神からの贈り物【イレギュラー】
「...へぇ、ちなみにどうして君は僕に魔王側に行って欲しいと思ったの?」
『パワーバランスがさぁ、って言うのもね、グランっちの能力強くしすぎたみたい。なにあれチートじゃん。やっぱり勝負ってのは拮抗した方がおもしろいじゃん!』
グランっちと言うのは “あの勇者” で間違いないだろう。
「まぁね、そこには異論ないよ。でも魔王だって強いんでしょ?」
エルシアが、魔王の魔力量は凄まじい、みたいなことを言っていたような気がするが。
『いやぁ、強いのは強いよ。それこそ見渡す限りの風景を一瞬で爆発、なんてことも出来ちゃうね。』
風景を爆発...妙な言い回しだが、それが最も適した表現なのだろう。それだけ魔王の力が常識の範疇外にあるということか。
「なら、僕要らなくない?」
『そーでもないんだなぁそれが!彼女、どーも魔王に向いてないんだよ。』
魔王に向いているいないなどあるのか。
『彼女は勇者っぽい性格をしているんだよねぇ。魔王のくせにぃ。やはり罪の無い人々を傷つけるのはーとかなんとか言っちゃってさ。だから彼女の後押しをする人材が欲しいってのと、』
こっちが本題なんだけどーーと声は続ける。
『勇者陣営のグランっちがさぁ、いちいち僕好みの残虐ぶり発揮するからついつい甘やかしちゃうんだよ。やっぱり強くしすぎたな!能力2個はやり過ぎ!しかも相性良いやつ。』
魔法の類にしてはどうも性能が高すぎると思っていたが、やはり“ あれ ”も能力か。
「【リバースペイン】だっけ?何あの不死身コンボ。あれじゃ魔王でも一筋縄ではいかないよ。」
『だよねぇ...やりすぎちった。これじゃ面白く無いと思わない?だから!イレギュラーな君に盤面を引っ掻き回して貰おうかなって!』
勇者(仮)が魔王陣営、とは面白そうな展開ではある。しかし、
「だが断るっ!いやぁ、こんな楽しい世界に連れて来てくれたエルシアさんを裏切るような真似は出来ないよ。ごめんね?」
『えー...仕方ないなぁ。じゃー君達は第三勢力ってことでいいや。勇者だけどグランっちとは共闘せず!魔王vs勇者vs勇者!って感じでいってみよー!』
元よりそのつもり、というかそういう構図になっていたはずなのだが。
『っとと、これじゃ話が堂々巡りだ。君、強いけど他の二勢力と比べると見劣りするから、能力あげちゃう!サービスだぜぇ?』
「えぇー...条件の下り、必要なかったんじゃ...」
無償で能力を提供してくれることになりました。
『面白くなりそうなら、どうだっていいのさ!能力は使い勝手最悪だけど面白いやつあげるよ!そんじゃ、用事は済んだからそろそろ帰る!この会話方法しんどすぎぃ!』
言いたいことを言いきると、声の気配が急速に遠のいて行き、やがて完全に途絶えた。
「なんて無駄な時間を過ごしてしまったんだ...って感じ。まぁ能力くれたし、それに、」
『面白くなりそうなら、どうだっていいのさ!』
「なんだか、気が合うかもね。僕達。」
自分にとても近い思考(嗜好)をした神に親近感のようなものを抱いた。
「さて、能力ってのは...っと、ステータスから見れるね。」
ステータス、と念じると目の前に見慣れた画面が。
【ステータス】LV.15
NAME:レイ=スーリャ
VIT:200 STR:50 INT:0 DFE:12
MDF:10 MDF:0 AGI:350
残り0
習得済みスキル
縮地・鎌鼬・宙蹴り
獲得称号
縦横無尽速・転生神のお気に入り
(能力【イレギュラー】を獲得。自身に影響を及ぼす事象に対し効力を発揮する。自身に影響を及ぼす事象を認識して宣言することで、自身を例外とする。ただし複数を対象とすることは出来ない。
少しレベルが上がっていたのでSTRに全てつぎ込んだ。そして、スキル欄には表示されていない能力【イレギュラー】。これが例の能力なのだろう。だが、いまいち使い道が分からない。
イレギュラー=例外という訳でいいのだろうか。翻訳魔法の中途半端な仕事ぶりに頭がやや混乱する。
「まぁとりあえず試してみようかな。えーと、宣言すればいいのか。」
試しに思い浮かんだもので試してみることにする。
「重力」
シーン。
「あれ?...あ、そうじゃないや。あの勇者だって能力名を宣言してたな。」
気を取り直してもう一度。自らにかかる[重力]を意識し、能力名を宣言する。
「【イレギュラー】」
すると、体にかかる負荷に違和感が。その場で弾んでみると、
「おぉぉ、すごいなこれ。どこまでも飛べそうだ。」
空気抵抗でだんだん減速はしているものの、止まることなく上昇し続けている。そろそろ戻ろうか、と思ったところで一つ問題が。
「...あれ?どうやって解除すんのこれ...」
このままでは宇宙空間へと、いや、その前に何かしらの事象で絶命するのは確実。ならばその事象に対し【イレギュラー】を発動させれば...
そこまで考えて、レイは気づいた。
ーー複数を対象とすることは出来ない。ーーと条件にあった。ならば、
「なんか適当なやつで上書きしちゃおう!えーとえーと、[空気抵抗]!【イレギュラー】」
能力を発動させた途端、重力の影響を受けてレイの体が海めがけて落下する。そして水面にぶつかる直前に再び能力を発動させる。
「[衝撃]を意識して...【イレギュラー】。」
すると、音もなく水面を破り海の底へ向けて沈んでいく。そこでもう一度[重力]を意識して能力を発動。重力がかからなくなった今、浮力により一気に水面まで上昇した。
「ふぅ、助かった。これ、OFFに出来ないのかな...とりあえずマイナスにならなさそうな[空気抵抗]をデフォルトにしとこう。」
【宙蹴り】で船まで飛び上がり、濡れた服を簡単に絞ってから甲板を後にする。
「慣らしも兼ねていろいろ試さないとなぁ。自滅しかねないかも。」
本当に使い勝手は最悪だ。だが、
「やりがいがあって面白いじゃないか。...お風呂入るかぁ。」
翌日、目を覚ました2人に能力のことを打ち明ける。あえて言うことでもないか、と転生神の事は伏せたまま、無理やり誤魔化す。
「いきなり能力に覚醒...能力ってそんな風に得るものなんですか...?」
「...召喚された人限定だろうけど。それにしても妙な話。」
誤魔化せてないかも。
「まぁ、いいです。それにしても難儀な能力ですね。衝撃を防げるってことは、魔法とかも無効化できるんでしょうか。」
「...可能だと思われ。その魔法を事象として認識できれば。」
「他にも、剣で切られても無傷だーとか、想像力しだいでかなり色んなことが出来そうだね。」
そこで、エルシアがおずおずと手を挙げる。
「あの...でもやっぱりあの勇者を打倒するのは無理...ですよね。」
「...うん。多分どうやっても無理だね。でも考えはあるよ。そのためにもまずは双子の勇者を回収して魔王に会いに行かないとね。」
魔王に早く会いたいし、とレイは頭の中で付け加える。
「考え、ですか。ならこの件は置いておくとして、今はこの暇をどう過ごすかですね。」
「あ、じゃあ釣りしない?僕まだしてないし。」
「...いいよ。楽しいし美味しい。」
「では、道具を借りて甲板に行きましょうか。」
さぁ、こっちに来て初めての釣り、楽しもうかじゃないか。