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フクオカ  作者: 夜紫希
第一章
12/32

明確な対立宣言

「私はこれで失礼します。では先輩、また機会があれば」

「おう。またな」


礼儀正しくお辞儀をして軍蔵は部屋を退出しようとする。それを竹志は手を振りながら見送った。

あれから特に何も聞かれるようなことはなかった。

先輩後輩という繋がりのおかげで疑われることがないと思っていたがここまでとは…。心が痛むが、弟の為に仕方のないことだ。許せ軍蔵。


「あと、言い忘れていましたが、あまり私の生徒をいじめないでくださいね? いくら誤解とはいえど、ボコボコにすることは褒められた行為ではありませんので」

「「ぶふッ!?」」


ドアの前で立ち止まった軍蔵は、振り返り笑みを見せながら言う。竹志と優香は飲んでいた紅茶を噴き出した。

普通にバレていました。恥ずかしいっ!


「ですが違法夜戦なうえに一般人に危害を加える行為は絶対に許されません。厳重な処罰を与えていますのでご安心を。こちらが圧倒的に悪いので先輩を責めることはありませんよ。絶対に」

「そ、そうか…だよな」


しかし、背汗が止まらない。


「おかげで違法夜戦の取り締まりがより一層進みましたので、むしろ感謝していますよ先輩」

「お、おう」


笑顔で告げる軍蔵に竹志は引き攣った笑みで答える。


「騙せると思いましたか? 一般人で軍学生を倒せるのは、先輩のような人だけですよ」

「だ、だったら戦闘狂のアイツらだって…」

「訂正します。武器を持たずに素手で軍学生を倒すのは先輩だけです」


指摘されたことを否定できない竹志は額から汗をダラダラと流す。情けない竹志を見た優香は溜め息しか出ない。


「それと時間に余裕があればぜひ学校に伺ってください。第弍高校とはいえ、侮る事はできない敵なので、助力してくれると助かります」

「…悪い。大学で単位落としまくってるから」

「…なるほど、そうですか。それは、()()()残念です」


少し落ち込んだ様子を見せながら軍蔵は苦笑した。竹志は顔を逸らしたまま手を挙げて、


「じゃあ、またな」

「はい、ではまた」


軍蔵はもう一度お辞儀して今度こそ部屋を出て行った。

軍蔵の重い足音が消えると、優香は口を開く。


「どうしてあんな分かりやすい嘘をついたん?」

「…どこが?」

「単位、全然落としてないやん」


優香の指摘に竹志は黙る。彼女の言う通り、竹志は単位を落としたことは無い。


「タケの成績が良いこと、軍蔵君も知っているんじゃないの?」


微笑みながら竹志の顔を覗く優香に竹志は顔を赤くした。図星を突かれたとすぐに判明した。


「悪いかよ」

「全然。何でそんなことをしたのか聞きたい」

「はぁ…あの馬鹿が勘違いしたまま帰ろうとしたからだ」


溜め息をついて説明し始める竹志。その答えに優香は首を傾げた。

確かに軍蔵は勘違いしていた。竹志を援軍補助に誘う時点で、竹志が第弍高校の援軍補助だと気付いていないのだろう。


「それじゃダメなん?」

「後輩を騙す先輩にはなりたくないっ」

「最初に情報引き出させたのタケじゃん!? あのまま帰っていたら何も言わんかったクセに!」

「…ソンナコトナイヨ」

「こっち見て言いなさいよ!」


顔を合わせようとしないタケの頭をがっしりと掴む優香。容赦はなかった。


「痛ぇよ馬鹿! 俺はフクロウみたいに回らねぇガガガガガっ!?」

「あっ、ごめん。やり過ぎたかも」


申し訳なさそうに謝罪する優香。しかし、手の力が緩まない。鬼畜!

顔を真っ赤にした竹志が何度も優香の腕を叩いてギブアップのサインを出すが無視される。


「ごめん! 俺が悪かった! もう折れそうだから放して! あといろいろとヤバイから!」


竹志は痛みに焦っているわけではない。確かに痛いが、そんな痛みが吹っ飛ぶような出来事が起こっているから焦っているのだ。


(当たってる! 普通に柔らかいから!?)


