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フクオカ  作者: 夜紫希
第一章
18/32

残された可能性

———深夜零時、第弐高校は敗北する。

優勢だった戦況は劣勢へと変わる。情報屋の五右衛門が出した制限時間と敗戦の宣言。

当然そのことに鹿野たちは納得できないでいた。

だがもし本当に敗北するとしたら。深夜零時という時間から一つの敗戦する可能性を挙げることができた。


「風紀委員の審査(Judge)ですか…」

「せや。どれだけ戦える軍学生が居ても第弐高校は負けることになるで」


かき消えそうな声で鹿野が答えを口にする。それを耳にした五右衛門は肯定した。

例の如く、優香がどういうことなのか説明して欲しそうな目で俺の顔を見ていたので説明する。


「大規模の夜戦で風紀委員の審査(Judge)する時間は決まっているんだ。回数は二回、深夜零時と朝の五時だ」

「えっと、次は深夜零時ね。でもどうして負けが決まるの?」

「戦況を見て劣勢の高校が明らかに敗北する、勝てる見込みがないと風紀委員の話し合いで決まると審査(Judge)されて夜戦は強制終了。勝敗を決定されるんだ」

「でも優勢の戦況ってついさっき…」

「その戦況が客観的に見て不味いことになるからだ」


五右衛門に目配せするとタブレットを投げ渡される。第弐高校の本拠地とその周辺状況が記載された画像に指を指しながら教える。


「第壱高校は戦力を更に投下して来た。囲い込むように陣を展開して第弐高校の軍学生を本拠地まで追い込む為に違いない」

「追い込んでも本拠地には罠があるなら大丈夫でしょ? 本拠地に立て籠もって戦えばいいし、それに倒された人数は少ないから有利なのは———あ!」


自分で言ってあることに気付いた優香。頷いて見せると優香は気付いたことを口にする。


「もしかして、戦いにくい?」

「そういうことだ。両校の戦い方は全く違う。第壱高校と違って、罠と武器で応戦して来た第弐高校は人数が固まった所で不利になる。狭い部屋や廊下で戦うなら尚更だ」


前線を下げるということは自分たちの領土を狭めること。多彩な罠や武器を使う《技》の第弐高校にとって自分の首を絞めるようにな行為なのだ。

第壱高校はそれに気付いているから戦力を増加した。罠を張らせることなく、このまま審査(Judge)を利用して勝利まで押し切るつもりなのだろう。


「鹿野の話を聞く限り『災禍の箱(パンドラ)』って奴は気付いていると思うぞ。必死に防衛線を下げないようにしているはずだ。もし本拠地まで下がることになればレベル1(ファースト)の軍学生は全部切り捨てるはずだろうな」

「そんな、どうして!?」

「言っただろ。戦いにくいって。無理して本拠地に全員入れれば切り捨てる数より多く犠牲が出る。最悪、全滅するぞ」


悔しそうに下唇を噛む生徒会長。どうにかできないのか必死に考えているのだろう。

連帯感のある軍学生は集団戦に置いて強さを発揮する。だがそれが邪魔になる戦況だってあるのだ。

邪魔になるなら切り捨てる。個々の強さを重視して戦う道しか残されていないのなら、そうするしかない。

小笠原と愛理も、策がないとこれには諦めている。


「五右衛門、レベル1(ファースト)を切り捨てた時、第弐高校の人数はどうなる?」

「約五百。本拠地まで撤退するなら最低でも三百まで削るはずやで」

「そ、そんなに!?」

「これで分かるだろ? 残り七百ならまだしも、三百まで減った軍学生が本拠地に立て籠もっているんだ。囲まれた状況下で、それでも第弐高校には勝ち目があると風紀委員は思ってくれるのか?」


