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フクオカ  作者: 夜紫希
第一章
15/32

屍に立つ汚者

生徒会長の鹿野は画像を小笠原に突き返しながら怒鳴った。

画像に映る赤い惨状。それを目にしてしまった優香は思わず口を手で抑えた。


「見ないで良いよ」


愛理は優香の顔を抱き締めて顔を背けさせる。生徒会のメンバーも酷く驚いていた。

人の血が飛び散った壁と床。ある者は床に倒れ、ある者は壁にもたれかかり、ある者は壁に穴を開けて逃げようと必死に手で叩いてその命を尽きさせていた。

彼らが自分と同じ第弐高校の軍学生だとすぐに確認できた。鹿野はもう一度、彼らに問いかける。


「答えてください、殺した理由を……!」


夜戦での勝利を目的としない行為は全面的に禁止されている。それを破ったのだから激怒するのは当然のことだった。

もしこのことが風紀委員に知られた瞬間、認められる理由が無い限り夜戦の強制敗北が決定する。


「勝つ為に殺した。それ以外に理由はいらないと思うよ」


だから———勝利に必要な殺人は認められる。そう言ったのだ。

答えたのは竹志でもなく小笠原でもない。鹿野の質問に答えたのは華道 愛理だった。

本気で言っているのかと視線を移すと、彼女は頷いた。


「おがちゃんは無意味に人は殺さないよ」

「なら殺すことに意味があるのですか…?」

「あるよ」

「どんな!?」

「これ以上、人が死なない為に意味がある」


愛理の代わりに答えたのは竹志だった。

鹿野の前に立ち、竹志は小笠原のスマホを奪い再び鹿野に惨状の一部を見せる。

だが今度の画像は違った。廊下の映像が映し出されており、また第弐高校の軍学生が(おびただ)しい血を流しながら倒れていた。

仕掛けた罠にかかったわけではない。何故倒れているのか理解した鹿野は下を向いた。


「そういう、ことですか……」

「今まで真正面から正々堂々と戦って来たお前は偉いと思う。だけど、奴らを許すことをお前はできるか?」


第弐高校に潜む裏切者があの部屋に辿り着く前に、彼らは倒されてしまったのだ。

それこそ理由なんて愛理より何百倍も馬鹿げた物だろう。聞く必要もない。

幸い、数名だけ僅かに動いているのが確認できる。皆殺しされているわけではない。だが自分たちがあの部屋に居た場合、皆殺しになっていない保証はできない。

相手が殺しに来ているにも関わず、自分たちは殺しません!なんて甘いことは言えない。反撃があって当然なのだ。

問い詰めることを諦めた鹿野はそれ以上何も言わない。悔しい思いを押し留めて拳を強く握っていた。

しかし、優香だけは言わずにいられなかった。


「どうして……軍学生の生存率って百%って!」

「それは他国に攻めた時の話だ柳。軍学生同士の激突はまた話が別だ」

「でも、殺す必要はないでしょ!? 警察か風紀委員に引き渡せば———!」

「殺すつもりでいかないと連中を倒せなかったんだよ。だから小笠原は殺傷力のある毒を選んだ」

「分かんない! 倒せないって何!? 軍学生は皆強いから倒せるでしょ!?」


子どもの我が(まま)のように首を横に振る優香。竹志の表情も辛いモノに変わっていた。


「風紀委員は全員レベル2(セカンド)以上じゃないと採用されないんだ。レベル2(セカンド)になると能力(アビリティ)の警戒もしないといけない」


小笠原が竹志を庇うように説明をした。しかし、意味を理解することはできなかった。

ただ一人、夜戦のことに詳しくない優香は無暗にそれ以上のことを追求できなかった。だが感情はそれを許さない。

優香は震えた足で立ち上がり竹志の服を掴む。乱暴に竹志の体を揺さぶりながら涙を流した。

友人が人の命を奪った。仕方なかったの言葉で片付けてしまうことに憤りも覚えない自分に腹が立つ。


レベル1(ファースト)からレベル2(セカンド)に上がった軍学生は不思議な力を同時に得ることができる。人によって様々だが、異常とも言えるような能力(アビリティ)を手に入れることもな。もし小笠原が手加減していれば、その能力(アビリティ)で生き延びられてしまう可能性があったんだ」


だから確実に殺したと最後までは言えなかった。それ以上、竹志は言葉を発することはなかった。


「華道さん」


鹿野が愛理の元に行き話かける。愛理の目は真剣で、しっかりと聞こうとしていた。


「最低な夜戦は———残酷な選択できないことですか?」

「……ううん、少し違う」


愛理の出す答えを告げる。


「その時———人を殺せないことだよ」

「……厳しいですね」


残酷な答えが返って来た。鹿野は苦しそうに額を手で抑えながら呟いた。

上に立つ者としてその選択はあまりにも重過ぎた。今の自分には背負うことはできないだろう。


(だから……師匠たちが汚れ役を買ったのですか?)


