を感じる。殺戮兵器と人間の戦いなんて結果は目に見えているようなモノ。もしあの状況でロボットが怯むことなく銃を乱射していたら死んでいたはずだ。
「……華道、最初の奇襲で被害はどのくらいだ」
「それは大丈夫。全員、親指を握り絞めていたから」
「親指、ですか?」
愛理の言葉に鹿野が尋ねる。愛理は親指を手の中に入れてグーの形を作り見せた。
「生きている証拠。だからあの場で倒れている援軍補助の仲間たちは死んだフリをしているよ。戦争でも、そういう奇襲を仕掛けることもあったから」
戦争。愛理の呟くことに鹿野は唾を飲み込む。
敵の死体に紛れて奇襲を仕掛ける作戦のことだろう。味方が誤射しないようにサインを決めていたのだろう。
「な、何故そんなことを?」
「…敵の死体は見つけたら撃つの。殲滅を完遂して、敵から奇襲を仕掛けられないように」
ゾッとする答えが返って来た。顔を真っ青にした鹿野はそれ以上何も聞かなかった。
話題を変えようと竹志は気まずい沈黙を切り出す。
「作戦で聞いたと思うが、敵の代表は毛利 玄兎、有村 リリだ。二人を倒せば『ハカタ人形』なんざ無視で良い」
「そのことで一つ、気掛かりなことがあるんだ小倉君」
「何だ?」
「彼らの序列について少しね。毛利 玄兎は序列六十五位、有村 リリの序列は百四十位だったね」
小笠原の言う通り序列の順位は合っていた。
毛利と有村の順位が開いているのは夜戦で好戦的かどうかで開くという結論を作戦で出していた。毛利の方は好戦的で鹿野が知る程の人物。逆に有村は夜戦には参加しない非好戦的な人間だと五右衛門も話していた。
だが実力は別の可能性がある。代表に選ばれたからにはそれなりの強さがあると確信している。
しかし、今になって言う事では無いと竹志は思うが、小笠原はそうは思わないのだろう。
「二人とも凄く怪しいよ。まず毛利 玄兎はレベル1にして序列六十五位の実力武闘派。近接格闘だけでこの序列に上がっている軍学生は初めてだったね」
「五右衛門も言っていたな。第壱高校の期待のエースって」
「あの時は彼の情報を一切疑わなかった。でも彼の情報網に引っかからなかった『ハカタ人形』を見てからいろいろと疑ってしまってね…もしかしたら毛利 玄兎は隠蔽レベル2かもしれない」
「ハイド?」
一つの可能性を上げた小笠原に竹志は否定することはなかった。
また聞いたことのない単語に優香は首をかしげる。
「簡単に言えば強さを誤魔化した軍学生だ。もしかしたら相手は予想より強いかもしれない」
竹志の説明に個室に緊張が走る。
隠蔽レベルとはレベル2の軍学生がレベル1だと意図的に隠すことだ。だがこれは違法ではなく、敵を欺く手段として用いられる。
だが全ての軍学生は素性を隠しながら夜戦を参加するには無理があるのだ。序列上げに参加すれば何かしらの手によってレベル2だとすぐにバレて情報が拡散される。五右衛門と同じ情報屋の軍学生たちの手によって。
「……ありえるな。だが五右衛門の情報をすり抜ける程なら———」
「逆だよ。手に入れる必要性がないと感じたかもしれない」
「必要ない、か。もし隠蔽レベル2なら能力は目立たない系統の……」
「それよりも大事なのはここからだよ。もし彼が隠蔽レベル2ならもう一人の代表———有村 リリも怪しくなる」
」
小笠原の言葉に竹志は考え込む。怪しい点を無視してこのまま戦いに臨むか。
とは言え調べる時間に費やすほど時間は残っていない。
「……有村 リリだけ調べろ」
「毛利 玄兎はいいのかい?」
「本当に隠蔽レベル2なら簡単に情報は出て来ない。だから切り捨てる。三分で行けるか?」
「無茶言うね……やってみるよ」
嫌な顔をするが小笠原は携帯電話を取り出して操作し始めた。
情報を待つ間、誰も喋ることはなかった。沈黙が支配する中、愛理が携帯電話を取り出し表情を歪めた。
「『ハカタ人形』が前線でも暴れているみたい」
「くそっ、こっちの襲撃がバレたせいで敵はなりふり構っていられなくなったな」
敵の隠された戦力投下は第弐高校には痛恨の極み。代表の打倒難易度が上がったはず。
苛立ちを隠し切れない竹志は歯を強く食い縛る。ただ時間だけが過ぎて行った。
そしてちょうど三分が経とうとする時、小笠原は話を切り出した。
「あった。彼女の個人情報———どうやら当たりみたいだよ、小倉君」
真剣な表情で画面を見せる小笠原。そこには有村 リリの個人情報が記載されていた。
長髪の黒い髪。可愛い女の子なのに目の下にあるクマがそれを邪魔して残念な子になっていた。