優香は竹志の説明に優勢が不利な戦況へと変わる理由をやっと理解する。

そして第弐高校が敗北の道を辿(たど)っていることも理解した。

沈黙が部屋に落ちる。それ以上誰も抗議することはなかった。

だがこのまま停滞するわけにはいかない。話を切り出したのは鹿野だった。


「風紀委員の判断なら多少こちらが優遇されても…!」

「夜々月なら速攻で判断するぞ、第弐高校は敗北だと」

「そこ何とか頼むことは———!」

「これ以上俺の後輩を危険な目に遭わすな。アレでもギリギリを渡っているんだ」


睨み付けると鹿野はうなだれて諦める。助けて貰ったことを分かっているから、鹿野は無理な要求をしない。

今の状況、事の重大さに気付いたその場から西城は立ち上がる。


「な、ならこんな所で呑気に会議なんてしている場合じゃないですか!」


西城の大声に生徒会は同意するように戦闘の準備を始めた。

慌てた行動を取る軍学生たちに五右衛門が呆れるように息を吐いた。


「ホンマ自分らは夜戦が下手くそやなぁ」

「…どういう意味ですか」

「何で俺っちが呑気に遊んで、こんな重大な情報を言わへんのか分からんかいな?」


五右衛門の言葉は急かす軍学生の動きを止めるには十分だった。

タブレットを五右衛門に投げ返すと、新たな情報を公開する。


「増員した軍学生に代表が二人もおるで。つまりや、本拠地に居る代表は残り二人や」

「…すいません、何が言いたいのですか? 俺たち生徒会が本拠地に奇襲を仕掛けても、増員に向かった代表二人を倒さなければ意味が———」

「誰が()()()()()()()()()()()()()って?」

「え?」


突然言われたことに鹿野は五右衛門の考えを読めないでいた。察しの悪い生徒会長にショックを受けた五右衛門は額に手を置く。


「かぁー自分、察し悪いなぁ。話の流れで分からへんの? 今勝つにはたった一つの策しかないんやで?」

「…今、ですか?」

「話をまとめれば本拠地まで攻め込まれて、深夜零時になれば第弐高校は負けや。でも逆に言えることあるやろ?」


五右衛門は得意げな顔で鹿野に教える。


「五人の代表が残る限り、いくら他の軍学生がやられても深夜零時になるまで負けへんってことや」


軍学生たちに戦慄が走った。ここで五右衛門の考えを読むことに成功する。


「まさか全滅覚悟で本拠地に居る軍学生で敵の代表を!?」

「それだけじゃあらへん。自分らで敵の背後から奇襲も狙えるで。つまり挟み撃ちや」


戦況は優勢は劣勢を招く結果になっていた。だがその劣勢は逆転の一手へと変貌していたのだ。

軍学生たちは唖然として聞いていた。


「俺っちは深夜零時に敗北すると言ったで。ただそれだけや」

「不味い状況でも負けたわけじゃない。降参するか、代表が倒されない限り、時間制限以内倒せば勝てる」


勝てる。そのワードに肩の荷が下りる気持ちで鹿野は安堵の息を吐く。

だが問題が一つ残っていることに気付き竹志に質問を投げた。


「でも本拠地の奇襲はどうするのですか!?」

「だから、援軍補助(俺たち)が居るんだろ?」


笑みを浮かべて告げる竹志に鹿野は驚くが、すぐに頬を緩ませた。

竹志の横には小笠原と愛理が居る。元序列四位と三位。先程の戦闘を見て余計な心配だったと鹿野は反省する。


「こっちは五右衛門なら身を粉に…いや消滅するくらい働かせるから心配するな」

「どんだけ働くねん!? 俺っちの扱い、雑になってあらへん!?」


爽やかな顔で親指を立てると五右衛門は泣きそうな顔になっていた。元々第壱高校の軍学生なのに、彼は裏切る素振りを一度も見せていない。本当に味方してくれるのだろう。

だが五右衛門はあることに気付き、突然腹部を抑え始めた。


「だ、ダメや…俺っちは行けへん…!」

「小笠原、華道」

「ごめん嘘! すぐに手を出すのやめい!? 話を聞いてからにしてや!」


小笠原と愛理に()らしめるように指示を出そうとするが五右衛門は逃げながら止める。ポキポキと手を鳴らしながら二人は五右衛門に近づくが仕方なくここは止めて、言い訳を聞くことにする。


