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フクオカ  作者: 夜紫希
第一章
16/32

戦闘開始

———五右衛門との取引は成立した。

夜戦の戦況を大きく左右する情報だ。こんな美味しい話を手放すわけにはいかなかった。

それに五右衛門はトドメと言わんばかりの脅しも使って来た。


「俺っちの取引がもし不成立ならこの情報は第壱高校にやるで。その意味、分かるやろ鹿野はん?」


不敵な笑みを見せて勝利宣言する五右衛門に、鹿野は自分が負けたことを認めた。

対等な取引と彼は言うが、一方的な取引としか思えなかった。もしこちらが不利になる取引を出されていたらと考えると頭が痛くなる。

生徒会は五右衛門が味方になってくれることがどれだけ大きいのか実感できただろう。

情報を貰った小笠原はすぐに通信機で第弐高校の生徒たちに指示を出す。愛理も援軍補助に指示を出していた。


「本当かい? 分かった、合流するよ」


小笠原は報告を聞いて安心した後、竹志に教える。


「小倉君、良いニュースだ。援軍補助の僕の呼んだ部隊の一つが合流できるみたい」

「あ! 私のところもだよ!」

「ナイスだ。じゃあ敵の本拠地になるべく近づいておこうか」


小笠原だけでなく愛理も手を挙げた。援軍補助の部隊が仲間に加わるのは嬉しい報告だ。頼もしい報告に竹志は走りながら親指を立てた。

橋の下から出て街灯に照らされた薄暗い路地を生徒会が疾走して敵がいないか確認する。その後に注意深く援軍補助が付いて行った。

大通りが見える路地まで進行したが、敵の軍学生はどこも見えない。

行くなら今だと竹志が判断するが、五右衛門がそれを止めた。


「罠や。伏兵がいまっせ」

「チッ」


待ち伏せか。第壱高校でも少しは頭を使うようだな。

建物の影に隠れながら敵の位置を探ろうとするが、下手に顔を出せば長距離からでも目撃されるかもしれない。

竹志がどうするか考えていると、近くからいくつもの足音が聞こえて来た。


「巡回警備隊が近くに居るで。代表戦のルールが一部追加されたから守りが堅くなったんや」

「おかげで自陣に対しての攻めを弱くすることができたのは間違いないだろ?」

「せやけど苦しいでぇ?」


ニヤニヤと悪巧みしている顔を見せる五右衛門。まるでこの状況をどう切り抜けるのか俺を試しているかのように見えた。

ご希望通り危機的状況を華麗に切り抜けてやりたいが、主役は俺じゃない。


「小笠原。こっちに来る援軍補助たちの位置は近いか?」

「この大通りを抜けた先だね。かなり近いよ、ホラ」


小笠原が人差し指を向けると、大通りの反対側に俺たちと同じジャージを着て武器を持った仲間が居た。

手を振って仲間だと合図している。


「ここからの狙撃は?」

「狙撃できるけど……銃を構えた相手を撃つなら、撃たれる可能性が高いよ。少し厳しいかもね」


敵の位置を情報で把握していても、敵の軍学生の方が早く引き金を引くことができるだろう。軍学生と一般人の身体能力差は大きい。

銃を構えて標準を定めている間に撃たれる。ならその時間をどう稼ぐかが問題になる。


「じゃあ華道の部隊は?」

「来てるよ?」


気が付けば生徒会の背後には援軍補助の仲間が片膝を着いて待機していた。優香と生徒会が驚きで悲鳴を上げそうになってしまう。忍者かお前らは。

部隊の一人が愛理にボソボソと報告している。気になった俺は尋ねる。


「何だ?」

「うん、五秒なら可能だって」

「頼もしいね。それだけ時間を稼いでくれるなら…」


愛理の言葉をいち早く理解した小笠原は竹志に頷く。それを頼むと小笠原は反対側にいる仲間と手の合図で連絡を取り始めた。

竹志たちは下がり、ここは二人に任せることにした。


「師匠、生徒会が動いた方が迅速(じんそく)に……」

「いや、代表者の位置が特定されるのは不味い。本拠地に立て籠もっていると思わせた方が良いだろう」

「ですが、彼らが失敗すればここまで侵入して来た意味が無くなりますよ?」

「鹿野はん、ちょいと情報不足ちゃうん?」


不安を拭いきれない鹿野に五右衛門がやれやれと言った感じで首を横に振っていた。情報という言葉を出されると強く出れない鹿野はどういうことか説明を求めると五右衛門は自慢げに語る。


