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若宮さんの憂鬱日記  作者: 咲野 音葉
36/46

休日練習(後)です

体育館についてからさっそく練習がはじまった。

まず昨日までのおさらいも兼ねて一度通した後、意見交換をして、うまくいかなかったところをわけて何回か練習する


「あ、若宮さん。そこはなんていうか…うーんもっと気持ちの揺れをこちらに伝わるようにしてほしい」


「は、はい」


私はさっきからずっと同じようなところで止められている。


それは…大体が王子との恋心が芽吹いたり、揺れたり、のラブシーンである。


元々恋愛気質でないのが出てしまうのか私が演じるとどうも演技臭くなってしまうのだ。


「…すいません」


「いや、大丈夫それじゃあそこからもう一回」


あぁどうしよう、演じなきゃ、


「…部長さんちょっといい?」


すると突然優人先輩が咲良部長に何かを話しに行った。…何か耳打ちしてる、なんだろう


そして戻ってきた先輩が私の手を軽く引いて言った


「おいで」


「え、ちょっ?!」


スタスターっとステージ裏まで引っ張られる。


…ま、まさかお説教


緊張して先輩の言葉を待っていると、それをみた先輩にふっと笑われた


「あのさ、こなっちゃん。名前を呼ぶとき役じゃなくて俺の名前で呼んでみてくれない?」


「え」


「演技しなくていいよ、素で良い。…まぁベタだけど、恋する演技じゃなくてこなっちゃんが俺に恋して」


「なっ」


なんって恥ずかしいセリフをっっサラッと!!!


「ほら、小那都、行くよ」


そういってスッと私の手を取る先輩はなんだかいつもと違う。なんていうか…優しい。そう、甘ったるいくらいに優しい、手が、目が、声が


「…っっ」


恥ずかしい、本当に恥ずかしくて死にそうだ。なんで普通なのよ先輩は!!


私は自分が真っ赤になるのを感じた。え、だって、なんか、調子が狂う、ていうか何っ!小那都っ、小那都って!!さっきまでこなっちゃんだったじゃん!!どうしたの急に!


「部長さーん!ごめん、いいよはじめてー」


「わかった。じゃあ、そこの王子のセリフから」


スタート、と咲良部長が手を叩くと先輩が握っていた手をゆっくりと放す


「小那都」


そしてその手をそのまま私の頬にそっと添えてきた


「え、せ、せんぱ…っ」


心の準備が全く出来ていなかった私は当然焦る。


「違うでしょ、小那都。…名前で呼んでくれなきゃ」


な、なんで撫でるのっ、え、ちょ、こんなの台本に書いてない!!


「優人…先輩…」


「ん?」


声が震えるのがわかる。


私が真っ赤になってるのもわかっているだろうに先輩はいつものようにふざけて笑わない。甘く、優しく、愛おしそうにただ微笑む


さっきと同じ演技をしているはずなのに、役を感じないとこうも変わるのか


「〜〜っ」


…だ、ダメだ!これはお芝居、お芝居だからっっちゃんとセリフっ!


名前は役名でなくて良いと言われたけれど他のセリフはそうはいかない、私はパニックに陥りながらも必死にセリフをひきだす


「…は、離してください」


「何故?」


ひぃやああああ、ちょっ、顔!顔近いですってば!息がかかる!!セリフが飛ぶ!!


「…何回も言わせないでください、私は貴方を好きにはなりません」


押してもビクともしない先輩を、近い、とキッと睨むとすぐ近くにはあの整った顔


「っ」


「じゃあこっちも何回でも言うよ」


あれ、先輩セリフを少し自分の言葉になおしてる…?


そんな事を考えて先輩を押し返す力が一瞬緩む


「…せっ」


その隙に先輩は手を後頭部にまわしてさらに顔を近づけてきた


「君が好きだ」


耳元で呟かれたその声に、完全にセリフが飛んだ


これはお芝居、これはお芝居、これはお芝居!!!落ち着け私!


そしてそのままギュッと抱きしめられる


「…ぁ、ぇ、…」


〜〜〜っっもう無理!!


