優人先輩とデート
「はいどうぞー、何もないけどあがってあがってー」
「…お、おじゃまします」
案内されたのは体育館から徒歩15分の綺麗な一軒家
「はい、ここ俺の部屋ね」
「おっ、おじゃまします!?」
の、シンプルで片付いたお部屋
そう、私は何故か今、優人先輩のお家におじゃましています。
「さ、それじゃあ行こうか」
「…。」
劇の午前練習が終わって(頑張りました、頑張りましたけどね?!やっぱり1日で慣れるのは無理です)明日は一応月曜日だけど祝日で、本番は午後ということで練習はまた明日、今日のところは解散!と、なったんですけれど…
正直、昨日の優人先輩のデートしよう発言は夢であったんじゃないかなって期待していました。
甘かった…私が甘かったです!
「えーと…先輩、行くって、どこに」
とりあえず手をガッチリと握られてしまっているので最早逃げることは不可能だと察知した私は諦めた。もう、どうにでもなれ
「んー?…まぁ、ついてからのお楽しみってことで」
「…?」
まぁ、確かに、嫌な予感はしてたんですけどね?!
「はいとうちゃーく!」
「…へ、先輩、ここ…は」
「俺の家」
まさか自宅に連れて来られるとは思いませんよねえええ?!
「は?!ちょ、え、無理です!親御さんに何て挨拶すればいいんですか!!」
「あ、心配そこなんだ。平気平気ー、今日は誰もいないから」
「あ、そうなんですか…」
……じゃなくて!!
「いや、いやいやあの!先輩、デートなんでしょう?!外に行きましょう!外に!」
「お家デートもありでしょー?…外だと出来ないこともあるし」
「今最後ぼそっと何言いました?!」
…まぁ、そんなこんなで玄関前で戦いを繰り広げていた私たちですが
はい、負けました。私が、
そして今に至るというわけです
あー…何してるんだろう私、ていうか男の人の部屋入ったのはじめてなんだけど、うわぁ綺麗に整頓されてるなぁ
先輩がお茶をとってきてくれると言うので現在先輩のお部屋で一人待機。
落ち着かない、ほんっとうに落ち着かない
「ゔぁぁ〜…」
意味の無い声を吐いていると背後のドアがガチャっと音を立てた
「あれ?まだ座ってなかったの??その辺で寛いでていいのに」
「うっっわぁ?!あ、いえ、はい、ありがとうございます!」
「…ふっ、テンパりすぎ、もしかして男の人の部屋はじめて入った?」
あ、バカにしてるな。先輩と違って私は今まで彼氏とか仲の良い異性とかいないもんでね!えぇ!
「そうですよ、悪いですか?先輩と違ってなれてないんですよ、柄にもなく緊張してるんです!」
あー、声に出すと余計に恥ずかしくなったきた。くっそう
ぷいっとそっぽを向くと、あははと軽やかな笑いを残しながら
「まぁ、慣れてるかは知らないけど俺も女の子部屋に入れたのは初めてかなぁ」
「へ?」
カチャ、と先輩がお茶と…あ、サンドイッチもある、そういえば今はお昼時か、それらを小さいテーブルに置いたところでパッと目が合う。
「お昼、こんなので悪いけど作ったからどうぞ、あ、お菓子もあるよ、ほら座って座って!」
「え、あ、いただきます」
とりあえず先輩が用意してくれたクッションの横に座る。あ、良い匂い、紅茶だ
それを一口飲んで本題を切り出すことにした
「…で?何が目的ですか?」
「え?目的って?」
「とぼけないでください、今日先輩の家に来たのは何か理由があるんでしょう?」
「えー?デートって言ったじゃん」
「……。」
「わかったわかった、そんな目でみないでよこなっちゃん」
降参、と先輩は両手をあげる
私はふぅ、とため息をついて相変わらずにこにこと笑っている先輩へ再度視線をむけた
「そうだなぁ…まぁこなっちゃんもやる気みたいだし、本来の目的を果たすとするよ、はい、おいで」
「は?」
そう言って両手を広げる先輩。え、おいで?
「は、どこにですか」
「どこって…ここだけど?」
ここだけど、とポンポンと叩いたのは自分の足。…つまり、え、足、の…間?
「はっ、はあああ?!なんでですか!意味わからないですよ!?」
「だってこなっちゃんがいったんじゃん。」
「いっ、言ってないですよこんなこと!」
「本来の目的だって、ほらーはやくおいで!」
「い、行きませ……ひゃっ!?」
「はいはーい、おいでおいで」
ガシっと腰をつかまれてそのままズルズルーっと引きずられる。…じ、実力行使ですかっ!!ずるくないですか?!
「うわああーはーなーしーてー」
「はい確保ー!」
座ってる優人先輩の足の間に座らされて、さらに後ろから先輩に手を回されてしまえば大きさ的に私はすっぽりと先輩に埋もれてしまう形になる。うん、完璧に確保。ていうか捕獲された…に、逃げれないっ
「こなっちゃーん、そんな力いれないで俺に寄りかかっていいんだよ?」
「な、なななな何言ってるんですか、ていうか離してくださいってば!!」
「やーだ、それにこれも劇のためだし」
「へ?」
「ほらぁ、こなっちゃん本当に恋する演技しようとしたら照れちゃうでしょ?」
「ゔ…」
「だから、慣れてもらおうと思って」
「わっ」
グイッと後ろに引き寄せられる、少しかたい先輩の胸に頭がついた。
え、ちょっ?!あ、アゴを肩に乗せるなああああ!