手を握り絞めながら鹿野は一つの結論に辿り着く。

今までの行動は自分と同じ———上に立って来た者だけができる判断だ。いや、自分と同じではない。自分よりも遥かに上のはずだ。

鹿野はあることを聞こうと口を開くが、小笠原の電話が小さく震動した。


「電話が来たよ小倉君」


泣きつく優香を愛理に任せた竹志は電話を受け取る。

着信相手を確認した後、全員に聞こえるようにスピーカー通話に切り替える。


「もしもし? 俺だ」

『先輩ですか? 良かったぁ…メガネ猿でしたら耳が腐っていましたよ』


その時ばかりは誰も小笠原の顔を見ようとしなかった。

電話の相手は夜々月だった。彼女は安心するように息を吐いていた。


「それで、何の用だ?」

『第弐高校の生徒会長はそちらにいらっしゃるのでしたら代わり話を通して貰えます?』

「全員に聞こえるようにしてある。このまま言え」

『了解です。では、まず運営からの報告です』


その時、竹志は鹿野に小声で伝える。


「———上に立つ奴は、全員覚悟を決めている」

「———え?」


突然言われたことに理解が追いつかない。しかし、夜々月の報告で全て理解することになる。


『この夜戦を担当する風紀委員が不正をしていたことが分かりました。残念なことに全員です』

「本当に残念だな。それで?」

『異端の風紀委員は全て排除、高校を代表する生徒会長には一時休戦、もしくはルールの変更と追加が可能です』


排除という不吉な言葉に嫌な予感を覚える。鹿野は深く聞こうとはしなかったが、竹志は違った。


「夜々月。排除ってことは全員殺したことで良いのか?」

『———当然です。私の手で処分しました』


端的に告げられた言葉に驚きを隠せない生徒会。優香も信じられないと耳を塞いでいた。

フクオカ風紀委員の最高責任者として彼女は決断を下した。鹿野は竹志に言われたことを理解する。

覚悟を決めているから自分の部下を殺せるのだと。絶対の秩序を守る為に彼女は手を動かした。

小笠原にも同じことが言える。非難されることも、認められない行為だと知っていても、これ以上の犠牲を出さない為に覚悟を決めて罠を仕掛けたのだ。

自分はどれだけ無知で愚か者だろうか。生徒会長としての責務を果たせないことに鹿野は悔いた。


『風紀委員の一人を拷問した所、第壱高校から手引きされていたことが発覚しました。よって第弐高校に有利条件が許可されます』


夜戦での禁止事項を破っている。そのことを注意するべきだろうが、今回はそれが助かった。


「……危ない仕事をさせたな」

『先輩の為ですから』

「……そうか」


後輩から慕われていることを実感して頬が緩んでしまう。不意に言われると困る。

竹志はすぐに表情を引き締めて話を進める。


「今度奢る。一時停戦の最大時間とルール変更と追加はどのくらいの規模が可能だ?」

『停戦時間は三時間。ルールの変更は当初の両校の降参と風紀委員の審判(Judge)は変えることができません』

「ふ、風紀委員はいないはずじゃ? 審判(Judge)はできるのですか?」


戸惑いながらも鹿野は夜々月に質問を投げる。大規模の夜戦に大人数の風紀委員を投入していたはず。その埋め合わせをどうするのか。

もし一時休戦をこちらが要求するなら夜々月は風紀委員を集めることができるだろう。しかし、このまま続行するとしたらそれは———。


『問題ありません。私が一人で審判(Judge)をするので』

「なッ!?」


端的に答えた夜々月に周りは驚くことしかできなかった。鹿野は本気で言っているのかと疑っている目をしているが、小笠原と愛理の頷きに認めるしかなかった。


『本気も何も、そのくらいできないと最高責任者として務まりませんので』

「鹿野。それ以上の問答はいらん。全校序列四位の人間に心配は不要だろ」

「四位……!?」


驚愕したのは優香。さすがに上位に居る軍学生のことを生徒会は知っていたのか驚きはしなかった。

だが生徒会はいくら四位でも無理があるのではないかと危惧しているのだろう。


『鹿野生徒会長、ルールの追加は審査が通る程に抑えてください。第壱高校の許可を取らずにルールを追加できることは大きく有利になるので』

「わ、分かっています」