「効率を考えるなら生徒会長だけ本拠地の奇襲に参加させるべきや。俺っちの能力(アビリティ)は集団戦の方が向いてるで」

「……まともな意見か。もし失敗したら———」

「そん時は喜んで三人からの罰を受けるたるわ」


両手を挙げて降参のポーズ。冗談を言っているわけではないので暴力は振るえない。とても残念そうに小笠原たちは手を下げた。

「そんなに俺っちをボコボコにしたいんかいな」と嫌そうな顔で五右衛門が呟いている。そんな姿を見ていた鹿野はあの時の言葉を思い出していた。


『あの男に連れて貰うとええで。良い勉強になるはずや』


五右衛門は意図的に竹志と行動できるようにしたのだろう。その証拠に誰にも気付かれないよう自分に視線を向けていた。

鹿野は頷くと五右衛門は満足そうに口元で笑みを見せた。


「よし、これからの作戦を決めるぞ。小笠原、作戦を———あ?」


小笠原と一緒に作戦を考えようとすると、ポケットから着信音が流れ出した。

鳴っているのは竹志の携帯電話。鳴らされた本人が一番驚いていた。

夜々月なら小笠原を通して電話するはず。怪訝(けげん)な顔で携帯電話を確認すると、


「……世志からだ」

「弟君から? 何の用かな?」


何故か呆れた顔をする竹志。小笠原は出るように勧めると何とも言えない顔で電話に出る。


「……もしもし?」

『兄貴!? まだ無事か!?』

「無事じゃなきゃ電話に出れねぇぞ。アンダァスタンド?」

『でもこっちはヤバいんだよ兄貴! 風紀委員に裏切者が居たって聞いたし、本拠地に張った罠に軍学生が死んで———!』

「落ち着け。全部知ってるから。それよりも、だ」


焦燥感に駆られた世志に落ち着かせる。世志に大事なお話があるからだ。

電話越しで竹志の表情が分からない世志は忠告を無視して言いたいことを次々と吐き出していた。顔に青筋を立てているとも知らずに。

全員が「あーあ、怒らせた」みたいな顔で目を伏せるのだった。


「お前、今日から永遠にご飯抜きな」

『死ぬ!? ノーチャンノーチャン! 冗談じゃないぞ兄貴!?』

「あのな…私用で電話するとか普通やらないからな? 第壱高校のゴリラでも不用意にしていないぞ?」

『ど、どういうこと?』

「もし第参高校なら電波を受信した瞬間、盗聴どころか位置を探知して機器の破壊は当然、そこから芋づる式に登録したアドレスからさらに機器を破壊して次々と被害を広げて———」


