舞台終了後
割れんばかりの拍手、ってこういう事をいうのだろうか
そんな音をどこか遠くで聞きながらぼーっとする、ただ目の前の物にひっしでしがみついた
…あれ?
「あのー、お二人さーん?もう終わりましたよーいい加減離れたらどうですか?」
「あ、ちょっとーかえちゃんー!!せっかく良いところだったのにー」
「いや、あの片付けあるんでもう幕おりましたし…」
あれ??
「…若宮さん?大丈夫?」
そんな部長さんの気遣うような声でハッとする
…私はなにを
「〜〜〜〜っっ!!?」
バッと目の前の物から急いで距離をとる。
「な、ななななななっ?!」
「あれ?こなっちゃんもういいのー?もっと抱きついててくれて良かったのにー」
「何言ってるんですか?!」
私は、私はなにをやってたんだ?!劇か!そうかお芝居か!!
混乱でぐるぐるの思考を一旦落ち着けて深呼吸を一つ。よし、大丈夫だ
今のは、あれだ、なんか劇の雰囲気にのまれてぼーっとしてただけだ。うん、そうだ
よし、と自分を落ち着けていると、急に咲良部長が何かを思い出したようにハッとした
「あ、片付けもだけど、そこ!主役二人、お客さんお見送りしてきて!」
「え?」
「そこらへんに立ってありがとうございましたって言うだけでいいから、はい、行った行った」
ぐいぐいーっと舞台の袖から追い出され、ふと前を向くと
「う、わぁ」
目の前に広がったのはすごい数の人だった。家族連れや、近所の方、それに同い年くらいの学生さんがたくさん、わいわいと出口へ向かって歩いていた。
始まる前も確認したけれど改めて同じ高さから見るとすごい数だ。こんな大勢の前で劇をやっていたのか
ほけーっと圧倒されていると手をぐいっと引かれる
「ほらほら、挨拶行くよ」
「え、あ、はい」
これも先輩効果がかなり効いているのだと思うとこの目の前の人は結構すごいなのかもしれないと思った
「こなっちゃーん!優人ー!!」
「げっ、」
「え?!優希さん?!」
入り口に着くと真っ先に出迎えてくれたのは綺麗な花束を持った優希さんだった
…ていうか先輩今、げっ、て言いました?
「優希さん、観に来てたんですね」
「そうなの!…優人は来て欲しくなかったみたいだけどね」
そう言って優希さんは先輩を睨みつけるけど先輩はそっぽを向いて知らん顔だ。
「…なんで劇の事わかったの」
でもそこは気になったらしい、なるほど先輩は完全に優希さんに劇の情報を教えなかったんだ…あれ、ていうことは
「ここら辺にチラシがたくさん貼ってあったからこの事は知ってたわよー。まぁ、優人が出るって知ったのはその後だけど」
「誰に聞いたの?」
「んっふっふー、秘密!私の情報網なめないでほしいわね」
おぉー先輩が押されてる!ていうか上条DNA怖えぇ…、いやいや、そこよりもね!
「先輩、優希さんに誤解…解いてくれました?」
「…」
ちょ!今!目逸らしたぞこの人!!!
いつぞやの先輩宅で優希さんされた誤解を!先輩と私が恋人という誤解を!やっぱり解いてなかったか!
…いや、そもそもこの人に頼ることが間違いだったんだ。自分で解かなければ
「優希さん!あのですね!」
「あぁ!そうそう!これ!こなっちゃんにお花!いやぁ良かったわよー!キュンキュンしちゃった!」
「え、あ、ありがとうございます」
て、そうでなく!
「えぇ、とですね、優希さん!この間の事でお話が…」
「そういえば!最後のシーン聞こうと思ってたのよね!優人、あんたこなっちゃんに本当にチューしたでしょ!!まぁほっぺだから許すけど…」
「あ、あ、あのぉ…」
だめだ!全然話が出来ない!!
嘆いていると先輩からこそっと耳打ちをされた
「この人、俺より手強いよ?」
それでも話、する?
にーっこりと笑って私を覗き込む。このまま優希さんのマシンガントークを受けるか諦めるかの二択を選べと言っているのだろう。
…先輩より、手強い。
うん、無理だ
学習能力が上がった私の脳みそは瞬時にそれを判断。先輩に頷いて見せると先輩は再び笑った。…口パクで〝よくできました〟と言ったのがわかった。くそう!満足そうな笑みを浮かべちゃってさー!!
「姉さん、俺たち部長にお見送りの仕事頼まれてるから行くね」
「え?そうなの。残念」
「ほら、行くよこなっちゃん」
再びぐいーっと先輩に手を引かれて今度はたくさんのお客さんがいる方へ歩いた。
「え、とさようなら優希さん」
仕方がない、今日は諦めてまたいつか機会があったら誤解を解こう。諦めてなんかいませんからね!
私はまだそこで手を振っている優希さんにぺこりと頭を下げた
「またねこなっちゃん!」
笑顔で手をブンブンと振ってくれている優希さん。本当に人懐っこい人だ
…ところで優希さんのこなっちゃん呼びはもう決定なのでしょうか




