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フクオカ  作者: 夜紫希
第一章
11/32

第壱高校の頂点


『夜分遅くに失礼。私は第壱高校の者です。少し顔を見せていただけないでしょうか?』


でしょうね(笑)

都合の良い方に話が転がるなら、元々こんな高級ホテルに来ることなんてなかっただろう。


「えっと、ちょっと無理です。化粧がアレなんで…」


高い声を意識したのだが普通に低い。男の様な低い声で何を言っているんだ俺。


『…男性なのに化粧をされているのですか?』

「……私はこれでも女よ」


今世紀最大の馬鹿な自分を見た。そんな嘘が通るわけがない。


『こ、これは大変失礼しました!』


ってアレ? 意外と騙せそう? これは顔を見せずに済むのでは?

やっぱり脳筋軍学生と呼ばれる第壱高校だ! さすが前生徒会長の子分たちだぜ! これなら楽勝に———


『ですが、無理を承知でお願いします。敵の(やから)がここに居るならば潰さなければいけないのです。ここで強行手段を出るには何かと———』


———詰んだ。


「…すぐに着替えて来るから待っていなさい」


そう言い残し、大急ぎで優香の待つ部屋へと戻った。

慌てた様子で帰って来た竹志を見た優香はビクッと体を震わせて驚く。


「ど、どうしたの?」

「悪い優香。ちょっと出てくれない? 第壱高校の生徒が待っているから」

「えぇ!? さっきまでカッコよかったタケはどこ行ったん!?」


アイツなら調子に乗ったせいで消えたよ。


「女の子のフリをして乗り切ろうと思ったんだが…顔を見せろって言われて…」

「馬鹿ぁ!! 大馬鹿ぁ!! ドアホォ!!!」


返す言葉もございません。


「できれば低い声で対応してくれ」

「何で!?」

「運が良ければ見逃してもらえる。頼む!」


嫌な顔で拒否していた優香だったが、さらにもう一度響いたインターホンを聞いて決意する。


「…借り一つ」

「全力で返す」


両手を合わせて感謝の意を伝えた。

玄関のドアへと歩き出し、一度覗き穴を見て嫌な顔をした。やはり暗くて相手の顔を見れなかったか。

俺はテーブルの上に置かれた電話に目を向ける。隣には電話の内容をメモするためのメモ帳とペンが置かれている。

ペンを右手に持ち、いつでも投擲できるように準備。リビングの壁に背を預けて玄関の方を盗み見る。

優香は深呼吸して、咳払いをした。


「今、出るわ」


アイツの低い声、カッコイイ。女ボス的な雰囲気を纏ってドアを開けたぞ。

しかし、その勢いはすぐに止まることになる。開いた扉から最初に見えたのは黒い壁。廊下など見えないくらいの壁が立ち塞がっていた。


「え?」


その黒い壁が人の巨体だと知った瞬間、優香の腰が砕けた。

身長は二メートルを軽く越えており、見上げなければ顔も見れないくらい高い身長。

尻餅をついた状態から顔を上げると、強面の男がこちらを凝視していた。相手の鋭い眼差しに、優香の体は金縛りにあったかのように硬直してしまった。


「初めまして。私は第壱高校の生徒会長、千城(ちしろ) 軍蔵(ぐんぞう)と申します」


野太い声で自己紹介する男。炎のような赤毛の髪に幾多の戦場を駆け抜けた頑丈な体。

彼の存在は第壱高校軍学生———その頂点にふさわしいと言える雰囲気を出している。その覇気に怖気づいてしまうのは無理もない。

怪物にも見えてしまうその体格のデカさと凶悪な強面に、優香は何も返すことができなかった。


「まず名前の方を伺ってもよろしいでしょうか?」


腰を抜かした相手でも軍蔵は構わず丁寧な口調で話し出す。それだけ彼はこの状況に慣れている———自分の強さを自覚しているということ。一校を束ねる長としての様々な資格を兼ね備えていた。