世志の息を飲むのが電話越しでも分かる。《知》の第参高校ならやって見せてもおかしくないことを知っているからだ。

軍学生たちが小笠原に真偽を確かめると笑みを見せながら答えた。


「まぁ夜戦になったらそもそも全機械の機器は使わせないけどね」


小笠原の脅しにその場に居た者達が嫌な汗を流した。特に軍学生は喧嘩を売る相手はちゃんと考えることを肝に銘じた。

だが竹志の追撃は続く。


「第四高校なら速攻で潰しに来るぞ。下手な動きをすれば、多分五秒で死ぬ」


世志は黙り込んでしまう。戦闘狂の多い軍学生が集まる《闘》の第四高校ならやりかねないからだ。

念の為に確認。愛理の顔を見ると満面の笑みで答えた。


「大規模夜戦なら一時間で決着を付けれるよ」


愛理の脅しにその場に居た者達が萎縮するように黙った。特に軍学生は第四高校に大規模の夜戦を仕掛けないことを胸に刻んだ。

だがしかし、竹志の更なる追撃。


「第五高校なら電話した瞬間に死ぬかもな」

『それもう人間じゃねぇよ兄貴!?』

「当たり前だ。化け物揃いの学校だぞ。人間は通っていないに決まっているだろ、アンダァスタンド?」


不動の一位に君臨する学校は次元が違う。統率された力でも、個々の力でも、全てを圧倒している。序列上位を軍学生が占めているだから当然だ。

だが世志も軽率な真似をしたと分かってくれたのか謝罪した。溜め息を吐くが、弟思いの竹志は簡単に許す。


「分かればいいんだよ。高校序列二位の第弐高校だってある程度のことはできるだろ? 妨害はもちろん、探知できないような回線も発明しているはずだ」

『次からは気を付ける…』

「それでいい。本題に入るが、報告はそれだけか?」

『違うぜ。マジな本題が———って先輩!? ちょっ!?』


誰かの電話を取り上げられたのか世志の声が聞こえなくなる。何度も名前を呼ぶが、次に聞こえて来たのは女性の声だった。


『やぁ後輩君の兄君。代わらせて貰ったよ』

「……まさか『災禍の箱(パンドラ)』か」

『ご名答。よくご存知で』


竹志たちにも張り詰めた空気へと変わる。序列二十位———宇津野(うづの) 鏡花(きょうか)がどんな用件なのか、全員で聞くためにスピーカーモードに切り替えた。


『単刀直入に聞く。兄君たちはどこに居る?』

「本拠地の近くだ。ただし、敵のな」

『……驚いた。生徒会長君がそんな大胆な作戦を取るとは』


クスクスと鏡花は笑い出す。少し不気味に思えるのはマッドサイエンティストという印象があるせいか。

いつまでも本題に切り出さない鏡花に苛立った鹿野は声を少し荒げた。


「はやく用件を言えッ」

『落ち着きたまえ生徒会長君。私たちが乱れているのは君の極秘行動だ』


本拠地では指揮を()る者が不在であることに第弐高校の軍学生は慌てたのだろう。鹿野は謝ろうとするが、


『安心したまえ。私が生徒会長君を大砲の弾丸代わりにして敵の本拠地飛ばしたとデタラメな発言をしたら信じてくれたよ』

「三ヶ月前に人間大砲の実験をやったからだろ!!」

(((やったんだ…)))