「はいオッケー!!うん、すごく良かったよ二人とも!良かった!」


「あはは、ありがとうー」


部長さんの声がかかるとようやく先輩の腕から解放された。


……な、長かった


ほっとして力が抜けた私はその場にへたり込む。と、みかねた委員長が近づいてきてくれた


「若宮くん大丈夫か?」


「う、うん大丈夫。ありがとう…」


だめだ、これ、精神がやられる。先輩すごいな、もう演劇部入ればいいのに


「こなっちゃん大丈夫?はい、手」


「…あ、ありがとうございます」


なんか、さっきのは演技だとわかっていても今は先輩の顔を直視できない。ちょっと私には刺激が強すぎたみたいですね


「…俺に恋出来た?」


「はっ?!」


あ、ニヤニヤしてる!いつもの先輩だよ!!いつもは腹立つけどなんか今日は落ち着く!悔しい!


「あれはっ、お芝居でしょう!」


「えー、でも演技しないで良いって言ったじゃん」


「〜っそうですけど!」


うう、悔しい!いつかこの胡散臭い笑顔を崩してやる


「…本当に余裕ですね優人先輩」


「途中で飛んで素の自分が抑えられなくなった人の何処が余裕なんだか」


ちょうど私達の後ろを通りすがった楓くんが、はっ、と笑いながらスタスタと歩いていく


「え?」


「か、え、ちゃーん???君はちょっと黙った方が良いんじゃない?」


「誰がかえちゃん…って、痛いです。頭掴まないでください、図星だからって……いっ!?たたた」


「余計なことを言う口はこれかなぁ??」


……うん、なんかみたことある光景だな。


今度は手も繋がれていなくて自由だったので私は巻き込まれないうちにその場をサッサと離れた。


すると30秒もしないうちに来た咲良部長が二人にお説教をしているのをみた。ふっ、ざまあみろ







「よし、今日はこれくらいにしようか。明日は疲れているだろうから午前だけ、場所は今日と同じ。それじゃあ、お疲れ様」


「「お疲れ様でしたー」」


咲良部長の挨拶でやっと長かった1日がおわった。疲れたなぁ…


「若宮さん」


「はい?」


咲良部長だった


「若宮さん今日すごくよかったよ。明日からもこんな感じで相手を上条だと思ってやってみてくれ、すごくお似合いだったし」


あれ、なんか部長勘違いしてません??


「さ、咲良部長?演じやすいのは事実だとしても違いますよ?リラックスしやすいというだけで私と優人先輩は本当になにも…」


「はいはい」


わかってるわかってる、と微笑みながら咲良部長は去ってしまった。


ち、違うのに!本当に!!絶対咲良部長私が恥ずかしがって否定してると思ってる!!ていうかあの人これが素だね?最初のキャラがむしろ演技だったのか!!


「…ゔぅー」


確かに今日の先輩は、いつもと違って少し格好良いと思ってしまった自分もいた、確かにいました!けど!


それとこれは別!!


「…ていうかあんなの毎回やられたら私がもたない…」


でもあの時みたいなのが良いんだよね咲良部長は、あぁー恋愛慣れしてない私の精神が憎いっっ!!


「こーなっちゃん」


「ひゃああ?!」


「…ぷっ、ひゃああって、」


口を手で押さえてキッと睨む。なんてタイミング…ていうか誰のせいだ誰の!!


「驚かさないでください!」


「あははっ驚かせたつもりは無かったんだけど、ごめんごめん」


謝る気無いっていうかむしろ楽しそう!!

この人本当になにを考えているのかわからない。というか先輩恋愛慣れしてそうだなぁ、サラッとやってのけたもんなぁ


「ねぇこなっちゃん」


「……はい」


「今部長さんと何話してたの?」


「…今日の演技を褒められました。明日からもそれでやってほしいそうです、私はちょっともたないのでやめてほしいですけど」


皮肉を込めていったつもりだけど先輩をチラッとみるとなにやら楽しそうに考え込んでいる。…なんだろう、いやな予感がする


「ねぇこなっちゃん、明日の午後暇?」


「はい?」


「暇?」


な、なんだなんだ、ぐいぐい来るっ


「と、特に用事はありませんが」


そう答えると先輩は嬉しそうに


「よし、それじゃあ明日はデートしようか」


「はっ、はああ?!」



え、誰が助けて



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