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フクオカ  作者: 夜紫希
第一章
17/32

優勢の油断

竹志たちが敵の本拠地へと攻め込んでいる時、弟の小倉 世志(よし)は迫り来る敵に怯えていた。

震えた手で握り絞めた銃器をガチガチと鳴らしながら建物の壁に隠れるように背を預けていた。

夜戦開始———軍学生同士が本気でぶつかり合い、血を飛び散らせた瞬間を目撃した。

軍学生の苦鳴、次々と倒れる人、あの悲惨な光景が頭の中から離れない。

しかし世志の仕事は第壱高校の軍学生の侵入を知らせることだった。その報告を聞いた先輩が侵入者に奇襲を仕掛けて対処してくれる。

ここは狭い路地が多くある《カシイ》区画。大規模な数で攻める第壱高校に向かない舞台だ。罠を張り巡らせて適切な武器を使えば勝てる。そう信じていた。

———しかし、現実は大きく違った。


(ふざけろ! 敵は音速で動いているんだぞ!)


世志は恨むように心の中でぶちまける。

軍学生は【瞬速(ダッシュ)】を使い移動している。最高速度マッハ1を正確に捉えることは不可能。辛うじて黒い影を目視できたとしても、報告した頃には敵は大きく侵入していることになる。

自分と同じ新入生ならこの狭い路地と多くある曲がり角を軽々と行けないが先輩は違う。風の様に走り進むのだ。

一瞬だけ目視する影を報告するだけの仕事に意味があるのだろうかと世志は疑っていた。


(同級生ならまだしも、先輩と戦うなんてノーチャンだろ……)


