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若宮さんの憂鬱日記  作者: 咲野 音葉
39/46

本番開始!

話に聞いていた通り、高校の近くにある小学校の体育館はこじんまりとしていて、どことなく懐かしい感じがした


…と、まぁここまでは良かったんですけどね




「な、な、なんですかこれはっ」


「ふむ、人、人、人だな」


そういう事を聞いてるんじゃないんだよ委員長っっ!!


「あはーすっごい人だね、席足りないんじゃない?」


びっくりーと呑気に笑う涼先輩。…いや、だからなんでこの人達こんなに落ち着いてるの


そう、そのこじんまりとした体育館の中にはこれでもか、と沢山の人で溢れていたのだ。

てっきり、小さい子とその親とか近所のおじいちゃんおばあちゃんが少しだけいるような、そんな状態を予想していた私は絶句


「…な、なん、なんで」


演劇部ってこんな人気だったんですか


「あー…これは想像以上だな」


「ちょ、ちょっと咲良部長?!どういうことですかこれ!!話と違うじゃないですか?!」


「え?あー…うん、ごめん若宮さん」


どうやらこの部長のまいったなぁという顔を見る限り部長にも想定外の出来事だという事は察しがついた、でも、なんで?


「上条って、本当にモテるんだなぁ」


「…は?」


なんでここで優人先輩の話


?、?、とはてなマークを浮かべ続ける私に呆れたように楓くんが教えてくれた


「客をよく見てみな」


「…?」


言われた通りにいっぱいのお客さんをよく見る。…そのだいたいが、あれ、なんか


「華やかな…お客さんが、多い、ですね?」


そう、よく見れば見知った制服を着た子だったり、私服を着た知り合いだったり


つまり、うちの学校の女生徒が多くを占めているというわけだった


「…。」


「いやぁ、上条が主役だって宣伝すれば客も集められそうだなぁと思って張り切って宣伝したらまさかの効果…」


「笑い事じゃないですよ部長ーー?!」


なんなんだ!確かにお客さんは多いほうが演劇部的には良いんだろうけどさ?!素人を!素人をいたわってよ!?それに


「先輩のモテって、完全に忘れ去られた設定だと思ってた」


「こーら」


「いたっ」


正直な感想を言ったら後ろから頭を叩かれた


「優人先輩…痛いんですが」


「失礼な事を言うねぇこなっちゃんは、ていうか設定は禁句」


「あれー?上条くん何時の間にこっち戻ってきたの?」


「まぁ、もうすぐ時間だし」


「はは、モテる設定の人は囲まれたり色々大変デスね」


「かえちゃーん?ちょっと黙ろうか?」


……。


完全に置いてきぼりにされた私はひとまず落ち着くために深呼吸。なんか午前の練習でも同じことやってたな、


「よし、そろそろ衣装に着替えるぞー」


部長の声で一斉に皆動き出す、さっきまで楽しそうだったし本当に緊張してるの私だけなんた…


「………、」


「あれ、こなっちゃん?」


その場から動かない私を不思議に思ったのか優人先輩が近寄ってきた。


「衣装に着替えるんだって、ほらー可愛いお姫様が待ってるよ?」


「あはは、何言ってるんですか、ていうか頭、わしゃわしゃしないでくださいよ」


なるべく明るい声と顔をして笑った。…つもりだったけど、少し引きつってしまったかもしれない


「……。」


「な、なんですかじっと人のこと見て、あはは、先輩変で…」


ぐいっと腕を引かれて気付いた時には暖かいものに包まれる

ギュっと私の後頭部を抑えた手は優しく力を込めてきた。


な、なんで抱きしめられた?!