優香の口から言葉は出なかったが、意外な所から声が出される。


「あれ? 軍蔵かお前?」


それは隠れて様子を見ていた竹志の声だった。



#



ソファを一人で埋めるくらいの巨体。座っているのはもちろん千城 軍蔵だ。

注文した紅茶のティーカップを持っているが、オモチャにしか見えない。それだけ彼の体は大きかった。

未だに怯えた様子を見せる優香だが、竹志は安心しているような反応を見せていた。


「全然気が付かなかったぞ。まさか軍蔵だったとはな」


紅茶を飲みながらご機嫌な様子を見せる竹志。


「私も、まさか先輩とは思いませんでしたよ。もしかして最初の声って———」

「そんなわけないじゃん。柳だよ」


竹志のことを先輩と呼ぶ軍蔵。それは軍学生との関係を明らかにしていた。

そして優香は二人を見て分かったことがある。それは軍蔵が竹志を尊敬していることだ。敬語を使っているという点もあるが、先程ティーポットで紅茶のお酌していた。正直男同士で紅茶のお酌は嫌な絵面だった。


「まぁ大体察していると思うが、軍学生時代の後輩だ」


竹志が紹介すると、軍蔵は丁寧にお辞儀をする。優香も慌てて頭を下げる。


「先輩、お尋ねしたいことがあります」

「ん? 何だ?」

「先輩はどうしてここのホテルに泊まられているのですか?」


軍蔵の質問に「あなたの学校の生徒に襲われてここに来ました」とは言わない。かと言って、下手なことを口にすれば芋づる式に事がバレて厄介なことになるだろう。

優香が不安な顔で竹志をチラリと見る。竹志は任せろと言いたげな表情をしていた。だが、それでも優香の不安が和らぐことはない。


「軍蔵。男と女が二人っきりでホテルだぞ? 言わせるな恥ずかしい」

「な゛ッ!?」


平然とした態度で口にする竹志。思わず優香は変な声で驚愕してしまう。

彼女の顔は引き攣り、真っ赤にしていた。


「こ、これは失礼しました! わざわざ高い部屋を取られたのに申し訳ございません!」

「いいんだよ。金なら、また稼げばいいさ」


この男、嘘なら一人前どころか一流である。プライドというモノはないのだろうか。

残念ながらここで違うとは言えない。上手くごまかしている事実は揺るがないのだから。

助かっていると言えば助かっている。しかし、助け方に難有り。


「ちょっとごめん!!」

「あッ」


怒りを隠した笑顔で竹志の腕を掴み隣の部屋に移動する。そして壁に背を預けさせるように竹志を壁に抑えつけた。


(か、壁ドン!? それ俺が将来的にやりたかったやつ……)

(どうでもいいわよ! それよりどういうことよ!)


小声で話しているが、優香は少し大きい。それだけ感情を抑えていられなかった。


(あの場を切り抜けるにはあの嘘が最善だろ。幸い、俺の後輩だから信じてくれる)

(もっとマシな嘘があるでしょ!?)

(ぐぅ……じゃあ、お前は何かマシな嘘があるのかよ?)

(あるわよ! 友達と遊んでいたら電車に乗り遅れたって! はい論破!)


地味に友達という認識ワードに傷付く竹志。彼も負けずと言い返す。


(今時遊んでて電車逃すアホはいねぇよ。この国の店の閉店時間は19時がほとんど。店内アナウンスされるぐらい親切してくれてんだ。電車逃す奴は相当の捻くれ者だ! はい論破!)

(な、ならアンタが犯罪者ってことにしましょう!)

(ちょっとごめん。お前急に何言ってるの? 大丈夫か? ちょっと落ち着こう? な?)

(アンタは無理矢理この部屋に押しかけて入って来た。そしてタイミング良く千城君が来た! 完璧ね! はい論破!)

(無茶苦茶な上に理不尽だろ俺の扱い! もう何が言いたいのか分からねぇよ! 俺が変態で最低なことしか分からねぇよ! やってねぇけど!)


段々と大きくなる二人の声に、軍蔵が喧嘩していることに気付く。心配そうな表情でチラチラとドアを見ている。


(……軍蔵に怪しまれる。今更間違っていたなんて言えないだろ。頼む、この場は合わせてくれ。)

(……分かっとう。もう後戻りできんけん……合わせる)


