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スキルブックと武器選び

「...ととっ。」


「ようこそ私の家へ。今お茶をお出ししますね。」


「ありがと、エルシアさん。」


さて、ここがエルシアさんの家か。異世界となれば木造かと思いきや、堂々たるコンクリート。内装やらを見てみると、プラスチックのような物もある。だが電子機器の類が見当たらない事から察するに、やはり科学はそこまで発達していないのか。となるとコンクリートやプラスチックは魔法により製造・加工されているのか、と予想する。


「お待たせしました。今日は暑いですし、冷たいお茶をどうぞ。それとこれは、レイさんに有用そうな物をいくつか見繕ってみました。」


これまた元の世界然としたガラスのコップに注がれた、よく冷えたお茶。喉が渇いていたレイはそれを一息に飲み干し、エルシアが持ってきた[スキルブック]と思しき4枚の紙切れへと目を移す。


「ブックって割には、本じゃないんだね。」


「スキルブックは元々は数万ページで構成された本で、それが紆余曲折を経て散り散りに別れた物が今手元にあるそれ、と言われています。」


複製も可能なので、お手軽な物はたくさん出回ってるんですよ、とエルシア。


じゃあ早速、とレイはスキルブック4枚に目を通し、


「あ、これは欲しいな!」


その目線が1枚のスキルブックに注がれる。

その紙のタイトルと思しき部分には、

【縮地】

と書かれていた。


(縮地って確か古武術か何かの歩法の極致とかじゃなかったっけ...)


「あ、これは基本移動から回避、攻撃の際の踏み込み等にも有用な物なんです。習得条件がAGI60以上と普通なら厳しいですが、レイさんなら余裕ですね。」


まぁAGI340のレイにとって、条件と言うには緩すぎる程である。


「ではこれを習得するにあたり、あなたの手でこの紙を裂いてください。条件を満たしていればその技術はあなたの内に刻まれます。」


なるほど、お手軽でいいな。ではでは。


「よっと。」


びりびりっ。紙はあっさりと破れ、その断面から消滅していく。


「おぉ、魔法技術的なやつか。」


「原理不明の古代魔法技術です。原理こそ不明ですが、複製された物も含め全ての書にはこの魔法が付与されます。」


「へぇ。まるでインフレを防ぐためのゲーム内設定みたいだな。」


「??レイさんはなにを仰ってるんですか?」


おっと、口にでてたか。


「いや、前の世界の話だよ。それよりすごいねこれ!僕でも ‘こんな事‘ が出来ちゃうなんてさ!」


「...流石AGI440。残像がとてもくっきり見えますね...」


元々凄まじいレイのAGIによる移動速度に加え、縮地を習得したことにより一歩ごとの無駄が省かれ視認すら難しい速度で部屋の中を所狭しと高速移動している。しかも無駄のない完璧な挙動のため、埃が舞うこともなく、音も微かに聞こえるのみ。


「これと僕の望む武器さえあれば、勇者なんて恐るに足らずだね!」


エルシアは当初、レイのステ振りに不安を覚えていたのだが、なんだか今のレイの凄まじい挙動を見るとそんな懸念など何処かへと消えていった。それ程までに凄まじい動きなのである。


「それでその、レイさんが望む武器というのはどのような?」


AGI極振りのレイが扱いそうな武器というとある程度限られる。重量を活かす大剣や斧、鎚などの武器だとせっかくの素早さが損なわれかねない。ならば短剣や軽めの槍などかな、などとあれこれエルシアは考えるが、レイの答えは、


