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フクオカ  作者: 夜紫希
第一章
13/32

壱と弐 決戦前会議

竹志の服はボロボロになっていた。

軍服を着用した軍学生の握力は尋常じゃない。シャツはもちろん、ジーパンだって簡単に破く。どっかのエロ同人誌みたく服を引き裂かれていた。幸い、パンツが無事なおかげで公然猥褻(わいせつ)罪で捕まらない……と思う。長ズボンの片方が破られ奇抜なファッションになっているが、多分大丈夫だ。


「優香。俺は先に着替えて来るから夜々月と一緒に行っててくれ。小笠原たちも、もういると思うから」


指を指しながら進む方向を教える。夜々月がその人差し指を折ろうとするが、避けてみせた。これ以上失ってたまるか。

俺の言葉に優香は頷くが、疑問を口にした。


「着替えるって…軍服に?」

「着れるわけないだろ。アレは軍学生だけに許された装備だ。運動服みたいな物だよ」


この格好のまま会議すると弟に風評被害が出るだろっと竹志は付け足す。優香は納得し、夜々月の方を向く。と、そこで夜々月が驚いたような顔をしていた。


「えっと、先輩? まさか戦いに参加するのですか?」

「ああ、援軍補助としてな。そこまでは知らなかったのか?」


自分がここに居ることを知っていたなら夜戦に参加することくらい認知していると踏んでいたが、どうやら違うようだ。

夜々月は下唇を少し噛み、首を横に振りながら言う。


「先輩、この夜戦の参加はやめてください」


突然の忠告に竹志は真剣な目で夜々月の瞳を見た。優香も急な発言に驚いていた。


「ど、どういうことなの?」

「そのままの意味です。援軍補助をやめてくださいと申し上げました」


真剣な表情で夜々月は竹志を見ている。冗談で言っているつもりは無いと目で語っている。

はい分かりましたっと簡単に納得するわけにはいかない。自分の弟の将来だけじゃなく、第弐高校の存続も関わっている大事な一戦なのだ。


「理由は?」

「この夜戦で、第壱高校の勝てる見込みがゼロだからです」

「こんな戦い、誰でも見たらそう言うだろ。承知の上で戦うんだよ俺たちは」


竹志は夜々月に近づき目を合わせる。夜々月は引かない竹志に口を歪める。


「建前はいらん。知っていること、全部教えろ」

「……先輩のそう言うところ、やっぱり嫌いです」


はぁと観念するように息を吐き出し夜々月は話し始める。


「この夜戦、二校の裏で糸を引く者がいます」

「……予想が確信に変わったな」


第壱高校の生徒会長が知らない違法夜戦。破ったのは一部の生徒。どこか怪しいと思う要素は十分にある。第壱高校と第弐高校の夜戦を仕組んだ黒幕の存在を証明するには足りているが、足りないこともある。


(黒幕の目的……それが何かだ)


黒幕に取ってこの夜戦は必ずメリットがあるはず。勝利がほぼ確定している第壱高校だから黒幕は第壱高校に居るのが自然と考えれるが…。


(そもそも軍蔵や夜々月も見つけることができない黒幕なら相当の強者だろう。俺の甘い考えじゃ真実に辿り着くのは厳しいだろうな)