戦意はとっくに喪失していた。これほど夜戦が恐ろしいモノだと思わなかった。

あの日、ボロボロに負けて『強者命令』を突き付けられた時より恐怖心が増していた。抵抗する暇もなく敗北したにも関わず、この状況の方が何十倍も怖い。

命の危険でも感じているせいだろうか。万が一のことがない限り死ぬことは無いのに、恐怖は膨れるばかりだ。


「兄貴……」


軍服を着用していない人間がこの戦争に参加している異常さをここに来て分かった。

最も命の危険がある援軍補助の人間が勇敢に戦っているのに自分は報告するだけの仕事に恐怖している(みじめ)めさも思い知った。

世志は一度深呼吸して落ち着きを取り戻そうとする。


「弱気になるな。アレだ……この仕事は意味がある。アンダァスタンド」


兄の口癖(くちぐせ)を思い出して笑う。

いつも家に帰ったら貧相な飯が待っているが、今日くらいは奮発してくれているだろう。勝利の祝いながら食べる飯はきっと美味しいに違いない。

くだらないことを考えて自分を落ち着かせる。息を吐いて再び仕事に集中すると、すぐに変化が起きた。

風を切る様な音が聞こえた直後、強い風が吹いた。これはたった今、敵の軍学生が【瞬速(ダッシュ)】で通った証拠だ。

敵の影を目視できなかったが、敵が侵入したことには違いない。世志は耳に取り付けた通信機に手を当てて報告する。


「———報告者見ぃ~つけたぁ!」


背後から聞こえた身の毛がよだつ太い声に世志の声帯は死んだ。

ゆっくりと振り返れば自分を見下す大男が立っていた。第壱高校の軍服を着ている。

つまり、自分を狙う敵だ。

鬼の凶笑。恐怖させる顔つきに息が詰まり、世志の足がガクガクと震え出した。

大男が足を振り上げる瞬間を目にするも、恐怖に負けた体では逃げることもできず、世志の腹部に蹴りが叩きこまれた。


「かはッ!?」


くの字に折れ曲がる体。肺の空気を全て吐かされ、ノーバウンドで道の反対側にある建物の壁にぶつかる。

腹部に風穴を開けられたかのような激痛が走る。堪らず胃から込み上げる吐瀉物(としゃぶつ)を道脇に出した。


「あぁ? (もろ)いな、一年かお前?」


吐き出した後でも世志は男の質問に答える余裕がない。急いでその場から逃げようとする。

黙っている世志が気に食わなかったのか舌打ちして逃げ出す世志の背中を強く踏みつける。


「があぁ!?」

「お前のせいでウチの後輩がやられているんだよ。(こす)い真似をしやがって!」


踏み付ける力が強まると共に痛みも膨れ上がる。


「こんな雑魚のせいで…!」


だが朦朧(もうろう)とする意識の中、世志の口元は笑みを見せた。


「何笑っていやがる!!」


男の怒鳴り声にもビビらない。体が悲鳴を上げて骨が砕けそうになっても(くっ)しなかった。

自分のしていたことに意味はあった。それが分かっただけで今は十分だ。

倒したのは自分では無い。しかし、倒したことに関わったことは揺るがない事実。

わざわざ強い敵がこんなビビりな自分を潰しに来たのだ。これほど笑える話はないだろう。


「…いいぜ。二度と笑えないように潰してやる」


男は足で世志の体勢を乱暴に変える。世志の体が仰向けになった瞬間、男の顔に何かが付着した。

それは鉄の味が混ざった世志の(つば)