夜々月の忠告に鹿野はしっかりと頷く。顎に手を当ててジッと考え始めた。

生徒会長としてどういう判断を下すべきなのか。竹志と小笠原を一瞥(いちべつ)した後、答えを口にした。


「本来なら停戦を選ぶのですが、小笠原さんの意図を汲み取るならルールの追加……ですよね」

「合ってるよ」


小笠原は安心するような笑みで肯定。第弐高校の頂点としての器を少し試しているのだろう。余計な口出しはしないでおこう。


「ヒントは僕達がここに居て、戦況が有利になるルールだよ」


小笠原の助言に鹿野は考え込む。何度か周りを見渡した後、導き出した答えを口にする。


「……代表戦、ですか?」

「凄いね。ほぼ正解だよ」


鹿野が言い当てたことに意外な表情を見せる小笠原。お見事だ。


「夜戦の勝敗決定にルール追加だ。代表戦のルールの一部をこの夜戦に取り入れる」

『ですね。この状況なら私も同じことを言います。それなら審査に通るでしょう』


小笠原の説明に夜々月は同意している。夜々月は審査の為に一度通話を切った。

イマイチ理解していない優香と生徒会メンバー。優香は俺の顔を見ながら聞く。


「代表戦って?」

「高校から軍学生の代表を選んで一対一のタイマン夜戦をする。その勝利の数を競う夜戦だ。数で不利だから、この夜戦を第壱高校としたかったんだ」

「ということは……今から代表を選んでするの?」

「違うな。この総力戦を止めることは無理だ。だから一部だけ取り入れるんだよ」


その発言にピンと来た生徒会が理解する。優香は少し考えた後、


「軍学生を倒した数を競うとか?」

「「「「「!?」」」」」


その発言は全員に衝撃を与えた。

驚いた反応を取られた優香は困惑する。反応が明らかに答えを当てたモノではないからだ。


「柳……天才かよ」

「え!?」

「まさか僕の作戦の上を行くとは……」

「ちょっと!?」

「勝敗の決定は降参と審査(Judge)もあるから、優香ちゃんの作戦ならギリギリ審査に通る……」


あの三人が褒め称えている程の驚き具合だった。優香は手をわちゃわちゃと振りながら焦り出す。


「何かおかしくない!? リアクションがおかしいっちゃけど!?」

「だって小笠原の考えた作戦はお互いに代表者を選出して、その代表者を全員倒したら夜戦に勝利するっていう条件を出そうとしていたんだよ」

「でも僕の作戦より優香さんの作戦が優れていた。あんなに頼りにされていたのに僕と言う奴は何てクソみたいな作戦を考えていたのだろうか」


小笠原は橋の下にしゃがみ込んでブツブツと自己嫌悪に(おちい)る。「あーあ、やっちゃった」みたいな視線を全員で優香へとプレゼントすると、


「た、タケがアタシに考えさせるように言うのが悪いとよ!」

「いや何で俺? いつも俺を悪く言うのやめて。俺を添えるように悪く言うのやめてホント」

「うん! タケ君が悪い!」

「ストレートに言えば良いってことじゃねぇよ華道」


竹志は調子を取り戻してくれた優香に少しだけ安堵していた。愛理もホッとしているのが分かる。

援軍補助のメンバーが騒がしくなる中、ピピピッと小笠原の着信音がまた響く。

今度も夜々月なのだろう。竹志が電話に出る。


「もしもし? 今泣きそうなんだけど?」

『後で良い子良い子してあげますよ先輩。そんなことより審査が通りましたよ。今から五分後にはルール追加の報告が全軍学生に説明されます』


慰めてくれていると思っていたが、そんなことと言われている件について。


『話し合いの結果、代表は五名。すぐに決めて本部に報告してくださいね』

「了解。ならこれ以上の手助けはやめておけよ。立場上、平等に審査しないといけないだろ?」

『分かっていますよそれくらい。被害はそちらなので、このくらいのことはさせてください。では健闘を祈ります』

「ああ、そっちもな」


竹志は通話を終了すると夜々月からの報告を伝える。

優香の素晴らしい作戦に変えた所でここに来てしまった以上、後戻りはできない。このまま小笠原の作戦で進める。

小笠原と鹿野は代表の選出を話し合い、竹志たちは最後の戦闘準備に取り掛かる。


「優香。護身用にコイツを持って置け」


竹志が優香に何かを渡そうとしていた。

護身用と言われ息を飲む。危ない物を渡されると思っていた。