意地を張って推理したところで探偵ごっこで終わるのがオチ。事件の迷宮入りをさせるくらいなら、黒幕を暴ける可能性のある奴に頼む方が断然マシだ。

思考を重ねて結論を出す。夜々月に頼みごとをする。


「夜々月。アイツだ、小笠原に相談してみろ」

「嫌ですよあんなクソメガネ猿」

「……………え?」


唐突に夜々月の口から出た汚い暴言に優香は数秒固まっていた。竹志は苦笑いで尋ねる。


「お前……まだ男嫌いが直ってないのか?」

「男嫌い!?」


竹志の言葉に優香が驚愕。彼女が驚くのも無理もない。

夜々月は散々竹志の背に飛び乗ったり楽しそうに話したりしている。男嫌いな節が一度も見られなかった。

嘘だと疑ってしまうが、夜々月の嫌そうな顔に疑念が消える。


「絶対に無理です。あんな二番目の主人公的な立ち位置で爽やかに何でもこなすメガネの集合体に対して会話なんて死んでも嫌ですッ」

「ボロクソ言い過ぎだろ」


後半は何を言っているのかサッパリ理解できなかった。

優香が「え? ん? え?」と連発してどういうことなのか説明を求めている。竹志は溜め息を吐き嫌な顔で夜々月を指差す。


「元々、コイツは大の男嫌いだ。初対面の時なんか酷かったぞ」

「まぁ先輩は私の気を引くために頑張ってくれたので、仕方なく心を許しているんですよー」

「ハッハッハッ、真実を捻じ曲げるのやめろよ? おん?」


笑顔で二人は言うが、竹志の笑みには邪気が孕んでいる。手をポキポキと鳴らしながら夜々月を睨んでいた。

二人が特別な仲なのは分かった。優香は渋々頷いて話を進める。


「小笠原君と話すことが良い事なのタケ?」

「ああ。夜々月の爽やか何たら辺りは俺も死ねと思う。俺が代わりに話すから頼む」

「どうして小笠原君をそこまで悪く言うのよアンタたちは…」


リア充は爆発しろと良く言うだろ。竹志と夜々月は親指を立てながら頷いていた。


「先輩の頼みなら断れませんね。ですが、夜戦の参加はまだ反対ということを覚えておいてくださいね」

「分かってる」


竹志は手を振りながら更衣室へと向かう。

残った二人は小笠原たちの居る作戦本部へと足を運んだ。



本拠地での防衛に(もと)づいた改造は自由。武器や弾丸の禁止や使用制限を守り、風紀委員の審査が通れば、巨大で頑丈な建物を造り上げることも良しとされる。

第弐高校の特化した《技》は持て余すことなく使われていた。外部は一面に銃器が取りつけられ、内部は罠のオンパレード。RPGの魔王の要塞とも言える仕上がりになることは有名だった。実際、第弐高校の作った警備機械などは国の上層部にも使われるくらい。

監視カメラに囲まれたフロアをビクビクしながら優香は歩き、夜々月は気にすることなく真っ直ぐ歩く。


「ちょっとこれ……凄くない?」

「ええ、第弐高校の技術は他の高校と違って飛び抜けていますから。特に薬品を使った化学兵器は恐ろしいですよ」

「こ、怖い事言わないで」

「ああ!? 先輩そこは体を溶かす罠が!?」

「きゃあああああ!!!」

「うっそでーす☆」

「やめて!? 一生のお願いだから!」


夜々月がニヤリと笑いながら優香をさらに怖がらせていた。

暗い廊下を抜けると、大きな両開きの扉が待っていた。夜々月は勢い良く扉を開け放つ。


「フクオカ風紀委員、最高責任者の十二時(とおにじ) 夜々月です。審査は全て問題無いことを報告しに来ました」


部屋は百を越えるモニター画面で囲まれていた。監視カメラの映像、外の風景、何かのデータなど様々。不気味とも言える空間が広がっていた。

中央の横長テーブルを囲むように軍服を着た生徒が一斉にこちらを見る。第二高校の幹部や生徒会、上に立つ軍学生たちだと優香は覚えている。そこには小笠原と愛理(えり)の姿があった。

最初に声を上げたのは愛理。夜々月の顔を見た瞬間、花が咲くように笑顔になった。


「あーッ! よっちゃんだ! 久しぶりだね!」

「ヒィ!? 華道先輩ぃ!?」


夜々月は真逆。顔を真っ青にして花が枯れるように絶望の表情になる。

急いで夜々月は優香の背後に隠れて体を震わせる。尋常な反応に優香は恐る恐る愛理に聞く。


「……何か、した?」

「……………何も?」

(((((絶対に嘘だ…)))))