「彼らで突破できる根拠は簡単や。元軍学生で、優秀な軍学生たちだったからや」

「…ですが援軍補助の方々は軍服を着用していない。そんな状態では結果は目に見えて———」

「見えているなら、鹿野はんの目は節穴や」


論より証拠やでと五右衛門は最後に言い、援軍補助の様子を生徒会と一緒に見守るように告げた。

小笠原は背負っていた狙撃銃を構えて、愛理は槍を両手でグッと掴み部隊に出る合図を出そうとする。


「だ、大丈夫なの?」

「平気だよ優香ちゃん。心配しないで」


いつもと変わらない笑顔で心配する優香を安心させようとする。不安な表情をしているが、少しだけ安心したようだ。

優香を後ろに下がらせると、小笠原は耳を澄ませてこちらに来る巡回警備隊を待っていた。

足音が徐々に大きくなりこちらに近づいていることを知らせる。道の向う側に居る部隊も銃を構えて頷いた。

小笠原と愛理が動き出した瞬間、真剣な顔つきへと変貌する。その鋭い眼光に生徒会と優香は唖然とした。

愛理が率いる部隊が道から飛び出した瞬間、前方には巡回警備隊の軍学生が衝撃を受けた。

両手に持った軍用銃を愛理たちに向けようとするが、ほぼ真横からの奇襲のせいで敵の行動は一歩遅い。


「があぁッ!?」


先頭に立っていた軍学生が激痛に苦鳴をあげる。

愛理の突いた槍は深々と喉に突き刺さり、目玉を裏返していた。一切の容赦が無い攻撃に第壱高校の軍学生たちの目の色が変わる。


「テメェらどこからッ———!」


烈火の如く怒る軍学生たちが愛理に銃口を向けようとするが、その前に援軍補助の銃声が鳴り響いた。

近距離で放たれた銃弾は愛理に(かす)り当たることなく次々と第壱高校の軍学生を撃ち抜いた。一発で倒れない屈強の軍学生でも、何十発も越えた数を受ければひとたまりもない威力に変換される。

喉を突いた槍を引き抜いた時には巡回警備隊は全員地に伏せ全滅していた。

その光景に絶句する生徒会と優香。五右衛門は感嘆と驚嘆を混ぜた声で呟く。


「第四高校、元序列三位の『凶姫(サドクイーン)』…相変わらず恐ろしい女やで」


額から汗を流す五右衛門。耳を疑う様な情報に鹿野たちは言葉を失っていた。

愛理の起こした騒動に第壱高校が気付かないわけがない。すぐにビルなどの高台から見張っていた軍学生が異変に気付き狙撃銃で侵入者を撃ち抜こうとしたり、通信機で連絡を取ろうとしていた。

しかし、騒動に気付くまでの僅かな時間が彼らの命運を尽きさせる。


「撃て」


小笠原の指示と同時に狙撃銃を構えていた軍学生たちの発砲音が響いた。

鼓膜を引き裂くような重い銃声とほぼ同時。高台に居た軍学生の頭部を撃ち抜く。被っていた軍帽が吹き飛ぶほどの威力を受けた軍学生は堪らず気を失い、バタバタとその場に倒れる。

上の敵も全滅させたことに鹿野たちは口を開けて仰天していた。何と声をかけようとかと迷っていると、小笠原だけが狙撃銃を構えたまま、弾を一発も撃っていないことに気付く。

竹志が何事かと尋ねようとすると、小笠原は小さな声で報告した。


「……八百メートル先の敵に気付かれた」

「なッ!?」

能力(アビリティ)持ちだね。遠距離視力を上げる系統の」


小笠原の報告に鹿野は下唇を噛む。

第弐高校が用意した狙撃銃の有効射程は六百メートル前後。精度、威力、距離、全て良好に仕上げた一品だが、有効射程外の敵を撃ち抜くにはどうやっても解決しない。絶対に届く事のできない距離は自分の足で縮めるしか方法はないのだ。

