食糧問題と王様の依頼
「ふー、ごちそうさま。」
「とても美味しかったですね。」
「...むぐむぐ。...けぷっ。」
ミリィちゃんの前に積まれた皿の多いこと。なんと、あれからまた何度も追加で料理を運んでもらったのだ。
「ミリィちゃん、見かけによらず大食いなんだねぇ。その体のどこに消えたんだろ...」
「ミリィは燃費が悪いんですよね。【大食豪傑】でしたっけ。」
「【大食豪傑】?それってもしかしてスキルだったり?」
「...ごちそうさまでした。【大食豪傑】は常時発動型のスキル。先天性、つまり生まれた時から食べ物をたくさん摂らないといけなかった。その代わり身体能力は底上げされる。STRとか。」
なるほど。結構大きな琴を片手で軽々と扱っていたのはそれのおかげか。
「へぇ。でも戦闘面ではプラスの要素しかないよね。食費はかかるだろうけど。」
「その食費が凄まじいんです...」
「...必要経費。」
まぁ、レイが食べた量の10倍以上をぺろりと平らげてしまうほどだ。単純に考えてお金はかかるし、これから旅をするのだから荷物としてもかなり嵩張る。というか1日分の食料ですら持ち歩けないだろう。どうするの?とレイは尋ねる。
「まぁそこは転移で街から街へ跳んでいけばある程度はなんとかなります。なのでやはり問題となるのは食費です。昨日のようにすぐに稼げるクエストが無かった場合、一気にお金が減っていきます。」
「...ギルドがある街なら、ギルドで無料でご飯が食べられる。Sランクの特権。」
えへん、と胸を張るミリィちゃん。でもこれって結構大変な問題じゃないかな...
「ギルドがある街でお金を稼いでおくのが基本になりますね。ただ、旅の目的を考えればあまり悠長にはしていられませんし...」
「うーん、グロア擁するグロキアが何か仕掛けてこないとも限らないしなぁ...早い所【コンティニュー】の対抗策を見つけないと...」
戦力にする予定だったはぐれ勇者達も今や全滅してしまったし...
「そのためにも勇者達と合流したいところですね...仲間にできればなお良いのですが。」
とは言うものの、国の最高戦力ともいえる勇者を引き抜くことは事実上不可能だろう。エルシアもわかった上で、希望を述べているにすぎない。
「...グロキアの勇者と魔族、案外魔族を制圧する方が現実的かも。」
「魔族の制圧となると、『魔王』の討伐は絶対です。魔王が存在している以上は魔族が『発生』し続けることになりますから。」
「魔王ってのが全ての魔族の親なの?」
「...違う。『魔王がこの世界に召喚』された瞬間から魔族は各地で自然発生するようになる。」
「んん!?魔王って召喚された人なの!?」
「あぁ、そこの説明をしていませんでしたね。先々月ほど前に魔王が声明を出しました。」
『私は先ほどこの世界へと召喚された、魔王と呼ばれる存在だ。名はユキネと言う。私の目的を果たすためには魔族を率いて人類を制圧、この世を魔族のものにしなければならないらしい。不本意ながら、世界征服とやらを目標とした侵攻を開始する。逃げ隠れるも良し、抗うも良しだ。なお私を倒せば魔族は消えるらしいから、直接乗り込んでくるのも良いだろう。では、諸君らの健闘を祈るよ。』
...魔王と言う割には何だか “いい人” という印象を受ける。やろうとしていることは世界征服だが、不本意ながら〜とか言っちゃってるし。それに、ユキネ...ふぅむ。
「驚くべきところは、この声明をこの世界の全人類が見たということです。世界の隅々まで自らの魔力を行き渡らせたとするならばそれはまさに化け物です。」
やはり魔王は魔王で手強いか。しかしグロアの【コンティニュー】ならば...いや無理だな。何処かへ幽閉されてしまえばそれで終わりだ。後ろ盾であるグロキアも、魔王相手ではグロアを救出するのは厳しいと思われる。
「うーん...どこから手をつければ良いのやら...とりあえずは他の勇者を頼るしか無いか。
」
「...グロキアの勇者に関することを聞いて、彼の能力の穴が見つかれば万々歳。」
「だめなら本気で魔王討伐を考えた方が良いかもしれません。私達が魔王を倒せば、この国が代表となって勇者を失った国々を束ねることも可能となるでしょうし、そうなればグロキアの軍事力に対抗することもできます。後はグロキアの勇者を捕縛すれば全てが丸く収まると思います。」
魔王討伐を成した国ならば他の国々からも文句は出にくい、か。なるほど、妙案かもしれないな。問題は...