最大級の侮辱を敵の顔面にプレゼントしたのだ。


「———ざまぁ……!」


下卑た笑みで男を馬鹿にした。


「ぶっ殺してやるよぉ!!!!」


大男は激怒して世志の顔を本気で潰そうとした。グチャグチャになるまで踏み続けてやろうと。

世志の目から見て分かる。男は周りが見えなくなる程怒りで我を忘れている。このままだと死ぬまで潰されるのかもしれない。

馬鹿みたいな挑発したと自分でも思う。だが時間稼ぎという仕事をすることができるなら満足だ。

大男の足が自分の顔めがけて踏もうとするのがスローモーションで見えている。だけど体はもう動かない。

体から力を抜いて諦めた時———視界の端から何かが飛んで来るのが見えた。


「ぐぅああああああぁ!!??」


大男の左手から血が噴き出していた。飛んで来たのは一本のナイフ。それが深々と貫通して手に突き刺さっていたのだ。

男の返り血を浴びながら世志はその光景を茫然と見ていた。


「な、何でだぁ!? 俺の能力(アビリティ)が———!」

「発動しないよぉ、とでも言うのかな?」


大男がナイフの飛んで来た方向を振り返ると、その表情を凍り付かせた。

残った力で世志も男の視線の先を見る。そこには一人の女性が立っていた。


「お、お前はッ…!?」

「馬鹿だな敵君(てきくん)は。敵君たちの情報は既に私たちの手の中。それを元に対処していることを知らないのかい?」

「何だと!?」

「敵君の能力(アビリティ)は自分の体を鋼鉄のように硬くすること」


カツカツとヒールの音を立てながら大男に向かって歩く女性。堂々と腕を組み、軍服の上から着た白衣をなびかせながら進むその姿に世志は見惚れていた。

女性の正体を世志は知っている。第弐高校の生徒だけじゃなく、他校の軍学生でも知らない人は少ないぐらいだ。


「そんな敵君の体に何故ナイフが刺さる? さぁ答えれるかな?」

「舐めてんのか!!」

「ふっふっふっ……分からないか」


ナイフを抜き取り乱暴に捨てる。大男が【瞬速(ダッシュ)】で女性との距離を爆発的に縮めて、掴みかかろうとしていた。

危ないと世志が忠告の声を荒げる前に勝敗は決した。


「———敵君の体は熱で溶かしたのさ」


刹那、大男の体が紅蓮の炎に包まれた。

男の足元から噴き出した火はビルよりも高く伸び、暗き夜を照らしながら轟々と燃えていた。

ビリビリとした痛みが頬を撫でる。だが熱さなんて考えられないくらい真っ赤な光景が世志の目に焼き付いていた。

数十秒後、炎は消えてドサッと大男は前から倒れる。


「…さすが軍服。あの炎でも着用者の命を守るか」


女性は興味深そうに丸焦げになった男を観察していた。微かに聞こえる呻き声が男の生存を明らかにする。

火と同じ赤い髪を束ねた女性は世志の存在に気付き、その手を伸ばした。


「大丈夫かい、後輩君?」





「『災禍の箱(パンドラ)』?」

「師匠はご存知ないですか? 我が校の生徒なら全員、他校でも彼女を多く知っているくらい有名ですよ」


竹志たちは敵の本拠地近くにあるラーメン店に侵入していた。なんと中に居た敵は武器をテーブルに置く程休憩しており、生徒会が簡単に殲滅した。ここまで敵が侵入しているとは思わなかったのだろう。油断禁物だったな。

厨房の奥にある小さな部屋に竹志たちの姿があった。本来の夜戦なら許されない行為だがこの大規模夜戦は許されてしまう。別に金や物を盗むわけではない。そもそも金や大事な金品は店主が回収して出て行っているだろう。

会長を除く生徒会が見張りをして、援軍補助の仲間たちは敵の本拠地の偵察に向かった。鹿野と援軍補助の四人は休憩を取っていた。小笠原は常に通信機を使って指示を出している為、あまり休憩はできていないようだ。


「いや知らん」

「第弐高校医学部部長、宇津野(うづの) 鏡花(きょうか)。序列は自分より上で、二十位です」

「えッ!? 何で生徒会長より高いの!?」


鹿野の説明に優香が驚きながら尋ねた。大体予想はできている。


「生徒会の仕事で実験時間を削りたくない、と彼女が言ったからです…」

「そ、そんな理由で?」


当たった。きっと研究熱心な軍学生なんだろう。すると鹿野は遠い目で語り始めた。


「ですが毎日毎日問題は起こしては反省の色を見せず、それどころか俺たちを実験動物(モルモット)にしていまして…」


無言で鹿野の肩をポンと叩いた。同情して涙がこぼれそう。

研究熱心? 違う、ただのマッドサイエンティストでした。


「医学部の始末書だけは毎日書いています。何度もニュースになるほど迷惑をかけて…最近だと野球部のボールが医学部室の窓を割って実験の器材を破壊して邪魔をしたそうです。わざと割ったわけじゃないのに、彼女は怒り狂い野球部員をゾンビの様な混乱状態を引き起こして学校をパニックに…!」


それ知ってる。ニュースで報道されてたよ。リアルバ〇オハザードだろ。ソイツが元凶のウェ〇カーだったのか。

愛理と竹志はウルっと涙を溜めて、優香は安心させるような笑顔で鹿野を励ます。


「可哀想に…!」

「苦労してたんだな」

「大丈夫、アタシたちは味方よ?」

「あ、ありがとう…ございます…!」


ちょっと泣いてる鹿野会長。通信をしていた小笠原も同情して涙を拭き取っていた。

それにしても序列二十位か。そこまで登り詰めることができた彼女の能力(アビリティ)が気になってしまう。

序列の上位者は優秀な武器だけで上へ行くことは難しい。優秀な能力(アビリティ)はもちろん、戦闘経験を多く積まないと辿り着くことはできない。

戦闘経験が浅い者が序列上位に来るのなら、それは間違いなく才能を持った天才。その天才が努力をすることを知れば更なる高みまで登ることができるだろう。


(……登った所で良い事なんてねぇけどな)