竹志の首を回すことに必死になっているせいか、優香の胸が竹志の左の頬に当たっている。埋もれていると言っても過言ではない。

控えめと言っても胸はある。貧乳という漢字を書いても、乳という字はあるだろ? それと同じだ(?)。

それはブラジャーとか下着とかどうでもいい。柔らかい胸だった、それが重要なのだ。

硬いおっぱいなんて、おっぱいと呼べるはずがない。だからと言って柔らかいから柔らかいモノ全てをおっぱいなど呼べるわけがない。

つまり―――おっぱいは、おっぱいなのだ。

…何を考えているんだ俺は。冷静になれよ。危うく尻から胸宗教に改宗するところだった。


「た、タケ...!?」

「ん?」


優香の震えた声が聞こえた。冷静になれたおかげで、顔に優香の胸を当てながら返事をした...あっ。

ゆっくりと顔を離して顔を上げる。頬を赤くし、涙目で俺を睨む優香が視界に入る。完全にバレていますね。


「えっと、その...」

「い、いつまで触ってんのよ...!」

「…ん?」


触る? 俺はもう胸から顔を離しているのだが?

顔を赤くした優香は視線を落とす。その視線を辿ると、優香のスカートが見えた。

そして、俺は戦慄する。そのスカートの上から人の手がお尻を触っているのだ!


「―――うん、これ俺の手だな」


何度も手をグー、パーして確認する。自分の手だと確信する。

どうやら俺が冷静になれたのは、尻を触ったかららしい。無意識で最低なことをするんだな俺。

恐る恐る、もう一度優香の顔を見る。そこには手を振り下ろそうとする姿があった。

二秒後にビンタが来る。ならばやることは一つ! 右手の親指を立ててウインク!


「グッジョブ!」


警察待ったなしのセクハラ発言だった。

その後、予想とは違いグーで何度も殴られた後、個室の風呂場で俺は寝ることになった。





夜戦前日。午前中に優香の機嫌を必死に直し、午後には《カシイ》に来ていた。《テンジン》や《ハカタ》に比べれば大きな建物の数は少ないが、他の場所に比べれば多い方だろう。

既に第弍高校の軍学生たちと待ち合わせ場所を決めているので迷うことは無い。

途中、優香の機嫌を直すために約束したケーキやコーヒーを奢ることになってしまったが、大丈夫だ。後で学校の夜戦経費か何かで金をどうにか落とそう。それが駄目なら大家さんに泣きつこう。


「見えて来たな」


バスから降りて俺は呟く。優香も緊張しているのか背をピンと伸ばしていた。

人気が少ない大通りに簡易に建てられた鉄の門が目の前にある。ここから先は普段一般人に公開されない区域。拳銃を持って武装している軍学生が見張っている場所に入ろうとするのだ。優香が緊張するのは不思議ではない。

その時、見張りの一人がこちらに向かって走って来た。


「おーい! 兄貴じゃねぇか!」

「…見張りが弟だと心配になるのは身内特有の感覚だな」

「ちゃんとできてるからな!?」


馬鹿馬鹿。拳銃を不用意に人に向けるな。素人丸出しなうえに優香が怖がっているだろうが。

暴れる愚弟にデコピンして止める。そのまま優香の手を引きながら中へと進む。


「馬鹿な弟だけど、よろしく頼む」

「ふふっ、任せてください」


一緒に見張りをしていた女子軍学生の先輩に一言残してから立ち去る。後ろから「余計なお世話だ!」と声が聞こえたが無視して進んだ。


「弟思いやね」

「さぁな」


優香のからかいを適当にはぐらかす。

二人並んで奥に進むと軍学生の姿が多くなる。通信機や電気のコードが至るところに伸ばされ、医療、食堂、仮眠室、弾薬庫、簡易テントに様々な施設や倉庫が作られている。


「ここが拠点になるのね…」

「ああ、ここは《カシイ》区域の東だから、西の区域に第壱高校の拠点がある。ここより大きいだろうな」


個人戦の通常夜戦とは違い、大規模な夜戦に置いて重要なのは拠点だ。安全な場所で通信を行い、武器や弾の補充が可能な場所。拠点とは夜戦だけでなく、戦争に置いて要になる場所なのだ。

