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愉快犯と神の思惑

豪華な魚料理達を平らげたレイ達は、少し他愛ない会話をした後風呂に入り、それぞれの部屋で休むことにした。だが、


「眠くないし疲れてもない。昼から夕飯までずっと寝てたからなぁ...」


そんなわけでレイは暇を持て余していた。何をして時間を潰そうか、考えあぐねて3分ほどうろうろと部屋の中を歩き回り、


「あ、『あれ』試しちゃおうかな?もう暗いから怖いけど、暇だしなぁ。」


レイは飽き性かつ退屈を嫌うという難儀な性格をしている。そして興味を持った事には全力で取り組む。それゆえ多少の躊躇いならば無いに等しい。


「よし、やろう。甲板はどっちだっけ。」


ひとまず部屋から出ようと扉を引き開ける。すると、


「ひゃあっ!?」「...わー。」


女性が2人、部屋へとなだれ込んで来た。


「2人とも、こんなところで何してるのさ...」


「え、えーと...ほら!私とミリィ2人だけで話していたらレイさんを仲間外れにしてるみたいですし!別に中の様子を伺ったりしていたわけでは無くてですね!?だから、やましい事なんて何一つございませんですよ!」


「...はぁ。エルシア、嘘が苦手なのはよく分かった。あたしならこう言う。」


そう言うとミリィはこほんっ、と咳払いを一つ。そして、


「...お腹空いたかなー、と思って。ご飯でも食べに行かない?」


...さっき食べませんでしたか?


