魔王の正体や如何に
「...それは、イスタルがグロキアに負けたってことでいいのかな?」
「端的に言えばそうなる。グロキアがイスタルへ侵攻、陥落目前の所でイスタルの王はこう言った。」
『我が国の勇者をくれてやる!言うことを聞かせる方法だってある!だから、和平を飲んで貰いたい!』
あぁ、“言うことを聞かせる方法” 、並びに目の前の彼女、エイラがこの国に縛られている理由、それはーー
「互いを人質にされているってこと?」
「そういうことだ。」
つまり、エイラを連れていくためにはレイラの安全を確保しなければならない。しかしレイラを救いにいくということはグロキアを敵に回すということで、さらにその場合はエイラを人質に取られることになる。
「じゃあ、ここでエイラさんを攫ったら、それがグロキアに伝わる前にレイラさんも奪還しないといけないわけか...」
「いや、そうもいかないようだ。」
「どうして?」
「セルディスとイスタルーー今ではグロキアとだが、勇者の動向を逐一報告するための魔法を繋いでいるそうでな。見つかったら即刻、アウトだ。」
「うーん...どうしようか。」
「こうなれば、私達だけで魔王に挑むというのも視野に入れていきましょう。」
「...道中の食料はイースラの兵士に運んで貰お。」
「問題は魔王による範囲魔法ですが...」
「それなら大丈夫だと思うよ、多分。」
「それは、どういうことですか?」
「いきなり攻撃してくることはないよ。魔王の宣誓はすごく丁寧で、どこか引け腰っぽい言葉選びに感じた。それに...んん。まぁ、きっと警告の一つは出してくると思うよ。その時に兵士の皆さんには撤退してもらおう。」
「...そうですか。レイさんがそう言うのでしたら、私はついて行きますが...」
「...なんでレイはそこまで魔王を信じるの?会ったことがあるわけでもないのに。」
「この状況だと彼女の言い分がもっともだろう。貴様は何を持って大丈夫と言い張るのだ?」
...誤魔化せるようなことでもないか。自分の目的のためにも、今明かすべきではないと思っていたが。
「はぁ...あんまり言いたくなかったんだけどなぁ。多分、魔王はーー
ーー同郷だ。僕と同じ、日本人。ついでに、昔馴染みだったりする。」
あの世界から突然姿を消した彼女。あの時から僕は何をしても楽しくなれなかった。だからこそ異世界への召喚を簡単に受け入れた。まさか同じ世界にきてるとは思っていなかったけれど。
「...何やらしんみりとしているところ悪いが、それならば真っ先に会いに行こうだの、思わなかったのか?私なら妹に今すぐ会いたい。」
それは、神からもお誘いを受けた。だが、その時に承諾しなかったのには理由がある。
「...会いたいさ。そりゃあ今すぐ会いたいよ。」
でも、と独り言のように語り続ける。
「今はまだその時じゃない。今行ったって僕じゃ雪音...魔王を救えない。だから勇者を味方にしたかったんだけど...仕方ない。僕が、僕自身が、グロアに勝てるくらい強くならないと...」
「で、でも、たまたま名前がおなじで、なんとなくそれっぽいってだけですよね?それだけで判断するのはまだ早いんじゃないですか?」
「エルシアさん...うん。まだ確実じゃない。でも僕は信じるよ。雪音があの世界から姿を消したのは、魔王としてこの世界に召喚されたからだって。」
「...なら、魔王に会いに行こう?今すぐに。」
「だから、まだ僕じゃ...」
「...それで、魔王を攫ってしまえばいい。何も魔王城でグロキアの勇者を待ち構えなくても、逃げればいい。勝てるようになるまで。」
最短で彼女に会える方法を提示され、僕は迷う。だがーー
「...やっぱり、戦力に不安が残るや。結局あぁは言っても魔王が雪音じゃない可能性もある。もし違ったらかなり危険だし、魔王に勝てるだけの戦力を持って臨みたい。」
そのために勇者を仲間にしようとここにきたわけだが、当の勇者は連れていけない。
「うーん...では、振り出しですね...」
「ん?方法ならあるが?」
「どういうこと?エイラさん。」
「そもそも、互いに人質を取られているというこの状況、実は完全に機能してはいない。妹は戦闘に不向きだが、私なら自衛できるからな。」
あぁ。どうして気がつかなかったのか。彼女は勇者だ。勇者とは圧倒的な能力を保持するがゆえに国の主砲として祭り上げられる。そしてそれを止めるには、同じ勇者でも連れてこないとーー
「つまり、妹のレイラちゃんを攫えればいいわけか。」
「そういうことだ。まさか私が動くわけにもいかないからな。今の状況は私にとって千載一遇のチャンスなんだ。」
「まぁグロキア相手でも、エルシアさんの転移なら楽勝かな?勇者と鉢合わせでもしない限りは。」
「なかなかリスキーですが、成功する確率は高いですね。ただ、転移の射程に入れるためには密入国しなければなりませんが...」
グロキアは軍事国家。他国の勇者達を入れてくれはしないだろう。
「頼む。妹を助けてくれるならなんだってする。魔王退治について来いと言うのならついて行く。だから、頼む。」
「まぁ、その気持ちがわからないわけじゃないよ。会いたいよね、妹に。それにそうしたほうが僕たちにとっても都合が良いし、喜んで引き受けさせて貰うよ。」
「本当か!恩にきる!」
「でしたら、とりあえずイースラに戻りましょう。イスタルはイースラの向こうですし。」
「あぁぁ...また長い船旅かぁ...」
「...イースラからイスタルも同じくらい距離があるから、合計で倍。」
「...飛行機とか、ないの...?」
「飛行機?なんですか、それは。」
「...おいしい?」
「あぁ...やっぱりないかぁ。耐えるしかないかぁ。」
「そうい言わずに頑張ってくれ。一刻も早く妹を安心させてやりたいんだ。」
そう言われては仕方がない。ひたすら無心で乗り切ろう...
「じゃあ、そろそろ行こうか。これ以上いたら騒ぎになりそうだ。」
「ですね。では、捕まってください。」
そして僕たち3人の体が白い光に包まれ、次の瞬間ーー
「おぉ、船の中。」
「...流石の精度。」
「ふふ。得意ですからね、転移。」
「お、おかえりなさいませ。」
「あぁ、いきなりすみません。ここでの用事は済んだので、イースラに戻っていただけますか?」
「畏まりました。ですが、食料や燃料の積み込みがまだ住んでおりませんので出航は明日となります。」
「分かりました。では準備が出来次第、出航をお願いします。」
「あ、じゃあさ、この国ちょっと見ていかない?僕外国って初めてだし。」
「...海鮮料理が、有名。」
「そろそろお昼時ですし、ついでにお店も探しましょうか。」
「よし!あっちの方に行ってみよう。人が多いし、何かしらあるでしょ。」
「...いい匂い。」
「え?...あぁ、あそこに料理屋がありますね。」
「どうする?もう入っちゃう?」
「あ...ミリィがもう入っちゃいました。行きましょうか。」
「はは...流石、行動が早いね。」
〜〜〜店内〜〜〜
「あれ、ミリィちゃんが誰かと話して...あれは。」
背の低いミリィの頭上からその顔をのぞかせる人物は赤い髪に赤い瞳をしており、
「おぉ、勢揃いじゃねぇか。奇遇だなおい。」
名をグランディ=グロアという。