不自然な間の空いた返事に一同に戦慄が走る。生徒たちは汗を流しながら様子を見守っていた。


「え、えっと……了解しました。生徒会長、鹿野(かの) 吹雪(ふぶゆき)です。援軍補助の承諾もお願いします」

「その件でこちらから話があります」


一番奥の正面に立っていた鹿野が苦笑いで話を戻そうとするが、怯えていた夜々月はすぐに切り替えて鹿野と話をする。


「今回の夜戦、あなた方に勝ち目はありません」


否定の言葉を発した瞬間、部屋に殺意が溢れかえった。

(おぞ)ましい感触が体を包み込むような錯覚に優香の体が強張る。

一般人に対して害を与える恐怖。それほど軍学生の殺気は危険な味を持っていた。


「抑えろ」


生徒会長、鹿野の一言で生徒の殺気は霧散するように消える。しかし、鹿野の鋭い眼光は夜々月を捉えていた。


「平等な立場であるあなたがそれを言いますか?」

「悪戯に人を死なせてしまうことを良くない、と私は一般論を述べただけです」

「一般論? 違います、私たちは軍学生です。筋違いですね」

「筋違いはあなた方です。いえ、身の程知らずが正しいでしょうか? この戦いが圧倒的に———」


「そこまでだ」


鹿野と夜々月の言い合いがピタリと止まる。軽い声音のはずだったが、その声音に二人は黙ってしまった。

二人を止めたのは小笠原。首を横に振ってそれ以上は駄目と語っている。隣に居る愛理もダメだと腕でバツ印を作っている。

無言の圧力に鹿野は悔しそうにやめるが、夜々月は下を向いてボソッと呟く。


「……メガネ猿が」

「聞こえているからね?」


キランと輝く眼鏡。優香が手で抑えてとジェスチャーしている。


「あの……世志君のお兄さんを連れて来ました……」


扉から頭だけ出して泣きそうな顔で西城が優香たちの後ろに居た。糸が切れたかのように、優香は息を吐く。


「真っ直ぐの道で私でも迷子にならないのに、迷っていたので案内を……」

「言わないで。ねぇいくら? いくら払えば悪口言うのやめてくれる? ここに来るまで散々罵ったのに足りないの?」


西城の天然に竹志が焦るように財布を取り出していた。一同が冷たい目で竹志を見ている。

そんな中、夜々月だけが違う反応を取った。


「助けてください先輩! 皆さんが私を脱がそうと虐めて来るんです!」

「「「「「はぁ!?」」」」」


軍学生が一斉に立ち上がる。これには優香も声を揃えて驚いていた。

夜々月が竹志に涙を流しながら抱き付く。


「そうか」


心優しい竹志は夜々月の綺麗な金髪を撫でながら告げる。


「誰もお前の裸を見た所で喜ばない。鼻で笑うだけだ」

「セイッ!!!」

「ふがッ!?」


金色の頭突きが竹志の頭に炸裂。鈍い音と共に鮮血を鼻穴から流した。

竹志は(たま)らずその場に(ひざまず)いて(うな)った。

痛々しい光景を見た生徒は思わず鼻を抑える。小笠原と愛理は腹を抑えながら笑っていた。

何とも言えない空間に、優香は終始戸惑っていた。




ティッシュを鼻に詰めた竹志が席に座り最後の作戦会議が始まった。本来、夜々月は退室するのが普通だが、竹志のお願いというわけであって、生徒会長の許可が下りた。

最初は自陣の守りは完璧だと防衛担当の幹部が報告。攻めは大胆に化学兵器を使う、罠を街中に仕掛けて時間を掛けて倒すなどなど。様々な夜戦の方針が出される中、夜々月と小笠原は会話をしていた。


「小笠原先輩。とても言いたくないですが、内部に潜む(やから)を任せていいですが」

「一言多いよ。それは僕も夜戦前に静かにさせたいけど、手掛かりが無いのが現状だから……厳しいね」

「……生徒会長の許可が下りれば私はレベル3(サード)を使えます」

「ッ! でも、僕が判断をミスすれば君は……」

「それは先輩も同じですよね?」


少女の笑みに小笠原もつられてニヤリと笑う。


「安心して、僕なら絶対に間違えずに見つけるから」

「手掛かりが無い状態で?」

「尻尾を出した瞬間、握ればいいだけの話だよ」


小笠原の自信満々な答えに夜々月は身震いさせる。隣に居た竹志と優香は会話を聞いていないフリをしながらモニターを見ていた。


「怖いっちゃけど」

「俺もっちゃけど」


組んではいけないコンビだと二人は察した。

小笠原と夜々月の会話が終わると同時に、作戦の方針も決定する。生徒会長が前に立ち説明を始めた。


「《カシイ》区域にある大通りの道は一つ。二校の拠点の間、《カシイ参道口》ぐらい目立つモノはありません。東から攻めて来る第壱高校はこの大通りを使い、横に陣を展開して拠点を囲む可能性があると作戦班の言い分です」

「でも僕たちの拠点に近づけば近づく程、道は狭くなって仕掛けた罠にかかりやすい。個々で撃破するのがこちらの作戦だったね」


鹿野の説明に小笠原が補足する。学生たちは頷き、細かい準備に取り掛かることになった。

部屋には会長を含めた五人の生徒会と夜々月、そして四人の援軍補助代表の竹志たちだけ。

幹部が全員退室した後、竹志は小笠原の肩を掴む。


「どういうことだ?」

「何がかな?」

「『作戦だった』って。何で過去形になっているのか聞いているんだよ」


その言葉に生徒会だけじゃなく、夜々月も驚いていた。

ここに来てまさかと思ってしまう一同。しかし小笠原は当たり前のように告げる。


「うん、作戦を変える」


端的に告げられた。

突然の変更に軍学生たちは度肝を抜かれる。目を見開き、信じられないと鹿野は首を横に振っていた。


「何故先程言わなかったのですか!?」

「幹部の中に作戦を妨害する奴が居ると思ったからだよ。僕は生徒会も怪しいと思っているけどね」

「怪しい…!?」

「裏切者だよ。僕はそれを潰す役目がある」


中指で眼鏡のブリッジを上げながら鹿野を観察するかのように見る。

あまりの態度に鹿野は声を荒げようとするが、竹志と夜々月が止める。


「ここで争っても意味が無い。鹿野、小笠原はムカつく奴だが信じて大丈夫だ」

「そうです。こんなメガネ猿でも頭だけは良いので」

「まず君たちから説教の時間だ」


なだめるように竹志と夜々月は鹿野の肩を叩く。小笠原は竹志と夜々月の肩を掴んだ。

不安な表情で優香が見守る中、愛理が声をかける。


「心配しないで優香ちゃん! 男は基本馬鹿な生き物だから!」

「「異議あり!!」」


今度は竹志と小笠原が愛理に文句を言い始める。愛理は全部受け流して全く聞いてくれなかった。

作戦の話が大きく脱線していることに気付いた小笠原がパンッと手を叩く。


「とにかく! 準備を整えたら行動を開始する」

「作戦の内容は?」

「そうだね———泳ぎながら話すよ」


また予想を超える発言に、全員が声を揃えた。


「「「「「泳ぐ?」」」」」



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