「どっちも嘘をつくには向いてないねー。まぁいいや。僕はこれから甲板に行こうと思ってるけど、来る?と言うか、案内してくれたら嬉しいな。」


「うぅ...外の空気を吸いにでもに行かれるんですか?」


「ちょっと試してみたいことがあってさ。まぁすぐ終わると思うよ。失敗したら面倒だけど。」


「...見に行こ、エルシア。」


「えぇ、構いませんけど...危ないことだけはしないでくださいね?」


こちらです、とエルシアとミリィが先導する。


「うーん...この世界の海を知らないからなんとも言えないけど...まぁ大丈夫でしょ。例え危険でも、いまの僕はそれをしたい。『面白そう』だからね。」


面白そうだからする。それではまるで、


「...愉快犯?」


「案外間違ってないかも知れません...まぁ、ある意味この世界を統べる『王』となっていただくわけですし、普通では理解出来ない考えをお持ちでも否定はしません...」


「...エルシア、それはちょっと無理がある...」


「頑張ってポジティブに捉えようとしているんですから、ほっといてください!」


「そんなにおかしいかなぁ...」


自らが興味を持ったことのみを見据え、それに付随する危険などは顧みない。この考え方はどうやら『ここ』でも理解されないらしい。


「まぁいいや。今からすることに危険はないと思う。失敗したら怖いけど、多分失敗しないし。」


そう言ってレイは甲板の端を視界に収めつつ距離を取る。そして、


「【縮地】からのダッシュぅぅ!」


ばしゃしゃしゃしゃしゃ。


「はははははは!やっぱり出来た!気持ちいー!」


「...走ってる。」


「走ってますね...海の上を。」


「カーブはちょっと怖いし...【宙蹴り】よっ、ほっ、【縮地】。」


宙蹴りで180度方向転換、そして縮地によって再び急加速、そのまま凄まじい勢いで船へと帰る。


「ふぅ。楽しかったぁ!」


「速ければ水の上を走れるんですか...?」


「...片足が沈む前にもう片足を...って繰り返すあれ?」


「うーん、多分それかな?理論上、人間の姿形と重さなら時速100kmちょっとで走れば沈まないんだって。」


「いや、それはまた別の話ですが...と言うか、足とか大丈夫なんですか?そんなに速く水面を走って。しかも裸足で...」


「いやぁ、ひりひりするね。前の世界なら足が折れるか皮がずるっといってたかも。」


「...【癒しの調べ】」


「おぉ、ありがとミリィちゃん...って、あれ?琴弾いてなくない?」


ミリィは今、パジャマをきているのみで琴など持っている様子がない。だが確かにレイの足は癒えている。


「...【調べ】はあたしの固有スキルだから。琴はそれを強化してるだけ。」


ここに来てまさかの新事実。


「固有スキルって言うと、勇者のあれみたいな?」


「...分類は同じかもしれない。勇者のは別次元の性能だけど。」


「固有スキルって、その人にしか使えないスキルって認識で合ってる?」


「...多分。そのスキルを修得した瞬間、なんとなく分かる。」


「うーん...僕の【鎌鼬】って固有スキル...じゃ無いなぁ。修得もいつの間にかだし、AGE極振りすれば誰でも使えるわけだし。」


固有スキルとかちょっと憧れてたのになぁ...残念。


「その前提条件が本来なら非現実的なんですが...」


「...初期所持スキルポイントが318だっけ。それだけ一気に振れたらAGE極振りでも戦える。」


「あぁ、ちまちまAGE極振りしてたら、ある程度まではただの貧弱でしかないのか。」


「レイさんがスキルポイントを全てAGEに振った時、真剣に止めるべきか迷いましたもん...結果的に凄いことになりましたが。」


レイにとっては『面白そうだから』、それをしたに過ぎないのだが。


レイ達はこの世界の事や意味のない雑談に花を咲かせ、気がつくと辺りは完全な闇夜となっていた。


「えぇと、付き合ってもらってありがとね。もう遅いし、寝た方が良いんじゃない?」


時刻は恐らく11時頃だろうか。随分と長く話し込んでしまった。


「えぇ、そろそろ寝ましょうか。部屋に戻りましょう。」


「...朝ご飯を楽しみに、寝る。」


「はいはい、2人ともおやすみ。僕はもう少し風を浴びようかな。」


「そうですか。風邪など引かないよう、お気をつけください。では。」


「...おやすみー。」


そうして2人が帰った後も、レイは1時間ほど景色を眺めていた。


「星の配置とか、全然違うなぁ。うん、ちょっとおもしろい。」


「配置どころか、明らかに数が多いよなぁ。それはそれでいいね。綺麗だ。」


「月?みたいなやつも違うなぁ。赤いよあれ。まぁ斬新でおもしろい。」


「そういえば太陽は元の世界のに似てたな。この世界ってもしかして太陽系の星だったりして。」


「気温はあんまり変わんないなぁ。召喚される前と後で、違和感なかったし。」


「魔物なんて、初めて見たよ。呆気なく倒しちゃってるけど、あんなの日本にいたら壊滅するね、ヒュドラとか特に。」


「うん、おもしろいな、この世界。新しいことがたくさん。」


『それは良かった。僕としても君達には動き回って貰わないと、面白くないからね!』


不意に心に届いた声。確かこれはーー


『やっほ、伝え忘れてた事があってさぁ。また来ちゃった!』


「転生神、だっけ。やっぱ夢じゃないかぁ、あれ。」


『悪いけどこの会話方法しんどいから、巻きで行くよ、巻きで!』


『まず、8人の勇者と魔王ちゃんは想定内、と言うか魔王ちゃん召喚したの僕なんだけどまぁそれはさておいて。』


世界の意思っておまえかよ。


『君は、完全な《イレギュラー》なんだ。だから召喚されたにも関わらず勇者達や魔王のような能力を付与し損ねた。能力を得る条件は満たしているのに、だ。』


「聞いた感じだと、能力は転生神さんが能力を付与してた感じ?」


『そそ!なんたって転生を司っているんだから。まぁそれで、君に能力をあげようか迷ってたんだよ。その事についての結論を、さっき出した。』


ちなみに能力を得る条件とは、異世界より召喚された〈人間〉らしい。


『まず、君には能力をあげる。ただし条件としてーー』


そこで一旦区切り、真剣な面持ちでこう言った。


『君には魔王陣営に入って貰いたい。』










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