本番の日
「よし、11時までここで練習、その後はお昼食べて12時過ぎにはここ出るから」
部長の言葉に自然と背筋がピンとする。
いよいよ、今日が本番だ。
最初はあんなに長いと感じていた練習も、今考えるとあっという間だった。今日で最後なんだ
「はぁー」
私は自分を落ち着けるため深く息をはいた。
そんな私を見て横に居た楓くんが笑い出す
「ははっ、何お前、緊張してるの?柄にもなく?」
「う、そりゃあ…まぁ」
めっちゃめちゃ緊張してますともおぉ!!こちとら素人ですよ?!初舞台で主役ですよ?!
ブルブルと楓くんを見ていると彼はそんな私を見て再び吹き出した…ちょっと、失礼すぎないかい?!
「あはははっ、似合わなっ!」
「なっ!」
「俺をぎゃふんと言わせるとかなんとか啖呵切ってたくせに」
にやりとこちらを見る楓くん。…覚えてたのか
「あれは…なんというか、その場の勢いというか…」
「なに、ぎゃふんと言わせるのは諦めたのか?」
「まっ、まさか!!絶対言わせてみせますから!!」
悔しくて思わず言い返してハッとした。…しまった、と思った時には楓くんが再び笑っていて
「その勢いありゃ大丈夫だよ、最初からそれでいけ、それで」
そんな事を言って準備をしに行ってしまった。
「……」
まさか、元気付けてくれた…とか?
「そんな訳ないか」
「そうそう、あんな奴より俺にしときなよこなっちゃん?」
「うっっっわ?!」
後ろから声が聞こえたと思った瞬間肩に重みがかかる
「ひっどいなぁこなっちゃん。恋人の前で堂々と浮気だなんて」
「は?!何意味わからない事を言ってるんですか、ていうか重いです!どいてください!!」
「あはは、やだー」
やだー、じゃない!!
この困った先輩は本当に退く気配がなく、それどころか回した腕に力なんか込めるものだから
「…先輩、苦しいん…です、けど」
「君がちゃんと呼んだら離してあげるよ?」
その話まだ続いてたのか!!
呆れながらも生命の危機を感じるので、先輩の腕を掴みながら
「…優人先輩」
としぶしぶ言うと満足そうな声が、合格、と言った。…ほんと、子どもかこの人は
するとずっと乗っていた肩の重みがとれ視界が急に反転する
「うわ?!」
どうやら私は先輩の方を向かされたらしい。気づくと整った綺麗な顔が目の前に
「今日の君は俺のだから」
「…っ 」
突然の珍しく真面目な表情に言葉がつまった
「俺の、俺だけの姫だから」
「……っ、はっ?はああ?!」
やっと先輩が何を言っているか私の頭に入ってきた。な、な、なんっって恥ずかしい台詞を言ってるんだ!!
混乱する私をみると先輩はにっこり笑ってそのまま顔を近づけてきた
「……っ!」
「ちゃんと俺だけを見ててね」
「なっ、に」
思わず顔が赤くなるのを抑えきれずにいると、その顔をみて満足したのか優人先輩は楽しそうに笑ってじゃあ後でね、とその場を後にした。
…あれは元気付けるとかじゃない、ただ私の反応を見て楽しんだだけだ
「くっそおぉ…」
不覚にも少しドキドキした自分にも腹が立つ!あぁもう顔が良いから余計に腹が立つよね!
私は赤くなった顔をパタパタと仰ぎながらはやく落ち着くべく台本を読み直した。




