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真の『勇者』と謎の声

「その、本当の意味での勇者というのは?」


「決められた手順を踏み、異世界より来たる能力を携えた猛者。今はその者の事を勇者と読んでおるが、本来の勇者とはそうではない。」


本当の勇者とは、とイースラ国王が正解を語る。


「人々の心の支えとなり、魔王を打倒した勇ましき者。その者に与えられる称号こそ、《勇者》である。」


まるで御伽噺の勇者だ。だがそれこそ真の勇者なのだろう、と心で納得できた。


「なるほど。つまり僕に魔王討伐を命じる、ということですか。」


「うむ。勿論仲間を連れて行くも良し、我が国も出来る限りの支援を約束しよう。なんなら兵を連れて行っても良い。」


「レイさん、少しよろしいですか?」


レイの後ろに立っていたエルシアが、そっと耳打ちする。


「どうしたの?」


「想定とは異なりますが、事態はむしろ私の理想へと動きました。ここでの交渉は私に任せてください。」


「うん、勿論。」


そうエルシアさんに答えると、僕は王様に声をかける。


「ここからの話は彼女に一任します。よろしいですか?」


「...単独で異世界召喚を成した魔術師か。構わぬ。彼女のギルドでの仕事ぶりやらは聞き及んでおるが、信用に値するからの。」


「王よ、感謝します。それで本題ですが。」


「申してみよ。」


「魔王は世界中に自らの魔力を行き渡らせることが可能でした。範囲魔法など容易く扱うことでしょう。つまり兵を引き連れ数で攻めるのは愚策。少数精鋭、今のところ5人でそれを成そうかと考えております。そのためにも国は支援に徹して頂きたい。具体的に言いますとーー」








「いやぁ、エルシアさんの真剣な顔、見てるだけでこっちも緊張しちゃったよ。」


「王との対談なんて初めてだったので、どうしても堅苦しい感じになっちゃいますね。まぁセルディスへ渡航する許可も出ましたし、というか船ごと貸し切って頂きましたし、行きましょうか。」


そうして一行は大きな客船へと乗りこむ。


「...ちょー快適。」


「流石王様、太っ腹だねぇ。それよりエルシアさん、聞いてもいいかな?」


先ほどの話、一つよく分からない点があった。それは、


《5人でそれを成そうかと考えております》


「5人って言ったけどあとの2人は?」


今現在このパーティはレイ、エルシア、ミリィの3人。心当たりがあるとすればアルヴァン辺りか。


「...勇者?」


「ミリィ、ご名答です。今から向かうセルディス、その後向かう予定のイスタルでそれぞれ勇者を拉致...拝借しようかと。」


「拉致って言ったよね今!」


「そうしたら後はレイさんに服従するよう、完膚無きまでに叩き潰しちゃってください。」


「エルシアさんなんか怖いよ!もっと良い表現とかあるじゃない!」


「...逆らわないよう、奴隷にする。」


「それもっとダメだよミリィちゃん!」


「でも、国が勇者を手放すはずもありませんから強引にいきますよ。」


「...平和のため。」


「うーん...まぁ仕方ないか。とりあえずは勇者に会ってからだね。」


「とりあえず今日は休みましょう。セルディスに着くまでまだかかりますから。」


「...お腹空いた。」


「僕は寝ようかな。なんだか緊張して疲れちゃったよ。」


「ちょうどお昼時ですし、私もミリィと食堂を見てきます。では、おやすみなさい、レイさん。」


「...おやすみー。」


「目が覚めたら僕も何か食べようかな。それじゃおやすみ。」









(...真っ暗だ。光が一切ない。でも何故か見える。何も無い...部屋?)


レイは割り当てられた自室で眠りについたはずなのだが、いつの間にかよく分からない空間に一人立っていた。



『...うーん、ぱっとしないなぁ。やっぱりグランっちが『勇者』かなぁ。』


(どこからか声がする。エルシアさんに召喚される時に居た白い部屋みたいだ。)


もっともこの部屋は白ではなく黒なのだが。


『あー、はろーはろー、聞こえてるよね?』


この声は自分に話しかけているのだろう。警戒しつつも返事をする。


「...バッチリ聞こえてるよ。それで、君は誰?」


「君だなんて、そんな他人行儀な!僕のことは気軽に『お父さん』って呼んでくれたらいいよん!』


「意味が分からない。僕のお父さんはこの世界にはいないはずだけど。」


やや苛立ちを滲ませた声色でレイは問い返す。


『あー、狭くみるとそーなるのかー...とにかく!僕は君やグランっち、その他もろもろの『勇者』達の『お父さん』なんだなぁ。なんせ僕は『転生を司る神』だからさ。その肉体の基盤は僕が構築してるんだよ?』


『おっと、これ以上1人に構うわけにもいかないや。グランっちが拗ねちゃう。それじゃね〜。』


声が言いたいことだけ言って話を終えた。すると、急速に意識が失われていく。










そして次に目を覚ました時、僕は自室のベッドの上に居た。


(...王様の次は『神様』か。それにしても、グランっちというのはもしや...)


「レイさーん?あ、起きてた。おはようございます。」


「...すごい汗。」


どのくらい寝ていたのだろうか。窓から見た景色は薄暗く、部屋の中も真っ暗だ。先ほどまでの部屋のような空間とは比較にならないが。


「あぁ、ちょっと変な夢を見てさ。気にしないで、大丈夫だから。」


あれは夢じゃないだろう。自身の五感、さらに第六感が全力で警鐘を鳴らしている。しかし事態がよく分からない現状、2人に無用な心配をかける事は憚られた。


「そうですか...船酔いだとか、気分が悪くなったらすぐに言ってくださいね?」


「うん、大丈夫。ありがとね。」


「...ご飯食べる?」


「そーいやお腹空いたなぁ。今何時?」


「.,.もう6時過ぎ。あたし達も晩御飯食べに行くから一緒に行こう。」


「せっかく船の上なんだし、刺身とかないのかなぁ。」


「この船では釣った魚を調理してくださるそうなので、さっきミリィと釣ってきました。もう調理をお願いしてあります。」


「...大量。」


「おぉ!ありがと!」


「いまごろ捌いてくれている頃でしょうし、行きましょうか。」


「そだね。昼も食べてないからお腹が空いて仕方ないや。」





「おぉ!すっごい豪華だね!」


レイ達のテーブルに所狭しと並べられた魚料理達。その中でも一際目立って居たのが、


「メインは鯛の姿造りとなります。お連れの方達がつい先ほど釣ってこられたものですから、新鮮そのものです。」


鯛...少し前から思っていたのだが、自身に組み込まれた翻訳魔法が快適すぎるが故に微妙な弊害が起こっている。それは、


(翻訳された結果僕の知ってる名前になっているのか、もとより同じ名前だったのか。区別がつかないや。そこのところどうなのかなぁ。聞いても翻訳されてるかすら分からないから意味無いし。)


まぁ弊害と言っても好奇心に心が揺れるといったくらいのものだが。


「...いただきます。」


「あ、ミリィいつの間に...それでは、いただきましょうか。」


「うん。ありがとうね、美味しそうだよ。いただきます。」


(明日は僕も釣りしてみようかなぁ。あ、せっかく海なんだから、あれを試してみようかな。)


「みんなで食べると美味しいなぁ。そもそも料理が新鮮で美味しいし。」


「喜んでいただけて嬉しいです。」


そう言ってエルシアさんが微笑む。







前の世界では久しく感じていなかったな、こんな楽しさ。でも、この世界もいつまで楽しめるか。僕の野望はいつ叶うのか。



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