そして、第弍高校にとっては最大の強みであり、弱点だ。


「《技》の第弍高校の長所は武器や兵器の数の多さだ。拠点にたくさんの武器を置いておけばすぐに補充ができる」

「でも、逆に言えば…」

「そうだ。ここを潰されたら、最悪な状況になるだろうな」


優香でも分かることだった。破壊力抜群な兵器や尽きることの無い弾薬庫があるのは強力だ。しかし、真っ先に潰せば終わりだということを。

第壱高校のように運動神経があるわけではない第弍高校は戦いになった時、武器が無ければほぼ負けてしまうだろう。人数でも押されているのに、武器も使えないとなれば敗北確定だ。

さらに敵がこの拠点を乗っ取れば最悪な状況が完成。敵に利を与え、屈辱を味わう結果になってしまう。

拠点に武器を多く補充して置くことはリスクが伴うのだ。


「念のために悪用を避ける為に化学兵器爆弾を仕掛けているらしいが、この拠点を失った時点で負けだと思った方がいい」

「今聞き捨てならないこと言わなかった!? アタシここに残るとよ!?」


優香にガクガクと揺らされる。その時はその時だ。さすがに避難誘導があるから心配するな。


「対して敵は数と力で圧倒する《力》の第壱高校。こっちと違って、敵の拠点を潰した所で軍学生の勢いは止まらないだろうな」


やはり相性が悪過ぎる。

考えれば考えるほど、不利な要素が溢れ出てくる。普通なら諦めるのが当然だが、周りを見ることでその考えは消える。


「まぁ…勝率は低くても、勝つ可能性があるなら頑張るしかないよな」


必死に拠点の準備をする軍学生たち。その努力を無駄にしない為に、援軍補助としてできることをやろう。


「むふー、さすが私の先輩。策はあるのですね」

「当たり前だろ。策が無いのに戦う馬鹿は第壱の連中だけだ。って今回はアイツらが一枚上手だったか」


「「―――ん?」」


竹志と優香が顔を合わせる。普通に返答してしまったが、今の声は優香ではないことに気付く。後ろを振り返ると、


「ズガビドーン!!」

「ぐふっ!?」


小さい女の子が顔面に飛び込んで来た。

その勢いに負けないように踏ん張って堪えるも、女の子は離れようとしない。


「テメェ…夜々月(よよづき)かっ」

「正解です! もうっ、先輩って私のことがホント好きですね!」

「しばくぞっ!?」


竹志が夜々月と呼ぶ少女を掴もうとする刹那、彼女の姿が消える。


「えっ!?」

「チッ」


まるで瞬間移動でもしたかのようだった。不可解な現象に戸惑い驚く優香だが、竹志は理屈を知っているのか、逃したことに舌打ちをした。


「はぁ...先輩? 私に会いに来てくれるのはとても嬉しいですが、今は仕事中ですよ?」

「誰もお前に会いたいと一言も言ってねぇだろ」

「私、先輩の心が読めるので。きゃっ、恥ずかしいっ」

「よし、お前の頭の中がお花畑なのは分かった。今すぐ消えろ」


そしていつの間にか竹志の後ろに少女が立っている。優香は呆然と二人のやり取りを見ることしかできなかった。

少女の身長は一五〇あるかどうかの背丈。偉い軍曹が被るかのような兵帽を被り、地面に着きそうなくらい長い白色のマフラーをしている。

サイズが合っていない大きな軍学生の学ランをマントのように羽織り、中には迷彩の軍服を着ている。

キラキラと輝く金髪は何も結ばれておらず、自由に伸ばされているのに手入れがしっかりとされているくらい綺麗だった。

先程から先輩先輩と連呼する夜々月はようやく優香の存在に気付き、口に手を当てながら驚愕する。


「せ、先輩に彼女!? いや、それはないか」

「合ってるけどムカつくから殴っていいか?」


竹志と優香が否定する前に言われる。竹志は遠目からでも分かるくらい怒っていた。


「初めまして先輩の彼女になれなかった人さん。私は―――」