「———戦況報告やぁ!!」


和やかな雰囲気になった所で空気をブチ壊す馬鹿野郎が登場した。

扉を勢い良く開いて鼓膜をビリビリ言わすような大声で休憩室に入って来た五右衛門に竹志と小笠原の二人はキレて再び袋叩きにする。


「ま、待ってぇ! 近くに軍学生はいないんや! 見つかることは———!」

「そりゃ良い事を聞いた! 小笠原、動けないように関節技を決めろ!」

「任せて!」

「痛だだだだ!?」


もはや達人。息の合った動きで二人は一瞬で五右衛門を地に伏せる。竹志は両腕と首、小笠原は両足を掴んで関節技を決めて動けないようにした。

見事な技に鹿野はグッと拳を握りながら観戦。愛理は応援して優香は苦笑いで見ていた。

しかし相手は軍学生。決定打が無い二人は愛理に視線を向けると、意志を受け取ったのかグッと親指を立てて答えた。


「な、何する気や!? 待ってくれぇ!?」


愛理は座っていたパイプ椅子の上に立つ。その様子から何をされるのか五右衛門にも予想がついた。


「ハイフライフロー!?」

「よく知っていたな。華道、背中から落ちろよ? ……おっぱいを痛めたら一大事だ」

「セクハラ発言だよっと言いたいけど今回は僕も同意しておく」

「一番駄目なのは尻から落ちることだ!! 俺に落ちるのは超有りだが!」

「それは物申したいかな」


ハイフライフローとはちょっと有名なプロレス技で、簡単に言うとボディアタック。跳んで胸から落ちるが、愛理の場合は柔らかいクッションがあるので背中からお願いしたいと思います。


「大丈夫! (ひじ)から落ちるから!」

「「よし、そのまま殺せ」」

「軍服でも痛いのは痛いんやで!? やめてくれぇ!?」


大声で叫んでいるが五右衛門が言うには近くに軍学生はいないとのこと。苦痛の悲鳴を上げても大丈夫というわけだ。情報提供者に感謝の言葉…いや、感謝の肘を送るぜ。

愛理は掛け声と共に狭い部屋の中で跳ぶ。天井に当たるか当たらないかのギリギリまで跳んだ。

宣言通り、愛理は肘を突き出して五右衛門の腹部へ落ちようとしている。それを見た竹志と小笠原は邪悪な笑みを浮かべていた。


「骨を断って肉を切るんやぁ!!」


だが予想外な事態が起きた。

五右衛門は最後の力を振り絞ってゴキッと腕の関節を外して拘束から逃げる。愛理の肘が落ちる地点に俺の体が来てしまった。


(しまった!? 確かコイツの居た高校って———!?)