しぶしぶ納得してくれた優香にホッと息をつく。軍蔵のいる部屋に


「…借り二つ」

「全身全霊で返す」


迷惑ばかり掛けてしまって申し訳ないと思っている。事が終わり次第、すぐに返そうと覚悟を決めている。

部屋に戻ると軍蔵が困った表情をしていた。俺は笑って誤魔化すが、


「は、話はもう大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫……多分だけど」

「……私のせいですね。すいません先輩! 今日は大事な日だというのに……! 未熟な自分を、どうか! 斬り捨てて———!」

「誰がやるか馬鹿」


犯罪者一直線コース。最後は殺人の罪でブタ箱に到着だ。絶対に歩きたくない道だ。


「ホントお前は()()()をどんな目で見ているんだよ。俺は神でも無けりゃ、教祖様でもない。先輩と後輩の距離感で接することはできないのか?」

「……私が入学した時から、学校の生徒たちは皆この様な対応なのですが?」

「……は?」

「下の者は上の者を尊敬し、神より崇めて褒め称えよ。この一文が校訓になっているのです」

「えっ……嘘でしょ……私、そんな学校絶対に行きたいと思わないんだけど……」

「あんのポンコツ会長がぁ……!」


軍蔵の発言に優香はドン引きし、心当たりがある竹志は頭が痛くなった。

第壱高校のよく分からない風習。まずそのアホみたいな文に従っているお前たちは純粋なのか? それとも馬鹿なのか?

でも一つ確信できることがある。作った奴は間違いなくポンコツだ。これは人間が息をすることと同じくらい間違いない。

少し昔のことを後悔するがもう遅い。過去を変えることはできない。

しかし、今を変えることは可能なのだ。


「軍蔵。よく聞け」


真剣な表情。真剣な目。真剣な声。

後輩と真剣に向き合うことで俺の言葉をしっかりと聞いてもらう。軍蔵も背筋を伸ばして座高をグッと高くした。

一言。たった一言を口にするだけでいい。それで終わらせよう。


「———そのままだと入学者が減るからやめろ」

「えぇ!?」

「私も、そう思う……」

「えぇ!?!?」


さすがの生徒会長も、この爆弾発言には焦ってしまう。優香も俺と一緒に真面目な顔で言っていた。

否定しようとする軍蔵だったが、ふと口を閉じてしまう。思い当たる節があるのだろう。

紅茶を飲んで話し始めるのを待っていると、すぐに話し始めてくれた。


「……確かに、先輩方の言う通り入学者は年々、少しずつ減少しています。校内も、問題が絶えません」

「……本当か? お前が学生を統率できていないなんて……」


思わず紅茶を飲み止めて軍蔵に聞くほど、竹志は意外だと思った。


「……千城君ってどれくらい優秀な人なの?」


少し驚いた様子を見せた竹志のことが気になった優香が尋ねる。


「超優秀だぞ。軍蔵、序列は今何位だ?」


「———二位です」


「嘘!?」


『フクオカ』にいる全軍学生の中で二番目に強い人間だということに優香は仰天した。


「軍蔵は一年生で第壱高校の副生徒会長を務めることができる実力を持っていた天才だ。第壱高校がここまで成長できたのはコイツのおかげだ」

「大袈裟ですよ先輩。前生徒会長の指揮があったこそ―――」

「それはない。絶対に」


首をぶんぶんと勢い良く横に振った。それはとても強く否定だった。


「予想していた序列より上でビックリしたぜ。それで話を戻すが、統率できてないことについて聞いても大丈夫か?」

「…統率できない、と言うより私の指示に従わない(やから)がいると言う方が正しいですね」


少し怒気を含ませた発言に竹志は納得したような表情をしていた。


「なぁ、それって最近起きている違法夜戦が関係していたりするんじゃないか? 俺でいいなら相談になるぞ」


踏み込んだ言葉に優香は息を飲む。竹志は最初から第壱高校の情報を入手しようと企み、実行していた。

アドバイスすると見せかけた情報収集に軍蔵は気づく事は無い。


「いつもありがとうございます。ですが、お言葉に甘えるわけにはいけません。自分もまた、成長していますので」

「…そうか」


優香は見逃さなかった。仕留め損なった狩り人のような顔をしたことを。


「でも、せっかくなので話だけでも聞きますか? 助言はしないということで」

「ぜひ聞こうじゃないか」


悪い顔をしたこの男をぶん殴りたい気持ちを優香は必死に抑える。心の中で何度も軍蔵に対して謝罪し続けた。


「違法夜戦を行っているのは一部の軍学生たちだけです。私たち生徒会の人間はそのことをつい最近まで一切知らなかった」

「……続けろ」

「先日、第弐高校の生徒会長から宣戦布告された時は驚きました。全強者命令の撤廃を要求して来たことで、事の調査を行い、知ることができました」


竹志は手を顎に当てて思考する。違法夜戦の指示をしたのは軍蔵では無いと薄々感づいていたが、(おさ)でも分からない黒幕がいるということになると、見つけるのは少々キツイ。


