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甘い嘘、苦い君

作者: 小田上総

この作品はフィクションです。実在の人物とは関係はありません。

 今回書いた小説ですが小説といっていいのかもわからないくらいまとまっておりません。男同士の友情、回想がこの話の主軸ですが、とにかく落ちがありません、その上導入も突然です。

 前書きを読まれた現時点で不快に思われる方は読まないでください。それでも良いと思われる方、稚拙な文章でお目汚しになりますがどうぞ目を通されてください。再度いいますが、話のまとまり・落ちはありませんので御留意なさってください。

 それでは、読まれる方はどうぞ。

 「君の世界はどんなものなんだい?」

 これは私がひとりの友人に対して尋ねた言葉。


 友人は答えた。

『井戸のある世界です、砂漠の中に井戸がある。その井戸はとても深いんです。だから道行く人々がいろんなものを井戸の中へと捨てていきます。井戸はとても深くて、どんなものでも水圧でつぶしてしまう。どんなものをその水底に隠してしまうんです。だから道行く人々は絶えずその井戸の中に物を投げ込んでいくんです。』

 淡々と語る友人の横顔を私はぼんやりと眺めた。友人の目にはほの暗い光が宿っていて、きっと彼には今まさに井戸のある砂漠の風景が見えているのだろう。

 砂嵐が吹き荒れているのだろうか。その井戸は多くの人に捨てられた物を包括して、何時かは溢れてしまうのではないだろうか。ずっと遠い未来かも知れないが、それでもきっと……何時の日か。

 砂漠の中に井戸があるのが友人の中の世界。井戸は彼自身の事だろうか。それとも、道行く人々が彼だろうか。砂漠の中、容赦なく照らす太陽が彼だろうか。砂漠の夜を冷たく照らす月光だろうか。

 

「君の世界の中、誰が君なんだい?」

 私の問いに彼はほの暗い光をともした目で私を見て、ほんの少し口角をあげただけだった。

 切れ長の瞳の中、幻影のように光が揺れた。その光を見た途端。刃の切っ先を突き付けられたかの様な冷たい空気に包まれた気がして、私の背に冷たいものが走った。


 二度と彼とその話題に触れることはなかった。




 どこまでも優しく、そして独りきりの人だった。彼はとても矛盾を愛し、そして愛される事を誰よりも望んでいる彼の愛はとてもさみしいものだった。


『たとえば、僕は好きな人にだったら裏切られても構わないんです』

 私が誰かを好きになることは容易だが、大切にすることは難しいとぼやいた時に彼が言った言葉だ。私は首を傾げ「何故?」と彼に尋ねた。

『好きでない人ならば、まず裏切られないように予防線を張る。その上で相手にしなければ何が起ころうとも裏切る事にすらならない。でも、好きな人だったなら――』

 言葉を区切って彼は自分の手元に視線を落とした。

『好きな相手であるなら、自分が傷つくという所まで心の中に踏み込ませた相手であるなら……僕は相手に裏切られても構わない。傷つくと分かっていても、相手は心の中にいるから。僕の気持ちを注いで。勝手に期待して、裏切られたからって相手に文句を言うなんて勝手じゃないですか。だから裏切られたっていいんです。僕を捨てることで相手の幸せになるのなら……それでいい、それがいい』

 彼は語りながら、静かに笑った。想う相手がいるからか、それともいたのか。

「それは…恋ではないね。きっとそれは―――」

 愛というやつなんだろう。そう呟いた私に、彼は困ったように笑った。

「愛は与えるもの…とは良く言ったものだけどね、君の愛はさみしいな。何が正しい愛なんて定義できるもので無いから、どうとも言えないが」

 私であればそんな事は出来ない。私がもし誰かに恋情を抱いたとしても、彼のように相手の事を願う事など出来ない。

「誰よりも信頼して、相手が自分を裏切る訳が無いから信頼している。だがたとえ裏切られたとしてもそれすら信頼を盾に許すという事か…」

 彼は深くうなずいた。満足そうに口角をあげてこちらを見る。『君はどうか』と顔に書いてあった。私は思わず溜息吐いた。

「分からなくはないが、嫌な矛盾だ。私には無理だ……と言うのは少し違うな。私はそれが愛だとしてもそんな愛し方はしたくない」

『貴方はそうでしょうね』

 珍しく彼が声をあげて笑った。私の返答が予想通りだったのだろう。彼は私の思考が自分の思考と重な

らない時ほど楽しそうにする。

 彼は自分と同じ考え方をする人間は吐き気がするほど嫌いらしい、同族嫌悪というやつだ。だから彼は私が自分と同じ考え方をしない事がうれしいらしく、意が異なるときには普段は見せないほどの笑顔を見せる。