「タケ君ッ!?」


突然の出来事に愛理は無理に体勢を変えて肘から落ちないようにするが、竹志の腹部に愛理の体が落ちた。


「ぐふぅ!?」


堪らず噴き出す竹志。愛理は怪我することなく落ちずに済んだが、不味い状況になっていた。


愛理の胸———双峰が竹志の顔に埋まっていたのだ。


竹志も愛理の体を受け止める為に仰向けになったのが間違いだった。そもそも大技を五右衛門に繰り出すのが間違いだ。素直に三人で関節技を決めておけば良かったのだ。

小笠原は微妙な表情で二人を見ており、鹿野と五右衛門はおお!と感嘆。優香は頬を朱色に染め上げていた。


「な、なななな何やっとうとぉ!?」

「誤解だぁ!!」


もごもごと愛理の胸元に埋まった状態で叫ぶが誤解を生む要素しかない。優香が何度も竹志の頭を叩いていた。

愛理は特に急ぐことなく竹志から離れる。


「ふぅ、ビックリしたぁ」

「「軽っ!?」」


愛理の反応に五右衛門と鹿野は驚愕した。二人が思っていた反応と大きく違ったからだ。


「いや自分、もっとこう…何かあるやろ!? お決まりのビンタとか!」

「てい!」

「ぶへぇ!? 俺っちじゃない!?」


胸がスカッとするような良い音で平手打ちをする愛理。五右衛門が泣きそうな顔で鹿野に助けを求めていた。

一方優香は竹志に怒っていた。優香に叱られ反省している竹志だが、顔が少しニヤけている。

当然、優香はそのことに怒らないわけがない。何度も肩を揺さぶりながら竹志に怒鳴った。


「最っ低よ! タケの変態魔神!」

「事故だろ! あと前よりレベルアップしたか?」

「事故でも駄目でしょ! 愛理に謝って!」


確かに。事故でも自分が悪いことをしたのは間違いない。

愛理に頭を下げて謝罪しようとするが、


「いいよ優香ちゃん。別に気にしてないから」

「でも!」

「タケ君だったから大丈夫なんだよ? もしあの人だったら警察を呼んで裁判起こしているよ?」

「俺っち被害者なのに!?」


メソメソと泣き出す五右衛門。鹿野は嫌そうな顔で抱き付く五右衛門を突き離していた。

ニッコリと俺に笑顔を見せる愛理。そこまで信頼を得た記憶は無いのだがと首を傾けると、愛理は嬉しそうに教えてくれた。


「だってほら———タケ君のこと好きなんだもん」


———空気が一瞬で凍った。


何かの聞き間違いかと思うくらい衝撃を受けた。

小笠原は開いた口が塞がらない。鹿野も五右衛門も、口をポカーンと開けて間抜けな顔になっている。

確認の為に竹志は指で愛理を指して次に自分を指す。すると愛理は簡単に頷いた。

次に手でハートの形を作る。すると愛理もハートの形を作ってくれた。いやいや。

……なるほど。今の発言は、間違いないと。


「「「えええええええええぇぇぇぇ!!??」」」


大絶叫。五右衛門より何倍も声が出ていた。


「う、羨ましい! 主人公みたいな告白されよった…!」

「さすが師匠…!」


五右衛門は怒りながら涙を流して情緒不安定。鹿野は尊敬する眼差しで見ていた。


「い、いつの間にそんな関係に…」


どんなことにも冷静だった小笠原が酷く動揺している。眼鏡に手を掛けるが、ガクガクと震わせている。


「ど、どどどどどういうこととととと、マジでぇ!?」


一番動揺していたのは自分だった。真っ赤な顔で愛理に真偽を確かめるが、それでも愛理は普通に頷いた。その笑顔に嘘は含まれていない。

ここまで真正面から自分のことが好きだと言われたことは今までにない。夜々月の言葉より遥かに威力が違う。例えるなら輪ゴムの鉄砲と本物の大砲ぐらい差がある。

そもそもアイツは恋愛対象として俺を見てくれないからノーカンと———あれ、まさか!?


「なぁ愛理」


一つの可能性を元に俺は尋ねる。


「俺のことが好き?」

「好きだよ?」

「好き……ライク?」

「うん?」

「……ラブな方じゃなくて?」


最後の質問に愛理の動きが止まった。

思い出しているのだ。自分が言ったこと、そして何故このような複雑な状況になっているのか。

すると愛理の顔が段々と赤くなって行くのが分かった。


「…ち」

「ち?」

「ち、ちちちち違うからぁ! 友達として好きで…! そ、そんなじゃないからぁ!」

「ですよねぇー!!」


今まで見たことのない乙女な反応に竹志は悔しそうに笑った。ワンチャンあると期待した自分を殴りたい。

愛理はブンブンと手と一緒に首を横に振る。必死に否定する姿に少し涙が出そう。


「友達以上恋人未満だから! タケ君のことはそんな風にしか絶対に見れないから!」

「わ、分かった。そこまで否定しなくても…」

「本当だからね!? 神に誓うから! 未来永劫(えいごう)にないから!」

「お願いもうやめて。俺のガラスの(ハート)が耐えれないから」


割れたガラスをさらに粉々に砕く様な愛理の言葉に竹志は大泣きしそうになる。小笠原がポンポンと肩を叩いてくれるのが逆に辛い。五右衛門は俺に向かって「m9(^Д^)プギャー」とか言っているから後で殺す。

