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若宮さんの憂鬱日記  作者: 咲野 音葉
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後日談その2 帰り道

帰り道、すっかり暗くなった辺りをみて、危ないから、と優人先輩が私を家まで送ってくれることになった


「…かと言って別に手は繋がなくても良いと思うんですけどね」

「ん?何か言ったー?」

「イイエ、ナンデモ」


おそらく、さっきの私のドヤ顔に対する仕返しだろう。

仕方ない、怒らせてまた何かあるよりはましだ、とため息をついてゆっくりと夜のひんやりとした空気を吸った。火照った顔に夜の風が気持ち良い

そんなことを考えていた私に優人先輩が


「楽しかった?こなっちゃん」


なんて聞いてきた


…きっとこの打ち上げだけでなく劇の練習から今まで、全部含めての事をきいたのだろう


「……まぁ、今はやって良かったと思います。」


なんとなく、はじめ嫌がっていた事もあって、先輩に負けた気がして悔しくて…つい出たこんな可愛くない私の答えを聞いて先輩は、それならよかった、と軽く笑ってまた前を向いた


「優人先輩は…どうでした?」

「ん?」

「楽しかったですか?」


ふとした私のそんな質問に、先輩はうーん、と言って立ち止まった


…?

突然立ち止まった先輩に、どうしたんだろうとそちらを向くといつもの笑みを浮かべたその人とパチッと目があった



「君の可愛い姿がみれたから結果的には楽しかったかもね」

「…なっ!?」


な、何言ってんのこの人


「ま、またふざけて適当な事言わないでくださいよ!」

「あははは、ふざけてないふざけてない!こなっちゃん本当に可愛かったよ?俺に恋しようと顔赤くしながらさー」

「うわあああ!わかりました!私が悪かったですから、もう黙ってください!!」

「えー…まだ何も可愛いとこ言えてないのに」


冗談じゃない、やめてください、まじで


「ま、まぁお互い巻き込まれたような形でしたけど演劇部の皆さんと仲良くなれたし、結果的にお互い楽しかったってことで良かったですね!」

「え、なんで話しめようとしてるのこなっちゃん」


ぶーぶー言う先輩を無視して私は早く行きましょう、と先輩の手を軽く引いた。そんな私が面白かったのか先輩はまた笑った


「あ、そうだ」

「ん?」

「ついでなんでもう一つ質問して良いですか?」

「いいよ?」


許可を得たので私はよし、と意を決して口を開く


「その…劇の最後。…演出で!頰にキ…キ……キスを、する前、なんて言ったんですか?」

「え」


ピキッと先輩が固まる


やっぱりこれを声に出して聞くのは恥ずかしい、でも気になるものは気になる


「セリフを…告白のセリフのところまでは聞こえたんですけどその後が…」


そう言って見上げてみると先輩はまだ固まったままだった。…あれ、先輩珍しい反応、というかそんな変な質問した?


「いや…あの、少し気になったのでどうせなら聞いておこうと、思いまして」


慌ててそう付け足すと先輩は再びうーんと唸ってしまった。…聞いちゃいけないことだったかな

そして私の方を向いていつものようににこっと笑った…え、なに


「可愛くて食べちゃいたいって言った☆」

「…は、はぁ?!」


思わず出たそんな声に先輩は声を出して笑った後、冗談冗談、と前を向いてスタスタと歩いてしまった


…多分これ、教えてもらえないな


そんな事を考えて私も先輩に追いつくように歩いた





そんなこんなで気がつくと私の家の前、本当に家の真ん前まで送らせてしまった


「すいません、家の前まで」

「あはは、いーよいーよ楽しかったし」


うーん、どう見ても先輩普通の様子だし、やっぱり大した事言ってなかったのかもなぁ


じーっと先輩をみていると、それに気づいた先輩がいたずらに笑う


「なに?離れるの寂しいの?」

「なっ?!そんな訳ないじゃないですか!」

「あはははは!」


冗談だって、と笑う先輩をみてため息をつく。うん、気にする方が馬鹿らしい。先輩の事だから本当にくだらないことでも言ったのだろう、そうだ、そうに違いない


これ以上引き留めるのもなんなのでもう一度先輩にお礼を言って家に入ろうとすると


「こなっちゃん」

「…なんですか?」


先輩に呼び止められた


…?なんだ?


呼び止めたれたもののその後言葉を発しない先輩を不思議に思いながら、先輩?と顔を覗き込む、と


「…っ!」


突然先輩の右手がスッと伸びて私の頬を包んだ


え、え?!


「せ、先輩?冷たいです、なんですか」

「あはは、ごめんね」


ごめんね、と言いながらももう片方の手も私の頬を包むように触れる。やっぱり冷たくてわっ、と声が出た


「…あの?」


またふざけてるのか?と先輩に抗議するように見ると、ふっといつもと少し違う笑い方をした先輩と目があった


「…知りたい?」

「え?」


なにが、という前に先輩が口を開く


「俺がなんて言ったか」


…どうやらさっきの質問に答えてくれるようだ。…いや、でもこの手関係ないですよね?


「は、はい。教えてくれるなら」


とりあえずこれだけ答える。本当は手の事も言いたいんだけどね!さすがに今言う空気じゃなさそうなので黙りますよ


するとそっか、と言った先輩が私の頬を包んだ手で頬を撫でたかと思ったら、そのまま近づいてきて


そっと頬に口付けられた


「…っ?!」


私が驚いて声にならない声をあげるも先輩は気にしていないようでそのまま私の耳に口を近づけて


「君が好きだって言ったんだ、小那都。」


そう囁いた後チュッと今度は私の耳にまでキスをした


「っっっ!!」


私はもう訳がわからなくなってバッと耳を抑えた。耳と頬からどんどん顔全体に熱を帯びていくのがわかる


なにをしてるんだ、とか、ふざけるにもほどがある、とか。言いたいことは色々あったけどどれも声にはならなかった


口をパクパクして耳を抑えた私を見た先輩はそんな私の耳を抑えてる手をどけて


「はは、ほんと、食べちゃいたい」


そう言って耳元で笑った。

それから先輩はスッと私から離れて


「なんてね、冗談」


なんて言って少し寂しそうに笑った。そして、それじゃあ、と手を振って去っていってしまった




「〜〜、〜〜っ」


…な、な、何が起きたんだ?え、仕返し?これもドヤ顔なんかした私への仕返しなの??


先輩が去った後も動揺は全然収まる気配がない…ていうか


「…け、結局、どっち…です、か!」


そんな風にやっと出た声も、先輩に届くことはなく消えていく


ていうか、こんな顔赤いままじゃ、家に入れないじゃないですか!!!


せっかく歩いて落ち着いた顔を再び冷やすため、私はしばらく家の前で夜風を受けていました。

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