「魔王倒せるかなぁ...」
「...魔王は城から指揮を飛ばしているはず。だから倒すなら敵の本陣まで乗り込まないといけない。」
「魔王城は広大な大地の真ん中にあるので転移でも届きません。となるとそもそもたどり着くことが厳しくなります。ミリィの食糧問題があるので。」
うーむ。腹立たしいな。倒せるかわからない相手の元へ、そもそも行けないとは。挑戦権すら与えられていない。
まぁ倒すつもりはないけど。
「ま、考えても仕方ないさ。今日は楽しもう!明日から旅を始めるんだしさ。」
「そうですね!今日は遊ぶために集まったんですから!」
「...あのお店見てみたい。」
そうして僕達は夜まで色んなお店に立ち寄り、遊んだり買い物をしたりした。
「明日、船が出るのが朝なので寝坊しないように気をつけてください。出港前に居なかったら転移で迎えにいきますけど。」
「...がんばる。」
「それじゃ、また明日。ミリィちゃん。」
「...ばいばい。」
そうして僕とエルシアさんはエルシアさんの家、ミリィちゃんはミリィちゃんの家へとそれぞれ帰った。明日からの旅のため、しっかり休もうか。
翌日
〜〜〜港〜〜〜
「船が出せないというのはどういうことですか?」
「大変申し訳ありません...国王より伝令がございまして、『ヒュドラを打倒した物が現れた。そのものこそ我が国を裏切った勇者を殺した者に違いない。』と。つまり、実力者が他国へ渡ってしまうのを恐れてのことです。」
あー、違うんだよなぁ。というか、あの貴族(三柱が一柱とか言ってた、ルーヴル?みたいな名前の奴)に見つかったら国に連行されてしまうのではないだろうか。これはまずい。そう考えたその時、最悪の事態に。
「あ、いたぞ!奴だ!ミリィの隣にいるあの男だ!」
「うわ、見つかった。どうしよ?」
「...逃げる?」
「...私に考えがあります。ここはおとなしく捕まってください。」
「分かったよ、エルシアさんを信じる。」
「ほう、抵抗しないのか。懸命な判断だな。今からおまえを国王様の元へと連行する。おい!こいつの手を縛って連れて行け!」
「いたっ、いたいって。扱いが雑すぎるよ...」
「...どうするの?」
「もうしばらくしたら、転移で王の間に乱入します。そこである交渉を。」
「...なにするの?」
「こうなった以上は仕方がありません。現時点で不可能なグロキアの勇者討伐は脇へ置いておいて、まだ可能性が0ではない『魔王討伐』のための布石をうちます。」
〜〜〜王の間〜〜〜
「ほう、そなたが例の。思っとったよりも若いの。」
目の前にいるのはこの国の王、ダレン=なんとか=イースラ。真ん中のところは長すぎて忘れた。風貌は以下にも国王といった感じで、歳は60ほど、綺麗に染まった白髪にそれと同じ色合いの蓄えられた髭。背格好は平凡ながらどこか貫禄を感じさせるような雰囲気を纏っている。
「それで、僕に何の用でしょう。」
王様に対する言葉使いってこれでいいのかな。経験したことがないから分からないや。
「そなたはヒュドラを容易く討伐してみせたとか。それほどの実力を持つそなたに頼みたいことがあっての。」
あれ、処罰を受けるって感じじゃない?なにを頼まれるんだろう。そんなことを考えていると、目の前が光った。そして、
「レイさん、お待たせしました。」
「...お待たせ。」
「貴様達、何者だ!」
「よい。こうなるであろうことは予想しておったわ。そなたらにも聞いて貰いたい。」
「え、あれ?レイさんを罰するみたいな話ではないんですか?」
「どうも違うみたいだよ。頼みがある、って。」
「その頼みというのが、レイと言ったな、そなたに本当の意味での勇者となって貰いたい。」