火山龍討伐と新婚カップル?
「ふぅ...うわ暑っ!てか熱いっ!?」
レイ達が転移した先は火山の中でも特に暑い、眼下に煮えたぎったマグマの広がる火口だった。
「...エルシア。暑い。」
「火山龍は火口付近でよく目撃されているんですよ...はぁふぅ。」
「これは暑さとの戦いだなぁ...」
さっさとターゲットを見つけてスパッとやっちゃおう。そう考えてレイは視線を巡らせる。すると、
「...イグニスって、もしかしてあれ?」
「...あれ。ほら、レイ。スパッと。」
「レイさんなら大丈夫ですよ!スパッと!」
レイ達の眼下に広がるマグマ、その中を悠々と泳ぐ『メタリックな』龍の姿が。
「あれ、鉄じゃない?てか何で融けないのさ...」
「...イグニスは特定の鉱物を食べて、体内で魔法加工を施し、体表に滲み出す。あれはマグマでも融けない魔法の鉱物。」
それはノンメルトストーンと呼ばれ、そこそこの値で出回るんだとか。
「そんな鉱物纏ってたら堅いわけだよ。さぁて、通るかな?【鎌鼬】」
『ぐえぇ』
あぁだめだ、まるでダメージを受けた様子が無い。ならばーー
「ミリィ頼むよ。」
「...任せて。【STR上昇の調べ】【ディアスラッシュ】」
ミリィが琴を奏で、ディアスラッシュ発動のために...
「腕に抱き着く必要は無いんじゃあないかな...」
暑い。
「...暑くて目眩が...このままでいこう。」
「それなら仕方ないね。よし、いくよ。」
「ミリィ...よくもまぁぬけぬけと...」
何か恨み嫉みの視線を感じるような...
気のせいかなぁ。
「【鎌鼬】」
スパッ。ごごごごご。ぶくぶく。
おぉぉ、切れた。てか沈んでっちゃったけど良いのかなぁ。
「これで依頼は完了です。戻りますよ!転移!」
良いのか。にしてもエルシアが怒ってる...?
何かしたっけなぁ。
〜〜〜イースラ国ギルド〜〜〜
「ふー!涼しいなぁ!」
「ミリィ?もう大丈夫でしょう。そろそろ離れては?」
「...疲れた。レイおんぶー。」
「仕方ないなぁ。ほら、おいで。」
「レイさん甘やかさないで...あぁもう!依頼を終了させて来ますからその辺で休んでてください!」
「...はーい。レイ行こ。」
「はいはい。」
そういうとレイはミリィを背負い、近くのソファに向かって歩き出す。
「イグニス討伐ですね!討伐証明部位の提示...は必要ないですね。エルシアさん達ですし。こちらが報酬となります!」
「ありがとうございます。」
「へぇー、融通が効くというか信用があるというか。」
「...エルシアは愛想が良いし、なにより依頼を破棄したり失敗したことがないから。ギルドからの信頼は大きい。」
流石はエルシアといったところか。疑われること無くかなりの額の報酬を手渡されている。
「おかえり!すごいねエルシアさん!顔パスだよ顔パス!」
「顔パスは微妙に違う気がしますが...とにかくこれで資金は充分です。船が出るのは明後日のようですしそれまではのんびりとすごしましょうか。」
「...明日、暇?二人とも。」
「え、えぇ。のんびりと過ごすつもりでしたので。レイさんは何かご予定は?」
「いや、特にしたいこともないかな。それでミリィちゃん、どうしたの?」
「...あたしも暇。遊ぼ。」
ミリィちゃん可愛い!こんな妹が欲しかったなぁ...
「もちろん!それで、どこに行く?」
「そうですねぇ...お買い物とかですか?」
「...適当にぶらぶらするとか。」
「うーん、明日になってから考えよっか!」
「そうですね。今日は体も疲れているでしょうし早めに休みましょう。」
「あの暑さだったからなぁ。立っているだけでも倒れちゃうよあれ。」
「...それじゃ、あたしこっちだから。また明日のお昼頃に、ギルドで待ってる。」
「分かりました。ついでにお昼ご飯も近くのお店で食べましょうか。」
「よし、楽しみになってきた!それじゃ、ミリィちゃんまた明日!」
「また明日、ミリィ。」
「...また。」
〜〜〜
「さて、ご飯も食べたしお風呂も済ませた。そろそろ寝ようかなっと。」
ベッドに寝転がり、大きくあくびをしたところでドアの向こうからレイを呼ぶ声が。
「レイさん、少しお時間よろしいですか?」
「ん、いいよー。どうぞ入って入って。」
問いかけに応じると寝巻きのエルシアがレイの部屋へと入ってくる。
「ここ座ってー。」
「え...は、はい。し、失礼します。」
レイが示したのは自分が腰掛けているベッド、その隣のスペースである。
(なんだか気恥ずかしいです...)
そんなエルシアの様子に気づいたそぶりもなく、レイは尋ねる。
「それで、どうしたのさ?こんな時間に。」
「えっと...その...私がこんなこと言うのも変な話なんですけど...」
ここでエルシアは一呼吸し、真っ直ぐレイの目を見つめてこう言った。
「今日ずっと思ってましたけど!ミリィとの距離が近すぎませんか!?」
「...へ?あぁ、そんなことか。」
「そんなことじゃありません!私にとっては大事なことなんです!」
んー?...もしかして友達のミリィちゃんを取られたとか思って嫉妬してるとか?そう言えばミリィちゃんに抱きつかれた時、嫉妬っぽい視線を向けられてたような気がする。
「別にそんなつもりじゃないよ。ミリィちゃんって可愛い妹みたいだなぁって思ってたら、つい甘やかしちゃうんだよねぇ。」
「妹...ですか。ふぅん、なら別に...」
エルシアさんも納得してくれたようだ。
「話はそれだけかな?それじゃ明日の予定もあるしそろそろ寝ちゃおう。」
「そうですね。遅くに失礼しました。おやすみなさい、レイさん。」
「このくらい全然構わないよ。それじゃおやすみ、エルシアさん。」
そうして僕たちは眠りについた。
〜〜〜翌日〜〜〜
「レイさん、朝ですよー。レイさーん?」
「んー...もうちょっとだけ...」
「仕方ないですねー。今から朝ごはん作りますから、出来上がるまでには起きてくださいよ?」
「うん...」
...そろそろ起きないと。眠いけどお腹も空いたし。今日は目玉焼きとトーストかな。良い匂いがここまで来てる。
「ふぁーあ。おはよーエルシアさん。」
「あ、おはようございます、レイさん。ちょうど今出来上がりましたよ、どうぞ。」
「ありがと。おぉ、美味しそう。」
なんかあれだなぁ。起こしてもらって朝ごはん作ってもらって、これってまるで...
「...新婚みたいだなぁ。」
「むぐっ!?」
トーストを口に運んでいたエルシアさんが盛大にむせる。もしかして口にでてたか...
「し、新婚っっ!?確かに...これじゃまるで...で、でも!いくらなんでも結婚なんてまだ...」
「...ごめんエルシアさん。声に出すつもりは無かったんだけど...びっくりさせちゃったね。」
「わ...私は大丈夫です!」
「大丈夫って...一回落ち着こう?エルシアさん。」
「私は冷静です!」
...気が動転してるなぁ。うっかり口が滑ったばっかりに...
「あ!そろそろ準備しないと!お昼前には着いておきたいし!」
「...むぅ。じゃあ早いところ食べてしまってください。片付けちゃいますから。」
「うん。それじゃ、いただきまーす。」
顔真っ赤にしたエルシアさん、可愛かったなぁ。