「大丈夫」


混乱する私に聞こえたのはいつもの落ち着く声


「だいじょうぶ、だいじょーぶ、君は出来るよ、俺もついてるから、ね?」


…それ以上は何も言わない、ただ私の頭を優しく撫でるだけだった


「……はい」


ずるい、なんだかんだで先輩なんだこの人は。悔しいけども大分落ち着いた自分がいた


「よし!行きましょう先輩!着替えないと」


「そうだね」


そんな私を見て先輩は優しい顔で笑った










劇は最初、部長のナレーターからはじまる


『昔々あるところに、それはそれは美しい姫がおりました』


愛する心を知らないお姫様、美しくて、皆に愛されている、不器用なお姫様


それが、今の私だ


ポンっと背中が押される、後ろを振り向くと出番がまだの涼先輩が笑いながら頑張れ、と言ってくれた。それに笑顔で答えて私は意気込んで舞台へ歩く


舞台にはもう優人先輩が演じるリンドウ王子がいる。人が沢山いたけれど、それももうあまり気にならなくなっていた


舞台はどんどん進んでいく


王子と姫が出会い、王子は姫に一目惚れをする。けれど姫はそれには答えない


「私には、人を愛するということがわからないのです」


けれどその言葉にも王子はめげない


「なら、私が貴女に愛するということを教えて差し上げましょう」


その後、王子はめげずに姫にアタックをする。毎日毎日、ある日は花を持って、ある日は一緒に城下町へ


姫はそんな風に毎日会いに来てくれる王子に、戸惑いつつもそんな日々を楽しいと思い始める


そんな中、リンドウ王子と姫との間を心配した姫の幼馴染、楓くん演じるユージンと委員長演じる姫の付き人キースが出てくる


「あの王子、俺は一度会っただけだけれどなんだか軽くて、ヘラヘラしてて、気にくわないな」


「姫、あの王子はあまり良い評判を耳にしませんよ」


「え」


もう会うなとユージンに言われて少し距離を置くけれど、なんだかモヤモヤとした気持ちが残る


そんな気持ちを抱えた姫に涼先輩演じる、王子の付き人、ケインが会いに来る


「姫、王子のことを嫌いになってしまわれたのですか?」


「……違う、そうじゃないの」


違う事はわかっても上手く伝えられない姫、どんどんモヤモヤとした気持ちは募っていく



そして王子は最後の決心をする

姫にもう一度、想いを告げにいくのだ



「はあぁ」

…とうとう、とうとう来てしまったこのラストの盛り上がるシーン!!

結局一度もちゃんと演技で部長にOKをもらえないまま本番になってしまったシーンだ


舞台裏で出番を待つ間深呼吸をする。

大丈夫だ、ここまで大きなミスはない、いける、いけるいける


「若宮さん」


深呼吸をしていると部長に声をかけられた


「若宮さん、そんな緊張しなくて大丈夫。いつも通りの君達で良いんだよ」


「……はい」


落ち着かせようとしてくれているのか、部長はずっと私の背中をさすってくれた。力が入りっぱなしの私に部長は少し笑って


「大丈夫。いざとなったら上条に全て任せて、君は姫でなく、若宮 小那都としてあの舞台で存分に恋をしてくればいい」


「え」


「あ、そろそろナレーションがはじまる、それじゃあ若宮さん」


楽しみにしてるよ


と、そう言い残して部長はマイクへ向かってしまった


「……楽しみに、て」


それは、応援の言葉としてどうなのだろうか?


そんな事を考えていたら出番が来た。……ええい、もう、部長の言う通りいざとなったら先輩に全て任せてしまえばいい!!


〝大丈夫〟

先輩の言ったその言葉を思い出して眩しいライトの元へ歩む。

そこには王子の格好をした先輩が立っていて私の方を向くとこう言った


「姫、お久しぶりです。あぁ良かった、ここに来てくれて」


「…お久しぶりです、王子」


うつむいてそう答えた後に少し先輩をみると、先輩はなんだか少し考え込んだ顔をしていた


……?


「姫、今日は貴女に伝えたいことがあってここに呼びました」


私の気のせいだったかな?台本通りに物語は進んでいく


えぇと、ここで私が〝なんでしょう?〟で


「なん…」


「君は、」


…あれ?


「君は、私のことを、どう思っているのでしょうか」


…先輩??

台本とは違うそのセリフに私は混乱する。え、え、あれ?


「…君に言った言葉を、どこまで受け止めてくれているのだろうか」


先輩、まさかのここでアドリブですかっ?!


「…王子?それは、どういう」


「…いつも冗談ばかりの俺の言葉を君は信じてくれないかもしれないけど、俺は君に嘘をついたことは一度もない、全て本心だ」


…優人先輩、このままアドリブで通すつもりなのかな


流れとしては台本通りのなので私もそれっぽい言葉を返す


「君の事を可愛いと言ったことも、好きだと言ったことも、全部、全部俺の本当の言葉だよ」


段々王子と先輩の区別がつかなくなってくる、口調がどんどん先輩のものになっていってるせいだ。…混乱してきた、素になりそうだ


「だから、もう一度言わせて欲しい」


すると先輩は私の頬をそっと包んで


「…ゆ」


「好きだよ……………小那都」


「え」


今なんて?


好きだよ、の後のセリフが上手く聞き取れなくて先輩の方を見ようとすると…ぐいっと引き寄せられて、頬に何か柔らかい物が触れた


瞬間、場内はキャーっという声に包まれる。…え、いま、なに、なにが?


頭が付いて行かずぼーっと目の前をみると先輩はくすっと笑いながら私を抱きしめた


「……っ!」


「……こなっちゃん、台詞」


耳元で呟かれた言葉によりハッと意識を取り戻す。いけないいけない、今は劇に集中しないと


「…わ、私も、私も貴方が好きです。」


「……っ!本当に?」


「えぇ、私の本当の言葉です」


私がぎゅっと抱きしめ返すとその場から拍手がおこり、そこで幕はおりた。…この際顔が台本通りの〝泣きそうな笑顔〟でなく〝ただの赤面〟となったのは許してもらおう




こうして長かった劇は幕を閉じたのだった


今回長くなってすいませんでした!

これにて劇の本番終了です!!


次話でこれの後日談が終わった後の話を少しやるかもしれません

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