「……何これ」

「瞬殺スプレー」

「怖いわよ!?」


銃やナイフより恐ろしい物を手渡された。物騒な名前に優香は竹志に返そうとするが、受け取ってくれない。

第弐高校だからこそ作れる武器だが、一般人に持たせるのはおかしいような気がした。


「間違っても吸うなよ? 手をグッと伸ばして顔との距離をちゃんと取れよ」

「嫌っちゃけど!? 催涙スプレーじゃ駄目なん!?」

「風紀委員審査の通った武器だ。軍学生相手なら死ぬことはない。だけど援軍補助の一般人は死ぬ。だから扱いには注意して欲しいんだよ」


こんな危険物でも死ぬことがない軍学生に対して優香は恐怖心を覚える。違法夜戦で襲われた時のことを思い出すが、あの時より危ない状況になるのは間違いない。

仲間たちを見渡せば小笠原の手には拳銃が握られ、狙撃銃を背負っている。愛理は刃先の付いた短い棒を横に振ると、槍の様に棒が伸びて武器へと変形した。

生徒会は軍服に身を包み、軍学生用ヘルメットを被って銃や剣などの武器を用意していた。その光景に優香は実感した。


「そうよね……」


震えた声で優香は頷く。

一歩間違えば手に持った武器は人を殺してしまう。

一歩間違えば第壱高校の軍学生に殺されてしまう。

そんな一歩の間違いを起こしてしまうのではないかと不安と恐怖に優香は押し潰されそうになっていた。

これが戦争なのだと、実感した。


「柳———守るから安心しろ」


恐怖で震える体に肩を叩いてくれたのは竹志だった。

それに続くように愛理が優香を抱き付き、小笠原が反対の肩を優しく叩いた。

軍学生より力の無い存在なのは客観的に見て明白。しかし、彼女には彼らが一番頼りになる存在だった。


「僕達もいる」

「優香ちゃんには指一本…いや、近づけもさせないから!」


愛理は肩に触れた竹志と小笠原に槍先を向けた。


「「ステイステイステイ」」

「セクハラだからね?」

「……クスッ、ありがとう皆」


三人のやり取りを見て笑ってしまう優香。スプレー缶をギュッと握り絞めて前を向く。

誰よりも先頭を竹志が歩き出す。それに続くように生徒会も歩き出した。


「おおっと? やっと見つけたでぇ!」


その時、正面から第壱高校の軍学生が姿を見せた。

橋の上から落ちて来た軍学生の風貌(ふうぼう)は他の軍学生と変わっており、古びた茶色のコートに下駄を履いた男だった。

学生にしては少し歳を取っているような顔つき。無精な(ひげ)が若さを消していた。

生徒会が先手必勝で攻撃を仕掛けようとする。その行動に男は慌てて首と手を横に振った。


「アカンアカン!? 自分ら焦り過ぎや! こっちは味方になる為に来たんやで!」

「味方だと?」

「軍蔵はんの紹介って言えば信じて貰えるかいな?」


第壱高校の生徒会長の名前が出されたことに驚く。彼のことを一番知っていた竹志は武器を下げるように指示した。

生徒会は竹志を信じて武器を下げる。だが警戒は解かない。


「いやー助かりますわ。では話を聞いて———」

「小笠原」

「了解」


竹志が小笠原の名前を呼ぶと、小笠原は男の頭部に銃口を突き付けた。

その行動に生徒会だけじゃなく男も驚愕した。


「嘘やろ!? 全然信頼できてへん!?」

「し、信頼しているに決まっているだろ馬鹿野郎! 信じてる……言わせんな恥ずかしい」

「絶対違う!! 自分、平気な顔でツンデレ風に嘘つくのを上手……」


その時、男は竹志の顔を見て止まっていた。不審に思った竹志は小笠原に蹴って貰おうかと頼もうとする。


「アンタ……あの小倉 竹志やな」

「チッ、小笠原」

「待てや。俺っちの名前は五右衛門(ごえもん)。知っとるやろ」


五右衛門と名乗った男。竹志たちの表情は変わった。


「お前が五右衛門なのか…プッ」

「なるほど、第壱高校に居るのは意外だったかな。プッ」

「わー! 最高留年生だぁ!」

「ドアホ!? 仕方あらへんやろ!?」


完全に馬鹿にした態度を取る三人。男は顔を真っ赤にして怒っていた。

五右衛門という名前に生徒会は興味深そうに彼を見ていた。誰なのか全く分からない優香が鹿野に尋ねる。


「あの人は有名なの?」