ここに居ることが第壱高校の全軍学生にバレるのも時間の問題。鹿野たちは急いで逃げ出そうとするが、小笠原は狙撃銃を構えたまま動かない。

同様に竹志と愛理もその場から動く素振りを見せない。小笠原たちを見てまさかと思う。

いくら何でも不可能なことに鹿野は首を横に振った。


「逃げましょう! 下手なことをすれば———!」

「待ちな鹿野はん。あの人も、ドえらい軍学生やったんやで?」


五右衛門が言い聞かせると、鹿野は落ち着きを取り戻す。

全員が固唾を飲んでいる中、小笠原はブツブツと暗示の様なモノを呟いていた。

聞き耳と立てると何かの数式を次々と呟き計算していることが分かった。理解不可能の数式を淡々と呟き銃口をゆっくりと調整して動かす。

彼は今、不可能の壁を越えようとしていた。


「———行け」


破裂音が耳を(つんざ)く。一発の銃声が響き渡った。

発砲音を聞いた瞬間、第弐高校の軍学生である鹿野たちはすぐに気付くことができた。

援軍補助たちの持つ狙撃銃は同じ。しかし、小笠原の弾丸は違うのだ。

届くはずの無い射程距離を越えた弾丸は標的の胸に直撃した。軍学生は胸に直撃した弾丸に驚愕すると同時に意識を失い倒れた。

それを見届けた小笠原は銃を下に向ける。


「……ビンゴ」


狙撃成功。その結果に鹿野たちは戦慄していた。

奇襲を仕掛けたからとはいえ、ここまで完璧に敵を殲滅(せんめつ)することなど思っていなかった。援軍補助は元々武器調達などの雑務をさせる為にいる存在なのだから。

いくら軍学校の卒業生でも強さには限度がある。軍服を着た超人相手にここまで戦えるはずがない。


「第参高校、元序列四位の『賢帝(けんてい)』や。また完璧に終わらせよったな」

「別に全部が完璧に事が進むわけじゃない。保険と策、失敗した時の作戦を何個も考えているから問題が起きても対処できるだけの話だよ」

「かぁー! 最強の天才は他の奴らより言うことが全然ちゃうわ」


五右衛門がバシバシと小笠原の背中を叩く。小笠原は苦笑いで誤魔化すしかなかった。

生徒会の力無しで戦えている現実を見た鹿野たちは呆然とその場に立ち(すく)んでしまっていた。


「西城……俺は夢でも見ているのか?」

「ゆ、夢じゃないです」

「そうだよな。これが元序列上位者の力……!」


鹿野に二つの感情が生まれる。

先輩たちが味方になってくれているという安心感。そして、もし敵に回してしまった時の恐怖感。

混ざり合った二つの感情は鹿野の心をざわつかせ、鼓動を昂らせた。


「おもろいやろ? 頂点に立ってた人間がこんな近くにおるなんて」


下卑た笑みで五右衛門が鹿野に近づく。不愉快なことにその気持ちが少しばかりあるのは確かだった。

西城が嫌そうな顔をしているが、五右衛門は気にしない。それよりも鹿野に話しておきたいことがあった。


「序列三十位の鹿野はんに言いたいことがあるねん。自分、もっと本気で喰らいついてもええと思うんよ」


彼らと比べるような嫌味を含ませた言い方に腹が立つ鹿野だが、何を言いたいのか分からなかった。

鹿野は自分の能力(アビリティ)が知られていることを察する。この男の情報力なら容易なのだろう。

目でどういう意味かと聞くと、五右衛門は肩を無理矢理組んで鹿野だけにしか聞こえない声で呟く。


「あの男に連れて貰うとええで。良い勉強になるはずや」


五右衛門の視線の先は竹志だった。倒した軍学生の荷物や物品を漁り、通信機を見つけ出していた。


「あー、あー、報告報告。こちら本拠地から東。第弐高校の軍学生の侵入を発見。これを我々の部隊が殲滅。敵の情報によると左右から挟み撃ちにする模様。至急、西の警備強化を」

『了解。至急援護に向かってくれ』

「了解」


竹志は通信機の電源を切ると、信じられない物を見たかのような表情になる。


「何の疑いも無く騙せたぞ。ホント大丈夫か第壱高校。お母さん不安よ」

「普通なら誤報を流されないように暗号とか決めるんだけど、第壱高校だからね」

「軍蔵には早く転校して欲しい気持ちでいっぱいだよ。あの子、良い子なのに」


小笠原もやれやれといった感じで呆れていた。

鹿野は竹志の取った行動に違和感を覚えた。一歩間違えば人を呼んでしまうかのような通信。それを緊張感を一切見せない態度で通信をしたのだ。

小笠原と愛理は何を考えているのか読めない。竹志はそれ以上に分からない男だった。


「……まさか」


いや、それはない。思考をやめて鹿野は首を横に振った。





援軍補助の仲間たちは倒れた軍学生を路地裏に運び込み、後処理をしていた。

愛理が容赦無く刺した軍学生は重傷。死なない程度に手加減することは分かっていたが、違反にならないギリギリのラインだ。仲間の援軍補助が愛理を褒め称えている光景は生徒会を怖がらせていた。

無事戦闘を終えた愛理が優香の下へと走ると、優香は愛理の姿に悲鳴をあげる。


「ちょっと血!? いっぱい付いとっちゃけど!?」

「気にしない気にしない!」

「嫌ああああああぁ!!!」


真っ青な顔で抱き締められた優香。愛理は嬉しそうに優香を抱擁している。恐ろしい光景なのに学校で見た時と同じように胸がときめく。許されない百合だ。きっと危ない百合なんだ。

隣では五右衛門はカメラを取り出し、愛理の双峰に埋もれた優香を撮影しようとするが、


「殺すぞ?」

「撃つよ?」

「ふぁッ!?」


カメラを取り上げた後、竹志と小笠原は五右衛門を袋叩きにしていた。

だが軍服を着ているせいでダメージが少ない。おかげで五右衛門は平気な顔で笑っている。


「フハハハハッ! 効くわけあらへんやろ!」

「小笠原、関節技だ」

「任せて」

「アダダダダッ!? ぎ、ギブ! 俺っちが悪かった!」


五右衛門の背中に圧し掛かった竹志は腕を曲げて、小笠原は足の関節を曲げた。必死に地面をバシバシと叩いて降伏しているがやめない。

悪を潰し終えた後、全員の準備が完了する。巡回警備隊と高い台に居た敵を倒したのだ。異変に気付かれる前に移動しよう。


「こんな馬鹿なことをする暇は無いぞお前ら。このまま本拠地に攻め込むぞ!」


()らしめて動けなくなった五右衛門をその場に置いて行き、本拠地へと走り出した。


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