得意げ話す鏡花に憤激する鹿野。唾で画面を汚す程、携帯電話に怒鳴りつけている。バリ汚ねぇ…。

優香たちは同情の目で鹿野を見て、生徒会は遠い目で脱力していた。恐らく生徒会全員が被害者なのだろうと予測できた。


「あー、『災禍の箱(パンドラ)』? お前がそっちの指揮を執っているならちょうど良い。これからの作戦の説明をするつもりだが…」

『本拠地を放棄して全滅覚悟の突撃するしかないと私は判断しているのだが? 兄君には他の策が?』


どうやら杞憂(きゆう)だったようだ。

竹志は鏡花の判断を間違えてないことを伝えた後、こちらで得た情報を教えた。


『代表が二人もこちらに…』

「ああ、相手が最後のひと押しをかけて来た瞬間にカウンターを仕掛けて欲しい」

『現状、今の私たちでは上手く二人も代表を倒せる見込みは少ない。過度な期待はやめて欲しい』

「安心しろ、生徒会が敵の背後から奇襲して挟み撃ちできる。何なら下がれないように罠を仕掛けるのも良い手だと思うぜ」


自信を持って作戦を伝えると鏡花はまるでその策は無いと言わんばかりに笑い始めた。

何がおかしいのかと聞く前に鏡花は答える。


『兄君、生徒会は本拠地を攻めるべきだ。残った代表の二人を一体誰が倒すと? まさか援軍補助君たち、なんて言わないだろう?』

「いや、援軍補助の俺たちが倒すつもりだが?」

『———ん?』


耳を疑う発言に鏡花は理解が追いついていない。間抜けな声を出した鏡花に竹志はもう一度言い直す。


「だから援軍補助の俺たちが残った代表を倒す。アンダァスタンド?」

『……頭おかしいよ君』

「話を聞いていた限りお前には一番言われたくなかった」


唐突に真面目な声音で冷静になる鏡花に腹を立てる。もし傍に居たら正座させて説教の一つでもしてやっただろう。

しかし鏡花の声は焦っているようにも聞こえた。本当の話なら余程の出来事だと捉えたのだろう。


『生徒会長君。優秀な君なら理解しているだろう? 勝利に欲を出し過ぎて無謀な策と化している』


俺ではなく鹿野に話をする鏡花。援軍補助の言うことは話にならないと思われているのだろう。

何かを考えるように黙っている鹿野。俺が代わりに何か言おうとすると、鹿野は手で止めた。


「確かに無謀かもしれない。少し前の俺なら信じることはできないはずだ」

『……生徒会長君、悪い冗談は———』

「でも今は違う。冗談でも嘘でもない。生徒会長からの命令だ。生徒会の奇襲に合わせて敵に全総力を集めた攻撃を仕掛けろ」


鹿野の強い主張に周りは少しばかり驚いていた。第弐高校の生徒会長としての威厳が溢れた態度に感心する。

その視線に気付いたのか鹿野は咳払いをして誤魔化す。


「と、とにかく指示に従ってくれ。責任は俺が全て負う」

『そう……なら失敗した時は素直に私の実験に付き合って貰うとしよう』

「うッ、どんな実験をするつもりだ?」

『とりあえず溶けるとだけ言っておこう』


すると鹿野は涙目で俺を見て来た。成功する確証を俺に求めないで欲しい。

鹿野から視線を外すと今度は小笠原や愛理に助けを求める。だが二人も目を逸らしてしまっている。

もちろん被害に巻き込まれないように生徒会の軍学生は目どころか顔を背けている。


「が、頑張って!」


苦笑いで応援する優香は一番キツイセリフだと個人的に思う。

逃げることはできないと悟った鹿野は微笑みながら鏡花に覚悟を示した。


「その時は素晴らしい先輩たちも連れて来るよ」

「「「待って」」」


悪魔か。まさか援軍補助を売るとは思わなかったぞ。

流れ弾を受けた援軍補助は急いで拒否。電話を奪おうとするが、軍学生の力を活かした鹿野は俺の携帯電話を死守し始める。


『モル……協力者が増えるのは嬉しいよ。分かった、こちらでも全力を尽くす。任せたまえ、生徒会長君』

「今コイツ『モルモット』って言おうとしたぞ! 人を何だと思ってんだゴラァ!」


災禍の箱(パンドラ)』と呼ばれる理由を分かった気がした。そろそろ鹿野と争うのはやめて作戦の話を切り出す。

小笠原が再び細かい指示を鏡花に言うと彼女は一度で全てを理解する。話が早くて助かるが、この作戦に置いて重大なことがある。


「『災禍の箱(パンドラ)』。捨て身の特攻をする時だが、序列二十位のお前を見込んで頼みがある」

『何かな?』

「作戦時間の十一時三十分まで、前線を本拠地まで下げさせるな。なるべき敵を多く引きつけて欲しい」


頼み事の内容に小笠原と愛理が驚く。鹿野は自分の軍学生に負担を大きくするのだと分かった。


『……今すぐ全力攻撃を仕掛けないのは何故?』

「深夜零時近くになれば敵は絶対にラストスパートをかける。審査(Judge)で終わらせる為に必ずだ」


そこまで言って気付いたのだろう。鏡花から乾いた笑いが聞こえた。


『私たちの負担を考えてそれを言うのかい?』

「だからお前を見込んで頼んでいる」

『何様だって言いたいのを私は我慢して飲み込んでいる。そもそも夜戦自体賛成じゃない。クソだと思っている』


怒気を含ませた言葉に周りは息を飲む。序列二十位の機嫌を損ねるのは不味いと分かっているからだろう。


「別に無理な断っていい。俺たち援軍補助が頑張るだけだからな」

『……………』

「軍服も着用していない俺たちだが、本拠地に敵が多く居ても代表の二人くらいサクッと倒してやるよ。序列二十位の力を借りずにな」


改めない挑発的な態度。軍学生たちが首を横に全力で振っているが無視する。

無言のまま何も返さない鏡花。更に追い打ちをかけようとするが、


『———安い挑発だ』