詳しい経歴も記載されている。小学校、中学校、そして通っている高校———竹志は溜め息をついた。
「そういうことか」
そこには『第参高校から第壱高校に転校』と記載されていた。
『ハカタ人形』を操る糸の先が見えた気がした。彼女は転入学しているわけでもない。有力な情報だと言えた。
「有村 リリを倒せば『ハカタ人形』は止まる」
「なら全員で倒しに行きましょう。すぐに終わればもう一人も…」
「駄目だ。役割分担する」
鹿野の提案を即座に蹴り飛ばす。不服そうな顔で鹿野は聞き返してしまう。
「分担、ですか?」
「小笠原。有村 リリはお前が倒せ。元責任者として行って来い」
「そのつもりだよ。でも一人は厳しいから、お願いしてもいいかな?」
「もちろん! 任せて!」
小笠原のお願いに愛理は笑顔で返す。
全く希望が見えない現状だが、沈んだ気持ちをどうにかしようとする愛理の心意気に思わず笑みがこぼれる。
最後に残った優香の顔を盗み見するが、
「柳はここに隠れていて欲しいけど…」
「絶対に無理ッ」
「———ということだ。鹿野、また頼んだ」
「……分かりました。次こそは必ず守ります」
「よし、じゃあ最後に生徒会長様、一言頼むぜ」
「え!?」
突然の無茶振りに鹿野は驚く。竹志はニヤニヤと悪い笑みを見せながら話す。
「そりゃそうだろ。こういう時はボスが助言するもんだぜ? さっきから俺と小笠原しか話していないから不安だわ」
「そ、そりゃ師匠の方が頼もしいですから」
「アホ。俺はお前の能力を見破ったから言っているんだ」
その時、鹿野の表情が凍り付いた。目を逸らしてしまうが、すぐに竹志の顔を見る。
「ですがこの力じゃ何の意味も…!」
「———舐めるなよ」
押し殺した声で竹志は鹿野を睨み付けた。
その気迫に言葉を失った。狭い部屋でも思わず鹿野は一歩下がってしまう。
「別にお前を脅しているわけじゃない。お前の様子を見ていれば大規模な夜戦に慣れないことも分かる」
「……………」
「だから一つだけ言っておく。後悔するような選択はやめろよ」
「……肝に銘じておきます」
何かを考え込み始める鹿野に俺たちは笑い合い、生徒会長の肩を叩いた。
「ドーン!」
「バーン!」
「キック!」
「うぐぅ!? 誰か一人蹴りましたよ!?」
愛理はニッコリと笑顔で首を傾げた。犯人はコイツだけど言わなくていいか。
「ちょ、ちょっとやり過ぎじゃない? 気合を入れるにしては…」
「いいんだよ柳。それより早く行くぞ。勝ちを取りに行く顔をしろ」
「小倉君、ちなみにどんな顔?」
「知るか。何か勝ちそうな顔だ」
「適当だね…」
「じゃあ優香ちゃんも一発やる?」
「そうね、せい!」
「痛っ」
「さすが優香ちゃん。小倉君の肩を殴るとは」
四人はそんなやり取りをしながら個室のドアを開ける。竹志は鹿野の肩を組みながら後を押す。
「どんな形であれ、お前はリーダーだ。第壱高校の頂点に立つ男だ」
肩の荷が重いと言わんばかりの表情。鹿野は黙り込んでしまうが、竹志は続ける。
「第弐高校は全滅覚悟の突撃。お前の成功を信じて夜戦をしているんだろ」
ドンッと軽く押されて前を見る。そこには自分を映す鏡があった。
「生徒会長の決断は俺の弟だって動かした。こっそり【瞬速】の練習をするくらい責任を感じていたんだぜ」
「俺の……」
「援軍補助の俺たちが夜戦の勝敗を左右しているわけじゃない。お前と、お前が率いる軍学生だ」
もう一度、背中を押す。すると鹿野は目の前にあった鏡をジッと見続けた。
「もっと胸を張りやがれ」
最後のひと押しに鹿野は口元を緩めた。
そして、パンッと両手で自分の頬を叩いて気合を入れ直した。
「師匠、俺はまだまだ未熟者です」
「だろうな」
「でも、この夜戦には絶対に勝ちたいです」
鹿野は右手を出して竹志に握手を求めた。
「犠牲になった仲間の為に、助力を改めてお願いします」
「ほいよ」
軽く頷いて竹志は鹿野の手を握る。すると小笠原たちもその上から手を置いて、握り絞めた。
「僕も」
「優香ちゃんも一緒に」
「もちろんよ」
全員が手を置く。この瞬間に鹿野は感極まって涙を流しそうになるが、何とか堪えた。
「多分、もう外には敵が構えている。時間の与え過ぎだ」
「いや小倉君。話し声が一番の原因———」
「まぁ小笠原が不用意に携帯電話を使ったのが一番の原因だが、問題ない」
「今までの中で一番酷い責任転嫁だよ…」
それでも竹志と一緒に笑みを浮かべてしまう小笠原。愛理と優香も表情を緩めた。
鹿野は眼鏡を外して胸のポケットに入れる。そして白い歯を見せた。
「お願いします、皆さん!」
援軍補助の四人は同時に頷いて見せた。