「情報提供者として有名ですね。情報提供者で彼の右に出る者はいないでしょう。『情報屋の五右衛門』は私たちトップの中で知らない者はいないはずです」

「情報屋…実際に居るのね」

「ええ、彼の情報収集は夜戦の勝敗を大きく差を開く程だと」


鹿野が語る五右衛門に優香はただ者では無いことは察した。隣に居た西城が頷いて肯定するが、知らないこともある。


「お、おじさんなのは初めて知りました!」

「オッサンちゃうわ! これでもまだ二十歳や!」


意外過ぎる若さに優香は戦慄した。


「す、すいません! 顔が凄くおじさんだったので!」

「お嬢ちゃん!? 切れ味抜群の悪口言うてるよ!?」


こんな時でも西城はブレない。「せーの」で声を合わせる。


「「「天然です」」」

「やかましいわ!!」


関西弁の気持ちが良いくらいのツッコミに一同が拍手。五右衛門は照れてしまうが、ハッとなる。


「こんな漫才をしに来たちゃう! 手助けや!」

「どういう風の吹き回しですか?」


五右衛門の発言に鹿野が目を細める。敵の言葉を鵜呑(うの)みにすることはできないのだろう。

コートの内側からタブレットを取り出すと五右衛門は操作して生徒会長に見せる。

画面には第壱高校の拠点付近の警備情報、中に居る軍学生の配置場所と強さ。隅々まで調べられている情報だった。


「どや? 取引する気になったやろ?」


平気な顔で仲間の情報を売る五右衛門に、鹿野は正気を疑った。


「自分の学校を売る気か!?」

「当たり前やろ。手助けするんやから」


鹿野が五右衛門に掴みかかろうとする。だがその前に竹志が止めに入った。


「やめろ」

「ですが!」

「熱くなり過ぎだ。そういうことは許せないのも分かるが、コイツは違う」

「小倉君の言う通りだよ。彼の情報は得るべきだ」

「さすがお二方。生徒会長とはちゃいますなぁ」


竹志と小笠原の言葉に鹿野は止まる。挑発的な言葉に鹿野たちの睨む力が強くなるが、五右衛門は変わらず説明を続ける。


「俺っちの要求はただ一つ。『強者命令』の全撤回だけにして欲しいことや」

「……は?」

「あー難しいかいな? まぁ要求が飲めへんならこの話はナシで———」

「ち、違う! 俺たちの目的はそれだけだ! それ以上のことは望んでいない」

「そうなんか? いやーそれなら安心安心。俺っちはてっきり———違法夜戦した軍学生を皆殺しにすると思ってたわ」


ゾッとするような寒気が襲って来た。

背筋を舐め回すかのような感触。五右衛門という男が初めて怖い存在だと認識した。

そんな五右衛門に竹志は気軽に接していた。


「そんな胸糞悪いこと、この会長がすると思うか?」

「……しそうにないな!」

「拷問した後に吊るすらしいよ」

「マジかいな!?」

「しませんよ!?」


竹志が何度も話を脱線させていたが、そろそろ真面目に話し合うべきだと小笠原が釘を刺しておく。


「第壱高校の被害は最小限に抑えたいんだろう。向うは圧倒的に有利な夜戦に負ける汚名を抱え、こっちは大勝利の名誉を貰えるんだ。鹿野も取引成立で良いよな?」

「……本当に信じて大丈夫なのですか?」

「自分、こういう情報もあるで?」


五右衛門が次に提供した情報は目を張る極秘情報だった。


「まさか第壱高校代表者の位置!?」

「正解!!」


鹿野と五右衛門の言葉に誰もが息を飲んだ。

代表者を決定してから三十分———いや十分も満たない時間で情報をまとめていたのだから驚かないわけがない。

『情報屋の五右衛門』の情報収集力は予想を超えていた。短時間でこの情報量はあまりにも常軌を逸している。


「ちなみにアンタらの代表は書記の西城 未来(みらい)を除いた生徒会メンバー四人と第弐高校が誇る医学部の部長で合っとるよな?」


得意げに当てる五右衛門に鹿野たちは心臓を掴まれたかのような動悸に襲われる。

彼に目を付けられたら逃げれる自信が無い。敵に回せば全てを知り尽くされる。


信憑(しんぴょう)性もあるっちゅことで…」


———五右衛門の情報収集は、本物だ。


「ほな———取引始めようか?」


自信溢れた笑みは、鹿野たちを萎縮させるには十分だった。


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