呆れるように溜め息をつきながら答えた。

その答えに軍学生たちは固唾を飲んで見守るが、竹志は笑みを見せた。


『だが、その挑発に乗ってあげよう』

「助かる」

『実験の失敗はいくらでもしていいが、汚名が付くのは嫌だからね。それと腹いせに君の弟君で遊ぶよ』

「どうぞどうぞ」

『あ、兄貴ぃ!? ちょっと待って先輩———!?』


携帯電話から聞こえて来る断末魔。通話を終了して関係ないフリをする。


「話はまとまった。元々、時間ギリギリまで攻めないつもりだったが」


今まで呑気に会話や休憩をしていた理由はまさにそれだった。この安息の場で身支度を済ませて敵の本拠地に殴り込む機会を(うかが)っていたのだ。

今まで黙っていた五右衛門が喉を鳴らして笑っていた。竹志は眉を寄せながら聞く。


「何だよ」

「別にぃ~、何にも~、あらへんで~」


楽しそうに笑う五右衛門に舌打ちする。これから別行動させていいのか不安になってしまう。

話し合いは小笠原と生徒会に任せて竹志は立ち上がり厨房から出ようする。


「どこに行くんや?」

「トイレだ。花を摘みに行くんだよ」

「それ女子が使う暗喩(あんゆ)やで……」

「じゃあ大木(たいぼく)()りに行って来る」

「どんだけデカイのをぶちかます気やねん」


竹志は欠伸をしながら出て行った。

緊張感を見せない態度に鹿野はジッと様子を見ていた。

序列二十位に対して喧嘩を売るような挑発。敵の前線と本拠地を同時に襲撃する大胆不敵な男。

小笠原と愛理の異常な戦闘力と知識は強者———第三位と四位の実力を持った軍学生だったからだ。

しかし、竹志だけは素性が見抜けない。二人と同じ地位なのは確かなのだが、それ以外何も分からない。


「ほな、その間に敵の代表について教えるから耳の穴かっぽじてよく聞けや———」


五右衛門の言葉に鹿野は我に返り、話を聞くことに集中した。

だが一人だけ、竹志と同じ様に厨房から出て行ったことに鹿野たちは気付かなかった。





トイレに行った後、竹志は無人となった休憩室に居た。

パイプ椅子に座ると時計を確認した。時刻はもうすぐ二十三時。あと三十分もすれば敵の本拠地に乗り込む作戦を開始する。

これは賭けでもある。第壱高校が何の心配もすることなく第弐高校を全力で倒しに行くのが理想の動き。だがもし第弐高校の伏兵を恐れて守りを固めるなら厳しい戦いになるだろう。

元軍学生だから。元序列上位者だから。過去のことを掘り返した所で強くなるわけではない。戦闘の経験があるというわけで、夜戦や戦闘に勝てるという保証はない。

運に任せた賭けに頼っている時点で最強だと今更名乗れるはずがない。鹿野たちは自分たちを特別視しているが、軍学生より劣っているのは事実だ。


「……………はぁ」


思わず溜め息が漏れる。死ぬかもしれない戦争に参加しているのに自分の今の気持ちが異常だと改めて実感する。


「だーれだ」


視界が急に真っ暗になる。何者かに両手で視界を(さえぎ)られたが、誰かはすぐに分かった。


「おっぱいが後頭部に当たらないから柳だなあああああ! 目が潰れるぅ!!」

「余計な一言が多いと!」


グッと目を潰される勢いで抑えられた。思わず悲鳴を上げてしまう。

すぐに解放されるが視界は涙で見えない。優香が居るのは確かなのに。

不機嫌になった優香は竹志の頭に両腕を乗せて、その上から顔を置いた。


「タケは怖くないと?」

「夜戦か? 柳こそ、怖くないのか?」

「…怖いよ」

「大丈夫、それが普通の反応だ」


竹志は無理に笑う。それが嘘の笑顔だと見抜いた優香はタケの背後から抱き締めた。

強く抱擁(ほうよう)された竹志は驚いた顔になるが、表情を引き締めた。


「どうしたんだよ」

「———人を殺すのはやめて」


ハッキリとした声で告げられる。竹志は思わず言葉を詰まらせてしまう。

夜戦での殺害は認められない。だが勝利を目的とした殺人は認められてしまう。

仲間の裏切り。正当防衛での殺害。そして言い換えれば———勝利の目的と言えば誰でも殺せてしまうのが現状。

大規模の夜戦で一番恐ろしいことはそれだ。ふざけたことでも正当化して人を殺める。それを目的とした大規模夜戦があったことも知っている。

今回の夜戦はどうしても避けることができなかった。裏切り者を吊るさない限り死者が続出する。小笠原だって悔しい思いで罠を張ったはずだ。

愛理だって敵の喉を突いたのは殺されない為。生きる為に殺す勢いで槍で突いた。


「小笠原と華道は、まだ友達か?」

「当たり前じゃない…それ以上よ」


その答えに思わず笑みがこぼれる。本人たちが聞いたら泣いて喜ぶだろう。


「それは良い事を聞いた。アイツらにはもうやらせないから安心しろ」

「待ってよ…タケは? タケも大切だから———!」

「大切だからこそ、俺も覚悟を決めてここにいる」


声を重ねて主張する。優香の気持ちは嬉しいが、感情に流されて甘くなってはいけない。

援軍補助という人間は命を捨てる覚悟がある者だけが選ばれる。一撃で死ぬ可能性がある限り油断は絶対にしない。

敵は殺しに来るのだ。自分たちだってそれ相応の覚悟で迎え撃たなければならない。


「それはタケが———二人と同じだから?」

「……アイツらと同じだといいな」


高級ホテルで話した事を言っているのだろう。質問に対して願望を呟くのだった。

優香の腕の中に包まれた竹志はどこか寂しそうな顔をしていた。


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