「できるだけ豪奢な装飾がされた片手剣かなぁ。あ、軽い物だと嬉しいねやっぱ。」


軽い物というのは予想通りだが、一部よく分からない要求が。


「軽い物というのは分かりますが、その、できるだけ豪奢な装飾というのは...?」


「豪奢というか、この世界でいう魔法剣?的なのあるでしょ。それっぽいつくりの剣が欲しいな。」


説明を受けてもわけが分からないといった様子のエルシア。まぁそれも仕方が無い。レイがやろうとしていることは、実際に見ないと納得の出来ないぶっ飛んだ事なのだから。


「まぁ今は理解出来なくても仕方ないよ。今から実演して見せるから、よく見ててね?」


と言い、外へ出て私が護身用に持っていた短剣を受け取るとそれを腰だめに構え、虚空へ向けて比喩抜きで目に止まらぬ速度の居合切りを放つ。すると、


「え...えぇ!?レイさん一体何をしたんですか!?」


レイが剣を振ったその直線状、距離にして10m弱といった所に直立していた木が、腰くらいの高さからすっぱりと切断されていた。








〜〜〜武器屋〜〜〜


「...AGI340の恐ろしさを侮ってました。STRに振ってる人が馬鹿みたいじゃないですかあんなの。」


「僕もまさか本当にできるとは思わなかったよ。音速を軽く超えてるってことか。我ながら恐ろしいな...」


そう、レイは殺傷能力を持った鎌鼬をまっすぐ飛ばすことに成功してしまったのである。確か、どれだけ速く剣を振ろうと、それによって産まれた真空を埋めようとする風ーー鎌鼬の原理とされるーーに指向性を持たせたまま飛ばすことは不可能とされていたのだが、レイの馬鹿げたAGIがそれを可能としていた。それでいてそれを成したレイの腕は無事とは、まさにファンタジー。恐らくはレイの体が再構築された際に勇者よろしく強化されていたのであろうが。


「にしても魔法剣を模した見た目剣を所望という部分が、まだよく分からないんですが...」


「あぁそれね。ぱっと見が魔法剣なら鎌鼬使っても勝手に魔法だと思ってくれるでしょ?下手に目立ちたくは無いからね。」


まぁ確かに、魔法でもなしにあんな事象を起こしたとなると注目を集めるのは間違いない。そうなれば自分達の目標に支障がでる。


「でもそれなら本物の魔法剣を使っては?鎌鼬だけより戦術の幅ができると思うんですが...」


「いやぁ、最初はそう思ってたんだけどさ、良く考えたら僕ってINT0じゃん...って気づいちゃった...」


魔法というものに憧れていたレイは、早くも自らのステ振りに後悔を覚え始めていた。だが、


「威力こそ劣りますが、魔法剣の性能のみで扱うことのできる魔法もありますよ?まぁ攻撃魔法は難しいですけど、簡単な自己強化とかなら。」


ほぅほぅ。ならば、


「それなら腕力上昇系か、軽量化のかかった物とかもあるんじゃない?」


すると、


「あ、ほんとだ。レイさんにはぴったりですねそれ。」


失念してました、とエルシア。

さっそく店主に尋ねる。


「おじさん、軽量化魔法の付与された片手剣でいい物はありますか?」


「もちろんあるさ!それよりも、エルシアちゃんが男連れなんて珍しいこともあるもんだ!兄ちゃんよくエルシアを射止めたな!」


「えぇ、苦労しましたよ。でも、今では2人きりになると積極的に甘えてくるもんで、可愛くて仕方ないんですよ〜。」


店主のフリに悪ノリするレイ。顔を真っ赤にして慌てるエルシア。


「ちょ、ちょっとおじさん何を!レイさんも適当なこと言って!私とレイさんは別にそんな...いえ確かにレイさんは優しくて素敵な方ですけど、そーゆーのはまだいくらなんでも早すぎです...はっ!なんですか2人ともその目は!」


「いやぁ、兄ちゃんほんとに脈ありだぜこりゃ。羨ましいねぇ!」


「幸せにします!」


「2人してからかわないでください!!」


「ふぅ、まぁおふざけはこの辺にしといて、これなんてどうだ?刀身はやや短めだがその分軽いぜ。もちろん軽量化魔法もばっちりだし、薄いから切れ味の方は折り紙付きだ。」


これは、僕にぴったりなのがでてきたな。


「うん、これがいいな。」


「なら、これと鞘をお願いします。」


「毎度あり!ところで兄ちゃん、防具はいいのかい?」


「心配要りませんよ、喰らいませんから。」


「対した自信だな、兄ちゃん。まぁエルシアちゃんの連れなら心配は要らんか。ほら、これでいいかい?」


購入した剣を、鞘に収めてベルトで左側の腰に固定する。


「ばっちりですおじさん。エルシアさん、ありがと。お金はすぐに稼いで返すから。」


「いえ、構いませんよ。それに、私のお願いを聞いてもらっているだけでもそのご恩はとても返しきれない物ですし。」


「それこそ構わないよ、僕が好きでやってるんだから。まぁどのみち腕試しにギルド行かないとだね。エルシアさん、手繋いで行こうか。」


「えっ!...もーレイさんったら、それじゃ行きましょう。ギルドはここから北東側です。


「兄ちゃん、エルシアと幸せにな!泣かすんじゃねぇぞ!」


「もちろんです!僕はエルシアさん一筋ですので。」


「なら安心だ。末永くいちゃこら「2人ともしつこすぎます!レイさんとはそんなんじゃないですってば!」


「はは、ごめんごめん。それじゃギルドへ行こうか。」


「...別に嫌じゃ無いですけど。」


「ん?何か言った?」


「なんでもないですよ!...ふぅ、行きましょうか。」


「おぅ、気ぃつけてな!」


そうして2人はようやく武器屋を後にした。



















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