御都合主義と二択
「...どうするも何も、もう復活はできないでしょ。諦めて2人を解放して欲しいんだけど。」
もう【コンティニュー】による再生魔法陣は消えた。使用者ーーグロアが絶命してから10秒以内に復活というルールなのだから、その10秒さえ凌げば所謂【ゲームオーバー】といったところか、となるはずなのだ。
しかし、神はそれを否定する。
『甘い!甘いよレイ君!ケーキの上の苺より甘い!』
あれ酸っぱいよね。
『人間ってのはね、単細胞生物じゃないんだよ!細胞一つ一つが生き死にを繰り返す!そしてその度にグランっちは【コンティニュー】するのさ!』
「いやいや、それがまかり通るなら【コンティニュー】は常時発動でもしてないとおかしいよ。」
細胞一つ一つまで見ると、凄まじい速度で生き死にのサイクルをしている。例えば、頭を平手で叩けば10万もの細胞が死滅するとか。それに細胞にも寿命はある。それらが約60兆個。どれくらいの頻度で【コンティニュー】が発動するか考えるだけでも馬鹿らしい。
『うーん。君の世界の感覚ならわかると思ったんだけどなぁ?』
僕のいた世界ではこんなファンタジックな事はなかった。少なくとも僕の知る限りでは。
あぁ、『神隠し』ならあったっけ。雪音が忽然と姿を消したあれ。もっとも、それもこいつが、メパカがやったことかも知れないんだけど。そんなことを思考していると、
『あー違う違う。ゲームだよゲーム。勇者が主人公のゲーム、たくさんあるでしょ?漫画とかアニメでもいい。』
...どうやらこいつは僕のいた世界のことをかなり知っているようだ。それも割と近代的な。
『そーゆーの見てるとさ、元々ただの一般人だった勇者が覚醒して魔王倒すーだとか、間一髪のところで奇跡が起こって九死に一生を得るーだとか。君の体が音速にも耐えられるよう強化されてるってのも当てはまるかもね。普通なら起こり得ないでしょ?そんなことを何て言うと思う?』
全く分からない。問いの答えも、その問い掛けの意味も。
『うーん、まぁ焦らしてもしょうがないし、言っちゃうよ?この能力は元々僕ので、作ったのも僕。神様たる僕にかかればそんな “ご都合主義” なこともお茶の子さいさいってね!それにその方法で殺せるなら魔法遮断系の魔道具なんかで殺せちゃうし。』
「つまり、こんな状況でのみ細胞単位で【コンティニュー】が発動して、一度発動すればその効果は全身にも及ぶってこと?」
『そーゆーこったい!多分君がその手を抜いた瞬間に始まるよん。』
良くわかった。今の段階で僕は彼を殺せない。だが、おかげで“殺し方の目処はついた”。
「...とりあえず今は抜くしかないかぁ...よっと。」
ズルッ、と。瑞々しい音を立てて左手を引き抜く。左手に残った生々しい感触に鳥肌が立つ。
そして、手を引き抜いたと同時に魔法陣が展開される。
「うっ...く。はぁぁ〜、今のはやばかったわ。つかなんで助かったんだぁ?」
『あー、後で説明したげる。それより、まだ続ける?』
「いや、いいわ。今回は負けだな。メパカ、人質解放してやんな。」
『あいあいさっ!...あー、その前に一つ、レイ君。ついさっきのことだけど、グロキアに戦争で負けて勇者奪われたイスタルが残存全兵力を懸けて魔王城に向かってるよん。しかも全員が【クローズドタイム】を付与された装備で固めてる。』
【クローズドタイム】。イスタルのーー今はグロキアにいるーー勇者の能力で、対象の非生物の時を止める、だったはず。鎧に付与すれば鉄壁で、剣に付与すれば手入れ要らずか。
「うへぇ、なんでまた。破れかぶれの足掻きかな?グロキアに負けてもう後がなかったわけだし。」
『んー、グロキアが所有してる勇者の能力が絡んでるからグロキアの命令ってとこかな。魔王といえども勇者の能力込みでしかもあの規模だと厳しいかもよー?』
「戦争で、しかも負けて間もないのにそんな大規模な進軍とか、やっぱそーゆーことなんだろなぁ。グロキアは手柄だけ持っていくと。」
「つーかそれをレイに言ってどうするんだよ。お前も魔王討伐に混ざりに行くのか?」
「いやー...魔王助けに行こうかな...はは...」
「はぁ!?勇者が魔王助けるとか意味不明じゃねーか。何考えてんだ?」
「んー、まぁ僕にも考えはあるって話。それじゃ、イスタルの軍が着く前に魔王城に行かないとだからエルシアさんとミリィちゃん早いとこ返して?」
『Open the gate!ほいっとな!』
「きゃあっ!?」「...うひゃっ。」
メパカが宣言すると、何もない空間から2人が現れた。
「お帰り二人とも。早速だけど作戦会議だ。」
「作戦会議、ですか?」
「...何かあったの?と言うか、勝負は?」
「とりあえず勝ち、かな。まぁそれは置いといて、魔王城に対して勇者の能力付きのイスタル軍が挙兵した。なんとか阻止したいんだけど、どうしよう。」
先程聞いた話を簡略化して2人に伝える。
「それはまた急なお話ですね...」
『...イースラの力は借りられない。グロキアとイスタル、それに他の国も敵に回しかねない。』
「魔王討伐と言うのはそれだけで大義名分となりますからね。」
「兵の規模も凄いらしいし、それに僕達の顔を見られたらイースラがやばいからそっちには関われないな。」
「...じゃあ、魔王の方をどうにかするしかない。」
「結局はそうなるんですね...しかし魔王が敵意をこちらに向けてくる可能性を考慮すると、リスクは大きいです。」
まだ魔王の正体に確証が持てない以上、戦力がまだ足りないとして躊躇っていた魔王との対話。今の戦力で行けば全滅もあり得る。
「勇者2人とも連れて行けないからなぁ...」
「いやいや、俺は?俺誘えよ、そんな面白そうなことやるならよぉ。」
「...あぁ、お願いしてもいいかな?」
「まぁ俺もイスタルの奴らに見られたらやばいけどな。」
よし、これで戦力については大分改善された。しかし、ここで新たな問題が。
「レイさん!?何を考えているんですか!その勇者は敵ですよ敵!」
「なんでこいつは俺のことこんなに毛嫌いしてんだよ...」
「僕らの目的の最大の壁だったからね...」
なんとか説得を試みる。
「大丈夫、敵と言っても今のグロアに敵意はないよ。」
「いつ襲ってくるかわかりませんし...それでレイさんが殺されたらどうするんですか!」
「そんなつまんねーことしねぇよ。」
『そんなつまんねーことさせねぇよ!』
「ほら、神様もこう言ってるし。」
「そもそもなんで神が個人に...それにやっぱりそこの勇者は信用できません。」
やはりなかなか譲らないエルシア。するとグロアが、こんな提案をしてきた。
「これじゃ話が進まねぇな。おいレイ、こいつと行くか俺と行くか、お前が選べ。」
「レイさん...」
それはつまり、エルシアさんとここで別れて魔王を救いに行くか、エルシアさんをとってここで足踏みしているか、という二択。
「愚問だね、僕はーーー」