愛理は最後まで否定して竹志を泣かした。そんな二人を見ていた優香はポツリと呟く。


「……良かった」





愛理が落ち着きを取り戻し、竹志が泣き止んだ後、偵察に行かせた援軍補助の仲間から通信報告があった。

———本拠地から多く軍学生が出た。

休憩室は狭くて窮屈(きゅうくつ)なので薄暗い厨房で最後の作戦会議を開くことにした。


「拠点から出た軍学生は前線の増員や。間違いあらへん」


確信した答えを出す五右衛門。手に持ったタブレットを全員に見えるようにして説明を始める。


「今は第壱高校の劣勢や。かなり第弐高校の罠に苦戦しとるでぇ」

「数は分かるか?」

「第壱高校の残りは約千五百。半分以上削っとる。代表も一人倒されておる」


五右衛門の報告に小笠原は眼鏡を自慢げに触った。夜戦を有利に進めているのは頭脳の天才様のおかげか。

愛理は小笠原に拍手を送り称えていた。優香はホッと安心している。


「こっちは?」

「約七百。()()()()ならこのままなら勝てるで」


その報告に軍学生の緊張は解けて笑顔が戻る。

負け戦だと言われていた夜戦に優勢な戦況だと分かれば安心もする。

だが竹志と五右衛門だけは真剣な表情のままだった。

何故か喜ばない二人に不安になった優香は恐る恐る聞く。


「ど、どうしたの? こっちが勝ってるのよね?」

「そうだ。()()な」


強調して告げた瞬間、全員に緊張が走った。

同意するように五右衛門が頷き、説明を続ける。


「夜戦の残り時間は日が昇るまでや。約八時間もあるな?」

「な、何か問題が?」


現時刻二十二時半。それから日の出を待つとしたら長い時間だ。

何が言いたいのか分からない鹿野は五右衛門に尋ねると、


「今の第弐高校の防衛ラインは、本拠地から五百メートルもないで?」

「なッ!?」

「ど、どういうこと?」


五右衛門の報告に生徒会は愕然としていた。

何が驚くことなのか分からない優香は竹志に詳しく聞き出す。


「かなり攻め込まれているんだよ。多分、既に本拠地は何度か攻撃を受けているはずだ」

「ど、どうして? 敵を半分以上倒して、こっちはたくさん人が残っているのに」

「それが数で圧倒する強さだ。倒された大半の軍学生は恐らくレベル1(ファースト)。罠にわざと引っかかって数を減らしていたんだ」

「わざと!?」


使い捨てにされた軍学生がいることに優香は驚きを隠せない。

第壱高校は弱い軍学生から第弐高校にぶつけていたのだ。第弐高校の仕掛けた罠は減少、息もつく暇もない第壱高校の猛攻に罠を新たに張ることができなかった。

残された手段は背後にある罠に頼ること。その為に前線を下げて第壱高校と戦った。その結果が今の戦況を作り上げているのだ。

道徳のない作戦だと言えるが、賢い作戦だとも言える。コンピュータのゲームだったら迷わず誰だってそうするに違いない。それが一番良い手なのだから。


矢継(やつ)(ばや)に攻撃を仕掛けれる第壱高校の作戦はいつもこうだ。敵の戦略が単純でも攻略できないことがあるから軍学生の数は大事なんだよ」

「…これは僕の責任でもある。これでも耐えた方なんだ。責めるなら僕を…」

「小笠原が謝る必要は無いし、軍学生を責めるつもりもない。だから俺たちはここに居るんだ」


小笠原の謝罪に竹志は首を横に振った。愛理も違うと否定してくれている。


「せやで。だから俺っちはアンタらにハッキリと言わせて貰うで」


鹿野たちは生唾を飲み込み五右衛門の言葉を待つ。

有利な戦況と思われた夜戦はまさかの劣勢。

不味い状況の中、五右衛門は容赦無く鹿野を指差す。


「深夜零時になった瞬間、第弐高校は敗北やで」


———五右衛門が告げるのは敗北までのタイムリミットだった。



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