「卑劣な行為を肯定することは自分の正義を殺すこと…しかし、私がここで簡単に強者命令を取り消すわけにはいけません」


拳をグッと握り絞める軍蔵。音が耳に届く程、彼は強く握っていた。

卑怯な戦いを許してしまった悔しいという感情。怒りの感情もあった。

軍蔵が敵の要求を飲みこむと問題は新たに多く発生するのは必然的だ。頂点にいる立場として、認めるわけにはいかないのだろう。まず周りが絶対に止めるはずだ。


「解決方法はちゃんと考えてあるのか?」

「…先輩は第壱と第弐の夜戦、どちらが勝つと思いますか?」

「第壱高校だ。圧倒的に人数差が開き過ぎている」

「ええ、私もそう思っています」


竹志の言葉に頷いた軍蔵を見て、何がしたいのか、少しだけ分かったような気がした。


「まさか第弐高校にハンデを?」

「それはできません。人数を減らして手を抜くことに私たちの軍学生は納得しないでしょう」


しかしっと軍蔵は続ける。


()()『違法夜戦という卑劣な行為を許した責任』というカードがあるので」

「…なるほどな」


軍蔵の考えていることがハッキリと分かった。


「違法夜戦の責任を取る為に、お前は出ないというわけだな」

「はい、正解です先輩」


断固たる決心を見せた軍蔵に竹志は呆れるように笑った。

軍蔵の夜戦参加禁止ということに優香はイマイチ理解できていない様子。いくらこの国の序列二位という人材が抜けたとしても、戦力差はあまり変わらないのでは?


「あまり分かっていないみたいだな」

「…そうね。説明してくれる?」

「もちろん。まず第弐高校の序列二位という異次元な現象について説明するか」

「異次元って…生徒会長ならそれくらい強くてもおかしくはないんじゃないかしら?」

「確かに各学校の生徒会長は序列は高い。高くなければ生徒会長の座にいれないからな。でもな、第弐高校の生徒会長は何位だと思う?」


竹志の質問に優香は少しだけ考えて答える。


「五位くらい、かしら?」

「三十位だ」

「…え?」


耳を疑った。第壱高校の生徒会長の順位と大きく差があったからだ。

一桁の差では無く、二桁の差。それは強さの違いを知らしめていた。


「前に大学で話したと思うが、上位は最強の学校である第五高校の生徒が独占している。本来、第五高校以外の軍学生が序列の上位に入り維持するということは不可能に近いって言われているんだ」

「先輩の言う通りです。そもそも序列の上位が第五高校に入学されるので、必然的にそうなります。もし私の様な上位者が現れれば、第五高校に転入することは可能ですので」


竹志の説明を肯定しながら軍蔵は付け足す。

だからと言って第弐高校の生徒会長は弱くはない。軍蔵が異次元なだけであって、鹿野の強さは称えられるべき序列だ。


「え? じゃあ何で第壱高校の生徒会長に? 第五高校に転入できるなら…」

「何で転入しないんだって? それはコイツが馬鹿だからだよ」

「手厳しいですね」


容赦無く言い放った言葉に軍蔵は苦笑した。

第五高校に入学、もしくは転入することができた瞬間、国から援助金として数千万単位の金などが支給されることを優香は知っていた。


「名誉も金も、家賃食費水道費、さらにガス代電気代も簡単に手に入るチャンスを棒に振ったんだ。馬鹿だよ。大馬鹿だ」

「最後の方はタケの欲じゃない…そんなに生活、危ないの?」

「…養ってください」

「ごめんなさい」


…最速でフラれた。

軍蔵は竹志に言われた馬鹿発言に困った反応をしていた。


「確かに、自分は馬鹿です。全部棒に振って、上や周りからいろいろと言われて、嫌なことばかりです。でも、私はこの地位を降りることは絶対にしません」


まっすぐに竹志を見た軍蔵の表情は、誇らしげだった。


「先輩の残した、大切な学校ですから」

「…ホント先輩後輩、揃いも揃って良い馬鹿だよ」

「はい、ありがとうございます」


竹志の言葉に軍蔵は笑顔でお礼を言った。

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