「失礼過ぎるだろお前!? 」

「―――フクオカ風紀委員の最高責任者、十二時(とおにじ) 夜々月と申します」


竹志を無視しながらビシッと敬礼して自己紹介する夜々月。自己紹介の内容に驚くも、優香も自己紹介する。


「は、初めまして十二時さん。私は柳原 優香です」

「柳原...いえ、苗字は嫌いなので気軽に夜々月と呼んでください」


優香の名前に夜々月は首を傾げるが、すぐに返答する。優香は頷き続ける。


「では夜々月さん。夜々月さんって、タケのことが好きなの?」

「はい、大好きですよ?」

「柳? 何聞いているんだ? お前も何答えてんだ?」


優香のストレートな質問にストレートに返す夜々月。竹志の顔は赤かった。


「あっ、勘違いはしないでくださいね? 私は先輩のことが『先輩』として好きであって、恋愛感情は一切無いので」

「......知ってはいたけど、口に出されたら悲しいな」

「大丈夫ですか先輩? ハグします?」

「帰れ」


再び夜々月が竹志に飛び掛りまた竹志が怒り出す。

今のやり取りでさらに二人の関係が分からなくなった優香。しかし、二人の関係はアレによく似ていた。


「くすっ、兄と妹みたいね…」


優香は何かを重ねるように、二人を見ていた。





風紀委員の最高責任者夜々月と一緒に奥へと進む。話を聞けば彼女は夜戦の審判(Judge)を務める為にここに来たということ。


「本当は第壱高校に居る予定だったのですが、こちらに先輩が居ると聞いたので、向うに生贄を置いて来てこちらに来ました」

「可愛い顔して恐ろしいことを言うよな、お前って」

「結婚したい!? やだっ、先輩って大胆!」

「脳ミソ腐ってんのか」


竹志の背中に抱き着いた状態で頬を赤くしてモジモジする夜々月。途中、何度か背負い投げしているが、瞬時に姿を消して失敗に終わっている。五回目に突入した辺りで振り払うことを諦めた。

軍学生たちがコソコソと自分たちを見て話している。誤解されていることを確信するが、どうしようできないので解くことは諦めている。諦め過ぎだよ俺。熱い人がこんな俺を見たらラケットでぶん殴られそう。

その時、軍学生の男女が笑いを堪えながら話をしていた。


「アレって親子に見えるわねっ…!」

「ああ、そう見えるなっ...!」


「なっ!?」

「「くっ...!」」


軍学生の思いもよらない会話に夜々月は赤面。竹志と優香は顔を逸らして笑みを隠した。

これは反撃できるチャンスじゃないのか?


「先輩...ちょっとあのバカップルの仲をズタズタに引き裂いて来ます...!」

「だから怖ぇよお前...っと、隙あり―――!」


ポキポキと手を鳴らしながら竹志の背中から降りる。ドス黒いオーラを漂わせ学生に忍び寄る夜々月に、竹志は背後から迫り、


「はーい! パパでしゅよ夜々月ちゃん!」

「ふにゃっ!?」


まるで子供を甘やかすように、竹志は夜々月を抱き上げた。顔を真っ赤にした夜々月は突然の出来事に可愛い悲鳴しか上げれない。


「「「「「ぶはっ!!」」」」」


次の瞬間、周りにいた生徒たちが噴き出した。水を飲んでいた者、談笑していた者、荷物を運んでいた者、もちろん優香も口を抑えて笑った。

高い高いと夜々月を上に上げては下げて、グルグル回って父親気分をエンジョイしていた。

顔を真っ赤にして涙目でされるがままになっている夜々月。やがて彼女から怒気が溢れ出る。


「ぜ、全員...泣かします...! 後悔させてやります...!」

「あっ、これヤバイ」


この後、夜々月が竹志たちを含めた軍学生たちは全力で逃げることになる。最初に捕まったのは竹志でストレス発散されたことは、言うまでもない。


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