「先輩、む、無理です」
今、私の顔はきっとゆでダコのようになっているんだろう。
ていうか、免疫無いってわかっててやってんですかあんたは!…あ、いや、免疫なさ過ぎて特訓しようとしてるのか
…いやいやいや、そうじゃなくて
「こ、こんなシーン劇に入ってないと思うんですけど」
「うーん、まぁ劇の練習をしようっていうんじゃなくて。俺と恋人をやるのに慣れてもらいたいだけだからねぇ」
「そ、それにしても、これはっ、近すぎじゃないですか…っ」
「あはは、こなっちゃん顔真っ赤」
「わ、笑わないでください!!」
しょうがないでしょう、だって、ここまで近いと喋る度に息がかかるし、声も、直に響いてくる。時々ぎゅっとさらに抱きしめてくるからその度に先輩の香りが私まで届く
赤くならない方がおかしいんじゃないか
「…先輩と、恋人になる人は、こんな苦労するんですか…」
「ははっ、さあねぇ。…まあ今はそれは君の役目だよ?」
「…っ!」
先輩の声は少し低くて耳元で喋られるとゾクッとする。
いつもアレだけど今日は本当に!私が!もたない!!!
「先輩…これ、いつになったら離してもらえますか…っ」
「え?うーん…俺が満足するまでかな」
にこっ☆と、見えないけど多分胡散臭い笑顔を浮かべているのだろう
……こっ、この野郎っっ!!
これ劇とかただの口実だな?!ただわたしの反応を楽しみたいだけだこの人っっ
…悔しい
「…優人先輩、腕を少し緩めてください」
「え?」
「えい」
驚いた先輩が一瞬腕を緩めた時、思い切って反対側…つまり先輩の方へ向いて、そのまま抱きついた
「…っ、」
ふふふ、どうだ!これは予想外だろう!
…にしても、自分からやったけどこうすると余計に先輩のにおいとか暖かさを感じてしまうから長くは出来ないな、なんか、段々恥ずかしくなってきたし
ていうか、あれ?先輩無反応…?
「…優人先輩?」
「ちょ、ダメ」
上を見上げようとしたらすごい勢いで頭を先輩の胸に押し付けられてしまった。…え、ちょ、なになに、苦しい
「…こなっ、ちゃん?何やってるの君は」
「…え、いやあの、悔しかったので仕返しを…しようと、」
そう答えると上からはああーっとため息と共に先輩の頭が肩に落ちてきた
…え、あのー、これ、めっちゃ抱きしめあってるみたいな格好になってしまってるんですけど、あのぉ?!
「先輩…あのっ、く、苦しいんですけど」
「…君が悪い、我慢して」
え、えええぇー。
何故、何故私が悪いの、元はと言えば先輩が人で遊んだのが悪いんじゃ?え、違うの?
ていうかそんなギューってしないで、痛いっていうかほんっっとに苦しい!!
「〜〜〜っっ!!」
ドンドンと抗議するように先輩の背中を叩く、けどビクともしない
「…落ち着くの待ってくれない?これでも一杯一杯なんだよね」
…なにが!!!
あの、私も中々限界なんですけど?!主に生命の危機的意味で!
「せ…ん、ぱ」
ガチャ
……ん?
「優人ー?帰ってき…」
「あ」
突然開いたドアの先から凛とした女性の声が聞こえてきた
一気にシーンとなる部屋。え、あの、よく見えないけどこれは、誰か帰ってきたあれですよね、えぇーっと、え、この状況で?!
「…あー、えーと、ごめんね邪魔して」
「あはは、ほんとー、良いところだったのに」
な、なにをいってるんだこの人っ?!
私は勢いで先輩から顔を出した
「…あ、あのっ、ち、違いますから!私は、えと、ただの後輩で、今この体勢なのは、劇で…」
「いやいや、いいのよ気にしなくて、あ、私こいつの姉の優希って言います。えっと、私はもう出て行くからどうぞごゆっくり…」
「あ、あのよろしくお願いします…じゃなくて!あの、優希さん?!」
「あ、優人外暗くなる前にこの子…えーと、彼女さん名前は?」
「彼女じゃないです!!」
「こなっちゃんだよ」
「そっかぁこなっちゃんね、……優人、こなっちゃんを安全に、お家まで届けなさいね」
「はーい」
私完全スルーされてるっっ
「それじゃあこなっちゃん、お邪魔してごめんね!良かったら今度は私とお話ししてね」
「え、あ、あのっ」
ぱたん
「……〜〜っっ」
絶句。これほどまでにこの言葉が似合う状況があるだろうか
「…くっ、くくく」
そしてこちらは爆笑。これぞ爆笑というほどに、お腹を抱えていますね、はい
「…先輩、あの、笑い事じゃないんですけど?ていうかいい加減離してくれません?」
「く、くくっ、いやあごめんごめん!本当に…君はっ、面白いよねぇ…っっ」
「〜っだから笑い事じゃないです!ていうかちゃんと誤解といてくださいよ?!」
「あははっ、うんうん」
当てにならない…っ、なんかもう、つかれた、うん、私は疲れたよ
涙が出てきたけれどとりあえず先輩から距離をおいてここに来てゆっくりと堪能出来なかった紅茶とお菓子に手を伸ばした
紅茶はもう冷め切っていたけどお菓子は美味しかった
……あぁ、紅茶がほろ苦い