 とはいえ、全くそりの合わない人間と一緒にいるほど彼も奇特な人物ではないので、ある程度は気が合う人間の中での話だが。そんな彼の友人は一癖も二癖もある様な人間ばかりだ。その中に私もいるのだから、私自身癖のある人柄なのだろう。もちろん彼に確かめるでもなく自覚していることではある。




 彼は存在が嘘のようで、彼の言葉そのものは嘘であるがゆえに現実味を帯びた。だからこそ、彼は真実を嫌い、嘘を好んだ。嘘といっても大仰なものではない、小さな嘘を幾重にも重ね、真実すら嘘に変えて嘘を真実へ塗り替える。

『僕の存在がありえないものだから、大概の人が僕の言うことを嘘だと思わないんですよ。他の人が同じことを言ったなら、冗談だろっていうような事でも……だから、どこまで嘘か分かる人はごく稀ですね』「居ないわけでは無いんだな」

『自分を当然のように除外して言わないで下さいよ、貴方はそのうちの一人じゃないですか』

 呆れた声が私に向かって落とされた。

「私は君の嘘がわかっている訳じゃない、君の言葉の九割を信じていないだけだ」

 呆れた表情は一転し口角を上げ、不気味な愉悦を顔に張り付けて私を見る。 

『だから僕は貴方のことが好きですよ。僕の存在を否定している癖に僕の言葉をただ聞く人より、僕の存在を肯定するけど僕の言葉を否定する君のことが…いっそ貴方を飲み込んでしまいたいくらいです』


 互いの視線が絡む。濁った愉悦に光る眼が私を見据えて光るのをみて、私が蛙だったなら彼にとっくに飲まれていたのだろう。ぼんやりとそんなことを考えた。

「私はごめんだ、君に飲まれてしまったら僕は空と月を見上げて、そしてたまに上から落ちてくるものをよけながら一日を過ごすんだろう。沈んでいく様を見るのも、何もかも全てが嫌だね」

 彼との会話をしている間、腹のうちに少しずつ蓄積されていく濁ったものも言葉と一緒に吐きだすかのように、言葉を舌に乗せるだけで苦い気持ちを前面に押し出て言う。


 やっぱりいいなぁ、と私を見て笑う。私は知っている、君のその言葉すら嘘だという事を。私は小さくため息を吐きつつ言った。

「私は君が好きだよ、そして嫌いで仕方がないね」

『僕も貴方と同じですよ、貴方の存在は吐き気がするけど愛しい』

 彼が最も好み、最も厭うもの。

 


 ふとした拍子に発見した若いころの写真。今とは異なる己と、その隣に写る友人を見て当時の様子が瞼の裏によみがえる。仲を違えたわけではない、だが頻繁に連絡をとるような仲でも性質でもないので、写真から思い出される当時からは随分と時が経っていた。

 存在自体が嘘のような彼の世界は変わっただろうか。『昔』と言える程に経過した時の中で、彼の人生と世界に少しでも彩りが生まれていたらいい。彼がどう変わろうとも私はそれを知る術を持たないのだが、願うくらいは許されるだろう。

 私と彼の世界が紡がれることはこれから先きっとないのだから、願う事すら彼と同じように嘘と同じで消えゆくのだろう。


 手にしていた写真をそっと元あった場所へと戻し、私はゆっくりとその空間を出た。

彼の存在も言葉も全て、私には今も苦くてたまらない。どうせ嘘ならばもっと甘い嘘であればよかったものを…。そんな感情を押し流すように、私は冷たくなったコーヒーを飲み込んだ。


…あぁ、苦くてたまらない。


 

  


 あとがきまで目を通してくださりありがとうございます。私の作品は拙いもので、こんな形で皆様の目にさらしてしまいましたが…この作品は今はこれで手いっぱいなのです。機会があれば書き直したいと思います。それでは、お読みくださってありがとうございました。

 

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